67話 フウシャ街
アンジに個別特訓してもらったおかげで、無事四段魔導士となれ、雷魔法と機魔法を取得して、すぐに校長の命によりカゼノ国へと来ていた。
なぜカゼノ国に行くことになったのは、急遽カゼノ王国国王であるフィリシャ女王陛下、直々のご指名だからだ。なんか緊張してしまうほどだけど、カゼノ王国は穏やかな風が吹いていて、心地いい。それに国民の人たちも穏やかに挨拶してくれる。ただなぜよりによって……
「想心の隣を歩くのははいねですわ!」
「違う!僕だよ!」
という両腕を引っ張られる俺であり、なんとかしてくれと後ろを歩いている兄貴と雫であっても助けようとはせず、むしろ面白がっていた。
ハウヴァを置いてくればよかったと少々後悔していて、この状況をなんとかしないとなと思っていたら救世主が現れる。
「ハウヴァ」
その声にハウヴァの足が止まり、そして俺の腕を掴むのをやめ声の主の元へと飛びついたハウヴァであった。
「銀様!なぜこちらにいらっしゃるのですか?」
「くるめに聞いたらここにいると聞いて、ここに来た。用件は想心に」
するとハウヴァは頬を膨らませ俺のほうを向き、拗ねたハウヴァがなぜか可愛らしいと感じていたら、白金銀が睨んできて目を逸らす。
アンジたちは苦笑しながら、白金銀に問う。
「それで何の用なんだ?」
「グレイには気をつけたほうがいいと伝えておこうと来た。少女であっても本物の魔女のように人を操るのが得意だ」
「グレイがなんでダークグレーノ団長になったのか知ってんのか?」
「グレイは元々カステクライン使いだったと聞いてる。ただなぜデステクライン使いとなったのかは誰もわかる人がいない」
セブラはと雫が質問すると、セブラも知らないらしいと聞いた。てことはグレイと親しかったカステクライン使いの人を探せば、何か見えてくるのかも知れない。
「ありがとな、銀」
「私がしてきた行為は、許されないが償いだと思い、これからも情報は与えていくつもりだ。それから少しハウヴァを借りてもいいか?」
「ハウヴァが良ければ」
「お供しますわ」
即答するハウヴァであり白金銀と共にどこかへと行かれてしまった。アンジはほっとしていて、行こっかとカゼノ城へと向かう。
カゼノ城内へと入り校長室へと向かおうとしたところ、強風が吹き髪が乱れた。なにが起きたんだと髪の毛を戻していたら、松風先輩を見かける。声をかけようと思っていたら、俺らに気づいてくれて来てくれた。
「想、心。颯、楽、たち、来て、くれた、んだ、ね」
「さっき強風っぽいの起きたけど、なにがあった?」
「校長、と、団、長が、喧、嘩、しちゃ、て、あの、状態、に、なっ、てる」
松風先輩が見ている方角に目を向けると、木に引っかかっている女性がいて、目をぐるぐると回していた。フィリシャ女王陛下の姿はないということは吹き飛ばされたという認識でいいのだろうか。
松風先輩は目をぐるぐるしている団長を降ろしてあげる。少しして緑の団長であるグーダス団長が目をぱちりさせ、俺たちがいることで慌てながらも正座ををして自己紹介をしてくれた。
「私は緑の団長をしておりますグーダスと申します。いつも涼ちゃんからお話は伺っておりました。今回フィリシャ女王陛下より、命を受けたのですよね?今は会わないほうがよろしいかと思います」
「なぜですか?」
質問をすると苦笑いをするグーダス団長であり、さっきの口論がなにかがあるのだろうと感じる。
「涼ちゃん、できれば想ちゃんだけにお話しがしたいから、アンちゃんたちと城下町で待っててくれる?」
「わかっ、た」
松風先輩はアンジたちを連れてこの場を去るも、兄貴だけは物言いたけそうな顔をしていた。けれど兄貴は松風先輩を追いかけていく。
「ごめんなさい」
「いえ。それでなぜ俺だけに?」
「この国と共鳴が起きている国はご存知ですよね?」
「はい。それと何か関係が?」
そうですとグーダス団長は立ち上がり、告げられる。
「この任務を引き受ければ、おそらく想ちゃんは確実に闇堕ちする可能性が高い。そう占いが示してる」
「闇堕ち……」
