7話 ユッキーノ街①
冷たくふわふわした真っ白いのがポツポツと降ってくる。地面には真っ白い絨毯がひかれて、人々はそれを踏みつけながら足跡を残していた。
もちろん俺たちも踏みしめながら街中を歩き、防御をしているとはいえ若干寒いと凍えていたらアンジが俺にコートを出してくれる。それを羽織るとめちゃくちゃ暖かい。しかしアンジはコートを着ないようだ。
「アンジ、いいのか?」
「うん。僕はもう一つの防御魔法唱えてあるから気にしなくていいよ」
「どんな魔法?」
「炎防御魔法で寒い時期とかに使えるから便利なんだよ。でもまだ想心は炎魔法より水魔法が先」
「まだ全然使えてないけど、頑張って覚えるよ。そういやさこの依頼書を読むと市場にある周辺が襲われるってあるけど見た感じ普通だな」
市場を見回るもそれらしい盗人がいなくて、まずはいつぐらいに盗人が発生するのか聞き込みをしよう。まずは野菜を売っているおばさんから聞いた。
「すみません。俺は想心と言って隣にいるのはアンジ」
「あらアンちゃん。久しぶりだね。どうだい、学校はもう慣れたのかい?」
「おかげさまで今は教師をしながら副寮長をさせていただいてます。隣にいるのが僕の主人です」
「そうかい、そうかい。それで今日は観光かい?」
いえと俺は依頼書を見せながら、盗人が何時辺りに現れるのか聞くとそうだねと考えこう回答される。
「早朝だよ。品物を置いていたらパッと持っていってしまわれてね。おばさん、足が悪いからいつも諦めてるんだよ」
「他に被害が起きてる場所ってありますか?」
「魚屋に肉屋、それから薬草を取り扱っている花屋と武器屋も奪われたって聞いたよ」
合計五店が襲われているってことなのか。ふむふむと頭にいれているとアンジは手帳を手に持ってすらすらと書いていた。まるで刑事のようだ。ありがとうございましたと去る際、ちょっと想心くんと小声で言われ耳を貸すとこんなことを言われる。
「想心くん、アンちゃんを頼むね。あの子、以前の主人に捨てられてまだカステクラインがうまく使えなかった頃に、ここで野宿してて、魂が消えそうだったんだよ。そんな時に救ったのが青の団長、滝木くるめちゃん。今は別件でミズノ国にはいないんだけど、アンちゃんを悲しませないでおくれよ。あの子の死は本当に切ない死だったそうだから。これはサービス。後で食べな」
すっと俺の両ポケットにリンゴを二つ入れてくれて、ありがとうおばちゃんと言いながらアンジを追いかけた。アンジが死んだ理由は聞いてなかったけど雰囲気を感じてわかる。アンジは誰にも気付かれず死んだことで、誰かがいないと不安が大きくなるんだ。
アンジどこ行ったんだろうと探してたら、アンジが慌てる素振りをして迷子のように涙を浮かべてる。アンジと声をかけるとこっちを向いて、涙を我慢しながら俺に抱きついた。
「消えちゃったのかと思ったっ」
「そんなことあるわけないだろ?ったく子供じゃねえんだからさ」
「僕から離れないで。一人にしないでよっ」
「わかったから、泣くなよ。みんなが見てるからどっか店に入ろう」
どっか喫茶店とかないかなとアンジの手を取って歩き、店を見てちょうどいい店があったからそこに入りテーブル席に座る。ご注文はと言われ、ホットココア二つと伝えてアンジが泣き止むのを待つ。
ここではっきりさせたい。アンジがどういう人生を歩んでいたのかをな。ホットココアが到着しそれをちびちび飲みながら待っているとアンジが話してくれる。
「さっきはごめん」
「いいよ。アンジ、こんなこと聞くのはどうかと思うけど言わせてもらう。アンジ、本当はどんな死に方をしたんだ?」
「僕は……」
両手でホットココアが入ったカップを持ち、視線を下に下げてもしっかりと俺に教えてくれた。
アンジは執事の家柄に生まれ、両親と共にお偉い人の執事として働いていたそうだ。しかし主人が失業をしてしまい執事を雇えないことで、転々と違う主人のもとで働いていた。しかしアンジがまだ九歳の時に両親が不慮の事故で亡くなり、児童保護施設で暮らすことになったそう。
友達と楽しく学校に通っていた時に、児童保護施設に高そうな車が止まっていてアンジを引き取ってくれた。里親はとても優しく優雅に暮らして十六になったばかりの頃。
