36話 ローノ街①
焔副団長に言い訳をするわけにはいかず、俺とアンジは正直に雫との出会いを話した。しかし焔副団長に納得してもらえず、気まずさがありながら、共に行動をしている。雫の笑顔はどうしたらいいという笑顔を貼りつけていて、なんとか納得してもらう方法ってなんだろうか。
前を歩いている焔副団長で璃子さんから頂いたりんごを頬張りつつ、周囲を見回っていた。
兄貴の一件とそれからファウの処分についてはまだ議論の最中で、暇を持て余している。リエートでポイントを稼いでもいいのだが、いい案件が全く入ってこない。ここは一度ミズノ王国に戻ったほうが良いのではと考えていたところすみませんと声がかかった。
声の主の方へ体を向けると、多くの子供を連れている女性で、おそらくシジ族の人だろうと認識する。
「どうかされましたか?」
「少しこの子たちをみててもらえないでしょうか?報酬はちゃんと払います」
まあ困っている人を助けるのも団の勤めでもあるため、引き受けようとしたところ焔副団長が断った。
「自分たちはただの留学生なので、ホノオノ国の団にお願いできますでしょうか?」
「これは失礼しました。あなたの髪色が赤だったもので、てっきりホノオノ国の団かと」
言われてみれば赤毛だと思いながらも、子連れの母親は子どもたちを連れて他を当たるようだ。
「あの副団長」
「断った理由か?」
「はい。なんで断ったんすか」
「さっき、副団長が言ってた通り、僕たちはあくまで留学生として来てるから、できる限りは限られてるんだ。何度か他国の者が手伝った際にトラブルが発生したことで、他国に来た時は十分気をつけなければならない」
通りでリエートに行ったとしてもいい案件がなかったわけか。どうやってポイント増やそうと悩んでいると、住民から死屍が出現したと声を上げている。
俺たちは真っ先に出現した場所へ行ってみると、今まで見たことがなかった死屍だ。枯れた木っぽいような死屍で枝についている実から異臭を感じる。
「デッドアーバーはホノオノ国に出現しないはず」
「…アンジ、ここ任せて平気か?確かめたいことがある」
「お任せください」
焔副団長は一瞬でいなくなり、その術はいつ習えるんだろうかと思いながらも、俺と雫はまだ炎魔法を取得していないからな。アンジにここは任せるしかないと思った時のこと。
「カステクライン!炎、百獣の咆哮!」
炎を纏うライオンが俺たちの前に現れ咆哮すると炎がデッドアーバーへといきボッと燃えちりとなって消えていく。後ろをみると夏海が助けてくれたようだ。
「夏海、ありがとう。どうしてローノ街に?」
「リエートの依頼でローノ街に来てたの。予想通りって感じかな」
「予想通りって?」
雫が夏海に質問すると夏海は依頼書を見せてくれた。その内容はここ最近デッドアーバーがローノ街に出現しているので調査をしてほしい。依頼主がなんと兄貴の団にいる津軽璃子さんだ。
「団員がリエートを出しても構わないのか?」
「普通に団員も依頼を出すことは可能だよ。それで予想通りというのは?」
「璃子さんが現世にいた時期に、ストーカー被害にあってたらしいの」
確かに誰もが惚れてしまうようで、赤毛がよく似合っていたな。そう言えば焔副団長も赤毛をしている。雫はピンッと来たのか夏海に聞いた。
「ねえそのストーカーの名前って王林育?」
「確かそんな名前だったような」
「王林育は団未加入ってなってるけど、実際ブラック副団長なの。急いで行かなくちゃ手遅れになる」
「え?どうして?」
夏海は雫に疑惑を抱き始めてアンジは咄嗟に誤魔化す。
「雫はデステクライン使いマニアなんだよ」
アンジ顔が引き攣ってんぞと冷や汗をかきながら、雫もマニアなのとぎこちない笑みを出していた。夏海は通常の顔に戻らず完全にバレそうなところ焔副団長が戻って来てくれる。
しかし俺たちのことを信用してくれず、焔副団長に質問をしてしまった。