「どのタイミングかはわかりません。ですがいくらやっても想ちゃんは必ず闇堕ちする。できれば緑の団長としてこの任務は引き受けないでほしい。もちろん女王陛下の命は絶対に受けなければならない義務がある。どうするかは想ちゃんが寮長として判断をしてほしい」
俺が闇堕ちするだなんて想像がつかなかった。グーダス団長の占いがどれくらい的中するのかは不明であっても、俺は今グレーゾーンの中なのは確かなことだ。
なぜアンジや兄貴たちに聞かせなかったのは、そのことを知ったら自分を責めてしまうからと判断しているんだろう。
グーダス団長にどうしますかと聞かれ、まだ結論は出ていないけれど、隠し通すのは難しいからな。
「やるかどうかはアンジたちと決めます。きっとアンジや兄貴に言ったら、やめるよう言われるかも知れない。ただこのことを隠し通すのは難しいと思うです。隠し通していたことがバレた時、なぜ相談に乗ってくれなかったのか悔いが残ると思うから」
「想ちゃんがそう言うのであれば、止めはしません。それに今回ばかりは涼ちゃんを付き添わせるので、何かあれば涼ちゃんを頼ってほしいかな」
「わかりました。ありがとうございます」
グーダス団長は俺に軽く会釈した後、違う任務に行かれ、俺はアンジたちを探すことにした。
闇堕ちしないために何かいい方法があればいいんだけどなと考えながら歩いていたら誰かとぶつかってしまう。俺とぶつかったことで尻餅をついてしまったのはなんと三毛屋さんだった。
名前を呼ぼうとしたらフードを被り、俺の手を握って建物と建物の間に身を隠す。少しして追っ手らしき人たちがいて、去るまで待つことに。
いなくなったことで三毛屋さんはこちらを向き、事情を説明してくれた。
「ミケに内緒で猫の姿となってついて来ました。今頃、ミケは慌ててると思う」
「どうしてそこまでミケと距離をおこうと思ってるんですか?」
三毛屋さんは表情を曇らせながら、俺に告げてくれる。
「まだ確証は得られていないけど、おそらくミケは猫柱の可能性が高い」
「嘘だろ!?」
「声が大きい」
俺が大きな声出したことで三毛屋さんが俺の口を塞ぎ、追っ手が戻ってきて陰に隠れつつ、小声で詳細を聞かせてくれる。
「正直わからない。ミケは猫が特に大好きで、すぐ懐かれることが多くて、もしかすると猫柱に選ばれ、あなたを監視するよう命じられたのではないかと感じて」
俺は少し気になっていたことがあり、三毛屋さんの手を下ろして質問をした。
「じゃあつまり、ミケが猫柱だと言うことを知ったグレイは三毛屋さんを猫にしたってことですか?」
「疑惑を抱いたあたりに、グレイに捕まったのは事実。捕まったことを知ったミケがすぐ助けに来てくれたけれど、ミケはグレイの呪いによって大型猫に」
ミケがすぐ助けに来れたのは三毛屋さんが言った通りに、猫柱だからすぐ来れたのかもしれない。
「それが本当なら、想心くんが危険になるかもしれない。私はきっとまたグレイに捕まるリスクはあるけど、力になりたい」
「どうしてそこまで?」
「想心くんは覚えてないかもしれないけど、私たちあっちで会ってたの」
数秒固まり再び叫びそうになろうとしたら、三毛屋さんが俺の口を塞いだ。まさかあっちで会っていただなんて衝撃だし、じゃあミケも俺とあっちで会っていたってことだよな。
頭がパンクしそうな勢いで、ちょうどアンジたちの声が聞こえた。
「この話は伏せといてくださいね。私は猫の姿となって想心くんを守る」
そう言って猫の姿となって隠し事が増えてしまったような感覚だ。アンジたちと合流することに。
◆
今頃、せなは想心と接触しているようですわね。あの化け猫の正体をどう受け止めるかは想心自信ですわ。それにしても厄介なのは、想心の兄ですわね。そこはディーグに任せてはいますけど、どうなるかしらね。
「憎い、憎い!」
娘の写真をズタズタにしている百合男を今、ほっとけばどうなるか目に見えていますわ。娘が今、ダークグレーノ王国にいる以上、憎しみが倍となっているのは確かであってもデステクライン使いの魂を狩ることはできませんの。
「げ!さっき掃除したばっかなのにすぐ散らかしやがって。グレイ、なんとか注意してくれないか?」
「仕方ないですわよ。忌まわしい娘がこの国にいるんですもの。それよりできましたの?」
