31話 キャンドール鉱山②
校長から指示をいただき、翌日の朝、留学届が届いたことで、俺たちはホノオノ国へと向かっていた。ミズノ国とホノオノ国の国境がみえ、辺りは砂漠だ。それに熱い熱風があり風魔法で暑さを凌ぐかと考えていたところアンジに言われてしまう。
「風の調整ができたとしても生ぬるい風が吹くだけだからやめといたほうがいいし、まだ想心と雫は六段魔導士。人魚と同類に時間が限られているから、やめといたほうがいいよ」
「げっまじかよ。だったら違う魔法取得してた」
松風先輩には申し訳ないけど、そういうところちゃんと教えてもらいたかったところだよ。仕方ないとそのまま箒に乗って進んでいるも建物らしきものが全く見えない。
今回、テンファは留守番をしているから、回復時は雫が担当となるわけだ。あまり怪我しないように努力していくしかなさそうだな。
「ホノオノ王国ってどの辺なんだ?」
「もう少し時間はかかると思うけど、水分補給はしっかりとってね。水魔導士だから水は大量に出せるでしょ?」
その手があったと俺は水魔法を唱えようとしたら、雫がいきなりストップをかける。
「なんで止めんだよ」
「水被ろうとかしてたらやめといたほうがいいよ」
「どういうこと?」
アンジは笑いを堪えるのに必死で、余計に気になるんだがと水鉄砲を与えようとしたところ、背後から視線を感じた。なんだと振り向いた直後、干からびた鳥たちが水をくれと騒いで、こっちくんなと箒のスピードを上げても追いかけてくる。
「アンジ!笑ってないでなんとかしろよ!」
「はいはい。面白いからこのままにしたいけど、カステクライン!水、水玉!」
水玉が現れ干からびた鳥たちはそっちに行き、グビグビと鳥たちは飲み始めていく。やれやれと俺も水を飲もうとしたら、察しがいいのか干からびた鳥たちが一斉に来て、まじで勘弁とホノオノ王国に着くまで追いかけ回られた。
ぜえぜえと息を切らしながら、雫が大丈夫と水を用意してくれてそれを一気飲みする。アンジはまだ笑っていて一発デコピン入れたほうがいいかと、機嫌を悪くしていたら、あなたたちと呼ばれ後ろを振り向いた。
そこにはストレートの髪で、赤の服装を着ている女性と後ろには同じ服を着ている男女がいる。ここでの団的な人かと失礼しましたとカステクラインを起動させた。
「カステクライン!取り出し、留学届!」
ボンッと三枚の留学届を見せ、確認してもらっていると、懐かしい声が聞こえ思わずそっちに目を向けてしまう。そこには兄貴がいて、その横には芽森と同じぐらいの年齢の子がいた。
「兄貴…」
そう呟くと兄貴はごめんというような瞳をしながら走ってきて俺に抱きつく。俺のほうこそごめんと兄貴の背中に手を回し、再会の喜びを味わっていたら、確認してもらった女性が言った。
「君が颯楽の弟くんね。話は聞いてる。颯楽、ここは任せてあなたが案内してあげて」
感謝しますと兄貴は俺から離れて一礼をし、女性は留学届を持って先へホノオノ城へと向かわれた。気を遣ってくれたのかアンジも雫もその女性と行かれる。
兄貴は行こうかとぎこちない笑みを浮かべながら、一緒に歩いた。
「兄貴、ごめん…約束守れなくて…」
「いいんだよ。思穏くんの状況も知ってる。辛かったのにそばにいられなくて僕の方こそごめん」
「兄貴は悪くねえよ。あのさ、芽森のことなんだけど聞いてるか?」
うんと兄貴は後悔しているような声を出していて、兄貴も気になっているんだと理解した。それでも兄貴はあることを俺に教えてくれる。
「芽森は必ず乗り越えてくれるって信じてる」
「なんで?」
「お父さんから口止めされて、忘れていたから尚更受け止めるのにまだ時間はかかってる。僕たちの家系はとある物体が見え、それを祓い続けていた家系だったらしいんだ。ただそれが見えるのは死がまじかになっている時のみ」
