34話:天使と女子会
――落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。
背中に感じるこの感触はきっと手だ、カレンが近づいてきて背中に手を当てているだけだ。
手じゃなければいけない、そう思い込みなんとか気持ちを落ち着ける。
とにかく離れてもらわなければ、他愛のない会話で違和感なく、突き放さないように。
「カレン、急に背中に手を置かれるとびっくりするよ。狭いから少し離れて――」
なんか、見てないのに背後からすごい感情の爆弾みたいな何かを感じる。これはギャルゲーでバッドエンドを踏む選択肢を選んだ後のような、そんな雰囲気が漂っている気がして振り向くことができない。
「カレン、僕もしかしてなにか……」
「……じゃないです」
「え?」
声が小さくて最初を聞き逃してしまった。
怒られそうな時に話を聞き逃すのはまずい、ちゃんと聞き取らないと。
「手じゃないです! いくら私の胸が成長していないからって手と間違えないでください、さすがにそこまで平坦ではありませんっ!」
「ごめんごめん、まさかそんなに近づいているとは思わなくて!」
やばい、落ち着けるための自己暗示のせいで完全に手だと思い込んでいた。グレイと言われた時も珍しく怒ってたし、胸の話はカレンにとって地雷だったか。
「私だってもう少し年を取れば……ビクティさんみたいに!」
それはどうだろうか?
「それはどうだろうか?」
「絶対なりますからっ!」
あまりに疑問すぎて心の声が漏れてしまった。
それにしてもビクティのようになるにはさすがにもう遅い気が……いや、こういうことを考えるのはやめよう。
「別にほら、胸が大きさだけが魅力じゃないんだから。グレイだって好きだと言ってただろう?」
「あの人の好きは信用できません」
そりゃそうだった。
例えを出すには少しよくない人物だったな。あいつの言葉は全く信用できない。
「今度アギトとシャルルにも聞いてみようか、あの二人なら信用できると思うけど」
「アギトさんとシャルルさんは優しいですし、気を使って気にしないと言いそうですけど」
「まあまあ、カレンも言ってた通り大人になるまでわからないんだから気にしなくていいと思うよ」
グレイにプロポーズをされた時も結婚できる年齢じゃないって言ったしな。
この世界の結婚可能な年齢はわからないけど、見た目からして十四、五ぐらいだろうし伸びしろはあるはずだ。
「はぁ……いつ頃大きくなるんでしょうか?」
なにその"赤ちゃんってどこから来るの?"よりマイルドに見えてめちゃくちゃ返答に困る質問は!?
男の俺に女の子の悩みなんてどう答えればいいんだ!?
「えっと……女の子はカレンぐらいの年齢になると体がより女性らしく成長する第二次性徴期になるからたぶんそろそろ変わってくるんじゃないかな? 僕は人のことはあまりわからないけどカレンはまだ気にするには早い年齢なんだと思うよ!」
早口で保健体育の教科書に書いてあったような言葉を記憶から引っ張り出して早口で説明する。
俺にできることはこれ以上ない。頼むからこの辺で納得して話を終わってくれ、考えたこともないことを考えることになって頭が火を吹きそうだ。
「そうですか……ちょっと難しくてわからないですけど」
「そうだよ、だからもう少し年を取ってから判断するといい!」
「わかりました、もう少し待ってみます」
よかった、納得してくれたようだ。
まさかあんな大変なクエストを終わらせたのに、風呂でさらに高難易度の会話イベントが発生するなんても思ってもみなかったな。
とりあえずのぼせそうだし、そろそろ風呂を出るか。
「じゃあ僕は――うわっ!?」
立ち上がろうとした時、突然手を伸ばしたカレンに胸を鷲掴みにされて湯船に戻される。
いきなりのことに混乱していると、伸ばしていた手を縮めて俺の背中にカレンがぴったりくっついた。
「なな何をしてるんだいっ!?」
「シトは気にしてないんですか? グレイさんにも胸のことを言われて怒っていたみたいですけど」
勘違いしてるみたいだけど、俺は目覚めたときから巨乳萌えを否定する微乳派だ。グレイを蹴飛ばしたのも完全に微乳を下に見ているからであって決してこの体の胸が小さいのを気にしているからじゃない!
ただどうする? そのまんま説明しても誤解が増えるだけだし、なんとかそれっぽく説明しないと。
小さいとはいえ背中にずっと当たってるし。
なんとかカレンの腕を振りほどこうとしつつ、天使っぽく言い訳を考えていると、このアバターを作った時のことを思い出して咄嗟に言葉が出た。
「僕は生まれたときからこの姿だから気にすることはないもないんだ、カレンと違って体が成長もしないし恋愛もしないから考えなくてもいいんだよ!」
ゲームアバターは作った時から見た目は一生変わらない。生まれたときからそのままの姿だということを言い換えて説明した。
するとカレンは手を離し、俺の体は天国であり地獄である状況から解放される。
「成長しないんですか?」
「そ、そうだよ。僕は人じゃなくて天使だから生まれたときから姿は変わらない。だから見た目のことをそんなに気にしないんだ、それに僕は今のこの姿を気に入ってるしね」
「そうなんですか、じゃあいつか私が追い抜いちゃいますね!」
嬉しそうに言ってるけど、それは身長のことなのかそれとも別の場所のことなのか。
さすがに聞く勇気はなかった。
「そろそろ上がろうか、ずっと浸かってるとさすがにのぼせちゃうよ」
「そうですね、じゃあタオルをとってきますので待っていてください」
そう言って湯船を上がり、タオルがかかっている仕切りまで行くカレン。
初めての時以上に長い風呂の時間に、濃い会話の内容で疲れを癒すはずがむしろ疲れが溜まってしまった。反魂の儀式には立ち会ってみたかったけど、夜に行く気力があるだろうか。
「タオル持ってきました、どうぞ」
「ありがとう、とりあえずこの後は――」
タオルを受け取ろうと目線を上げると、そこにはタオルを俺に向かって差し出している――一糸まとわぬカレンが立っているのが目に入る。
完全に油断している状態で目の飛び込んできた美少女の裸体、のぼせかけていた頭にさらに血が上った俺は、倒れるように湯船に沈んでいった。
20時にもう1話投稿されます。
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