下校中、変な車がついて来ることを感じ、すぐさま警察に連絡を取ろうとした際、誘拐犯らしい人たちに捕まってしまい、息子を返してほしければ多額な金額を持って来いと要求。
あるあるパターンのやつだとアンジはホットココアを飲みながら、その続きを語ってくれる。
里親がなんとアンジを見捨て、息子などいないと主張したらしい。スピーカーにしていたこともあり、それを聞いたアンジは心のダメージが大きかったそうだ。
犯人は怒り混じりでアンジを刺し、行ってしまって殺された場所が山奥で助けを呼べず、気づけばここに辿り着いたらしい。
「その後、どうなったのかはわからないけど、里親を恨む気持ちは一切ない。もしこっちで会えるような形があるなら会いたいな。僕をここまで育ててくれてありがとうって」
「そうだったんだな。それでこっちで父ちゃんと母ちゃんには会えたのか?」
「会ったよ。以前は一緒に住んでたんだけど、両親は平民で僕と会えたから旅立つって、新しい命に生まれ変わって、今頃は新しい人生を送ってると思う。僕はほら永遠に十六歳だからね」
「ん?え?てことは俺も永遠に十六歳かよ」
「言おうかすっごく迷ったけどそうなるかな。成長したり歳をとれるのはあっちだけだからね」
衝撃な事実でしばらく固まっているとアンジが少し笑って、アンジが笑ってくれたからそれはそれでいいか。
「永遠の十六歳でいいけどさ、もう一つ聞きたい。なんでアンジには苗字がない?他のみんなも半分はアンジのように苗字がないから不思議に思ってさ」
「実はね、僕は生まれ変わっても同じ運命が起きるんじゃないかって不安が大きいんだよ。だったら永遠に十六歳のままでみんなをサポートする側に切り替えたんだ。大半の大人たちは新しい命で生まれ変わっていくけど、僕たち子供たちにはトラウマがある。病死してしまったみんなも、事故や殺害されてしまった子供たちにとっては恐怖でしかない」
「そんなに怯える必要はないんじゃないのか?だって生まれ変わったら思い出もリセットされるようなものだろ?心配はいらないと思うんだけどな」
「想心が言っている言葉は正しいよ。でもここで亡くなることもあるから余計に怖い。僕だって今だに恐怖を感じる。ここで終わりを遂げてしまったら生まれ変わりもできなくなっちゃうから」
アンジが言っていることも正しいと思うよと言いたかったけど、言えるような雰囲気ではなかった。なぜならアンジの瞳がこんなにも怖じけているのはこれが初めてだったから。
空気がもの凄く重くなってしまい切り替えなくてはと、この話は一旦やめ俺は依頼について話し合った。
「アンジ、俺はアンジがいてくれて凄え嬉しいよ。今もこれからもアンジのそばから消えたりしない。だからこの話はやめようぜ。空気が重くなっちまったからさ。それでさっきおばさんが話してくれた通り、早朝に市場に行ってみよう」
「ありがとう。うん、早朝に様子を伺おう。その前にまだ情報が少ないから他の四軒も聞き込みしよっか。それで特定して張り込みする。それでいいかな?」
「OK。体も暖まったし行きますか」
ホットココアしかないから自分で払えるだろうと思っていたが、ホットココアがなんと六百ポイで大丈夫だよとアンジに甘えてしまう。
店を出て俺は両手をパンッと合わせ本当にごめんと謝罪する。
「マジでごめん」
「いいよ。それにまだ想心にポイントの稼ぎ方を教えていなかった僕が悪いからね。そんなに気にしなくていいよ。すぐポイントは貯まるから」
「本当に悪い。俺が稼げるようになったら今度奢らせてくれ。金銭は俺、真面目過ぎって兄貴に言われたことがあってさ」
「兄弟いたの?」
「まあな。兄貴と妹がいるよ。今頃、俺がいなくなっちまったことで兄貴と妹が変なこと考えてないのことを祈るしかない」
俺には兄妹がいたから、学校の嫌われ者になったとしても、兄貴が相談に乗ってくれたから、少し楽に慣れていた部分もあった。
その一方、思穏は一人っ子でもあったから、相談に乗れるのは心を許していた俺のみだったから、自殺を図ろうとしていたのだろうか。
「兄弟がいていいな。僕は一人っ子だったから、一人で乗り越えていくものが多かったから少し憧れちゃう。それに悲しんでくれる人もちゃんといるからちょっと羨ましい部分があるよ」
