28話:黒魔導師と魔術師
二層目――いまだ魔法の効果で光る石像に見られながら、シャルル達四人が目を合わせていた。
「カレンは下がっていろ、俺一人で問題ない」
「わ、私も戦います!」
前に出ようとするカレンを止めて、シャルルは杖を構えた。
眼前にいる魔術師と聖職者は、すでにいつでも戦えるように立っている。
「精霊のいない精霊使いなんて役立たずと一緒で、何ができるのかしら?」
「本当に頭が悪い……特に亜人族みたいな人のなり損ないなんて――"マギドアッパー"」
「"アイスメイド・ランス"!」
聖職者の魔法により強化を受けた魔術師が、杖を振ると軌道に沿うようにして四つの魔法陣が形成され、氷の槍がシャルル達目掛けて飛び出す。
「"マジックリフレクト"」
シャルルが構えた杖から展開された魔法陣が、氷の槍をすべて受け止め空に散らす。
「黒魔導師風情が、やるじゃない」
「君はそれほどでもないな――"ダーカーソウル・バレット"」
闇の弾丸が魔術師を襲うが、こちらも魔術師によるマジックリフレクトによって防がれる。
二人の強さはほぼ互角に見えた魔術師は、聖職者へ合図を出し、さらに強化魔法を受ける。実力が拮抗しているならどちらがより洗練された強化を受けるかが勝負を決める。
魔術師と聖職者は、コンビネーションには絶対の自信があった。
ましてや相手になるのはシャルルたった一人、状況を考えれば負けるはずがない。
「"スターブレイド"!」
「"コンストレーション・レオ"!」
空中に展開された魔法陣からとめどなく星の雨を降らせ続ける魔法に対して、シャルルは杖を背負い低い体勢から高速で移動する魔法を発動し、ダンジョン内を縦横無尽に駆け回る。
「はははっ、あなたが避けたらあの亜人族はどうするのかしら!?」
シャルルを狙っていた魔法が軌道を変更し、カレンに向けられた。避けるすべを持たないカレンは、その場でしゃがみ込むことしかできない。
「きゃああ!」
「カレンのことも前提で動いているに決まっているだろう?」
高速で動くシャルルの軌道がカレンに向けられ、間一髪のところでカレンを抱きかかえ、魔術師の魔法の効果範囲画まで逃げ切る。
「バカなっ! コンストレーションは途中で軌道変更なんか……!」
シャルルの使った高速移動魔法"コンストレーション"は最も早い魔法だが――移動先が決まっているという弱点が存在する。
自身の移動先、敵と味方の位置、魔術師が魔法の対象を変更するまでの時間をすべて計算に入れたうえで動いていた。
シャルルはカレンを下ろし、再び杖を構える。
「お前達は確かにレベルも高いが、魔法の練度が違う。ろくにモンスターとも戦ってないんだろう」
「ぐっ……いつまでそんな強がり言えるかしら!? あれをやるわよ!」
「わかりました!」
魔術師が杖を浮かし、聖職者の足元に大きな魔法陣が浮かび上がり、二人で一つの魔法詠唱が始まった。
強大な魔力が立ち昇り、空中で回転する杖が光り輝き出す。
「"インビジブルフレア"!」
「"ゾーンオブカース"!」
展開された二つの魔法陣が重なり合い、シャルル達の方向を向いた杖が、ありとあらゆるものを焼き尽くす紫の炎を吐き出した。
「二重複合魔法"カースド・ハイヒート"!」
シャルルは背負っていた全ての杖を取り出し、地面に突き刺す。最後に構えていただけを中心にして魔法陣を展開する。
「五重魔法陣"ヤミカグラ"」
壁や地面から、漆黒の蔓が生え壁を形成し、シャルル達を守るように花を咲かせ炎を受け止めるが、聖職者の強力な強化魔法により魔力を上げた二人の魔法に押され始める。
「ふんっ! たった一人で五種複合魔法を使えるなんて驚いたけど、いつまで持つかしらね!」
