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32話:天使と帰還

 目を覚ましたのは時に見えたのは、崩れたダンジョンの入口と木を背もたれに座り込むアギトとシャルルだった。

 カレンがいないのが気になり、目を動かして周りを見てみるが視界には姿が映らない。


 それにしても、森の中で寝ていたにしては柔らかい枕のような感触が側頭部に感じ取れて、なんだがとても気持ちがいい。

 ここが家ならもう一度眠りたい気分だ。


「目が覚めましたか?」


 頭上から声が聞こえ、木の枝と空が映るはずの上を見ると、そこには探していたカレンの顔があった。

 もしやこれは、女の子の膝枕という伝説の体勢なのではないか? ってことはさっきから感じている暖かくて柔らかいこの感触は――


「お、起きたよ! ごめんカレン、もしかして僕はずっと……」


「そんな勢いよく起きちゃダメです! それにシトが出てきてからそんなに時間は経ってませんよ」


「そうなのか。いやでも、ほら膝枕というのはちょっと」


「すいません、迷惑でしかたか?」


 申し訳無さそうにするカレンだが、迷惑なんてことは一切ない! むしろありがとうございます!

 と言いたいところだが、天使ロープレとしてそんな事を言うわけにもいかず、なんとか言い訳を考える。


「えっと、僕はカレンの契約精霊なんだから、契約主に面倒を見られるわけにはいかないんだよ!」


「でも、私はシトが急に起きなくなって心配で……」


 ああ本当に優しいなこの子は!

 俺はカレンと出会えて異世界一幸せな精霊だよ!


「ありがとう、でも人がいる前ではあんまりしちゃいけないよ? 精霊使いと契約精霊の立場は考えなきゃ」


「そうですね、じゃあこれからは誰も見ていない時に使ってください!」


 使ってくださいって――この誘惑、俺に抗えるのだろうか……。


「起きてすぐだからすまないが、早めに森を抜けるぞ」


「アギト……そうだね、スクロールも手に入れたし早く帰らないと。シャルルはどうしたんだい?」


「シャルルならさっきまで俺と、何してるんだ帰るぞ」


「あ、ああすぐに行く!」


 なんだか様子がおかしいシャルルとも合流して、見捨てられた森を出るために歩き出した。

 道中モンスターを警戒していたが、ダンジョンが崩れた影響やアギトのルート選びのおかげで、来たときよりもモンスターとの遭遇が少なく森を出ることができた。


 あとは道に沿って帰り、手に入れた反魂のスクロールをギルマスのビクティに渡せばクエスト達成だ。

 そのあと反魂の儀式などもあるが、俺達が関わることはないだろう。


「それにしてもダンジョンが崩れるなんてね」


「長年誰も最下層まで行っていなかったからな、古代の遺跡というのはわからんものだな」


「危なかったですね、シトもあんな無茶しないでください」


「悪かったよ、でもエナが助けてくれって言ったんだ。なにがなんでもスクロールは手に入れたかった」


 スクロールがないとエナを助けることは多分できなかったし、死ぬかもしれなかったけど、そうしてでもやらなきゃ俺がいた意味がない。


「街についたらギルドに寄って、早く宿に戻りたいな」


「おや、アギトが休みたいだなんて珍しいね。また一緒に寝るかい?」


「バカ言うな、部屋だって隣にもう一つあるんだ。お前とカレンは別部屋に決まってるだろ」


「なんだよ、一度一緒に寝たんだからもう関係ないじゃないか」


「お前はなんでそう距離が近いんだ、もう少し女らしくしろ!」


 女らしくしろと言われても、俺もともと男だし。

 でもこの距離感はやっぱり逆な警戒されるか……うーん、それでもカレンと二人っきりで過ごすのはやっぱりまだ慣れないんだよな。


「シャルルはどうだい? 女の子に慣れるんだったら僕たちと一緒の部屋でも――」


「いいいいやいやいや! 俺にはまだそんなことをするのは早い気がするからアギトと同じ部屋で寝る!」


 ぼーっと歩いていたシャルルを誘ってみたが、やっぱりというか断られる。

 それにしてもなんかシャルルの様子が変だな、エナのことでも考えてるのだろうか?


「そうですよシト、みだりに男性を部屋に誘ってはいけません! 私だって同じ部屋なんですから!」


 オカン……じゃなくてカレン、許してくれ。

 これは俺が平常心を保つために必要な犠牲なんだ。知らない男を連れ込むわけにもいかないから、なんとかこの二人を説得しておきたい。


「うーんでもなぁ……」


「シトは私と二人ではダメなんですか?」


「全っ然ダメなんがじゃないよ! 僕にはカレンがいないと寂しくて死んじゃうくらいだ!」


 クソ、美少女の儚げな声に勝てる男なんていない!

 こうなったらまたカレンが寝た後に部屋を抜け出して外で時間を潰せばいいか。

 カレンには悪いけど、俺の朝まで一緒に過ごすとなると精神が持たない。



「やっと町が見えてきたな」


 また歩くこと数時間、悩んだり話したりしているうちに街に戻ってこれた。

 これからギルドに直行してスクロールを預けて、そしたら俺達のクエストは終わりだ。エナも助かるだろうし、大変だったダンジョン攻略もいい思い出になるだろう。


「はぁ〜疲れた、さすがの僕もベットに飛び込んでシミになるほど寝転がっていたい気分だよ」


「私も初めてのダンジョンでとても疲れました、でも先にお風呂に入りたいですね」


 風呂か、たしかに疲れを癒やすなら誰が一番だな。

 宿に戻ったら寝る前に風呂に入るのもいいだろう。湯船に浸かって流れ出る疲れを感じる時間が待ち遠しい。


 この先にやりたいことに思い馳せているとギルドに着いた。中に入るといつも通りのギルドの光景で、修復中の三階ではビクティが建築士らしい人に指示を出しながら俺達のことを待っていた。


「帰ってきたか、反魂のスクロールは手に入ったか?」


「ああ、報酬はどうなる?」


「ノラに話は通してある、一階で受け取ってくれ」


「エナさんはこれからどうするんだ?」


 確かに、反魂のスクロールが手に入ったとはいえあれだけ強力だった魔族の魂を引き剥がすのは大変そうだ。


「問題ない。優秀な封印術師とローゲンに手伝ってもらって、今夜反魂の儀式を行う」


「そうか、ありがとうギルマス」


 シャルルも安心したようで一息つける状態になった。道中ずっとソワソワしていたがこれで落ち着けるだろう。


「お、ちょうどいちところにいたな。グレイ、スクロールが手に入ったぞ」


 振り返ると、グレイと呼ばれた茶髪の男が立っていた。結界術にボーナス判定のある杖を持っているところを見るに、こいつが例の封印術師だな。


「始めまして、グレイ・ガイアルーストと申します。不躾なお願いで申し訳ないのですか――」


 近づいてきたグレイが、なぜか俺の前で片膝をつき、願うように胸に手を当てた。


「結婚していただけませんか?」

20時にもう1話投稿されます。

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