「そうか?その記事を読んで悲しむ人はいると思うぜ。俺もさよくわかんないけど、ニュースやネット記事を見ると悲しみがある。なぜ殺されなければならなかったのか、なぜ事故が起きてしまったのか、なぜ自殺をしてしまったのかって凄え思うもん」
俺は常に思っていたことを、アンジに話しながら足跡を残して歩み出す。
「まあそこは人ぞれぞれの器っていうものがあるから、感情がどう動くのかは知らないけど、こういうのは永遠に続く気がするんだよな。どんなに願っていたとしても人は過ちを犯してしまうことが起こっちまう。それにさ」
途中で子どもとぶつかってしまい、大丈夫かとしゃがんで聞いてみるとごめんなさいと謝るから、平気だよと頭を撫でてあげる。ぶつかってしまった子はバイバイと俺たちに手を振り、その子が見えなくなるまで見届けながらさっきの続きを伝えた。
「自然災害が起きてしまったり、病で亡くなってしまう人やそれ以外の死が突然と降りかかってしまうことがあるじゃん?そう考えるとさ、命の重みを知れるような気がしてたのに、俺はこっちに来ちまった。目標があったのにそれもできぬまま、悔いをあっちに残して来ちまったよ」
「想心…」
「まあ死んじまったもんはしょうがねえからきっぱり諦めるっていうか、生まれ変わったら絶対にやりたいことを成し遂げるために長生きしようって決めてるから、それまでよろしくな、アンジ。本当は来世で会いたかったんだけど、アンジの夢があるなら俺は全力で応援するからな」
にっと笑ってアンジも笑って任せてと言ってくれて、本当は行かないでほしいという顔をしていたとしても、俺とアンジはその話についてはもう話さないことを決めた。
今度は肉屋に行ってみて美味しそうと俺は目を輝かせよだれが出そうな勢いの中、依頼書を送ったらしい店主に聞き込みを入れている。
「早朝、品物を置いてたらよ、いきなり小娘が新鮮の肉を持って逃げちまった。最初は週に一回しか現れなかったんだが、ここ最近はほぼ毎日盗まれてな。それで依頼書を送ったんだよ」
「そうですか。ちなみに身長はどれくらいかってわかりますか?」
「確か娘と同じ背丈ぐらいだったから、百五十六センチぐらいだ。それと目が不思議だったよ。なんて言うんだっけな。ほら猫とかたまに左右の目が違うとかいうあれだよ」
「オッドアイ?」
そうそうとおっちゃんは閃いて、百五十六センチでオッドアイの目をしている子か。ちょっと興味湧いている自分がいた。
次は魚屋に行ってみて、こっちもこっちで焼き魚とか煮魚とかしたら美味しそうだなと、品物を見ながら兄ちゃんの店主に聞く。
「被害は捌いている魚のみを奪われることが多いな」
「そう仰っていますが、なぜすぐ通報しなかったんですか?」
「あーうち、魚が全然売れないから処分することが多いから別によかったんだよ。だけど他の店は早く捕まえてほしいって言われて、結局今まで通りになるのは覚悟してた」
「なあアンジ。困ってるからもしその子を捕まえられたら魚郵送して料理長に作ってもらうのはどうだ?どれも美味そうな魚ばかりだし、これくらいいいよな?」
「んーまあ寮長は想心だからそこは決めていいよ」
よっしゃと聞いていたらしい兄ちゃんの店主は微笑んで感謝するよと言ってくれた。住所をアンジが教えそこにいらなくなってしまった魚たちを郵送してもらうことに。
るんるん気分でいた俺だが、アンジは納得していない部分もあるそうでどうしたと聞くとこんな回答が来る。
「寮長としての役目で判断するのはいいけど、これは一応取引のようなものだよ。お金を支払わないといけない時がある。今回の店主さんはお金はいらないって言ってくれたけど、次回は支払う形になるから、それ相応の金額を決めておかなければならない。そこはわかってる?」
「わかってるよ。だからそれ以外の依頼も受けておきたいんだけど、どうやって依頼を引き受けるんだ?」
「それならリエートという依頼書をかき集めてくれている場所があるんだ。残りの二軒回ったらサブクエストみたいな感覚で稼ごっか」
やりぃとガッツポーズを取りながら次は武器屋に訪れてみた。へえ普通にカステクラインの他に剣や弓に槍などが置かれている店だ。しかし店主がいなくて留守なのかなと品物を見ていると、何か探してるのと声がかかり振り向くと誰もいなかった。
