人形隠し
小学生の頃の話です。
私の家は母子家庭で、母は夜まで働きに出ていました。学童にも通っていなかった私は、学校が終わると、仲の良い友達二人と毎日のように遊んでいました。
遊びは、色々な遊びをしましたが、一時期、かくれんぼが私たちの中でのブームになったことがありました。
かくれんぼ、と言っても、普通のかくれんぼではありません。
範囲は、私の家の中だけです。
当時私の家は、木造の二階建てで、屋根裏までありました。それでも、人が隠れるとなると、隠れられる場所は限られてきます。
最初のうちは、普通のかくれんぼと同じように、「人」が隠れる形式で、範囲だけを私の家の中だけに限定して遊んでいましたが、どうもすぐ見つかってしまうので、面白さに欠けます。
そこで私たちは、隠れるものを「人」ではなく、「人形」に変えてこの遊びをすることにしました。一人が人形を隠し、二人がそれを探す。見つけるまでの時間を計り、一番長く人形を隠せた者の勝ち、というルールで行いました。
使っていた人形は、私の家の屋根裏にあった、三十センチほどの日本人形です。
これが中々に面白く、私たちはその時期には、毎日このかくれんぼをして遊びました。
ところがある日、友達の隠した人形が、どうしても見つからない日がありました。
いつもなら、どんなに時間をかけても、三十分以内には見つかるのですが、その時は、一時間探しても、二時間探しても、見つかりませんでした。
人形を隠した友達はずっと得意顔でした。
結局日が落ちるまで見つからず、私と、私と人形を探していた友達は降参しました。
もう皆、家に帰る時間だからと、私たちは、人形を隠した友達に、人形の場所を聞きました。
ところが、人形を隠したその友達は、隠した場所を忘れてしまっていました。
これまでに何度もこの遊びをしていたので、隠し場所がごっちゃになっちゃったと友達は笑い、私たちも笑いました。
何ヶ所か探して、それでもやっぱり人形は見つからなかったので、私たちは居間に戻りました。
どっちみち、明日もまたこの遊びをするつもりだったので、明日また探そうということになりました。
そんな話をして、私たちが立ち上がりかけた時でした。
「ねぇ、見つけてよ」
私たちの背後から、怒ったような低い声が、はっきりと声が聞こえました。
私たちは反射的に振り返りました。
すると、いたのです。
――人形が。
テーブルの上に立って、私たちの方を見ていました。
私たちは悲鳴を上げて、靴も履かずに家から飛び出しました。家の前の道路の反対側まで走って、私たちは三人、ガクガク震えながら、家を見上げました。
結局その日は、私は母が返ってくるまで家の外で待ちました。友達二人も、私に付き添ってくれました。
母が帰ってきて、私たちは事情を説明し、もう一度家の中に戻りました。
居間のテーブルの上には、人形が立っていました。
でもその目は、さっきと、見ている所が違うような気がしました。
後日私は、母とその人形を持って神社に行き、供養をしてもらいました。
それ以来、私たちは人形遊びもかくれんぼもしなくなりました。そして社会人になった今でも、私たち三人は集まって飲んだりするのですが、未だに、その時の話が話題に上がることはありません。
話をしたら、何かが蘇ってきそうで、やはり怖いのです。
実はこの話にまつわる別の話があるのですが、それは長い話になるので、別話とします。文章化出来たら、出そうと思います。