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38話:天使と契約

 アビスメイク――五属性に五種の闇属性魔法を追加した複合魔法。

 ゲームでも上位魔法を超えた超位魔法で、カルナの攻略法はタンク役の戦士にターゲットを集中させてバッドステータスを請け負ってもらい高レベルの魔術師二人でアビスメイクを唱えるというものだった。


 俺一人での発動になったせいで足した魔法が多く、MPをほとんど消費してしまったからもし耐えられていればもうまともには戦えない……頼むから倒れていれくれ。


「やったのか!?」


 アビスメイクの余波を防いでやっと動けるようになったみんなが走って俺のところまで寄ってくる。

 範囲の広い魔法だったから危険かもと思っていたがなんとか全員無事なようで、深くえぐれた地面と立ち昇る煙が晴れるまで待っていると――穴の中心からボロボロになりながらも絶っているカルナの姿が見えた。


「嘘だろ……! あの魔法を食らってまだ立てるのか!?」


「まずい、全員逃げてくれ……僕はもうほとんど戦えない」


「ダメです、シトも逃げないと!」


 ふらふらしている俺の支えるているカレンが離れようとしない。 

 でもMPを使い切った俺は戦うどころか立っていることもやっとだ、逃げるなんてとてもできない。せめて残った護符で時間稼ぎをして全員を逃がさないと。


「面白い、我にここまでのダメージを与えたのは先代の勇者しかいなかったぞ!」


「早く逃げるんだ、僕が少しでも時間を稼ぐ!」


 動き出したカルナが近づいてくるが、ダメージをかなり負ってくれているのか動きは鈍くなっている――というより、足を動かそうとしているのに上手く動いていない感じだ。

 もしかして、力が弱まったからエナの肉体を制御できていないのか? もしそうなら今はチャンスかもしれない!


「エナ、僕らがわかるか!」


「なにしてるんだシト、あいつは今エナじゃ――」


「エナさん、正気に戻ってくれ!」


 察したシャルルがエナへ呼びかけると、反応するようにカルナの体の動きが鈍くなった。やはり乗っ取っている体を制御できなくなっている、いまエナを信じて呼びかければカルナを封じ込めて肉体の権利をエナに戻せる!


「エナさん、俺達が絶対に助ける! だから魔族の魂になんか負けないでくれ!」


「ぐっ……シャルル、みんな……」


「エナ殿、そのまま気を保つのじゃ! スクロールはないが反魂を行う!」


 ローゲンが前に出て杖に魔力を込める。

 スクロールを使用しなくても反魂ができるのかわからないが、ローゲンを信じて動けなくなっているカルナに封印魔法の護符を投げ、グレイも簡易的な封印魔法で拘束する。


「"リジェク――"」


「"ヘイスト"!」


 リジェクトで封印魔法を解こうとしたカルナをアギトが剣の柄で腹を突き、魔法の発動を止めてローゲンがカルナの胸へ杖を突きつける。

 俺も残ったMPでローゲンに強化魔法をかけて後を託す。


「刻まれし魂をあるべき場所に、名はカルナ!」


 ローゲンの腕にスクロールに書いてあったような文字が傷のように広がり、エナの体から禍々しさを感じる光の玉が抜け出したところにグレイが魔法をかけ、光る鎖のようなものに囲まれた後光の玉はキューブ状に変化して地面に転がった。

 エナはその場に崩れ落ち、目を開けると魔力は消え元の人間のエナに戻っていた。


「エナさんっ!」


「シャルル……シャルル! ありがとう、ございます……!」


 封印魔法が解かれ自由になったエナにシャルルが近づき、エナが抱き着くとシャルルも強く抱きしめ返していた。


「グレイ、カルナの魂はどうなったの?」


「完全とは言い切れませんが封印はできました。魂は生物の根源、血と魔力を生み出す通貨……いくら魔王でも魂というエネルギーのみで魔法を扱うことはできないはずです。早急に王都へ持ち帰り厳重に封印しなければなりませんが、一時的には問題ないでしょう」


