29話 キャンドール鉱山①
嫌がらせが落ち着いて数週間が過ぎた頃、舟渡先輩と砂山先輩は見事、階級を一つ上げることができ、六段魔導士となった。それを祝して二人には夢だった門番の職を与えるために執務室で待っている。青の団も少しずつ増えたことで何人かも門番の職を与えようと考えていた。
それにしても遅いなと待っていたら、ノックが聞こえ入れと伝えると二人は満足そうな顔立ちをしている。
「舟渡先輩、砂山先輩、階級上げおめでとうございます」
「アンジの教えが良かったから」
「リディー先生のおかげでできました」
それはよかったと事前にアンジとよく話し合ってできた門番の服を二人に渡す。二人はいいんですかというような目をしながらキラキラして喜んでいた。
「門番二人はさすがにきついだろうから、何人か目星つけといた人たちとうまくやってほしい。もし何かあれば俺かアンジが話を聞くから。それともう一つ。舟渡先輩と砂山先輩は門番の管理もしてほしい」
「そんな大役任せてくれるんですか?」
「俺たちにできるか不安ですけど、やってみます」
「なら早速、目星つけといた人たちと勤務制を話し合って、動いてくれ」
ありがとうございますと感謝されながら、二人は早速動いてもらって、隣の部屋にいたらしいアンジがニコニコしながら入ってくる。
「最初は駄目かと思ってたけど、あの二人努力家だってことがわかってほっとしてる。順調にいけばいいね」
「だな。まあ最初は揉め事が発生しそうだけどなんとかなるだろ。それでアンジ、例の件なんだけどさ」
「あれね。僕も調査はしてるけど、ダークグレーの動きは今のところ大丈夫かな。雫も手伝ってもらってるけど、デステクライン使いの動きはないって言ってたから」
あれ以降、ダークグレーの団長の姿や団員がいる気配はなかった。このまま何も起きなきゃいいんだが、副寮長が何をしようとしているのかまだ不明のままだ。
話しかけようとしてもすぐいなくなるし、連絡は音信不通になるからな。夏海に相談を持ちかけようとも、夏海は母国に帰っていることで、連絡してもなかなか繋がらないことが多い。
「引き続きダークグレー団の動きを頼む」
「了解。今日の夜勤周りなんだけど、班決めどうする?」
「新しい人たちも入ったから四つに分けて見回りするか」
「ならリディー先生呼んできたほうが良さそうだね」
だなと話していたら呼んだかと執務室に入ってくるリディーで廊下にいたんだろう。ちょうどいいとリディーに相談する。
「アンジと話していて、団員も増えたことだし夜勤周りどうしようか考えてる。リディーの意見も参考にしたくて」
「今日が青の団の番か。まだ団に入って間もないこともあるだろうから、慣れている人が班長として新人と動くのがいいだろう」
「なら俺とアンジ、雫にテンファ。それからリディーってところか」
「四つの班で東西南北で分かれたほうがいいよね」
アンジは俺の側近とかで一緒に行動しそうだから、アンジ以外に班長になって動いてもらうか。それに気になることがあるからと二人に告げる。
「俺は北のほうを見回りたい。だからリディーは南、テンファは東、雫は西班として動いてもらいたい」
「想心殿がそういうのであればその方向性で動こう。新人の振り分けはどうする?」
「こっちで振り分けしておくから平気。じゃあ夜、頼む」
承知したとリディーは自室へと戻って行き、俺とアンジは今日の夜勤当番を振り分けていった。
夜、各班で動いてもらい、新人たちは少し緊張感を持っていながらも、警戒を怠らずに動く。夜だから何も起きないとは限らないからなと歩いていたら、死屍が早速現れた。
新人がカステクラインを起動させようとしていて、ちょっと待ったと指示を与える。ノーマルタイプの死屍だとしても、いつもの死屍じゃない
「アンジ、どう思う?」
「通常なら襲いかかってきてもおかしくはない。なのになんで襲いかかってこないんだろう」