「王林育のデステクライン使いはブラック副団長なんですか?」
「デステクライン使い辞書に載ってる。寮長なのに暗記をしていないのか?」
ぎくっと夏海は微笑してすみませんと言っていて、俺たちは胸を撫で下ろす。
「焔副団長、どこ行ってたんですか?」
「璃子のところだ。夏海、ちょうどよかった。ファウの処分が決まったそうだ。早く行ってあげろ」
「もう!?えっとじゃあこれ託すから後は頼むね」
そう言って夏海はファウがいるホノオノ王国へと戻ってもらったところで、俺たちに言った。
「さっきのはなんだ?」
「…ごめんなさい」
「次、青の団に支障が出るようなら」
「焔副団長、それは言い過ぎ」
痛いと拳骨をもらうも、雫はそれでも反省をしているようだ。話題を変えようとも焔副団長は行くぞと歩き出し、俺たちも歩き出す。
なんとか雫を元気づけたいし、焔副団長に納得してもらえる方法と言ったらなんだろうか。アンジも珍しく焔副団長がいるから口下手だ。
なぜ焔副団長は急に冷たくなったんだろうと考えていたら、もしかしてと聞こうとしたところ、子供の泣き声が響き渡る。
行ってみるとさっき断った女性が倒れていて、目の前には子供たちを攫おうとしている連中がいた。すぐ動こうとしたところ焔副団長とアンジが同時に拘束魔法を唱える。
「カステクライン!拘束、わかめの結び!」
わかめが大量に現れ子供たちをかっさろうとしていた連中を捕まえるも一人だけ逃げ足が早く逃げられてしまった。アンジは子供たちの母親が無事か確認する。
焔副団長は泣いている子供たちを落ち着かせていて、子供好きなんだなと感じた。
「母親のほうは?」
「気を失ってるだけみたい。もしかしたらこの子たちを預けて、父親としっかり話したかったんだと思う」
「親権争いってことか。ここでも起きるんだな。そういう問題って」
「よく見かけるよ。現世と変わりないことも起きるみたい」
この子たちの父親は一体誰なのか少し気になるな。とにかく家まで案内してもらいたいけど、一番上っぽい子は震えてる。そうとなればとアンジに母親を任せ、雫と一緒に買い出ししに行くことに。
「何を買いに行くの?」
「あるかわかんないけど、似たようなもんはあるだろ。えっとおもちゃ屋はどこだ」
アンジが言うにはここら辺にあると教えてくれたけれど、おもちゃ屋が見当たらなかった。道間違ったかと行こうとしたら雫があれじゃないと雫が見ているほうへを向く。
その店は不気味なおもちゃの看板があり、どう見ても子供たちが怖がるパターンで、外観は汚れているし、入りずらい店だな。おもちゃ屋はここにしかないようで入ってみることにする。
内観は比較的マシで普通のおもちゃが売られているから外観をよくすれば売れるんじゃないかって気もするんだが。
店主の姿がなくレジにあるベルを鳴らしてみた。それでも店主は現れず、何度もベルを鳴らしていたら、うるさいと奥の部屋から現れたのは眼鏡をかけて蝶ネクタイがよく似合っている青年だ。
「何かようですか?」
「すみません。普通のボールとかってあります?」
「どんなボールかによりますけど、こちらです」
野球ボールやサッカーボールがあったらいいなと案内してもらったら、俺と雫はなんと言えばいいのかわからないぐらい変なボールばかりだった。
「あのう、もっとマシなボールないんすか?」
「ないですね」
きっぱり言われこれを使いながら遊ぶとなれば子供たちは嫌がるだろうしな。参ったなと迷っていたら、雫が一つのボールを手にし店主に確認する。
「これって魔法かかってます?」
「魔法はかけてませんけど」
「これってご自身で作って販売を?」
「違いますよ。仕入れて販売を行っています」
雫は何かを考え始め俺も一つボールを手にして考えてみた。外観は不気味なのに内観は普通だけど、普通らしいボールは売られていない。考えても俺はピンとくるものはなくボールを戻していると、そういうことかと口にした。
