48話 イッシェの向日葵
ミズノ王国に帰還してその翌日、留守を頼んでいたテンファやリディたちにおかえりと言われ、ただいまと自室へと入った。本当は手土産を持って帰りたかったが色々ありすぎて買う余裕がなかった。そうだった。夏海が寮長をしていたから代理はやっぱりファウになるのだろうか。
そこは後で聞くとしてネズミ女と廊下がやけに騒がしい。ねずみはホノオノ王国で一度登録済みだとしても信頼度はこっちで低いからなんとかしてあげたいな。
校長に会うからラフな格好に着替えずそのままにしといて、汀は少しお疲れモードだから汀専用のベッド付近に置いてあげる。さて早速、校長に報告しようと扉を開けた瞬間、ぎゃあと騒いでいる先輩たちを追いかけているのは、青の団に正式に入ったミケが追いかけ回していた。
あの二人、睨まれていることがあんのかとほっとき、隣の部屋のアンジの部屋をノックする。
ちょっと待ってと聞こえ待つこと数秒後、お待たせとアンジが部屋から出て来た。
「雫、連れて行く?」
「いや雫は置いとくというかねずみとあまり会いたくないみたいでさ。だから俺たち二人で行こうぜ」
「そうだね。ミケは…ほっとこっか。そのうちリディ先生が首輪つけそうな感じだし」
それはあり得るかも笑いながら玄関のほうへ行くと赤の団服を来ているねずみとファウが待っている。
「ファウ、大丈夫か?」
「大丈夫っす。お姉ちゃんが止めてくれてなかったら、自分がどうなっていたのか分かってたっすから」
やっぱりもう少しそばにいたほうがいいかまだ迷うも、校長に会いに向かった。城内は生徒がわんさかいながら、アンジにはアンジ先生だと耳に入ってくる。アンジはもう慣れているのか、照れている様子とかは全く感じられない。
校長室の前に到着してアンジがノックし入ってみると、校長は俺たちが帰ってきたことで俺とアンジを包む。無事で良かったとまるで父親のように、心配していたのが伝わった。
校長は数秒後、俺たちから離れ、ファウにもハグをしたらファウはごめんなさいと涙を流す。校長はファウを慰め無事に帰って来てくれて良かったよとファウに告げた。
ファウと離れた校長はファウの頭を撫で、そして隣に立っているねずみのほうを向く。
「君がデステクライン使いからカスてクライン使いと変わった雲井ねずみちゃんだね」
「はい」
「ホノオノ校長から話は聞いていたよ。本来ならばデステクライン使いはカスてクライン使いを手助けすると、焼印が発動する仕組みとなっている。死屍にならなかったのは、おそらく君がハーフソウルとなっていたんだろう」
「ハーフソウル?」
俺がつい口に出すとアンジが説明をしてくれた。
「ハーフソウルは、罪の償いによって魂が浄化されていくことをハーフソウルというんだ。もし不審な行動をすればハーフソウルの光が消えゆく。もちろん、これはカステクライン使いもそうなるケースがある」
「あーセブラみたいな人を言うのか」
「そうだね。善をしていけば魂の輝きは増し、美しい魂となると言われている。例えはシロノ団に帰還してきた子、龍桜咲ちゃん」
その名を聞いた瞬間に全身が震えるような感覚になり、そして俺の様子がおかしいことで、校長たちが焦っているような表情で目を閉じる。
◆
龍桜神社に直接入ることはできないが、想心の妹である芽森がいるのはすでに把握している。例えどこに隠そうとも防ぎることは不可能だ。ここで切り札になりそうな奴を利用しても、おそらく芽森はあの領域から離れることはしない。
かつてセブラの婚約者の婿が何をしたのか、それは伏せているようだな。
「玖朗なら楽勝で入れるんじゃないの?」
「入ったとしても、奴は芽森を守り抜くのは目に見えている。それから厄介なのが奴の息子だ。剣道の大会がない時以外ずっとこの神社の領域内にいるのは、息子の守護霊と関係している」
「息子って確か」
「奴と同様、龍神がついているからあの神社は前より強化が強いということだ。一人で乗り込めば魂は消滅するようなもんだ」