「シャルルさんっ!」
「大丈夫だ……カレンに怪我はさせないと、シトと約束した!」
魔力を振り絞り耐えるが、蔓が焼け始め魔術師達の魔法がシャルルの体に熱を与え始める。
なんとか再生成した蔓を重ねるが、もう後がなくなった時――カレンがバッグから瓶を取り出しシャルルの足元に投げた。
「簡易水霊作成――シィ!」
割れた瓶から青い光が漏れ出し、青いドレスを纏ったような水の精霊が顕現した。
水の精霊は浮かび上がったあと、羽を広げると、羽から雨のように水が滴り、焼けていく花と蔓の守る。
「精霊瓶!? でもこれは簡易精霊なんかで防げる魔法じゃ――」
「"ウォーターメイド・シールド"!」
水の精霊の出現により、元素魔法が使用可能になったカレンが水の壁が生成し魔法を受け止める。
「シャルルさん、簡易精霊はあまり時間が持ちません! 今のうちに!」
「ありがとう、カレンがいてくれてよかった!」
防御をカレンに任せ、ヤミカグラを解除したシャルルは、杖を地面から空中に飛ばし構える。
「三重魔法陣"ミーティア"!」
杖が光り、魔法陣から七つの光線が発射されると、魔術師達も反撃するためカレンからシャルルの魔法に向けて魔法を放つ。
一人で魔法を使い戦っていたシャルルと複合魔法を撃ち続けている魔術師達で最後の攻防が繰り広げられ、最後まで絞り出した魔法が相殺されダンジョン中に飛び散った。
「ぐっ……!」
「まだよ!」
撃ち合っていた魔法が消え、すぐさま魔術師が次の魔法を準備していると、さっきまでの魔法の余波でダンジョンの柱が崩れ魔術師達に向けて倒れだした。
「ニーナ危ない!」
「シエナッ!?」
先に気づいた聖職者が魔術師を突き飛ばすが、聖職者が逃げるまでの時間がなく、柱に潰されそうになる。
「きゃあああっ!」
「"コンストレーション・エアリーズ"」
シャルルが高速移動魔法を使い、軌道上にいる聖職者を救い出し、柱は完全に倒れ石が崩れる音が響き煙が舞い散った。
「く、黒魔導士っ!?」
「はぁ……怪我はないか? 危なかった……」
「バカなんじゃないですか、こっちに突っ込んでくるなんて!? それと早く離してください!」
「あっ、ああすまないすぐに下ろ――あっ!」
「えっ……」
暴れる聖職者の手が顔布に引っ掛かり、シャルルの顔が一瞬あらわになると、すぐに聖職者を下ろしたシャルルは顔を隠して飛んだ顔布をつかみカレンのいる場所まで走っていった。
「大丈夫ですかシャルルさん!」
「だっ大丈夫だ、それよりも顔が……」
落ち着いて女の子を抱きかかえていたことを理解したシャルルの顔はすでにひょっとこ顔に変形しており、カレンも困り顔で顔を確認見ていることしかできない。
「また……女の子にこの変顔を見られてしまった」
「大丈夫です! 大丈夫ですから!」
必死にシャルルを励ますカレンだか、シャルルは立ち直れないほどに落ち込んでいた。
一方、魔術師と聖職者はお互いに怪我がないか確認するため集まるが、様子のおかしい聖職者を見て魔術師は怪訝な顔をする。
「シエナどうしたの? もしかしてどこか怪我を」
「み…見たことないわ」
「シエナ大丈夫?」
「あんなイケメンの亜人族がいるなんて……それに彼は私を助けて……」
頬を紅潮させ先程見た光景に浸る聖職者の肩を魔術師が必死に揺らす。
「シエナ! シエナどうしたの!? 何を見たの!?」
同じようで対象的な双方の戦いは、その後シャルルも魔術師も戦う魔力も残っていないという理由で、引き分けということになり幕を閉じた。
20時にもう1話投稿されます。
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