15話:天使と孤独の修道女
魔猪が目に入り、人が襲われているという状況を理解した俺とアギトが同時に大木を駆け降りる。
これは間に合うか――今のままじゃギリギリだ!
「"加速"」
護符をもう一枚取り出して同時に魔法を保存し、自分とアギトの体に張り付ける。
速度上昇魔法"ヘイスト"で一時的に速度を上げ一気に大木を駆け降りてその勢いのまま魔猪に接近した。
「アギトはあの子を、魔猪は僕が止める!」
「わかった!」
二手に分かれ足の速いアギトが逃げる女性を捕まえて魔猪の突進ルートを避けると、魔猪は速度を維持したままルートを変えてアギトの方向へ向かうとする。
「"火炎竜王"」
走りながらもう一枚取り出した護符に火属性放射系上級魔法"ドラゴニックフレイム"を保存して即座に魔猪に向かって投げる。
手加減なんてしていられない、一撃で倒す。
空中で発動したドラゴニックフレイムが魔猪の側面を突き、全身を焼き焦がした。
ギリギリまで前に進もうとしていた魔猪も途中で突進をやめて、焼かれる苦しみからか川に向かって突っ込んだあと力尽き、魔猪が飛び込んだ勢いで舞い上がった水が雨のように振ってくる中、アギトの方向へ走っていく。
「アギト、大丈夫か!?」
「俺は大丈夫だ、でもこの人がかなりやばい!」
アギトに抱えられている女性は服がボロボロで全身から血を流して失神している。
かなりまずそうだ、早く応急処置だけでもしないと。
「"治癒"……これでなんとか!」
護符に回復魔法を保存して女性に張り付けると、傷は塞がっていくが意識が戻らないし息も荒い。
ダメだ、魔法じゃ傷が治っても流れた血は戻らない……手遅れになるまえにせめて回復ポーションだけでも使わないと。
「シト―!」
大木の上からカレンが叫び、そっちの方向を見るとカレンが回復ポーションを持って手を振っていた。
まさか道具屋に寄った時買ってたのか、さすがは俺の契約主だ!
「カレン、ポーションを投げてくれ!」
「はーい!」
投げられたポーションを受け取ってすぐに女性に飲ませると、顔色が戻り荒かった息も落ち着いた。
この感じならとりあえず町に戻って医者に見せれば助かるだろう。
「よかった……カレンがポーションを持ってなかったらダメだっただろう」
「僕の契約主に感謝しなきゃね」
クエスト達成の証拠として川から浮かんできた魔猪の素材を回収して森を出る準備をする。
まさかモンスターがうようよいる見捨てられた森で冒険者にも見えない女性と出会うなんて、なんでこんなところにいたんだ?
わかりづらいけど修道女のような服を着ているようにも見えるし、移動中に襲われたとかなにか事情がありそうだ。
「とりあえず町まで戻ろう、下手に時間をかけるとこの人が危ないかもしれない」
「そうだね、なんでこんなところにいたのかも気になるし早く行こうか」
アギトが女性を抱えて立ち上がり、俺もついていく。
魔法で傷を塞いでポーションも飲ませたとはいえ一刻を争う状況なのに間違いはない。
まずはこの人を助けることが最優先だ。
「二人ともー、私を忘れないで下さーい!」
――あ、ごめん。
大木の上で動けなくなっていたカレンを回収して足早に森を出る。
来たときよりも少し早く、俺達は町に戻る道まで戻ってきていた。
「見捨てられた森でモンスターに襲われているなんて、大丈夫でしょうか……」
「治癒魔法もポーションも使ってる、町までは持つだろう。ギルドには医者も在中してる、クエスト関連でなら町の医者に見せるよりそっちのほうがいいはずだ」
「それにしてもなんであんなところに、冒険者じゃないだろう」
服がボロボロで破れているためわかりづらいが、襲われていた女性は教会の修道女のような格好をしている。ゲームでの修道女は教会区にしか存在せず、クエスト中もプレイヤー以外が襲われる描写なんてなかった。
どんな理由があって冒険者しか立ち寄らない場所に一般人がいたのか、それも魔猪にだけ襲われたという感じもしない……一体いつから森の中を彷徨っていたんだ?
「この子の正体は後だ、とりあえず意識を取り戻すまではなにもわからない」
――数時間の帰路を終えて、俺たちは冒険者ギルド三階の医務室で女性の治療を待っていた。
治療しているのは老人で、ギルドに着いてビクティに話すと、すぐに老人を連れてきて魔法や薬草による治療を始めてもらい、いまは女性の顔色もさらに良くなっていて、危機は脱したといった状態になっている。
「ふむ……しばらく安静にしていれば大丈夫じゃな、それにしても魔猪から逃げて生きているとは、奇跡としか言いようがない」
「ありがとうございますローゲンさん、あなたがいてくれてよかった」
「かしこまるでない、わしはもう若者を待つことしかできんしがない老人じゃよ」
ギルド在中医師ローゲン――アセンブルの設定資料では元は高名な白魔導士で引退後は様々な地を転々として医者をやっている設定の老人だ。
光属性治癒系魔法に特化した白魔導士だった人が言うのであれば信用してもいいだろう。
「それにしても見捨てられた森に修道女だなんて……とりあえず彼女は私が預かる、君たちは報酬を受け取りに行くといい。彼女から話が聞けたら私から報告しよう」
「ビクティもありがとう、とりあえずそうすることにする」
「報酬を受け取るまでクエストだしね、こっちは大丈夫そうだし早く行こうか」
三人で部屋を出てクエスト報酬を受け取るために一階へ向かうと、階段を降りたところに黒い布で顔を覆い、杖を三本も背負って右手に杖を持った怪しげなローブの男が立っていた。
明らかに過剰装備だろう……ゲームでもスキルの最高火力を維持するために装備品を増やして武器を使いわけるプレイヤーはいたが、三つ以上の武器を持ち歩くのはむしろ非効率的だ。
「……何の用だ?」
アギトが階段の途中で立ち止まる。
顔が広いとは思っていたが、この男とも知り合いなのか?
「お前が町を出てから、俺は俺の魔法をことごとく練り上げた。もうあの時の俺とは違う、貴様を我が深淵を覗きし漆黒の黒魔術によって冥土へ送ってやろう!」
ローブの男が杖を振り上げる。
「"ダーカーナイフ"!」
先端に凝縮した黒いオーラが、階段で立ち止まる俺たちに向かって放たれた。
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