どちらにせよ、今は争うつもりもないからなと、僕と伊雪は獄の世界へ戻ると、育が璃子に何かを作っているようだった。ほっときながら別の任務に行こうとしたところ、団員が慌ててやって来て僕に報告する。
「葉桜想心がっ倒れたようです!」
「なんでだ?」
「龍桜咲の名を出したら倒れた模様で」
「あちゃあ、玖朗の前でその名を言っちゃったらアウトだよ。早く退散して」
伊雪の忠告で団員は失礼しましたと去って行き、僕の怒りと憎悪が合わさった。よくも想心の前でその名を言えたもんだなと周囲の壁が一気に吹き飛ぶ。
「落ち着いてよー団長ー。セブラがそれ聞いちゃったらさ」
「言うな。一番、傷つくのはセブラのほうだ。なぜなら想心はーーー」
◆
このこと封印していたのはいつからだったんだろうか。まだ芽森が生まれる前の話だった。あれは夏の日……。父さんは仕事で来れず、母さんと兄貴、三人で母さんの実家に行った時のことだ。
龍桜神社内にある家で何泊かすることになった時、俺の一個上である辰弥と会った。初めて会ったはずなのに、なぜか懐かしいと感じてしまった。遊んで来なさいと母さんに言われて、兄貴は神主の話を聞きたかったらしく一緒じゃなかった。
「辰弥、なにして遊ぶ?」
「本読む」
「遊ばないの?」
「本読む」
遊ぶ気はないらしい辰弥であっても俺は辰弥にくっついてたっけな。勝手に蔵の中へと入って辰弥はしまってある和装本を取り出して読み始めてしまう。
横を覗くと達筆すぎて読めなかった俺は読むことを諦めて、蔵の中にあるものを片っ端から見ていた。そして本棚にしまわれていない和装本があり、それをみる。
どうせまた読めないんだろうと思ったが、俺はそこを開いて何秒かは固まっていたと思う。なぜなら俺が拾ったのは家系図であり、そこに俺の名前が存在したからだ。
辿っていくと俺は龍桜咲と不倫した男の名前の子孫に繋がっていたからだ。確かに近所の人たちにお父さん似だねとか、お母さん似だねとか言われたことがない。兄貴や芽森はよく言われるのに、なんでなんだろうってずっと思っていた。なぜ葉桜家に俺は養子としているのかずっと気になっていても聞けなかった。
なぜなら母さんと父さんが話しているところを聞いちゃったから。
「想心に言わないで突き通すつもりなの?」
「言わないでおく。想心の両親が妙な事故で死んだことと、まだあの時は生まれてまもなかった。両親の顔は覚えていない」
父さんと母さんが望んだことだから、聞いたことは忘れようとしていつの間にかそのことは忘れてた。今更思い出すだなんてとゆっくり目を覚ますと自分の部屋にいる。目からつうっと流れていてゆっくりと体を起こす。
そばにはアンジが寝ていて、どれくらい寝ていたんだろうかと窓のほうを向く。
もしかしてセブラや玖朗は俺の正体を知っていて、あんなことをしているのだろうかと感じてしまった。それに少し気になるのが、なぜ俺は青藍の葉桜に選ばれたのか。
カステクラインを見つめていても、わかんねえと寝っ転がる。
葉桜の人間じゃないのに、選ばれたわけは必ずいつかわかる時があるよなと、夜だからそのまま目を瞑ろうとした時。
ぎゃああぁぁと叫ぶ声がしてアンジも起き、大丈夫と聞かれたから大丈夫と答えた。
「さっきの悲鳴って」
「先輩たちだろ。確か夜勤先輩たちだっけ?」
「また何か起きてるのかな。僕が様子見てくるから、想心はそのまま寝てていいよ」
そうかとアンジは行ってしまわれ、このことはアンジやリディーに言えねえよと再び目を閉じて就寝することに。
翌日のこと…。
朝食を食べていると、先輩たちがすごい顔立ちで部屋へ行くのが見えた。
「先輩たち、そういやどうだった?」
「昨日様子を見に行ったら、光る物体点滅して浮遊していたから怖かったらしい。ただ僕が行った時には見えなかったからなんとも言えないんだよね」
「新手なデステクライン使いとか?たまに真夜中、出現することあるみたいだよ」
