17話:天使と変顔
腰掛けていたベッドに上がり、さらにシャルルに接近する。
近づくにつれてさらに後ろへ下がっていくシャルルだが、ベッドの端まで来たところで止まった。
「シャルル、また女の子と話せるようになりたいかい?」
「そ、そりゃ俺だって普通に話せるならそうしたい。でももう顔を見て話してくれるような子はいないんだ」
「僕たちがいるじゃないか!」
「えっ!?」
後ろでお茶を飲んでいたカレンも驚いているが、気にせずに話を進める。
「僕たちと話して、少しずつ慣れていこう。そうすればいつかきっと普通に話せるようになるさ」
「なんでそこまでしてくれるんだ……俺はギルドでも迷惑をかけたし、なにより今日会ったばかりなのに」
実は同じような経験が……とは言えないな。
ここは天使ロープレで。
「困ってる人は見過ごせないよ、僕は救いの手を差し伸べるために異世界からやってきた天使だからね」
胸を張って言い切る。
信じてもらえるかはわからないが、とりあえず言うだけ言っておけばいいだろう。
「あ、ありがとう……こんな俺に手を差し伸べてくれた女の子は君だけだ。君は俺にとって本当の天使かもしれない」
なんかニュアンスは違うけどまあいいか。
まずは顔を見て話すところから始めてみよう、そもそも顔を見れないと改善点もわからないからな。
「まずは目を見るところから始めようか、顔を見せてくれるかな」
「わかった……」
シャルルが顔を覆っている布を外すと、その中身は見惚れるほどの端正な顔立ちのイケメンだった。
左目の下にバツ印のような痣があるということは亜人族だったのか。初期ステータスが人族と比べて魔術師よりだから剣士の才能がなかっというのも納得できる。
それにしてもイケメンだな、普通に話せるようになってからモテるかどうかについては心配なさそうだ。
「じゃあ目を見て話せるように――えっ!?」
さっきまでのイケメン顔がどこにいったのか、一瞬目を話した隙にシャルルの顔がひょっとこ面を被ったように変形している。
これはちょっと……いやかなり大変そうだ。
「カレン、飲み物を持ってきてくれるかな?」
「はい、今持っていきますね」
カレンがコップに飲み物を入れて持ってくる。
とりあえず少しでも緊張をほぐしてもらわないと、このひょっとこ顔とは真面目に話せそうにない。
「どうぞシャルルさ……シャルルさん?」
「困らないであげて、彼は今とても頑張ってるんだ」
「そうなんですか、どうぞ。暖かくて美味しいですよ」
「ひゃ、ひゃい……あひがとうごじゃいま――あっ!」
「あちっ!」
震える手でコップを持とうとすると、カレンと手が触れたらしく振り上げた手がコップを弾いて中身が俺の服にかかってしまった。
「すまないすまないすまない!」
「大丈夫ですかシト! すぐに服を脱がないと!」
「待ってくれ、僕は大丈夫だから!」
ベッドの上で土下座をするシャルルと俺の服を脱がせようとするカレンを落ち着かせようとしていると、部屋の扉が開き、料理を持ったアギトが立っていた。
「騒がしいぞ、一体何が……本当に何をしてるんだ?」
アギトの目に映っているのは謝り続けるシャルルと、その前でカレンに服を脱がされている俺の姿だ。
とりあえずこの状況の経緯をちゃんと話さないといけないな。
「つまり……シャルルの女に対する苦手意識を克服させようとしていたわけか」
アギトが入ってきたことで事態が落ち着き、俺の服を風呂場の仕切りに干して、俺とカレンはテーブルで、アギトとシャルルはベッドの上で飯を食べながらさっきまでのことを説明した。
「そもそもお前、そんなに女が苦手だったか?」
「お前のせいだよ! 俺だって毎日のように喋る機会があったら今でもまともだったさ、でもお前とパーティーを組んでた時はいつもお前が話しかけられてて、俺は蚊帳の外だっただろ」
「そうだったか……気づかなかった。お前が悩んでいることも知らずに、すまないな」
「いや……謝らなくていい。今は二人が協力してくれてる」
この二人、折り合いがつかなくて別れたらしいが別に仲が悪いわけじゃないんだな。
喧嘩の理由もシャルルからの一方的なものだったし、シャルルの苦手意識がなくなればまたパーティーを組めそうなぐらいに感じる。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私は今朝冒険者になったカレンです。精霊使いをやっています」
「僕はシト、異世界からきた天使にしてカレンの契約精霊だよ」
「あっああ、よ……よろひくな、シャルルだ……!」
こっちと話すときだけイケメンがひょっとこになる、なんかどんどん面白くなってきたな。
「そういえばアギト、お前に大事な話がある」
「なんだ?」
今までで一番真剣な顔をするシャルル。
ギルド一の黒魔導士が同じ実力のアギトに大事な話ってことは、なにか重大なクエストでもあるのだろうか。
部屋が静まり返り、真面目な雰囲気のままシャルルが話しだした。
「どっちを揉んだんだ?」
…………え?
「……は?」
「……えぇ!?」
シャルル以外の全員が困惑した表情であっけにとられる。
揉んだってなんだ? クエストの話ではないな、もしやダンジョン関連なのか?
話の真意が見えず何を聞いているのか理解できないでいると、シャルルがアギトを問い詰めるように近づいた。
「シトがギルドで言っていただろう! 揉んだんだろ!? 揉んだんだな!?」
「あれは事故だ! そもそもシトが――」
「シトのを揉んだのかぁ!?」
そういえばギルドで魔法を撃たれてる時にそんなこと言ったな。
シャルルがまくしたてているけど、これは俺もカレンも気まずい話だ。俺は気にしていないが一応揉まれた側だし。
こじらせてるとはいえこういうところも変えていかないとシャルルがモテるようにはならないな。
黙ってればめちゃくちゃイケメンなのに。
「シト、お前からも言ってやってくれ。今朝のことは事故だったんだ!」
「うん、ちなみに二人とも揉まれたよ」
「ちょっとシト!?」
「きーさーまぁー!」
シャルルの怒号が響き渡り、異世界に来てから一番騒がしい夜は月が傾き出すまで続いた。
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