「あぁ。想心をこっち側につけさせるにぴったりだと思わないか?」
ディーグが見せてくれたのは妹の負の感情を詰め合わせた贈り物。それを開けた瞬間、想心は必ず闇落ちをしてデステクライン使い、濃藍の葉桜誕生ですわ。楽しみですわねとディーグに返し、牡丹を呼ぶ。
「どうした?」
「あなたの娘が嗅ぎ回ってるらしいわ。おそらくあるがなぜダークグレーノ団長なのか知りたがってるから教えてあげていいわよ」
「それを明かしたらねずみがまた…」
「心配無用だと思うわ。あの子はもうそんなことで闇に堕ちる子じゃないこと、牡丹。あなたならわかってるはずですわよ?」
少し言いたげそうな表情でも、牡丹は愛する娘のところへと行き、ディーグはそれを渡しに行ってもらったですの。
「百合男、行きますわよ」
まだやりたそうな表情であっても、あるは百合男を連れ、玖朗の様子を見にいくことにしましたわ。
◆
アンジたちと話し合い、俺が思った通りにアンジと兄貴はやめようと言っていたが、結局その任務をやることとなった。フウシャ街へと行ってみるも、風車がボロボロな状態で住民が住んでいるようには見えない。
本当にここであってるんだよなと思っても、ここがフウシャ街っぽいな。人がいないから状況が読めず、どうなってんだと歩いていたら、いきなり鳥たちが羽ばたいてつい声が出てしまった。
「妙」
「松風先輩、来たことあるんですか?」
「う、ん。普、段は、こんな、ん、じゃ、ない。も、っと、賑わ、ってる」
まるで無人のフウシャ街だなと人通り見たときのことだった。いきなり死屍が出現し、デッドウルフだからもしやこの付近にディーグがいるのかもしれない。
とにかく手分けをして死屍を退治していくことになった。
「カスてクライン!水、カワウソの牙!」
汀とカワウソ数匹が攻撃を与え、デッドウルフは消滅していく。けれど倒しても倒しても増えていく一方だ。一回で消えないってことはおそらく、どこかにいるのは明確だった。
どこにいると倒しながらいそうな場所を探していたらダークグレーのローブを羽織った人が優雅にお茶を飲んでいた。ただ見た感じ、この人はデッドウルフを出すイメージがない。
「お前誰だ?」
ついその人に声をかけると飲んでいたカップをテーブルに置き、フードを下ろした。その人は中年男性でどこかで見たようなとまじまじ見ていたらピンと来た。
「まさかテンファの父ちゃんか?」
「人を憎いと思ったことはある?」
唐突な質問でいやとボソッと回答したら、手品で黒い百合花束を渡される。
「僕は憎い。たとえ小さな娘であろうとも憎い。妻を選んでおけばよかったと何度も、何度も思った!」
こいつやばいと距離を離そうとも渡された百合の花束がばけ、俺を拘束した。拘束魔法かと解きたいところだが口も塞がれ思うようにカスてクラインを起動させられない。
「なんで僕は妻の要望を選んでしまったんだ。私の意思で妻を選んでいたら息子はっ息子はっ」
いきなり叫び出しテンファの父ちゃんが変になってしまった理由は、テンファ自身からも聞いてる。こんなところで闇堕ちするようなことが起きたら最悪だと、何か合図を送れればと思っていたらぴかーンと眩しい光に包まれ、拘束魔法が解けた。
光が消えるとそこにはショートボブの女性と美命がいて、テンファの父ちゃんは消えていた。
「間に合ってよかった。怪我はしてない?」
「はい。ありがとうございます…?」
俺が疑問に思っていると美命が耳元で教えてくれた。
「咲さん。訳あってあの姿だから絶対に誰にも言わないであげてね。光でバレてると思うから、私たちはすぐ退散するけど、とにかく気をつけてね」
美命は俺にハグをした後、咲さんと一緒にいなくなってしまい、ちょうどアンジと雫が駆けつけてくれる。
「想心、大丈夫?」
「平気だ。そっちは大丈夫だった?」
「ディーグが現れて」
アンジと雫は表情を曇らせ、兄貴と松風先輩に何かが起きたんだと知った。すると猫姿の三毛屋さんと二匹の猫がやって来る。一匹はマフラーをつけていて、もう一匹はなぜかメガネをかけていた。
思わず変な声が出てしまい、兄貴は元に戻れないことで俺の足にしがみつく。こうやってみると可愛いと思ってしまってはいけないが、兄貴を抱っこして状況を教えてもらった。