「つまり俺はまだ死ぬことはなかったから、その物体を見ることはできなかったってこと?」
おそらくねと兄貴は言い、もし気づいていたら俺も思穏も死なずに済んだってことか。
「僕が解析なんてしなければ、芽森に寄り添って話を聞いてあげていたら、別の道があったんじゃないかなって思ってしまって」
「兄貴が謝る必要なんてない。悪いのはデステクライン使いだろ?」
「そうだけど、怖いんだ。芽森が自殺してしまうんじゃないかって、ずっと」
兄貴の思いは俺も同じ思いだよ。俺と兄貴が死して、芽森を一人ぼっちにさせてしまうこと。学校でうまくやれてるかなとか、たまに考えちゃう時がある。ちゃんと前を向いて歩いて、どうか幸せに暮らしてほしいという願い。
大切な人を失う辛さや苦しみは人それぞれであり、どん底に落ちてしまう人もいる。俺たちも帰りたいよ、芽森。けど人はいずれ死が必ず訪れる。明日かもしれない。明後日かもしれない。
だから命と向き合いながら生活をして、生きていることに感謝をしなくちゃならないのに、それすらできなくなっちまった。
来世があるかどうかはここで決まるが、まだ芽森はこっちにきてほしくない。滝木団長が見守ってくれているらしいから大丈夫だよな。恐怖に怯える兄貴に勇気を与えられるか分からないが伝えてみよう。
「芽森なら大丈夫じゃないか。最初は結構、落ち込んで立ち直れないかもしれないけど、芽森は一人じゃない。覚えてる?爽のこと」
「もちろん」
「俺たちがいなくても、爽がそばにいてくれるって信じよう。そうだ」
もしかしたら兄貴に会えるかもしれないと思って、リヴィソウルを買っといたんだ。
「カステクライン!取り出し、リヴィソウル」
ボンッとリヴィソウルが出てきて、兄貴に渡す。
「これって何?」
「ミズノ国で売ってるリヴィソウル。現世にいる家族や友人の魂を見れるんだってさ。それで一度、芽森の様子を見た時に、兄貴が死んだことを知って」
「…そうだったんだね」
「まあな…。まあどちらにせよ、俺たちはもうあっちには戻れない。母さんや父さん、芽森のことを信じよう」
うんとまだ元気がない兄貴だとしても、芽森たちの幸せを誰よりも望んでいる。だから早まってこっちに来るなよと心の中で叫んだ。
それにしても砂漠だったが急に火山のど真ん中に国があるとはな。
「想心」
「ん?」
「美命ちゃんと会った?」
「ちょくちょくあってるけど、どうかしたか?」
「以前とだいぶ変わってしまったと思って。想心にはそういう態度はとっていないんだろうけど、再会した時の顔は今も忘れられない顔だったんだ」
確かに以前と比べて雰囲気は変わったような感じだな。兄貴にどんな態度をしているか分からないが、何か理由があるのだろうと感じる。
「あまり美命ちゃんを信用しないほうがいいかもしれない」
「アンジにも似たようなこと言われたよ。兄貴に対して態度悪かった?」
「想心には見せない裏の顔がある。いずれその顔を見るかもしれないということだけ伝えておくよ」
純粋な心に悪魔が住み着いちゃった系なのか。いや、そんなわけないかと一旦、頭の隅っこに入れておくことにした。兄貴には聞きたいことがありすぎて、どれから聞こうか悩んでいるといきなり兄貴が止まるからぶつかってしまう。
「兄貴、止まるなら一言声かけてくれよ」
「何しにきた?」
ん?と兄貴の横に並ぶとワインレッドのローブを羽織っている奴がいた。兄貴の知り合いかと交互に見ていたら、熱風でローブが下りる。その人は身に覚えがあるような、ないような感覚でいるとあっと思い出した。
「ディーグじゃねえかよ!」
「俺のこと忘れてんじゃねえよ。ったく。颯楽が早くもこっちに来るとはなぁ」
二人はばちばちし始めていて、状況が読めないんだがと首を傾げていたらいつの間にか俺の隣にいる奴がいる。
「ごきげんよう、想心」
「なっ!」