光る物体かと朝食を食べ終え、そうだったと俺はひと足さきにミズノ城へ行くことに。
昨日、校長の話を聞いてぶっ倒れたから謝罪しないきゃと校長室へ歩いていたら、校長が歩いていらっしゃった。校長と声をかけると、校長はすまなかったというような顔立ちをして、おはようと言われる。
「おはようございます。昨日はすみません」
「いいのだよ。少し話せそうかい?」
はいと校長先生について行き、話す場所は校長の奥さんがいらっしゃる牢獄だった。ここなら誰にも聞こえないから、選んだのだろう。
奥さんの唸り声を聞きながら校長のお言葉を聞く。
「想心に影響が出るとは思わなくて話てしまった。すまない」
「いえ」
「想心が倒れたわけがなんとなくわかっていた。本来ならば打ち明けるべきではないと思っていたが、やはり想心には伝えとくべきだと判断した」
「お話というのは?」
校長は奥さんを見つめながらこう仰った。
「龍桜咲ちゃんは許嫁の人ではなく、ある男に恋をしていたそうだ。されど咲ちゃんの縁談は進んで行き、そして身ごもった。その子は許嫁とできた子ではなく、恋をした男とできた子。それが汀春なんだよ」
校長がこちらを向き嘘だろと信じられない事実を知って、変な汗を掻いちまう。じゃあ、じゃあ濡羽玖朗が溺愛していたわけってなんだと考えていたら、校長は俺の肩を掴み言われる。
「濡羽玖朗が想心にヒントを与えているのは、おそらく何もできなかった後悔、贖罪をしているのではないかと、こちらは思っている」
「贖罪…?」
「濡羽玖朗は兄弟愛を持つ男だ。それ以外、敵と見做している理由は、いろんな人たちに汀春は利用されたからだと。弟は親友と共に死んだと表向きではそうなっているようだが実際、二人は殺されたようなもの」
実際に殺されたということは何か仕組まれて二人は亡くなったってことか。まさかそんな真実が存在していただなんて、なら二人を自殺に見せかけた犯人って一体誰だ。
「二人を死に追いやった人物は?」
「それが汀春がこっちにいた時期でも犯人のような人物は現れなかった。本来ならば犯人が獄の世界にいたとすれば、必ず遭遇していたはず」
それほど二人に信頼されていたとすれば、怪しまれずに過ごしていた可能性もある。俺が汀春の生まれ変わりだとすれば、この千年の間、なぜ眠り続けていたのか明らかにしておく必要があるかもしれない。
「校長、もし可能なら千年前で、紅葉川家の人間に会いたいんですがいらっしゃいますか?なぜ二人はそのようになってしまったのか、知っておく必要があると思ったので」
「紅葉川家はすでに新しい命となって過ごしていたから、当時のことについては聞くのは難しいと思うが、確か思穏くんの祖父母なら、確かカミナリノ王国にいらっしゃると思う。尋ねてみるといいよ」
思穏のじいちゃんばあちゃんか。あまり詳しく思穏から聞いたことはなかったけど、会ってみる価値はあるかもしれない。
「ありがとうございます、そうしましたら」
「留学届は後日、送っとくよ。その前に試験が近づいているからそれが終わり次第で構わないかい?」
「はい。新しい魔法を取得してから行こうと思います」
「その意気だ。想心、もし咲ちゃんに会いたいと思ったら話はつけておく」
再度、ありがとうございますと告げ、俺は校長の奥さんがいる牢獄を後に、城内を歩いていたら中庭に向日葵が咲いてあった。
こんなところに咲いてたかと近くによってみるも、少し元気がない向日葵だ。水でもあげてみるかとカステクラインを起動させようとしたら、待つんじゃとイッシェの声がかかった。イッシェはジョウロを持っていて、それで水やりをする。そしたらみるみると向日葵が元気となった。
「カステクラインは便利じゃけど、植物は抵抗があるんじゃよ」
「抵抗?」
「うむ。水魔導士は簡単に水を与えられるじゃろ?自然に咲く植物は、ありがたい気持ちもあるけど、植物もちゃんと生きてるんじゃ。困難があったとしても水魔導士に甘えられてばかりじゃ、ちゃんとした薬草とかにはなれぬ。だから自然の水を与えるのがベストなんじゃよ」
