43話 桜と龍
あれ以来、私はお父さんが言う物体を見る光景が続き、いつ死が訪れようとしてもおかしくはない状況の中、とある神社へと向かっていた。その神社というのは龍を司っている龍桜神社と言って、あまり知られていない神社なんだそう。
そこに葉桜家と一体何があるのか定かではないけれど、そう言えば毎年家族で初詣に訪れていたな。
龍桜神社に行くには車では行けないため、近場のパーキングに車を停める。そこからは徒歩で神社に向かうにしても、なぜ夜中なんだろうか。それにお母さんも珍しく一緒に来てくれている。
歩いて数分後に木々に囲まれている龍桜神社の鳥居を潜り、進んでいくと灯りがついていた。
こんな時間にやっているのだろうかと本殿が見えると神主さんが立っていて、神主さんが久しぶりだねと私たちに言う。どこかであったっけと首を傾げていたら、お母さんが神主さんに言った。
「久しぶりね、龍真」
「姉さんこそ、久しぶりだね」
えっえええぇぇぇと思わずびっくりしちゃって、つまりお母さんは神社で育ったってことなの。待って整理がついていけない。確かお母さんの旧名は違かったような。
「芽森ちゃんはだいぶ驚いているようだね。まあ仕方ないことか。とにかく中で話そう」
よくわからないけれど龍真さんについて行き、神社の離れに立派な家が建ってお邪魔することになった。居間へと入り龍真さんの奥さんがお茶を用意してくれて話が始まる。
「芽森ちゃんが今も尚、あれが見えていると言うことは本当かい?」
「はい」
「狙いが葉桜家となれば再び災いが起きると言われている。すでに長男の颯楽くんと次男の想心くんが亡くなったとしても、終わりはない」
「それってどういうこと?」
それはねとすでに用意をしてくれていたらしい一冊の和装本を開いて説明をしてくれる。
「千年前の話よりもっと前の出来事。それは神だけしかいなかった時期というべきかな。葉桜というのは世間でもわかるように、桜が散り始め若葉が出た時に誕生したのが葉桜家なんだ」
ポカンとした顔立ちになっていたとしても、龍真さんは続けて喋った。
「葉桜汀春は親友を助けようとした際に、命を落としたけれど、汀春の妻が子を授かっていたことで葉桜家は途絶えることはなかった」
「えっと…いまいちよくわからないです」
「まあ僕も最初言われた時は、意味不明だったけれど、成長していくたびに理解は深まったから聞き流していて構わない。それであっちの世界というか黄泉の国だね。昔は一つの国だったそうだが、汀春たちが来て間もない頃に、二つの世界が誕生した。それがいわば天国と地獄。天国はもちろん、ちゃんと生きた者たちが住む世界、そして地獄というのは自分を自害した者、犯罪者が住む世界と言われている」
想像したくないことが目に浮かんでしまう。それは想兄と思ーちゃんは別々の世界にいるのではないかと。龍真さんは和装本をめくりながらその先を進める。
「汀春と親友は離れ離れとなり、そこで大きな戦が起き、僕たちが住む現世でも影響を及ぼすほど酷い状況だったそうだ」
「どうして」
「それはね、人を殺めたり、自害する人が続出していたことで、神は尊い命を無駄にする者に罰を与え過酷な試練を与えた。二度も同じようなことをすれば、三度目はないというように、来世ではちゃんと生きてほしいという願いを込めたんだろうと、ここに記されている」
確かに二度もやれば三度目はないというような言葉があるように、神様から受け取ったこの魂を無駄にしないように生きなければならない。
悔いが残らないように、そして魂は常に死と隣り合わせであることを忘れちゃいけないんだ。
「魂は何度も現世と常世を行き来しているのはなんとなくわかるかい?」
「うん。新しい命となって新しい人生を歩むんだよね?」
