『第1話:醜女のオルゴール』
1人の少女は、存在を認められたい為に、ある願いを叶えた。
とある街に2人の少女がいた。
容姿端麗な少女の名は「シェリア」、誰もが振り返り見惚れてしまう美貌を持った少女。
彼女の歌声は誰もが魅了されてしまう程と言われていた。
もう1人は、容姿がとても見にくい少女「アビラ」。
誰からも存在を認知されず、誰からも相手にされない。
かけられる声は「罵声」「蔑み」、そして「存在の否定」だ。
「う…ひ…えぐ…」
アビラは毎日毎晩泣き続けた。
そんな彼女に、友人であるシェリアは手を握り言う。
「泣かないで、あんな人たちの言葉を気にしないで。私は貴女の味方だから。」
「でも…私と一緒にいたら、シェリアも傷つく…」
「何言ってるのよ、アビラ。私は気にしないわ、平気よ!」
シェリアはアビラにとって、たった1人…唯一の味方であり親友だった。
2人が外に出ると、待ち人達からの声が聞こえてきた。
「シェリア、あんな醜女と共にいるなんて。なんて可哀想なんだ。」
「あんな奴は生きていても不快なのに。」
「あれほど醜い女は見た事がない、吐き気がする。」
「きっとあいつに毒されたんだろう」
待ち人達はアビラを罵り蔑みながら、シェリアを可哀想な少女だと言った。
「ッチ…」
シェリアはそんな待ち人に対して思わず舌打ちをする。
だがアビラは…
「…(このままじゃ、シェリアを…)」
シェリアを失いたくないと思ったアビラは、ある病院の存在を思い出した。
それは街のどこかにある、「どんな願いも叶えてくれる」という魔法の病院。
真夜中、アビラは家を出ると、その病院へ向かった。
「おやおや、いらっしゃい。お名前は?」
「…アビラ」
病院にいたのは、紳士の様な黒い衣装に身を纏いシルクハットを被る変わった医者。
「初めての患者様は、「対価無し」で願いを叶えております。
ですが、それには「大きなリスク」が伴いますが…それでも願いを叶えますか?」
医者の言葉に少し悩むアビラ、迷いを振り払うように頭を横に振ると…
「勿論」
医者は笑みを見せると、アビラを1人の女性の様に手を差し伸べて言う。
「ではこちらへ、貴女の願いをお尋ねいたしましょう。」
部屋へ連れていかれる、寝台に寝かされたアビラは医者に願いを告げた。
自分の容姿で友達が傷つくのが嫌だったこと、自分の存在が誰からも認められないのが嫌だったこと…
「容姿端麗でなくてもいい、美しい歌が歌えなくてもいい、
だけど、皆が私の存在を認めてくれれれば…友達もきっと、傷つかない。」
その言葉に、医者は言う。
「わかりました、アビラ嬢。貴女の願いを叶えましょう。」
それから数日後の事、シェリアの下にアビラから一通の手紙が届いた。
どうやら、「生まれ変わった自分に会いに来てほしい」との事だった。
両親からもアビラに会いに行くのは止めろと言われていたシェリアは、それを無視して家に行った。
「アビラ、来たわよ。どこにいるの?」
家に向かう、中へ入るシェリアはアビラを呼ぶが返事はない。
代わりに帰ってきたのはオルゴールの音色だった。
「2階にいるのね、今行くわ。」
シェリアはオルゴールの音色を辿り、2階へ向かい部屋のノブに手をかけた。
扉をゆっくり開け、彼女の視界に映ったのは…
「アビラ…?」
ベッドに座るのは、「アビラ」だった物。
崩れぬ笑顔から、聞こえてくるのはあの「オルゴール」。
身体は継接ぎになり、まるで人形の様な彼女の手に温もりは感じない。
「嘘…嘘よねアビラ、ねぇ…何か言ってよ、アビラ!!」
シェリアは「アビラ」の手に手紙が添えられているのに気づいた。
書いてある内容を見てシェリアは泣き叫んだ。
「「これで貴女も、傷つかないね。誰もが私を、認めて、くれる、でしょ?
私の願い、は…」」
「「か」」
「「な」」
「「っ」」
「「た」」
シェリアは一頻り泣き続けると、その目をこすり、「アビラ」を連れ外に出た。
待ち人達はシェリアが来た事に喜ぶが、彼女が抱き上げるそれに目を見開いた。
彼らも又、それが「アビラ」だった物だとわかった。
「シェリア、何てものを持っているんだ!捨てなさい!」
両親がやってきた。
シェリアはその手を振り払うと、街の中央の噴水に向かい、そして叫んだ。
「貴方達が醜いと蔑み、罵声を浴びせ、存在を認めなかった親友は、こんな姿になった!!」
シェリアは「アビラ」を掲げて見せる。
奏でられ続けるオルゴールの音色は、優しさと悲しみを帯びて待ち人やシェリアの両親に届けられる。
「それでも尚貴方達は、私のたった1人の親友を蔑むの!?
この音色を聞いても蔑み、罵声を浴びせるようなら、私は貴方達街の人間全員を許さない!!
たとえそれが…私の両親であろうと!!」
シェリアの言葉が、「アビラ」が奏でる音色が街中の住人達に、そして両親に刺さった。
言葉は刃物だ、それは簡単に相手を傷つけ、その運命を決めてしまう。
それを思い知った彼らは、「アビラ」に祈りをささげた。
「アビラ」はそれからも、街にそのオルゴールの音色を届け続けた。
終わりを告げるその日まで、「醜女のオルゴール」は、その音色を奏で続けたという。