「そうか。シャルル、エナは大丈夫かい?」


 カルナに体を乗っ取られていたとはいえかなり強力な魔法を肉体に受けているはずだ。カルナの魂が抜けたいま、ダメージはエナ自身に戻るはず。


「体に傷はあるが、魔法で回復すれば問題なさそうだ。とりあえずギルドか宿に戻ってちゃんと治療をしないといけないな」


 シャルルがエナを離すと、ふらつきながらも立ち上がったエナは俺の前に着て祈るようなポーズを取り、深々と頭を下げた。


「天使様、私を救っていただきありがとうございます。この感謝はこの身をすべて捧げてでも――」


「いいよいいよ、僕はエナを助けられただけで十分だから!」


 身を全て捧げるって、本当はただの精霊族の俺にとってさすがに重すぎる。

 教会には帰れないかもしれないけど自由の身にはなったんだし、俺のことなんか放って別の人生でも歩んでいてもらいたい。


「ですが、私の命はすでに一度失われたようなもの。天使様に捧げられるんならもったいないほどです、どうかこの身を天使様に!」


『やれやれ、我をここまで追い詰めながら安い天使だ』


 どこかから聞こえたカルナの声に全員が身構える。

 封印は一応成功したはずだが、聞こえた声は本物。どこかに潜んでいるかもしれないカルナを探すが、見つけられずエナを囲むように並ぶと――背後から声が響いた。


『ぬるいな、魂を封じた程度で魔王を倒せたと思ったか』


 振り返るとエナが左腕を振り上げていて、声の出どころは上げられた腕からだった。


「カルナ、お前まだそこに――!」


『待つがいい、我を切り離すのならばこの女の腕を落とすことになるぞ』


「ど、どいうことですか!?」


 困惑するエナが腕に引っ張られるように立ち上がり、袖をまくると謎の模様が前腕部に浮かび上がってその模様からカルナの声が聞こえていた。


『魂をすべて同化させるには時間がかかるが、腕一本程度なら問題なかったな』


「お前どうやって!?」


『不本意だが寄生させてもらった。この女の体は居心地がいいのでな、その爺の反魂は完全でなかったのだ』


「そんな――エナさんから離れろ!」


「待てシャルル!」


 杖を持って飛び込もうとするシャルルをアギトが止め、いったん落ち着かせる。

 冷静に考えれば力が残っているなら俺たちが芽を離している時に殺せたはず。いまのカルナは魂のほとんどを封印されて魔法もまともに使えない状態だと予測し、対話を試みることにした。


「カルナ、君はいますべての力を失っているんだね?」


『悔しいがな、我の力の大半はその男に封印されている。腕に寄生し喋るのがやっとの微かな魔力の塊にすぎん』


「なら取引だ。エナの体から消されたくなかったら契約してもらう」


 アセンブルでもあった契約魔法。本来はアイテムの貸し借りやサポート依頼の報酬などで使われていた魔法で、日時などの期間を設定し双方が納得して契約すれば効力を発揮する。背けば大きなデメリットを受けるためゲームでは取引の際必須だった。


「シト、契約なんかせず消してしまった方がいい」


「多分無理だ、カルナは腕一本であってもエナと完全に同化してる。言ってた通り腕を斬り落とさないといけないだろう」


「くそっ! やっとエナさんを助けられたと思ったのに……なんてザマだ!」


 シャルルの気持ちもわかるが、こうなるとしょうがない。なら魔王の知識とかを最大限利用させてもらおう、契約すれば誰であれ保護にすることはできない。特に微量な魔力のみで生きながらえているカルナにとっては契約の順守は必須なはず、ここで確実に縛る。


『ふん、だから天使は嫌いなのだ。利己的で人の身を顧みない神の泥人形め』


 ひどい言われようだがスルーさせてもらおう。

 いま怒っていてもしょうがないし、契約させることが目的だ。


「契約してくれるね? 蟲毒の魔王カルナ」


『仕方がない、契約してやろう』


 そしてエナとカルナの間に決める条件を考え、立会人としてローゲンを挟み契約を行う準備を始めた。

20時にもう1話投稿されます。

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