「そう。一度はそこへ行くけれど、またここに戻ってくる。ただ新しい命というより、魂はそのまま。記憶だけがリセットされ、新しい体に宿るんだ。ごく一部の人だけ前世の記憶があるという人もいる」
「龍真さんも前世の記憶をお持ちなんですか?」
それはないよと言われ、こんなに詳しいからてっきり前世の記憶を持っている人なんだと思ってしまった。
「さて、本題はここから。葉桜家がなぜこの神社と関わりがあるのか。それは僕と姉さんの家系は葉桜家が生まれた時から関わりを持っているからなんだよ。僕の奥さんも葉桜家だ」
「てことは兄妹?」
「血は繋がっていなくとも、遠い遠い親戚のようなものよ」
全国ランキングで多い家系のように、そういうのがここでも起きているということ。
「あっちで何が起きていたのかは明確ではないけれど、こっち現世では災害があちこちで起きたことによって土地が変わり果て日本や他国が出来上がったようなものなんだ」
「えっとつまり災害が起きるのはあっちで何かが起きていて、こっちでも影響が出ているってこと?」
そういうことと教えてもらい、信じられない話にちゃんと理解ができるだろうか。
「つまりなんらかの形で、再び災害等が起きるリスクが高い。ここでは結界が存在するから奴らは入ることはできない。それと追い祓う術を今回、芽森ちゃんに教えるよう姉さんと義兄さんに言われてる。その覚悟はできてる?」
「まだ頭の整理ができてなくて、覚悟はまだないです」
「うん、そうだね。理解するのは時間がかかるけれど、奴らは待ってはくれない。そこだけは理解してほしい」
確かに死が直前となっているのは自覚していても、ちゃんと祓えるかどうか不安が大きい。だって死が近い者だけしか見えないというのがな。
龍真さんが言うように物体たちは待ってはくれないから、なんとかしなくちゃならないよね。それに死が近い人を救えるかもしれないという思いが出てる。だからと私は答えを出した。
「わかりました。まだ理解はできなくても、追い祓う術は覚えておきたいです」
「よし、じゃあ早速覚えてもらおうと言いたいけれど、この時間帯だから朝から指導させてもらう。それでいい?」
「よろしくお願いいたします」
龍真さんに告げ、お父さんとお母さんは仕事もあるため、家へと帰る。龍真さんの奥さんに部屋を貸してもらって、そこで就寝することになった。
ここはどこと周囲を見渡すも真っ暗だとしても、スポットライトのように灯りがつく。そこに想兄と颯楽兄が立っていて、二人が微笑むと同時に景色ががらんと変わった。
何ここと荒地のように空は赤く地にはなんと想兄と颯楽兄それからお父さんやお母さん、私の友達、そして思ーちゃんに引きづられていたのは松風くん。
思ーちゃんは松風くんを私の前に放り投げ、つい私は松風くんの名を呼ぶ。それでも起きてはくれず、どうしてと叫んでも、思ーちゃんは答えてくれなかった。ただ思ーちゃんは体が冷え込むぐらいの笑みを浮かべながら、松風くんに向かって刺そうとする。私は嫌と叫びながら、目を覚ました。
起き上がると全身が汗ばんでいて、あんな夢を見たら魘されちゃうよね。せっかく用意してくれた寝巻きが台無しと、着替えなくちゃと布団から出て事前にお母さんが用意してくれた服に着替える。
あれが正夢にはならないよねと着替え終え、汗ばんでしまった寝巻きを持って襖を開けたら、知らない人とばったり会った。どちら様と首を傾げていたら、その人はさっさと行ってしまい、ちょっとと追いかける。そしたら私がついて来ていることを知ったのか余計に歩くのが速くなった。
どちら様ですかと言おうとしたら、龍真さんの奥さんとばったり遭遇する。
「おはよう、芽森ちゃん。どうかしたのかしら?」
「おはようございます。あの、せっかく用意してくれた寝巻き、汗でびしょ濡れになってしまって」
「もしかして悪い夢を?」
「はい」
すると龍真さんの奥さんは険しい顔をして考え始め、何かわかるのかなと待っていたら、龍真さんがやって来た。