「そんなに驚かれなくてもよろしくては?ディーグの死は、あなたのお兄さんと関係していますの。だから想心、あなたは引っ込んでおくれません?」
どういうことだよと言おうとした瞬間に吹き飛ばさてしまい、壁に衝突してしまう。これがダークグレー団長グレイの力かよ。住民が大丈夫かと心配してくれて、すみませんと立ちあがろうとするもふらつく。
やばいと倒れそうになったところ、支えてくれたのは兄貴と一緒にいた女の子だった。
「大丈夫ですか?」
「俺は平気だけど兄貴が」
「お兄さんなら大丈夫です。お兄さんのカステクラインは緋色の鳳凰。そう簡単にやられたりはしませんよ」
手を貸してくれてゆっくりと体制を立て直していたら、爆発音が聞こえる。きっと兄貴とディーグが戦い始めたのだろう。とにかく戻らなくちゃと行こうとしたら、死屍が数体出現してしまった。
それによって住民たちは悲鳴をあげながらこの場を去り始める。
「想心さん!ここはうちに任せて、先へ行ってください!」
まだ名前を教えてもらっていないけれど、兄貴がいる場所へと戻った。何も起きなないでくれと兄貴がいる場所へと戻ったら、そこには美しい鳳凰がいて兄貴は無傷、それに比べディーグが結構やられていたが、グレイの姿がない。
グレイはどこへ行ったと周囲を見渡していたら、屋根の上で見物をしていた。俺が戻って来たことでグレイは立ち上がり、すっとディーグの横に並んだ。
「お遊びはこの辺にいたしますわ。ディーグ、行きますわよ」
「いいのかよ」
「どちらにせよ、今奪っても意味がありませんもの。それにあるたちの目的は、颯楽を止めておくのではなく、現世にいらっしゃる妹さんを引き摺り出すこと。所詮、あなたたちはまだそれなりの魔導士じゃない。せいぜい祈っていることですわ」
芽森に危険が迫ってると思っていても、俺はまだ六段魔導士だし兄貴はおそらく見習い魔導士。グレイたちはいなくなり兄貴の顔を見ると悔しそうな顔立ちだった。
グレイたちがいなくなってすぐにアンジと雫が来てくれるも、二人の服装は乱れていて何かあったんだろう。
「二人とも平気か?」
「平気じゃなかったよ。城内でネズミが大量発生して、僕は逃げ回ってた」
「いたずらでもほどがあるけど、あれはかなり酷かったよ。そっちは大丈夫だった?」
「グレイ団長に吹き飛ばされたぐらいだけど、兄貴」
兄貴はディーグとどういう関係なのか知らなくちゃならない。兄貴は歩きながら話すよと俺たちは歩きながら、兄貴の話を聞くことになった。
「ディーグは小学生から僕の先輩だよ」
それを聞いて俺たちは思わず大声を出してしまうほど、衝撃しすぎる。兄貴は黙っててごめんというような表情を出しながらその続きを教えてくれる。
「研究者になるために僕たちは競い合っていた仲だったんだよ。中学も高校も、科学部に入って、大学もディーグに誘われてその大学を選んだのがきっかけだった」
「ちょい待った。ディーグって確か寮長だよな。こんな短期間で寮長になれるもん?」
「基本は実績を積んで団長に認めれば称号を貰える。ただ前世で活躍したカステクラインやデステクラインは別格で、すぐ称号を貰えることが多いんだ。想心のようにね」
そういうシステムだったんだと初めて知って、ディーグが持つデステクラインってどんなもんだろうと思っていたら、雫がディーグが持つデステクラインを教えてくれる。
「ディーグが持つデステクラインは藍鉄の猪。想心のお兄さんが持ってる緋色の鳳凰を一番最初に壊したと言われてるよ」
「団長からにも教わったよ。緋色の鳳凰は藍鉄の猪に敗北したと。だけど今回、僕が緋色の鳳凰に選ばれたのは意味があるかもしれないって言われてる」
「兄貴が敗北する姿みたくないけど、そういやさリディーが盗んだ情報でそのリストに入ってるんじゃ」
「それはあり得るかもしれない。リディー先生に後で聞いてみよう。また遭遇するかもしれないから」
