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11話:天使と勇者の戦い

 目の前にいるのは勇者パーティー四人、俺は一人だがそこまで恐怖を感じない。

 本来なら数に利がある向こうの方が有利だけど、一番低級の魔法で腰を抜かすような奴が相手だと初めてゲームをプレイした初心者を相手にいているようだ。


「ちょうど君たちに話があったんだ、時間はあるかな?」


「なんだよ、パーティーに入りたいってんなら昼間のことを謝れば歓迎してやらんこともないぞ」


 なんで俺がお前のパーティーに入ると思ってんだよ……。


「違うよ……君たちには早く町を出て行ってほしいんだ」


「はあ? なんで僕がお前に命令されなきゃいけないんだよ! ふざけんな!」


 やっぱ素直には聞き入れてはくれないか、さてどうやって天使らしく説得しようか。


「お前~? 天使たる僕にお前なんて不敬じゃないかい、僕が優しく道を指示してやっているというのに怒られるなんて心外だよ!」


 怒ってます、みたいなポーズで言い返す。

 これはなんか違うな――天使っぽくしようと思ったのにギャルゲーの可愛い先輩キャラみたいになってしまった。


「とにかく、勇者がこんな辺境の町にずっといてどうするんだい? 私怨ばかりでまともに冒険しない勇者なんてどこの世界にもいないよ」


「うるさいなぁお前に僕の何がわかるって言うんだよ! その偉そうな態度が一生取れないようにしてやる!」


 勇者が剣を抜き構える。

 もしかしてまた町中で戦うつもりなのか、今は周りに人がいないとはいえ冒険者ギルドの裏だぞ。

 こんなところで事を起こしてギルドの関係者に見られたら明日の予定に響く。


「待て待て、ここがどこかわかってるのか?」


「なんだよビビってるのか? 昼はいきなり魔法を撃たれたがあんな低級魔法は僕には効かないぞ!」


 ダメだ、こいつもうやる気でいる。後ろの魔術師たちは止める気も協力する気もないみたいだが、結果的に勇者と一対一で戦うシチュエーションになってしまった。

 止めようにも、不用意に近づきたくないしな。距離を獲って魔法を撃たせるか。


「逃げようったって無駄だ! "ライトニングスピア"」


 懲りずに雷の元素魔法。

 避けるそぶりもせず受けるがダメージは一切ない。ライトニングスピアは遠距離の自動追尾魔法だし下手に避けると周りの建物に当たりそうだからな。


「ははっ、避けることもできないか! やっぱりお前はただの精霊族だ、天使なんかじゃ――」


「もうー、また服が汚れちゃうじゃないか……」


 魔法の衝撃のせいで舞った煙がを払い、勇者の前に出る。

 まったくダメージがないことをアピールして早めに諦めて貰おう、実際負ける気しないし。


「前に学んでいなかったのかい? 君たちの攻撃は僕には効かないよ」


「な……嘘だ! なにか魔法を使って誤魔化してるに決まってる!」


 俺の言葉を信じようとしない勇者は、次に剣を構えて姿勢を低くする。

 その構えは剣士のスキル"ソードラッシュ"か、体勢を低く構えて五連撃の突き攻撃をするスキルだ。


 剣士としては初級のスキルだが、剣士のスキルをチェインするには最も扱いやすい。常套手段としては速度のある"ソードラッシュ"からさらに速度を上げつつカウンターを防御する"ブレードチャージ"に移行して隙を作った後、何かしらの大技に繋げてくるはずだ。


 俺はチェインスキルを警戒してカウンターではなく回避をする方向で思考を固める。

 魔法に対しての耐性は高いが、レベル差があっても精霊族(エレメンタル)に物理攻撃スキルは相性が悪い。下手にカウンターをして大技を入れられたら俺でもダメージがある。


「くらえ"ソードラッシュ"!」


 予測していた五連撃を避けて後ろに下がる。

 次来るであろうブレードチャージは突進技だ、ある程度距離をとっておかないと充てられる可能性が高い。

 ブレードチャージも避けてスキルチェインが外れた隙を狙ってカウンターを仕掛けよう。


「ソ、ソードラッシュを避けただと!?」


 なっ……ブレードチャージが来ない!?

 対人戦闘の経験が少ないと思ってはいたが、まさか剣士の常套な戦闘手段すら知らないのか?


「ふ、ふふん! だから言ったじゃないか、天使たる僕には触れることすらできないんだよ!」


 予想外過ぎて逆に焦った。

 カウンター狙いの魔法を考えていたのに普通に距離が取れただけじゃないか。


「クソがっ、なら俺の最上級魔法を食らわせてやる! "ドラゴニックフレイム"」


 "ドラゴニックフレイム"――火属性放射系の上級魔法か。

 勇者でもレベル50で覚えることができ、ある程度発動まで時間がかかるが確かに威力は高い。

 魔法系にステータスを振っている純魔キャラなら中級の魔族でもかなりダメージが与えられるだろう。


 だが発動まで時間がかかるということはこっちにも受けるための準備時間があるってことだ。

 いっそここは一番自信のある魔法にカウンターを入れてしまった方が話が早そうだ。


「はっはっは! この魔法を受けて立ってたやつはモンスターにもいない!」


 発動までの時間で勇者が口上を言っている間に、ポケットから護符を取り出して口にくわえる。

 これは符術師が魔法を保存する際に流れるムービーと同じ行動だ。


 ゲームでは護符をくわえた後、保存する魔法を選択してMPを支払い保存が完了する。普通ならムービーが挟まるということもあって戦闘中には行えるわけのない行動だが、異世界じゃいつ何をしようとしてもゲームシステムに止められることもない。


「"氷壁(ひょうへき)"」


 護符をくわえたまま詠唱を行い魔法を保存する。

 あとはこの護符を投げるだけで魔法が発動するはずだ。


「謝る時間を与えてやったがもう遅い、お前はもう終わりだ! ドラゴニックフレイム!」


「――発動」


 護符を投げると同時に青白い光が現れ目の前に氷の壁が現れる。

 勇者が発動したドラゴニックフレイムは俺の発動した魔法"アイシクルウォール"によって完全に防がれ俺に届かなくなった。


「アイシクルウォールだと! だがその程度の防御魔法、僕の魔法ならすべて焼き尽くすぞ!」


「視界を防がれる魔法を発動されたら側面や背後を警戒する、基本中の基本だよ?」


 アイシクルウォールを発動して魔法のぶつかり合いが起きた後、俺はすぐに側面に回り勇者パーティーの背後まで回り込んでいた。


「いつの間に!?」


「えいっ」


 驚いて振り返る勇者の額を指で押すと、バランスを崩した勇者が昼の時と同じように尻もちをついた。

 そして目線を合わせるようにしゃがみ込んで少し微笑む。


「これに懲りたらもうアギトやカレンに絡むようなことはやめるんだよ?」


 よし、暴れる子供に実力差をつけてわからせたうえで優しく諭す天使ムーブだ。

 これなら戦闘の後でも穏便に済ますことができるだろう。


「おい今の音はなんだ!?」


「ギルドの裏からだぞ、急げ!」


「やばっ!」


 ドラゴニックフレイムとアイシクルウォールの衝突ので起きた衝撃音のせいで人が集まってきた。

 いま俺の姿を見られるのはまずい、町全体を見る目的は果たせなかったが今日は帰ろう。


「ま、まてっ!」


「今日のところは勘弁してあげる、わかったら早く町を出るんだよ!」


 複数の足音がギルドまで近づいてきたことに気づき、俺はギルドの屋根まで飛び乗り羽を使って宿の方向まで飛びその場を後にした。

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