「おはよう、ん?きよりどうした?」
「芽森ちゃんが悪い夢を見たそうなの。もしかすると、死者と関係があるかしら?」
「断言はできないけれど、芽森ちゃんがここにいるとなれば少なからずそういうのは起きると思う。もし悪い夢が続くようなら、僕に知らせて」
はいと寝巻きはきよりさんに渡し、居間で朝食を取ろうとしたところ、さっきの人がすでに座っている。誰だろうと思っていたら、龍真さんが僕の息子で、辰弥と教えてくれて、てっきり子供はいないとばかり思っていたけれどいたんだ。
辰弥さんはなぜかそわそわしていて、しっかりしなさいときよりさんに叱られている。
私何かしたかなと思っていても、思い浮かばずきよりさんが作った朝食を食べることに。それにしても静かすぎる朝食で、喋っていいのかも不安だ。
もぐもぐと食べていると、視線を感じそっちを向くと辰弥さんがこっちを向きながら食べている。なんでこっち見てるのと食べづらいと思っていたら、龍真さんときよりさんに笑われてしまった。
「こら、辰弥。気になるなら、普通に喋ればいいんじゃない?」
龍真さんが笑いながらそう言うと、小さくご馳走様と言って、食器を持って行ってしまう。ごめんなさいねときよりさんに謝れ、いえと返事をしながら朝食を食べていった。
朝食を食べ終えた私はラフな格好なまま龍真さんについて行き、家から離れた稽古場へと入る。周りには剣道場っぽい部屋だ。龍真さんは竹刀を二本手にし一本を私にくれる。
「部活はちなみに何をしてた?」
「想兄と同じ剣道部でした。ただ想兄は途中で辞めちゃって」
「なるほどね。なら袴のほうが捗りそうかな。今日はその格好で明日、きよりから渡すからそれを着て、この部屋に来てほしい。それじゃあ最初は防具つけてやろうか」
はいっと渡されてそれを身につけ、久しぶりだから鈍ってそうな感じもするな。龍真さんの表情が変わり、問答無用で私に襲いかかってくる。空気ががらんと変わったからびっくりしちゃったけれど、龍真さんに試されているんだと理解した。
学校も休んでたし、部活も休んでいたことで、自分が鈍っていることを肌で感じる。押されてばかりでいつバランスが崩れそうか、冷や冷やしそうだ。
どれくらい時間がかかったのだろうかと私がばててしまったことで、一時中断することになった。結構な汗を掻いて防具を外していたら、スッとタオルをくれてありがとうございますとそれで拭く。
「芽森、すげえな」
えっとよくよく見たらタオルをくれたのが、辰弥さんだった。いつからいたのとびっくりしてしまうほどで、きよりさんがお水と昼食を持って入ってくる。
ぎこちなくありがとうと伝え、辰弥さんは袴を着ていて竹刀を手にしていた。
「父さん、午後、芽森とやっていい?」
「芽森ちゃん次第だよ。こう見えて辰弥は全国大会で一位だから、心の準備できた時に手合わせすればいい」
今の実力じゃ絶対に勝てない相手だと悟り、今度にしますと発言したら、いつでも待ってると竹刀を持ったまま出ていってしまう。
「あの、辰弥さんって?」
「想心くんの一個上だけど、辰弥はちょっと事情があってこの神社から一歩も出たことがない。だからかも知れない。歳は少し離れてるけど芽森ちゃんに興味を抱いたんじゃないかな」
事情はあまり詳しく聞かないほうがいいよねと思い、そうなんですねと相槌を打った。と言うことは今も尚、あの物体が見えるということでいいのだろうか。
稽古が終わったら少し話してみようと、稽古の再開をした。
◆
葉桜が休学して数ヶ月経ち、もうすぐ進路とか考えなくちゃならない時期となってる。それに修学旅行、葉桜は来ないよなと窓を眺めていたら、ぱこんと叩かれ振り向くと先生が不機嫌な顔をしていた。
「授業に集中しなさい」
「先生、葉桜は修学旅行来ますよね?」