どこにいるんだとキョロキョロしてたら、ここなんだけどと下を見ると幼い女の子だったのだ。
「久しぶり、盾乃ちゃん。剣汰くんいる?」
「雪山に行っていない。でもこの時間、吹雪が凄いって聞いてる。剣ちゃん、行ってからもう一週間経つ。お願い、アンちゃん。お兄ちゃんを探して。お金はそのお小遣いでもらった千ポイでいい?」
「わかった。必ずお兄ちゃんを探してくるから、お家で待ってられる?」
「うん。お留守番得意」
アンジは盾乃という女の子の頭を撫で、俺たちは一旦店を出た。
「どうすんの?」
「サブクエストのようなものだよ。盾乃ちゃんのお兄ちゃん、十三歳の腕で鍛治職人を取得した優れた子で結構有名な武器屋で予約が殺到するぐらいだから。とにかく雪山へ急ごう。それに嫌な予感しかしないからね。カステクライン!取り出し、箒!」
「カステクライン!取り出し、箒!」
俺も出してアンジがその雪山を知っているらしく出発する。
少しお金が増えたら一応武器は持っていたほうがいいかと考えながら進んで行くと、吹雪が凄く防御魔法をしていても目が痛い。これじゃあ前に進めないと手を目上に翳して進んでいたらアンジがストップの手を挙げた。
どうしたとアンジの隣にいき目の前をみるとなんじゃあれと言うぐらい化け物が飛んでいたのだ。
「あれは死屍の一種でデッドバード。人間に恨みを持つ鳥たちと呼ばれてる。あの数だと僕たちでは祓ってあげることもできない。箒から降りてそこからは歩いて探そうか。デッドバードがいるってことはこの周辺に人間と死屍がいるからね」
あれがデッドバードかと箒から降りてそこから徒歩で進んでいくことに。
◆
体を休めて次の日、セブラは僕の体調を考えていつもなら紅茶なのにハーブティーを淹れてくれてそれを飲む。あまり変なことは考えようにしよう。
「セブラ、昨日はごめんなさい」
「いいって。俺も言い過ぎちゃった部分もあるからさ。そんでどうする?一旦家に帰るか?」
「ううん。ロゼ・エンディリアを探すよ。あのさ一つ聞いてもいいかな?」
「なんなりと」
ハーブティーを飲み干して寝間着から制服に着替えさせてもらいつつ僕は聞いた。
「天の世界に行けたりできるの?」
「行けるっちゃ行けるけど、今の段階では無理だ。ポイントを上げて称号を貰わなくちゃならない。称号は七つあってな。思穏の場合、今は見習い魔道士」
「上げるにはどうしたらいいの?」
「思穏の場合は成績を上げたり、後はリエートって言う依頼書をかき集めてくれる場所があって、依頼を受けて達成できたらポイントが入る。ちょっと行ってみるか。ちなみに天の世界に行けるのは五段魔道士。思穏ならすぐ五段魔道士になれる才能があるから楽勝だと思うぜ。よし、できた」
ありがとうと感謝を述べながらベッドから降りて、セブラがリエートという場所に案内してくれる。
行ってみるといろんな人たちがいながら壁に貼ってあるクエストをざっと確認した。どれもこれも人を襲ってほしいという依頼が多くあり、そんなにまだ憎しみが残っているのだろうかと心がズキズキと痛む。
ただこのままでいるわけには行かないし、想心ともう一度会えるチャンスがあるのなら魂狩りをしなくてはならない。
それ以外にも家の手伝いや故障してしまったから直してほしいという依頼も見つけた。まずはそっち系でポイントを稼いでいくしかなさそうだ。
そっち系で高額なポイントを見ていたら、セブラがこんなのどうだと見せてくれたのはピアノを弾ける人募集中というクエストだった。
「まさか僕の家をずっと見てたから持ってきたの?」
「嫌なら別のでもいいけどさ、意外と高いポイントだし早く天の世界に行きたいのならポイントは必要だ」
もうピアノは弾かないと決めてたけど、僕の得意なことはピアノを弾くことだ。あいつらに虐められて指を骨折し弾けなくなって両親にどれだけ怒られたか。
でも僕の指は生きていたより指の調子がいいから弾けるよね。がっかりさせてしまったらって不安が多いけど、試してみる価値はありそうだ。
「やる。早く五段魔道士になって、天の世界を見てみたいんだ」
「やる気出たっぽいな。んじゃそこの家にお邪魔するか」
不安がありつつもセブラが一緒にいてくれるから、頑張れそうだとセブラの箒の後ろに乗り依頼主のご自宅へ向かった。