「仕入れ先聞いてもよろしいですか?」
「ルドゥンという製造会社」
「そこから仕入れをストップさせた方がいいかも。そこにもしかしたらミッドヴィークが関わってるかもしれない」
「なんでですか?あそこが一番いいおもちゃを作っている」
店主は相当気に入っているような感じで、雫はそれでも引かないような感じだ。あまり揉め事を起こしたくないからと言おうとしたら、チリンとドアベルが鳴る。そっちに目を向けると上品そうなスーツを着ている男がやって来る。
「おや、珍しいお客が来ているようだ。順調かね?」
「社長、なぜこちらに?」
「決まっているではないか。売れ行きがうまくいっているかどうかを確かめに。それで他国の者が何しにここへ?ここは他国が好むものはないはずだ。さっさと立ち去ってくれるとありがたい」
なんだこの違和感と感じていたら雫が俺の服を引っ張って、店を後にしちまった。
「おい、雫!放せって急に止まんな」
服を掴まれていたことで危うく転びそうになったがバランスが取れたからよかったよ。
「雫?」
「あの店主と社長、裏がある。こんなのは間違ってるかも知れないけど、ルドゥンに侵入したい。なんであんなものが売られているのか気にならない?」
「まあ確かにそうだな。アンジと焔副団長と合流してからにしよう」
うんと雫は言い俺たちはアンジと焔副団長がいるところへと戻った。
戻ってみると焔副団長が子供たちと遊んでいている姿を見て、なんというか小学校の先生っぽいと思ってしまうほどだ。ポカンと突っ立っていたらアンジと子供たちの母親と母親の後ろに隠れている一番上の子がやって来る。
「おもちゃ屋見つかった?」
「それがさ、妙なお店で引き返したのと、雫が気になったことがあったらしくて二人に話そうと戻って来た」
「あそこのおもちゃ屋は危険なの」
急に一番上の子が俺たちに教えてくれて、母親は一番上の子の頭を撫で俺たちに教えてくれた。
「ルドゥンという製造会社を建てたのはこの子の父親なんです。先ほど襲われた時も、この子狙いで襲われて」
「なら早めに対処したほうがよくないか」
「そうはいかないんです。一度リエートを出した際に、調査をしてもらったことがあって。けれど証拠はどこにも見つからず、逮捕にはならなかった」
おっとそういうパターンということは、思穏のように獄の世界に証拠があるという認識でいいんだろう。
「アンジ、それで情報を取るためにルドゥンに侵入したい。売られているもので違和感を感じたの」
「難しいところだよ。僕たちはあくまで」
「そんなのわかってる。だからここは兄貴の団に相談しに行かないか?兄貴は不在だとしても、なんとか手を貸してくれるだろ?」
「僕はいいけど、今一緒に行動してるのは副団長だから、最終的には副団長の同意が必要になるよ」
確かに共に行動している場合は一番上の者が同意しないと行動できないことになってる。話し合っていると一番下の子を肩車してあげながら、焔副団長がこっちに来た。母親はすみませんというも謝らなくていいと即答しさっきの会話を聞いていたのだろう。
「興味深いから団に相談をする。その間はアンジ、雫、遊んであげてくれ。想心は自分と行動。それで構わないか?」
「ありがとうございます」
一番下の子を下ろした焔副団長が箒を取り出すから、俺も箒を取り出してホノオノ王国へ戻ることになった。
「焔副団長」
「なんだ?」
「焔副団長と璃子さんとの関係性って?」
「生き別れの妹で璃子は母親に引き取られ、自分は父親に引き取られた。その頃は璃子がまだ赤子だった時期で、自分の顔すら忘れてると思う」
てっきり璃子さんの恋人とか思っていたが、兄妹だから赤毛が一致なんだろう。それにしてもここでも兄妹が同じタイミングであの世から去るだなんてな。
「想心」
「はい」