授業中なのにそんなことを質問して、先生の表情が変わるしクラスのみんなも少し表情が暗くなる。
「葉桜はおそらく来ないだろう」
「どうしてですか?修学旅行に行けば少しは気分良くなるんじゃないかって思っただけです」
みんなも芽森に会いたいのは事実であって、一緒に行きたいよねと女子たちは言っていた。ご両親に聞いてみるよと先生が言ってくれたことで、後で俺の方からも聞いてみようかな。
放課後、葉桜にメッセージを送り、部活へ行こうとしたら教授を見かけた。つい追いかけて行くと、先生と話している会話をつい聞いてしまう。
「先生、芽森の進路のことなのですが、高校には行かず巫女となることになりました。妻の家柄がそう言うものでして」
「これは驚きました。となれば休学させているのは」
「本来ならば義務教育として中学校に行かせたかったのですが、大事なことが起きておりまして、巫女がいない今、巫女になれるのはただ一人、娘の芽森のみ。芽森次第ではありますが、長引く可能性が出た場合、中退させていただきます」
「そうでしたね。葉桜さんのご事情は学長から伺っております」
そこからは頭に入らなくて、葉桜ともう会えないのかとぎゅっとバックを握った。少しして会話が終えたのか去っていく足音が聞こえる。つい俺は教授と叫んでしまって振り向く教授。
俺の顔を見てなのか申し訳ない顔をしながら俺のところへと来る。
「爽くん、いつも来てくれたのにすまない。これは決定事項なんだ」
「納得いきません!以前言ってくれたじゃないですか!芽森のことを頼むって!あれは嘘だったんですか!」
ついかっとなって言ってしまい、なんだなんだと窓から俺を見ている生徒たち。それでも俺は教授の言葉が気に食わない。芽森と会える日々をずっと待ってたのに、ふざけんなよ。
教授は俺が拳を作っていることでその拳を優しく包み込む。
「後で芽森から話をさせる。だから待っていてくれるとありがたい」
つい教授の手を振り払い俺は逃げた。おい、爽と先輩に呼ばれるも部活に行かず帰宅した。母さんに部活はどうしたのと心配されるも、何も言わずに自分の部屋へと入る。鞄をすとんと落として座り込み、天井を見上げた。 俺は役立たずなのかよと悔しくて涙が溢れちまう。
俺だって役に立てること絶対あるはずなのに、なんでだよと落ち込んでいたら、スマホが鳴り響いた。確認してみると葉桜からで、涙を拭いながら応答する。
『松風くん?今、大丈夫?』
「あぁ。…教授から聞かされたと言うより、盗み聞きしちゃって、葉桜が来ない理由知った。俺っ役に立ちたかったのに、立てないのが悔しい」
『…ごめん。詳しいことは言えないけど、絶対に松風くんのところに会いに行くから待っててほしいの』
「待つってどれくらい待てばいいんだよ」
それはと葉桜は口ごもってしまい、イライラしていると葉桜からあることを言われる。
『本当のことを言うとね、今も怖いよ。家に出るのもやっとだった。お父さんにそれを伝えたら、お母さんの家系に関する巫女だからって言われたの。その巫女というのはある物体を感知して祓う役目』
「物体って?」
『言葉にしたら松風くんが狙われるかも知れないから言えない。祓えるように一日でも早くできるように頑張って、学校に戻るから、だからお願い。待っててくれる?』
待ちたくないって言いたかった。なぜなら葉桜がどっかに行っちゃうんじゃないかって。そうだとしても葉桜を信じよう。
「わかった。待ってるしクラスのみんなも待ってるからな。できれば最後の思い出、修学旅行には顔出してくれると嬉しい」
『うん。それまでにできるよう努力してみる。それに夕方ごろからはスマホ使えるから、いつでも連絡して』
「あぁ。巫女の稽古頑張れよ」
『松風くんも部活頑張ってね。それじゃあ』
またなと伝え、まだもやがありながらも、私服に着替えて、宿題をしに行った。




