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22話:天使と魔族の魂

 エナ・リットリーについて俺がゲーム知識で知っていることはない。

 ローゲンのようにゲームテキストに登場している人物ではなく、彼女はアギトやカレンのようにこの世界に生きる個人だ。

 そして教会区に生きる人間に、魔族のような力を持つ人物がいるという設定もない。


「エナという修道女については、ギルドに連れ込んだ俺たちに責任がある。だが悪いと言っているわけじゃない、全員がこうなることはわかっていなかったからな」


「それより彼女の強さが問題じゃないかい? 魔法を無効化できるような力がある魔術師なんて一握りだ」


「確かにな、ローゲンさんの封印がいつまでもつかもわからない。ビクティさんが監視してはくれているが、封印が解ければまた暴れだす可能性がある」


「でもなんであんなに強いのに魔猪から逃げていたんでしょう? あの時は怪我もしてましたし雰囲気も違って見えました」


 言われてみれば確かにそうだ。

 あれだけ強いなら俺でも倒せる魔猪程度から逃げる必要はないし、そもそも魔猪以外からも襲われた形跡があった。力を使うのになにか条件があるのだろうか?


「その点が一番わからない……シャルルの話しを聞いてもあいつは長年教会の人族(ヒューマン)として生きていた。見捨てられた森にいたのも不可解だ」


「結局ローゲンさんの調査を待つしかないんじゃないかい? 教会は自治区だし僕たちじゃ調べることもできない」


 ここでどれだけ話したとしても、最終的な結論はすべて"わからない"になる。

 なにを考察してもどう状況を整理しても堂々巡りだ、彼女の過去を知っているシャルルも酒を飲むほど塞ぎ込んでいるのなら俺達だけじゃ時間の無駄になってしまう。


「そうだな、俺たち三人で話すことじゃなかった。いまはローゲンさんのことを待とう、あの人ならなにか有力な情報を得てくるはずだ」


 それから三人はバラバラに時間を潰し、気がつけば日が落ちて外は真っ暗になっていた。

 シャルルはずっと寝ていたが、今ごろ起きているだろうかと思い部屋を移動してみる。


「シャルル、そろそろ起きたかい?」


 部屋を開けて声をかけると返事がない、まだ寝てるのか?

 ただ何か嫌な予感がして、そっと近づき布団をめくると――そこにシャルルの姿はなく、仕切りの奥にある窓から風が吹き込んでいた。


「みんな大変だ! シャルルがいなくなってる!」


 急いで部屋に戻り報告すると、すぐさま全員で宿を出た。


「多分ギルドだ、急ぐぞ!」


 全速力で走るアギトを追いかけるが、カレンが追いつけなさそうなのを見て、俺はカレンを少し雑に持ち上げた。


「ひぇ!?」


「ごめん、ちょっと我慢して!」


 カレンを抱きかかえたまま速度を上げてアギトの全速力についていく。

 歩けばまあまあ時間のかかるギルドまでの道のりだが、竜騎士と俺の全速力では数分とかからずギルドが目に入る。


「地下まで走るぞ!」


 ギルドの扉を勢いよく開けて、驚く受付嬢たちを尻目に地下まで向かうと、地下牢のような部屋ではビクティとシャルルが向かい合っていた。


「シャルル!」


「……三人とも来たのか、探さないでくれと書置きでもしておいた方がよかったな」


「なにしてるんだ、ローゲンさんの情報がないとそいつのことはなにもわからないんだぞ!」


「俺は知ってる!」


 聞いたことないほどの声量に全員が黙る。

 少しの静けさが流れた後、シャルルが静かに話し始めた。


「エナさんは俺の恩人だ、教会区じゃ奴隷も同然だった亜人族(デミヒューマン)の俺に優しくしてくれて、石を投げる子供もいつも追い払ってくれていた。この人が魔族なわけない……なによりエナさんは誰よりも敬虔な教会の信徒だった!」


「だけど彼女がギルドを襲ったのは事実だ、みんな死にかけたんだぞ! 君も見ただろ!?」


「何かの間違いだ! エナさんが人を傷つけるなんて、ありえない!」


 昔の恩人に情があるのはわかる。

 唯一自分に優しくしてくれていた敬虔な信徒が人を襲ったなんて考えたくはないだろう。

 だがシャルル以外は全員、エナを得体のしれない危険人物だと認識している。それでも解放しようというのなら無理やりにでも止めるしかない。


「話はそこまでじゃ」


 護符を取り出そうとした時に、背後から杖を地面に打つ音とともに老人の声が地下室に響いた。


「ローゲン、なにか情報を掴めたのか?」


「ああ、じゃから今は焦るな。茶でも飲んでこの老人の話を耳を傾けてみろ」


 不満そうなシャルルを連れて、全員で昼間話した二階の部屋に移動した。


「ローゲン、わかったことを話してくれ」


「ああ……エナ・リットリー、彼女は一月前に――教会で秘匿死刑を言い渡されておる」


「秘匿死刑だとっ!?」


 物騒だが聞き覚えのない単語だ、ゲームでも聞いたことはない。

 この世界の教会特有のなにかだろうか。


「一月前、勇者のもつ霊魂を見るスキルにより、エナ嬢の魂がなにかしらの魔族と融合していることがわかった」


 勇者……あいつか、でも今回はまだいい方か。

 放っておけばあれが街中で暴れだしていた可能性もあったからな。


「エナ嬢は一切の嫌疑を否定していたそうじゃが、勇者のスキルは本物……即刻断罪裁判の後に秘匿死刑を行うため見捨てられた森に一人取り残されていたそうじゃ」


 だから見捨てられた森に一人でいたのか……それにしても一ヶ月間も森の中で生きていたなんて、やっぱりエナには魔族の力があるのは確定だな。

 あとはなぜ魔族と魂が融合したのか、その力を自由に使えるのかが問題だ。


「エナさんが秘匿死刑だなんて……勇者のやつ、なんてでたらめを!」


「落ち着くんだシャルル、ローゲンの言っていることが嘘とは思えないし。僕もあの勇者は気に入らないけど力は本物だ、なにより問題はそこじゃない」


「エナ・リットリーの魂が魔族と融合した理由、そして彼女の力はどこまで自由に扱えるのか、だな?」


「ビクティの言う通りだ、これは彼女自身に聞いてみないとわからない」


「……そうだな」


 不満はあるだろうが、納得してくれようで何よりだ。

 あとはどうやってエナと話すかだな……封印のおかげで今は眠っているが、少しでも解けばまた暴れだす可能性もある。

 本当は封印したまま消してしまうのが最善策なんだろうが、天使としてシャルルの大切な人を殺すなんてしたくない。


「むっ……!?」


「どうしたんですかローゲンさん!」


「封印が……解けた!?」


 驚くローゲンの言葉を聞いた俺たちは、すぐにエナが眠っている地下室まで走った。

20時にもう1話投稿されます。

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