「雫に対する態度、悪いと思っている。ただこれだけは覚えとけ。自分たちにとっては、想心が重要な鍵となる。その鍵をデステクライン使いに壊される前に、阻止するため厳しく当たっている。雫の行動には十分気をつけろ」
「気をつけます」
焔副団長は責務を全うするために、雫に厳しく当たっているんだ。俺もちゃんとしなくちゃなとホノオノ王国に到着し、兄貴の団へお邪魔することに。
◆
芽森ちゃんが無事でよかったとホッとできたけれど、あれ以来セブラはいつもより元気少なめだ。それにルルラちゃんも元気がないため、元気になってもらおうと今、育さんと一緒にアップルパイを焼いていた。
これで元気になってくれればいいなと焼き加減を見ていたら、隣に涼真さんが現れる。
「美味しそうなアップルパイ。食べたい」
「これはセブラとルルラちゃんに作ったので、余ったらあげます。涼真さんはなぜこちらに?」
「ネズミたちが美味しそうって教えてくれたから来ただけ」
「そうですか。聞いてもいいですか?」
何と聞いてくる涼真さんで気になっていたことを口にした。
「なぜセブラの大事な人を奪ったんですか?」
「セブラがカステクライン使いになろうとなってたから奪った。それだけのこと」
「セブラが?」
こくんと頷いていてもし、もしだよ。セブラがカステクライン使いだったら僕はまだ生きていたのだろうか。それとも別の人が僕をここまで来させていたのかもしれない。
「それでもセブラは、諦めない強さがあるのは知ってるし、僕より器が大きい。僕は友達、ネズミしかいなかったから少し羨ましい部分もある」
「言われてみればいろんな人にセブラは好かれてますよね。一人一人の声を聞いて解決して、最初は殺人鬼と一緒にいたくないって思ってましたけど、今は尊敬できる人になってる」
「それを伝えたら元気になると思う。言っといて。もし大事な人、奪いに行きたいなら力貸す」
「玖朗さんにも言われたんですけど、却下してましたがありがとうございます」
アップルパイが出来上がるメロディーが鳴り、育さんができだがと様子を見に来た。そっとオーブンからアップルパイを取り出し、指をくわえてうるうるしている目をしているからお裾分けをしてあげることに。
美味しそうに頬張る涼真さんでカットしているとセブラとルルラちゃんが匂いによってやって来る。
「なんで涼真がいるんだよ」
「これ美味しい。おかわり」
「おかわりじゃねえよ。とっとと帰れ」
少し元気を取り戻してくれたセブラで、ルルラちゃんも美味しいと頬張ってくれた。
「ありがとな」
「いいよ。育さんの力がなかったらアップルパイ作れなかった」
伝えるとセブラはなぜか吐き出してしまい、何してくれてるのとティッシュを渡してあげる。
「育、余計なもん入れてないだろうな」
「入れてるわけねえだが」
「本気か?」
入れるわけねえだがと再度言い張る育さんでも、二人は歪みあってしまいどうしたものかとあたふたしていたら、玖朗さんと伊雪さんも登場して、二人もアップルパイを頬張る。
それによってセブラはやっぱりそうじゃねえかとルルラちゃんのアップルパイを没収しちゃったことで、ルルラちゃんは大泣き。
「団員を泣かすとは」
「ルルラに与えるな」
「僕の副団長を借りといてそれはどうかと思うぞ」
口に入れていたら吐き出すぐらいの衝撃で、この先は聞いちゃいけないような気もするからルルラちゃんとまだ頬張っている涼真さんを連れて退散することにした。
退散したことでねずみちゃんが走ってこっちに来る。
「涼真団長」
「どうかした?」
「至急、ライトグレー城に来るようにと王からご命令が」
「あー例の件。まだやってない、てんてんてん。時間稼いどいて。ご馳走様でした」
そう言って涼真さんは一瞬でいなくなってしまい、アップルパイと落ち込んでいるルルラちゃんを元気づけようとねずみちゃんに頼んでキッチンを借りて再度作ってあげることにした。




