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1話:天使と異世界召喚

少し前に考えていたものを書いてみました。

20話以上ストックがあるので毎週月〜金で更新します。

 MMORPG『アセンブル』

 プレイヤーが様々な種族、職業になれるアバターを作り、冒険や貿易、農業などの生活を送ることができる自由度の高さを売りにしたオンラインゲーム。

 冒険者を選んだプレイヤーは最終目標である『魔族の王討伐』を目指し、冒険者でなくとも剣と魔法の世界を堪能できるという通の間では大人気なゲームだ。


 そしてこのゲームにはいくつかの都市伝説がある。

 ネット上で最も話題は上がるのは――幻の"天使"と呼ばれるプレイヤーだ。


 何度も挑戦しているクエストにクリアできないパーティーの前に現れ、ベテランプレイヤーでも驚愕するほどのサポート魔法とプレイスキルでパーティーをクエストクリアに導くと言われている。


 白髪に黄金の目、レアアイテムである白い服を着て空から舞い降りる姿を見て、助けられたプレイヤーたちの間でその謎のアバターは『天使』と呼ばれるようになった。



「今日は初心者の町でも行ってみるか……でもレベル制限あるしな」


 都市伝説、天使の中身こと俺、稲川薙(いながわなぎ)は今日も困っているプレイヤーを探して世界中を飛び回っていた。


 こんなプレイングを考えたのは一年ほど前、ソロプレイでレア装備も手に入れレベルもカンストして暇していたところ、たまたま乱入したパーティーのサポート役として参加していたらめちゃくちゃ感謝されたのがきっかけだった。


 ゲームしか能のない、しかも派手さの少ない自己満足を追求するだけのMMORPGのやり込みだけが取り柄で、社会の歯車にもなれなかった俺にとっては、人から絶大な感謝を受けるということはまさに人生のターニングポイントだった。


 それ以来、俺はサポートキャラとしての能力を引き伸ばし、クエストクリアに手間取っているパーティーに声をかけては一度だけサポート役を引き受けている。


 何度もパーティーの正式加入を求められたが、アセンブルに置けるサポートキャラはいわゆる奴隷職だ。失敗すればすべての文句がサポートに一点集中するから助けるのは一度だけと決めていてフレンド申請やパーティー勧誘はすべて断っていた。


 そんなことをしているうちにネット上で俺の存在は天使だなんだと話題になり、掲示板では天使を見ただの助けてもらっただの、そんな奴は存在しないだの日々議論が飛び交うまでに有名になっていたのだ。


 まあかなりやり込んだゲームだし、アバターの見た目もかなりこだわっているから有名になるのは嬉しいことだ。元々使い道がないと言われていた"符術師"といういわゆるロマン職業でソロダンジョンクリアもしているし、この世界にいる毎日が楽しくて仕方なかった。


「この世界だったら、現実じゃダメダメな俺も活躍できるのには……」


 夢の世界を映しだしているモニターから目を背けて現実の真っ暗な天井を見上げる。


 あと一パーティーぐらい行こうと思っていたが眠くなってきた。座ったまま少し仮眠でもとるか。


 キャラを操作して誰も寄り付かない辺境の町の廃神殿で頭の上の表示を退席中にしておく。

 こうしておけば放置していても三時間はゲーム内で安全が確保されるから、手を放していても安心だ。


「目が痛い……ブルーライトカットの眼鏡の購入を検討しないといけないか」


 前々から買おうとして手を出していなかった商品を思い浮かべて、俺は目を閉じた。



「……かん……こう……た!」


 なんか聞こえる。

 女の子との声みたいな……それにしても寒いな。もしかしてエアコンをつけてアニメを流したまま寝たのか?


「けい……ないと!」


 可愛い声だなぁ、なんか落ち着くというか、目を覚ましたら声優を調べておこう。


「とりあえずエアコンは消すか」


 いつもリモコンが置いてある場所に手を伸ばすと、触れたのは固い机の感触ではなくふにっとした柔らかいなにかだった。


 なんだこれ? クッションというには硬すぎるし、キーボードに付属していたアームレストにしては柔らかい……触ったことのないような感触だ。

 それに手のひらの中心には柔らかい周りと違って突起物があるというか、こんなもの俺の家にあったか?


 謎の感触の正体がわからず目を開けると、視界に映ったのはいつものモニターの光だけでうっすら見える暗い天井ではなく、太陽が照らす明るい青空だった。


「は?」


 思考が止まる。

 家で寝て目を覚ましたら外にいましたとか、病院に行くことを考えなければいけないだろう。

 だがここは家の近所でもない、崩れかけの石でできた――まるで神殿みたいな場所に座っている。


 そして手に掴んでいる柔らかいものの正体がいまだに掴めない。

 いや掴んでいるんだけど。


「これは一体……」


 手の先を見ると、そこには布があった。

 正確には服か、アセンブルで見た亜人族の初級冒険者用の服がこんなデザインだったかな?

 亜人族の初期装備は布面積が少ないことに定評があった。

 俺もキャラクリする時はかなり迷った覚えがある。


「あ、あのう……」


 声だ。

 寝ている間に聞いた柔らかくて心地いい声が聞こえる。


 それも目の前からだ、もしかしてこの声の主が目の前にいるのかとしっかりと閉じかけていた目を見開き確認すると、そこには癖毛の黒髪に赤い綺麗な目をした少女が立っていた。


 左頬からは記号のような痣が肩まで伸びていて、まるでアセンブルで最初に亜人族(デミヒューマン)を選んだ時に選べる種族特有の痣みたいだ。


 なぜかうっすらと涙ぐんでいるが、それにしても可愛い。夢だったとしてもこんな可愛い子が近くにいるなんて至福極まる。


でもなんで泣いてるんだ? 俺には加虐趣味など一切ないんだが。


「離してくれませんか……?」


 涙ぐんだ少女はそう言って下を見たので、俺も同じところに視線を落とす。

 結果、ずっと俺の手に掴まれていた絶妙な感触の物体が判明した。


 それは――目の前にいる少女の実に慎ましいお胸だった。

登場人物ステータス

名前:シトリー

レベル150

種族:精霊族(レベル90)

職業:符術師(レベル60)


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