「ディーグに気を取られていたせいでグレイに気づかなかった。きっと想心のお兄さんと涼太郎さんが邪魔だから猫にされたんだと思う」
「どんだけ猫にさせるんだよ」
「ふふ、あるが猫好きだからですわよ」
グレイが近くにいて咄嗟に動こうとしたがアンジたちが吹き飛ばされてしまう。幸い兄貴は俺が抱っこしていたことで、吹き飛ばされることはなかった。
「邪魔者はいなくなったようですわね。さっきディーグから渡してもらおうと思ってたのですけど、あるから渡したくて来ましたわ」
「いますぐ兄貴たちを元に戻せ!」
「嫌ですわ。あるが鬱陶しいと思っている人は全員、これですの。こうやって遊んで」
俺はついグレイのほおをひっぱ叩いた。グレイは猫のぬいぐるみにした人たちをもて遊んでいること。
「グレイ、いい加減にしろ。グレイの人生の中で、辛い時期があったのはわかってる。だけど人でもて遊ぶな!グレイにとっちゃその人たちが最低なことをしたんだろうけど、その人たちにとっても人生があるんだよ。人の人生を奪う権利は誰にもない」
グレイはほおに触れながら俺を睨みながら、グレイが抱えていた想いが明かされる。
「綺麗事ですわね。あるは多くの人を見てきましたの。その中で最も最悪だと感じたのは、見て見ぬふりをする人ですわ。助けを求めていている人がいたとしても、見て見ぬふりをして自分のことしか考えてない。人の思いやりがない人たちは全員いなくなればいい!」
「そんなことあるわけ」
「大アリですわ!想心はこの気持ちお分かりでしょ?孤独だった想心ならっ」
初めてだったのかもしれない。グレイが泣きながら俺に語るだなんて。確かに俺は孤独だったがそうじゃない。学校は居場所はなかったけど、思穏と出会えたことで嫌な学校も耐えることができた。
グレイに一体何が起きたのか、まだ確認は取れてないけれど、きっとグレイはいじめが耐えられなかったんだと思う。
「グレイ…グレイの人生で何があったんだよ」
「言いませんわっ。思い出したくありませんの!デステクライン!闇、オオヤマネコの威嚇!」
黒いオオヤマネコが現れ鋭い威嚇をされたことで足が震えているのかびくともしなかった。動けないことによってグレイが演技していたようで、通常の笑顔となって近くにより目の前で箱を開けられる。兄貴は耐えられなかったのか俺から離れ、これは吸わないほうがいいと思っていても、いつの間にかテンファの父ちゃんがいた。
そのせいで両腕を掴まれたことにより、吸ってしまうことになる。この感情、芽森のもの……。怖がってる…寂しがってる…嫌がってる…あぁ芽森のそばにいなく……ちゃ……。
◆
ガッシャーンとセブラが買ってくれたコップが割れてしまい、セブラが大丈夫かと心配してくれながら元に戻してくれる。
「思穏、大丈夫か?」
「みよりさんと美命ちゃん、まだ戻って来てないから想心、無事だよね?」
「大丈夫じゃないか?まあ今のところグレイたちもあっちに行ってるし、心配なところはあるけど」
なんだろうこの胸騒ぎと思っていたら、急にルルラちゃんが叫び出してしまって、リラ団長が大丈夫と慰めていた。そう言えば優くんどこ行ったんだろうと不思議に思う。
時々、優くんの姿がないなとたまに思うことがあるけど、一体何をしているんだろうか。
「セブラ、少し天の世界の様子を見て来る」
「ルルラのそばにいたほうがいい。俺が見てくるよ。大丈夫、心配すんな」
セブラはそう言って行ってしまい、ルルラちゃんがこんなに怯える理由はきっと父親なのかもしれない。
「ごめんなさいっごめんなさいっ」
「ルルラ、大丈夫。そばにいるから」
「ごめんなさいっごめんなさいっ」
誰に謝っているのか想像がついてしまう。お兄さんを刺してしまったことを思い出しちゃったんだろう。ルルラちゃんにとっては深い傷なんだ。
大丈夫だよと優しく包んであげていると、先輩と優くんが戻ってくる。
「どこ行ってた?」
「お手洗いです。ルルラちゃん、心配しなくていいですよ。ほら、これ」
ルルラちゃんはひくひくしながら優くんが持ってきた物を見せると、きょとんとして優くんを見ていた。
「もう一人のお兄ちゃん……?」