兄貴もそのリストに入っていたらと不安が大きく膨れ上がっていく。それはテンファが大事にしていた湘西さんを守りきれなかったことだ。ここでやられたらもう二度と生まれ変わることは不可能。
なんとしてでも兄貴の魂を奪わせないようにしなくちゃとホノオノ城に到着して、思っていた城じゃなかった。ホノオノ城はどちらかというとインドにあるような王宮だな。それにミズノ王国で着ている服より、こっちではアラビアン風な衣装だ。兄貴もそういう格好をしている。
国によって民族衣装とかはここでも違ってくるんだなと歩いていたら、兄貴が校長と呼んだ。どこにいるんだと思っているとドワーフぐらいの身長さだが、女性だった。
「アンジから話は聞いた。私はホノオノ王国をまとめているティモファだ」
「しばらくの間、よろしくお願いいたします、ティモファ王」
「王はいらん。さてお前たちには早速、キャンドール鉱山へと向かってもらいたいんだが、さっきのアンジの行動をみて今は行くのをやめたほうがいいかもしれん」
「どういうことですか?」
「キャンドール鉱山にネズミが発生しているからだ」
アンジはその言葉を聞いて失神してしまい、これはしばらく起きそうにないと確信が持ててしまった。
「もし偵察に行きたいというのであれば、他の者を同行させるがどうする?」
アンジを一人にはさせないであげてほしいとこの前の中間成績で、こっそり滝木団長が言っていた。だからなるべく一緒に行動したいけど。今回ばかりは城で待機しててもらったほうがいいかな。
「一度検討させてください」
「よかろう。颯楽、アンジを寮まで運んでってあげてくれ。何かあれば部屋に来るといい」
ありがとうございますと告げた後、校長は部屋へと戻られ、兄貴は失神したアンジをおんぶし寮まで運んでくれた。
「話はまた今度にしようか。いい仲間に恵まれてよかったよ」
「兄貴とこうして会えて嬉しかったよ。なんかあったら俺に連絡して」
「もちろん。それじゃあ」
兄貴は任務があるのか行ってしまい、まだもやもやは消えなくてもアンジが起きるまで少し仮眠してしまう。
◆
ライトグレーノ王国に到着し、村よりネズミの数が多かった。あの後、セブラは無言のままだし何を考えているかわからい。ここで聞いちゃっていいのか迷っていると、ねずみちゃんを見かける。
ねずみちゃんに声をかけようとしたら、何か視線を感じ後ろを振り向いた。しかし誰もいなくて気のせいかと前を向いた瞬間にホラーのような顔立ちをした人がいて、つい悲鳴をあげてしまう。
「いつも驚かせるなって言ってんだろ。はぁ、ったく。思穏、紹介するな。こいつがライトグレー団長である絹鬼涼真」
「なんかイメージと全然違う」
「そんなに、驚かなくても、てんてんてん」
めちゃくちゃイメージが違すぎて唖然としてしまうほどで、見た目はなんというか陰キャラのようなものだ。ポケットから瓶を取り出して、これ飲んでみると聞かれるから遠慮すると、もの凄く嫌な顔される。
「涼真、それ毒入りドリンクだろ。そんなもの飲ませたら」
「ただの葡萄ジュース、てんてんてん」
落ち込んでは僕のほうをチラチラとみて、かわいそうに見えてきたからその瓶を取って飲み干した。馬鹿とセブラに言われるも、何も体には異常が出ていないから大丈夫だよと言おうとしたら異変が起きる。
何これ頭がクラクラすると立っていられなくなって、しゃがみ込むと何かに変身したっぽい。視線が足元ぐらいだ。
「いたずらにもほどがある」
「新作の薬。しばらくはその姿だから。じゃあ行くね」
一瞬でいなくなってしまい僕はどうしたらと何になったのか確認がしたくてもできなかったら、セブラに抱っこされて言われる。
「思穏が今なってんのはハムスターだよ。魔法が解けるのは涼真次第だから、それまで俺のポケットに入ってろ」
喋ることもできなくてセブラのポケットの中へと入り、なぜか暖かくてつい寝てしまった。