確かにテンファも水魔導士とはいえ、ジョウロを使って花の世話していたな。
「それと植物魔導士が少ないのは、デステクライン使いによって魂を奪われてるんじゃ。理由はわからぬが植物魔導士が減れば、怪我を治せる人も減っていくんじゃよ」
カステクラインを使っても治せない病を治せるのは植物魔法を覚えている人間のみと教科書にそういや書いてあったな。難易度が高かったのに、雫は見事植物魔法を取得したのはテンファの教えがうまかったんだろうと勝手に思っている。
そうだった。イッシェに聞いておくことがあったんだと、イッシェに聞いてみることにした。
「イッシェって確か、カミナリノ王国出身だよな?どんなところ?」
「今度はそこに行くんじゃな。名の通り雷が鳴り止まない国じゃ。だから水魔導士は感電に気をつけていくんじゃよ」
「気をつけるってどうやって気をつければいいんだよ」
イッシェはふうむと考え、雷が落ちない日に出かけたいものだな。元気になった向日葵を眺めながら待っていると、イッシェはすまぬと俺に謝る。
「いくら想像しても無理じゃった、じゃが妾の団長に聞いてみよう。団長は発明家ゆえ、何かと力にはなってくれるはずじゃ」
「ありがとな、イッシェ。それとさ前から気になってたんだけど」
イッシェに聞こうとしたところ、滝木団長を見かけたことでイッシェはまた今度聞くのじゃと、逃げるようにこの場を去って行く。やっぱり滝木団長と何かがあるんだよなと、俺は授業に行くことにした。
◆
ライトグレーノ王国を出てグレーノ国の境界線まで到着した僕たちは、一度ここで休むことになったけれど寝付けず、寝っ転がって夜空を見ていた。
想心はいま何してるのだろうかと気になるも、白金銀団長のことだから、グレーノ王国に着いたら女性率が高めなのかなと想像してしまう。男いるよねと考えていたらセブラの顔が出てくる。
「どうした?寝れないか?」
「いろいろ考え事してて、眠れなくなっちゃった」
「どんなことだ?」
「グレーノ王国に着いたら、女性率が高いのかなって。そう思うとルルラちゃんや優くんには刺激強めなんじゃないかなって」
それはないときっぱりいうセブラは僕の隣に寝っ転がりながら教えてくれる。
「あいつはそういう趣味的なのは実際にないんだよ。女が銀に興味を持っているだけで、ファンサービスみたいなもん。まあハウヴァに関してはやりすぎな一面はあるけどな」
言われてみればスターのような輝きは持っていて、女性たちがキャーキャー言っていたのは遠目だけれど知ってたな。確か僕たちがライトノグレーノ王国に滞在している間にグレーノ王国に帰還したんだっけ。
それじゃあ心配しなくてもよさそうとセブラと一緒に夜空を見ていたら、振動がきて起き上がる。
地震か何かと周囲を見ていたら、東の方向から何かがやって来て、何事とみるとハウヴァが女性陣に追いかけられていた。これは助けるべきなのかなと、様子を伺っていたらハウヴァと目が合った瞬間に、僕たちは何者かによって襲われた。
ここは一体どこだろうかと思っていても、目隠しによって状況が読めていない。セブラたちと逸れてしまったかはさておき、僕の肩を使って寝息を立てている人がいる。
起きるまでそっとしておこうと思っていると、停車したことで降りろと指示を受けた。着いたよと小声で教えるも、スピーと音を立てている。
おい、起きろと言う声に風船が割れたような音が響き起きたようだ。
「ふう。よく寝たー!さて、ここまで運んでくれてありがとう」
「貴様!」
次々と倒れていく音が響き渡り、そして僕についている目隠しを外してくれた。僕はついその人物に驚愕してしまう。その人は僕に手を差し伸べてこう言った。
「久しぶり、思穏。お姉ちゃんの顔、覚えてないかもしれない。けど正真正銘、私は思穏のお姉ちゃんだよ」
僕の姉だと言うその人の笑顔は、忘れたくても忘れられないよと、僕はその人の手を払ったんだ。




