3話:天使と契約
目的地の町、都市アルタイルは召喚の家と呼ばれる廃神殿から西へ進めばたどり着く単純な道のりだったのだが、あまりにも遠い。
地域で言えばマップの中心になる王都からは離れている田舎都市ではあったけど、この道のりは俺にとってはあまりにも残酷だ。
この子はこの距離をたった一人で歩いてきたのか、異世界やばいな。
アセンブルだったら一度町にたどり着けばワープポイントが解放されるんだけど、あったらとっくの前に使ってるよな。聞くのすら野暮だ。
「そう言えば、君はなんで精霊使いなのに誰とも契約していないんだい? そもそも精霊使いになった時点で一人は契約できるはずだろう」
「それは、いろいろありまして」
なんかはぐらかされてるな、でもこういうことも知っておかないと後々面倒があるかもしれないからしっかり聞いておきたい。
「隠さずに話してしまった方がいい、それとも天使たる僕に隠し事を続ける気かな?」
「そう……ですね、天使様に隠し事はダメですよね」
その後、少し悩んだ末に少女は話し始めた。
「私、少し前まで勇者様のパーティーに所属していたんです。精霊使いは精霊と常に繋がっているから、偵察や陽動が出来るって」
確かに、精霊使いがパーティーにいるときの常套手段だ。
契約精霊はかなり小さいから見つけるのにも手間取るせいで対人戦では特に精霊使いの偵察とわざと精霊を見つけさせて罠にかける戦術は対策方法は少なく有名だった。
「でも、精霊を使い捨てするように言われて……そんなことできなくて、そのせいでパーティーの皆さんが危険にさらされてしまったんです」
精霊は完全破壊されると復活石で再契約するか、戦闘が終わらないと再び召喚できないっていうのがゲームでのルールだったから低レアの精霊を使い捨てることはよくあった。
でもこの子の感じ、もしかしてそのあたりもルールが違うのか?
「精霊も生きてますから、私の勝手で犠牲になんてできなくて、それでパーティーをクビになったんです」
やっぱり――この世界では精霊の完全破壊は死を意味するってことだ。
そうなると使い捨てるなんてことなかなかできないだろう、特にこんな女の子には。
「それで、契約していた精霊はどうしたの?」
「契約印を剥奪されてみんな勇者様に渡しました。契約印が無くなった精霊は数日再契約されないと自由になるので、今ごろ皆さんは契約者のいないの精霊として生きていると思います」
精霊使いから全ての精霊を取り上げるなんて、ひどいことをするもんだな。
本当に勇者かそいつ、盗賊の間違いじゃないのか?
まあアセンブルには勇者職業もあったし、いろんな勇者の中の一人だっただけだろう。
それにしてもそんなことがあったんだな、なんとかこの子に協力して上げたいけど……そうだ!
「君、名前は?」
「え? カレンですけど」
「そうか、なあカレン――」
突然名前を聞かれたことにきょとんとしているが、思いついたことをそのまま言う。
「僕と契約しないか?」
「け、契約!? 天使様とですか!?」
うーん天使って名乗っただけなのに完全に信じてるところも可愛いな。
じゃなくて、天使とはいえ精霊族のアバターだし契約石なんてなくても俺が契約するというだけで別にいいんじゃないかと思ったわけだ。
「でも、私は契約石も持ってないですし、それに天使様は精霊じゃないです!」
突然のことに焦っているのか、手をぶんぶん振って身振り手振り断ろうとしているが、俺はこの話をやめる気はない。
ていうかそういう関係の人がいたほうがこのアセンブルっぽい世界では動きやすそうだし。
「大丈夫、天使も広義で捉えれば精霊みたいなもんだしいけるって」
「で、でも……」
「いいんだよ、口約束でも契約は契約だ。今日から僕が君の契約精霊になってあげよう!」
「そっそんな、天使様が契約精霊だなんて……私どうしたら」
「君が精霊をとてもよく思ってくれているのはわかる、それに僕を召喚したのも君だ。僕がこの世界でどこの馬の骨ともとれない奴と契約してもいいのかい?」
顔を近づけて逃げられないようにする。
やばい、ロールプレイの勢いでやってしまったけど美少女の顔面を間近で見るのはやばい……こっちが耐えられないかもしれない。
「わ、わかりました……」
顔を赤らめて目を逸らしたまま返事をもらった。
よかった、あと数秒この状態だったら俺のほうが限界だった……軽率な行動は気をつけたほうがいいな。
「よし、じゃあこれで契約精霊の話は解決したね!」
「ありがとうございます……!」
アセンブルじゃ困ってる人を助けることばかりしてきたけど、今一番困っているであろう女の子を放ってはおけなかったし、なによりカレンが使った最後の契約石は俺を召喚したみたいだからな。
運命だと思って受け入れよう、俺はこの子を助けるためにこの世界に来たんだ。
まあ打算的な部分もあるしロールプレイの勢いで天使と名乗ってしまったけど、契約精霊として立ち回ったほうがいろいろと便利そうだ。
「これで町に戻ったら冒険者登録ができます」
カレンも嬉しそうだし、あとは街につくまでに聞きたいことも聞いておこう。
「ねえカレン、この世界では冒険者になるとなにかいいことがあるのかい? 精霊使いは冒険者じゃなくてもできることは多いだろう」
「えっとですね、私が冒険者になりたいのは……強くなってある精霊を探したいんです! 詳しくは言えないですけど、そのために冒険者になりたいんです!」
そうか、ちゃんとした目標があるんだな。
詳細は少し気になるけど、これ以上は聞いても俺の特になることは無さそうだしいいだろう。
俺が聞きたいのは個人の話じゃなくてもっと全体の話だし。
「それじゃあ、今から行く街のことを教えてくれる?」
「はい、この先にあるのは都市アルタイルです。そこには冒険者ギルドがあって、ほかにも冒険者のためのお店もいっぱいありますよ」
「さっきの廃神殿の名前は?」
「えっと、召喚の家って呼ばれてます」
やっぱりこの先の町の名前はアルタイルで、廃神殿も召喚の家。
予想通りこの世界はアセンブルに酷似している――ということは俺がやっていた符術師が使うアイテムも売ってるはずだが、一応聞いておこう。
「アルタイルの店には護符って売ってるのかな? あると嬉しいんだけど」
「護符……? あ、あの小さな紙のことですね! 見たことはありますよ」
よし! 護符も売っているのなら俺のスキルも魔法も使えると考えていいだろう。
使い方はさすがに経験がないからよくわからないが、まあ物は試しだ。町に着いたら護符を買って試してみよう。
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