「少し近づいても平気か?」
「僕が近づいてみるから、少し離れてて」
アンジはゆっくりと死屍に近づこうとした時、死屍が助けを求めたのだ。
「ダズケデ、キャンドールコウザンデ」
その先を喋ろうとした瞬間に爆発してしまって、俺たちは動揺が隠し切れないほど驚きがある。死屍は喋ることはなく、ただ唸るだけ。
するとカステクラインがくるくると回るから起動した。
「カステクライン!連絡、水のペンギン!」
カステクラインから水のペンギンが出てきて、俺の手のひらへと乗っかり想心と雫の声が聞こえる。
「どうかしたか?」
『今さっき、死屍が現れたんだけど、喋って爆発したの!そっちも同じ現象起きてる?』
「あぁ。こんなことなかったから、結構驚いてんだけど」
『テンファとリディー先生のほうはまだわからないけど、なにか嫌な予感がするの。とにかく夜勤終わったら話し合おう。じゃっ』
雫の嫌な予感というのは一体なんなのか気になるも、夜勤周りをしていくことになった。
「キャンドール鉱山ってどこにあんだ?」
「ホノオノ国にあって、キャンドルがたくさんある鉱山。まさかとは思うけど、夏海が巻き込まれてなければいいな」
「てことは兄貴と会っている可能性はあるってことか。兄貴も巻き込まれてなければいいな」
「少し心配だよね。明日、校長と話し合って留学しに行ってもいいか聞きに行こう」
ありがとうとアンジに伝えながら新人の悩みを聞いてあげたり、夜勤の見回りについて教えてあげていたら、あっという間に朝日が昇り始めている。
眠いと新人は慣れない夜勤を終え、すぐ自室へと入って睡眠をとるようだ。
ただ俺たちは起きた件に関してリディーとテンファ、雫を含め話し合うことに。
「小生の班でも似たようなことが起きましたよ。ただ助けを求めていたというより、これ以上傷つけたくないと言ってました」
「先生のほうでもテンファと似たような発言をした死屍だった。キャンドール鉱山で一体何が起きているのかは定かではないが、なにかしらが起きているのだろう」
俺たちと雫が聞いた死屍は助けを求め、テンファとリディーのほうでは誰も傷つけたくないか。他の団も遭遇しているか確認をしつつ、校長に報告だな。
「俺は校長に報告してくるから、他の団に聞き込みを頼む。仮に青の団だけに現れているのだとしたら調査が必要だと思うから」
四人は頷いてくれ調査をしに行ってもらい、俺は眠気があるもミズノ城へと向かい、校長室へと向かう。夜中、赤の団が動いている様子はなかったとしても、夏海が不在だから注意は払っておいたほうがよさそうだな。
ミズノ城へと着き、箒を取り入れしながら扉を開け校長室へと歩いていたら、ばったりと副寮長と会った。会ったことで避けようとするから、おいっと副寮長の手首を強めに掴む。俺に背を向けた赤団の副寮長は深いため息を出してこちらを向いた。
「話すっすよ。だから手を離してくれっす」
手を離しこっちっすと案内をしてもらって、物置室みたいなところで赤団の副寮長は木箱に腰を降ろして、俺も木箱に座り話を聞く。
「ダークグレー団長と接触していたのは意味があるんすよ」
「意味ってなんだ?」
「親父のため情報を流してたっす。もちろんミッドヴィークになるつもりはなかったんすよ。けど聞きたかった。冤罪だったのになぜ死刑されなければならなかったのか。冤罪なのになぜこっちじゃなく獄にいるのか気になって…」
「え?冤罪の人って獄の世界って決まってんのか?」
そうらしいっすと落ち込んでいる赤団の副寮長であり、衝撃すぎてなにも言えなかった。
「情報をくれるのなら、父親に会わせてくれるって言われてダークグレーの団長に手を貸してしまったっす。わかってるんすよ。父親とは会えないのは承知していて、けど少しでも希望を持っていたくて。副寮長失格っすよね」
