33話:天使と束の間の休憩
「あなたのような女性に出会ったのは初めてです。仕事が終わったら田舎で式をあげましょう、畑でも作って静かに暮らしましょう、子供は五人欲しい」
「どんだけ産ませる気だっ!」
反射的に低い位置にあったグレイの顔を蹴り飛ばしていた。
ダンジョンでも勇者に結婚を申し込まれるし、今度は初めて会った奴にいきなりプロポーズとかこの世界には極端な男しかいないのか!?
「ぐふっ……残念ですね、あなたのような魅力的な女性に会うことは生涯ないかもしれませんのに」
すぐ立ち直ったグレイは、再び俺達に近づいてきて次はカレンと目線を合わせるように屈んだ。
「お嬢さん、結婚してくださいませんか?」
「ひえぇ、私は結婚できる年じゃないです!」
怯えるカレンを守るように、アギトとシャルルが前に出てグレイを踏みつける。
その表情は今まで見たことがないほど怖い。
ていうかあきらかに殺意がある。
「殺すか」
「ああ、殺そう」
「待て待て、こいつのプロポーズは病気みたいなもんだ。見逃してやってくれ」
いまにもグレイを踏み潰しそうなアギトとシャルルをビクティが止め、なんとかギルド内での流血沙汰は逃れることができたようだ。
「ありがとうございますビクティさん、一年ほど待っているお返事を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「答えはノーだ、会ったときすでに返事をしたはずだが?」
こいつビクティにもプロポーズしてたのかよ。俺どころかカレンにまでしてるし見境がないな。
本当にこいつに頼んで大丈夫なのか心配だ。
「残念ですね、ですか諦めませんよ。私は美しい女性と結婚するためならばたとえ火の中水の中、下着の中まで恐れず突っ込んでみせますよ」
「やはり殺すか――」
まずい、止めていたビクティまでくだらなすぎる下ネタで殺意が芽生えてる。俺も正直ムカついてるけどエナを助けるためには不可欠みたいだから話題をそらさないと。
「まあまあ、とりあえず僕たちはやることやったんだから帰ろうじゃないか。あとのことは任せたよビクティ」
「ああ、反魂の儀式は今夜町の外にある遺跡で行う。特に心配はないと思うが、興味があれば来るといい」
興味があればか……見て損になることはないけどみんなに相談してから決めようかな。
「わかった、行くかどうかは考えておくよ」
そう言ってギルドを後にするしようとすると、まだ近くにいたグレイから声をかけられた。
「またお会いできることを楽しみにしております。私はビクティさんのような溢れんばかりの巨乳がタイプですが、お嬢様方のような慎ましいお胸も大好きですから――」
カレンと一緒にグレイを蹴り飛ばして、ギルドから宿に戻ることにした。
宿に戻ってすぐに俺は上着を脱ぎ捨ててベットにダイブする。
この瞬間が人生で一番気持ちいい、このまま一ヶ月ぐらいはここから動きたくないぐらいだ。天使もいいけどベット寝転がり続ける妖怪になろうか。
「あぁ〜、疲れた〜」
アギトもシャルルも隣の部屋に行ってしまったし、落ち着かないけどこの疲れを逆に利用してだらけきることで気を紛らわそう。
「だらしないですよ、それにベットに入る前に汗ぐらい流しましょう」
「動きたくないよぉ〜」
だらだらスイッチが入った俺はそう簡単には動かないぞ。元引きこもりのだらけ力を舐めてはいけない、半年だろうが一年だろうがベットの上で過ごす覚悟がある。
「もう、アギトさんも言ってましたがシトはもう少し女の子らしくしましょう! アギトさんとシャルルさんがいて入れなかったので今のうちに汗を流しますよ!」
カレンに引っ張られて。スライムのようにずるりとベットから落ちる。
それでも動じない俺に対してカレンが服を脱がせようと試行錯誤していた。疲労感とだらけたい欲求のせいで何も考えていない俺はされるがままに言うことを聞いてしまう。
「はいバンザイ」
「ばんじゃーい……ってなんで脱がされてるんだ!?」
上の服を脱がされたところで現状に気づく。
これはまたカレンと一緒に風呂に入る流れになっている、このままでは罪に罪を重ねてしまうぞ!
「待て待て、風呂は別々でいいんじゃないか!?」
「なんでですか? 二人で一緒に入ったほうがお湯を変えなくても済むし、時間もかからないのでは?」
純粋! っていうかカレンは俺が元々男だって知らないんだから当たり前か。なら部屋も風呂も一緒になるものわかるが、俺の心がやはり大問題だ。
前はなんとかアギトの乱入で見ずに済んだけど、毎回そんな事が起こるとは限らない。
「……とりあえず服は自分で脱ぐから、カレンは自分の準備をするといいよ」
「わかりました、ではお先にどうぞ」
カレンが手を離してすぐに服を脱ぎ捨て、仕切りの奥に走り湯につけたタオルで全力で体を拭いた後壁に接近して湯船に入る。
前と同じような失敗をしないように背後にスペースを空けて体を縮めておけばカレンが前に来ることはない、完璧な布陣だ。
「あれ、早いですねシト。もしかして寒かったんですか?」
「そそ、そうだね。風に当たって少し冷えたのかな? カレンも風邪を引かないように温まるといいよ!」
「はい、では私も体を拭いてから失礼します」
カレンがタオルで体を拭く音が聞こえ、真後ろの光景を妄想してしまうが申し訳なくなり振り払う。
結局俺もシャルルとはあまり変わらないぐらいに女の子への耐性がないからこんな状況じゃなに一つ行動できないのが辛い、まあ体が女だから何もできないんだけど。
「失礼します。はぁ……あったかいです」
予想通り空けていたスペースにカレンが入った。
このまま数分程度過ごして、適当な理由をつけて出てしまおう。
もしもとの体だったら俺のベレッタナノがビッグマグナムに超変形してしまい立ち上がれなくなるような状況だが、いまの体ならその心配はないからよかった。
「シトはなんでお風呂の時に壁を見ているんですか?」
「え!? ああ、趣味だよ趣味。僕はお風呂に入りながら壁を見るのが好きなんだ」
って騙されるかい!?
どんな趣味だよ、そんなことしてるやつがいたら心配になるわ!
「変わった趣味ですね、楽しいですか?」
騙されとる!
この子純粋とか優しいとか通り越して、むしろ怖いんだけど。俺と出会わずにいたらどこかで悪いやつに騙されていたんじゃないか? いくら一緒に過ごして信用できるといっても限度はあるだろ!
「……僕は好きだよ」
苦し紛れの言い訳のせいで、風呂な入る時壁を見つめ続ける奇人になってしまった。
まあしょうがない、カレンが信じてくれたからこれから二人で風呂に入ることになってもカレンの裸を見ないで済むし、これでいいか。
「私もやってみたいです」
「へ?」
俺の背中に、硬さと柔らかさの絶妙なバランスをもつものが触れた――。
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