恋メール、未返信
※このお話は、九傷様の詩『青春の1ページ』の彼氏サイドを想像し、作者様の許可を得て創作しています。
(ぬおおおおっ!?)
届いたメールにあげかけた声を飲み込み、急いでスマホを隠す。
今はマズイ!
昼休みとはいえ、隣に峯山と高見がいる!
(いやいや、でも待て。マジで??)
読んだばかりの内容を反芻する。
──放課後、美術室で待っていてくれますか──
差出人はユマ。
同じ美術部で、いつも他愛ない会話をして、ちょっと……いや白状すると、かなり"イイな"と思ってる相手。
ユマの描く絵は繊細で、常に新鮮な驚きをもって、俺の心を直撃してくる。何より……白い頬に艶めく黒髪。大きな瞳でとっても可愛い。
(この呼び出し、つまり、そういう意味だと思っていいのだろうか……!)
2クラス挟んだ彼女の顔を思い浮かべると、乱打中の心音が加速した。
つい口元が緩……。
待ーて、待て待て。
ぬか喜びかもしれないから、ここは慎重に。
「サツキ?」
「なんのメールだったんだ?」
「ああ、なんでもない。部活の話」
そうだ、深い意味はないかも知れない。
単に美術部の、業務連絡かも。
悪友どもに返事して、冷静に思い直す。
指定場所、美術室だしな。
顧問から何か伝言を預かったとか、そういうケースも考えられる。
うん、予防線を張っておかないと、変に期待して外した時、俺の心は無用なダメージを喰らうことになってしまう。
それにコ、コクハクなら、大抵、体育館裏とか校舎裏とか屋上じゃ──。
校舎裏なら、ユマに声かける来るべき日に備えてリサーチ済だ。
いい木陰がある……じゃなくてぇぇぇ。
そうだよ!
こっちから告白するつもりだったのに!
このメールがそれなら、まさか彼女から? 先を来されることになる?
ちょっ、それは……。
(男として、かっこ悪ぃ……かな)
だから待て! 先走るな! 業務連絡、業務連絡、業務……
ニヤけるな頬──!!
「おい、ホントにどした?」
「顔赤くないか?」
「だから何でもないってば」
邪魔だなぁ、こいつら。
ハッ、返信しないと!!
“既読”ついてるはずだ。
でもなんて?
“何の用?”とは打てない。
すんごい聞きたいけど、メールにするとこんなに素っ気ない文字はない。
せっかくのそれだったとしたら、言うの止めちゃうレベルだ。
メールで聞くにはもったいなさすぎる内容かも知れないしな。
クフッ。クフフフ。
聞いて「部のこと」って返ってきたら、消沈しそうだし。
このワクワクをもうちょっと維持してたい自分もここに。
うーん。
“わかった”、だと淡白過ぎだよな。
この場合、なんて返事するのが正解なんだ?
早く返信しなきゃ、ユマだってきっと待ってる。
なのに、気の利いた言葉が浮かばない!
おまけにこっち窺ってるヤツらを撒いて……。
とか悩んでるうちに、昼休み終わりのチャイムが鳴った。
仕方ない、午後の授業中に……って、ああああ体育か! スマホ持てねぇよ!
・
・
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そんなこんなで早くも放課後。
うう、何やってたんだ、俺!!
(美術室に行かなきゃ)
「おーい、サツキ──。今日部活ないんだろ? 遊び行こうぜ」
(ぐぬっ、こんな時に峯山!)
「今日無理。忙しいから」
「忙しいって、あと帰るだけだろ? なんかあるのか」
(あるんだよ)
人生かけた大一番が。
(くそぅ、なんでこいつニヤニヤしてんだ?)
ジロリと睨んで、"空気読め"と念を送る。
だが生憎、俺も相手も一般人。
精神通話は通じなかった。
ぐいぐい誘って来る峯山は、コンビニ秋の新商品が気になるらしい。
女子か! ひとりで寄れよ! 新チキンは俺も食ってみたいけども!!
こんな時こそ高見がいてくれたら、峯山を押しつけれるのに。なぜだか体育直後から、姿が見えない。
キャンペーン価格今日までという声を振り切って、もうユマが来てるだろう美術室に急ぐ。
結局メール返事出来てない!!
まずい、きっと待たせてる!!
気が変わったら? 帰られてたら?
いろんな想いで胸に出来た渦巻は、部室の彼女を見た途端、いっきに高波に変化して。
「よ、よぉ」
いつもの素振りで声をかけたら、俺を見たユマが急に泣き出した。
(ウソだろ────!?)
泣かせた? 俺のせい?? 俺がメールの返信もせずに待たせたから???
慌ててポケットのハンカチを探る。
大丈夫だ、今日のは。使ってないしアイロンかかってるし。
ポロポロと零れ落ちる彼女の涙が、警報発令中の俺の海を押し広げ。
遅れた理由を嵐のように言いわけしながら。
ユマより先に、ダイブしようと俺は決意に顔上げた。
「なあ、そっちの話の前に、俺からも話があるんだが、いいか?」
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美術室を出ると、なぜか峯山(?)と高見(!?)がニマニマしながら立っていて、袋を手渡された。
「これ、成立祝いな」
(??? コンビニチキン二人分?)
高見がいなかったのって、まさかこれ?
それに“成立祝い”って──。
──あ。
ユマと手つないでるとこ、見られたぁぁぁ──!!
“秋より早い紅葉カップル”。
公認の噂が流れたのは、早過ぎる翌日のことだった。
グハッ!!
吐血で真紅だ、満足か!!
《おしまい》
お読みいただき、ありがとうございました(*´▽`*)/
サツキもユマも、苗字にも名前にも取れるネーミングにしてあります。
親しすぎない彼女を名前で呼び捨てるか、苗字呼びしてるか、それはもうご解釈のままに。
九傷様『青春の1ページ』はこちらです。彼女サイドの心情詩です。
https://ncode.syosetu.com/n0727hw/
ところでロー〇ンの"たんチキ"が食べてみたいのですが、行くたび置いてないんですよね…。
幻すぎる。この時期に投入するから、クリスマス狙いかなって思ってたのに。
え~~、どなたか召し上がった方、いらっしゃいませんか~~?(なぜここで聞く!?)
サツキの名が初夏を連想させるのに変えれなかったのは、私の名前の好みが偏ってるせいです。ふっ。