10話:天使と夜の町
突然の俺の誘いに、まだ状況を理解できていない時間を利用して二人を気づく前に部屋に連れ込むことに成功した。
一つの部屋に一つのベッド、机は一つで椅子は二つ、仕切りの奥には小さな風呂。昼頃来た時と全く変わっていない部屋だ。
この部屋に青年が一人、年頃の女の子が一人、元男が一人いる。
考えると奇妙な状況だが、元男の俺としては同じ部屋に男が一人いるだけで安心する。
「ちょっと待ってくれ! なんで俺が二人と同じ部屋に!?」
「お、おおお男の人を同じ部屋に!?」
ちっ、気づいたか。
このまま朝までぼーっとしていればよかったものを。
「まあまあ、こういうのも助け合いじゃないか。明日も一緒にギルドに行くんだから一緒の部屋で寝て一緒の部屋で起きた方が効率的だろう?」
「そんな問題じゃない! ベッドが一つしかないじゃないか!?」
「一緒に寝ればいいだろう? 僕は天使だから睡眠は必要ないけど、君たちはちゃんと眠った方がいい」
「そんな、男性と同衾だなんて私にはとてもできません!」
文句ばかりだな、特にアギトは女の子と一緒に寝れることをもっと喜んだ方がいい。
俺は絶対無理だけどな、朝目覚めない可能性大だ。
とは言ってもあとは二人だけにして俺はちょっと外に出たいな。
結局町も全然見れてないし、今日だけでゲームと異世界の違いがかなり多いことがわかった。ほかにも多々あるであろう違いを早いうちに確認しておきたい。
「それじゃあ僕はちょっと外に出るから、二人は休んでおくんだよ? アギトがいるなら大丈夫だと思うけどなにかあったら呼んでね」
それだけ言い残して部屋を出る。
まずはギルド周辺から回るために上階の窓から宿屋の屋根に上って見渡してみると、見た目だけはやはりゲームを遜色がない街並みだ。
となると冒険者ギルドがある位置は、カレンが言っていた通り南東区の中心。赤い屋根が特徴の建物だろう。
「下を歩くのも面倒だな……羽が使えるか試してみるか」
アセンブルでは移動手段が多数あり、徒歩、馬車は新天地へ移動するため、一度行った町やダンジョンならにならワープポイントが存在する。その中でも町中や森を素早く移動する手段として装備した羽を使用する滑空があった。
高さがあればかなりの距離を飛べるし、速度もあるから町中を飛び回るプレイヤーは多く、効率を求めるならワープポイントのない広い町は飛んで移動するのが一般的だった。
「確か羽は装備したままのはずだったし、魔法が感覚で使えたのなら羽も使えるはず……」
正直羽を展開するのもゲームではボタン一つで出来たせいで、この異世界で使えるのかわかってない。
落ちたら痛いだろうな……落下ダメージは全レベル共通の定数ダメージだから装備や頑丈さ、体力関係なくダメージを負う。
「ここから落ちても死にはしない、ここから落ちても死にはしない……!」
何度もいい気かけて助走をつける。
いつもゲームでやっていたように、ジャンプすると同時に羽を開いて滑空するだけ。
いくぞ!
意を決して宿屋の屋根から飛び降り、頭の中で羽を開くシーンを思い返しながら装備されている腰あたりに力を込めると、バサッという音とともに俺の腰から白い羽毛のような素材で出来た羽が大きく広がった。
「落ちてない……飛べてる!」
落下することなく、ちゃんと滑空できている。
バランスのとり方が少し難しいが、慣れればもっと自由に移動できそうだ。この世界でも羽が使えることがわかってよかった。
「とりあえずギルドの方向に行ってみるか」
全体マップを思い出して宿の方向へ飛んでいると、風を切る心地いい音と同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声は勇者だな? あいつらギルドの裏でこそこそとなにをやってるんだ?
ギルドの屋根に着地して耳を済ませてみると、勇者パーティーの会話が鮮明に聞こえてきた。
「くそっアギトのやつ、竜騎士になったからって調子に乗りやがって」
「問題はアギトじゃなくてあの精霊族よ、アタシの魔法が効かないなんてなんなのよあいつは!」
「もしかして本当に上位者なのかしら?」
どうやら昼間俺達に追い返されたことをいまだに言ってるのか? どんだけ心が狭いんだよ勇者パーティー。早く諦めて町を出て行ってくれたらいいのに。
「バカかお前、上位者なんてでたらめに決まってるだろうが! 町中じゃなきゃ俺の上級魔法でわからせてやったものを」
しかも俺に元素魔法が効かないことにも気づいていない。
こんな奴らに世界の命運がかかっているのかと思うと先が思いやられるな。
それにしてもなんでこいつらわざわざギルドの裏に、町の人もみんな家や宿に戻ってる時間のはずなんだが。
「なあアルト、そろそろ戻らないか? こんな時間になったらアギトもギルドまで来ないだろう?」
「ちっ、せっかくギルドに来たところを誰にも邪魔されないように待ってたのになんで来ないんだよクソッ!」
苛立ちからか勇者が座っていた椅子を蹴飛ばす。
もうやってることがチンピラと変わらないんだが、誰がこれを栄誉ある勇者パーティーなんて言ったんだか。パーティーメンバーも止めてやればいいのに。
「アルト、そこに誰かいます!」
やばい、屋根で会話を聞いていたのが聖職者にバレた。
逃げるか……いや、どうせなら俺だけで話してみるのもいいか。カレンもアギトもこいつらが町にいたら行動しづらいだろうし出ていくよう言ってみよう。
「誰だ盗み聞きしてる奴は! そんなところにいないで降りてこい」
「やあやあ、昼頃ぶりかな?」
羽を広げてゆっくりと勇者パーティーの前に降りる。
これは天使っぽさがあっていいな、ゲームの時もこうやって話しかければよかった。
「お前、アギトと一緒にいた精霊族か!?」
「こんなところでなにをしてるんだい? 良い子はそろそろ眠る時間だよ?」
俺の姿を見て眉をひそめる勇者と対峙して、皮肉っぽく大げさな動きで話す。
こいつらを町から追い出すんなら、ここで本物の天使だと思ってもらわないといけないな。
20時にもう1話投稿されます。
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