冤罪の人で死刑宣告された人は獄の世界へと決まっているだなんて不公平すぎる。…いや、待てよ。冤罪なのにそこで諦めたから獄の世界に行くことが決まっていた。あそこで立ち向かい裁判で戦っていたら違う道があったんじゃねえか。
「親父は諦めてた。どうせ証拠は見つからない、ごめんなってそれ以来面会を拒絶し、死刑日の日にちすら教えてはくれず逝っちゃったんす。馬鹿っすよね。自分は親父のこと信じて、色々と調べてたのにっ」
赤団の副寮長は想いが溢れ出し目から雫がポタポタと垂れ、手の甲で拭き取っている。辛かったなと俺は思わずそばに寄り添い、背中を摩ってあげ親父と小さく呟きながら泣き止むまで待ってあげた。
ここではとてつもない試練の場だなと感じてしまうほどで、天の世界よりも獄の世界ではそれ以上の苦痛の試練が施されているのだろう。
落ち着きを見せた頃にアンジが顔を出してきて、校長が呼んでると言われたから、アンジと交代して校長室へと向かった。ノックをして校長室にお邪魔すると、校長は手を組み難しそうな表情をされている。
「ご報告が遅くなり、申し訳ございません」
謝罪するといつもの校長の表情となり、いいんだとゆったりと座り直した。
「アンジくんから大体は聞いたからね。それで赤団の副寮長であるファウくんのこと聞いてどう感じた?」
「とても難しい質問ですが、俺からの結論ですと、冤罪の人が立ち向かえる勇気があったかどうかで、天の世界へと行けるか、獄の世界へ行くか決まる」
「それが正しい答えだよ。私たちシジ族にとっても、冤罪に関しては心を傷めている。なぜ罪ではない人が獄の世界へと行ってしまうのか。常に頭の中にある」
「あの、ファウが犯したことに関して、処分はどうされるんでしょうか?」
校長に尋ねると処罰は必要になってくると即答され、赤の団がピンチになりそうな感じだ。
「ファウくんはミッドヴィークとなった以上、団にいさせるわけにはいかない。他の団に入団をすることも禁じさせているからね」
ミッドヴィークになった人たちは刑罰が与えられ、生まれ変わりができる可能性が低くなってしまうらしい。だからなるべく避けたいことだけれど、ミッドヴィークはおそらく永遠に消えることはない。
なぜなら家族や友達が獄の世界へと行ってしまったら、会いたい衝動でデステクライン使いと取引をしてしまうからだ。それがたとえ罠であろうとも、会いたくなるのは当たり前。俺も思穏に会いたいから。
「校長、一つ提案してもよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「夜中に不思議な現象が起きまして、おそらく死屍が青の団に助けを求めにきたんだと思います。なので調査のために、ホノオノ国に留学しに行かせてください。その時、ファウをお借りしたいんです」
「確かにファウくんもホノオノ国出身だが、それは許可は出せない」
お願いしますと深々と頭を下げ、こんなのは無茶なのはわかってるけど、こんなかたちで不在の夏海を悲しませたくはない。その思いを校長に見破られてしまう。
「夏海ちゃんのためかい?」
そうですと顔を上げ校長の瞳をみると、好きなんだというような瞳で赤っ恥となる。校長は次第に笑って恥ずかしくなってきた。
「想心くんがそこまで言うなら、猶予を与える。ファウくんが再び不審な動きを見せた場合は、わかっているね?」
「はい!その時は全力で止めてみせます!」
「なら留学届を後日送らせてもらう。届き次第、ホノオノ国へと行き、キャンドール鉱山の調査を。完了後、ファウくんはホノオノ国に引き渡すことを忘れずに。できるね?」
やっぱりそうなるのかと思いながらも、承知しましたと校長に告げ、アンジとファウが待っている場所へと戻る。戻ってみるとアンジがぐったりと倒れていて、ファウの姿がなかった。
せっかく校長からいただいたって言うのにと、とにかくアンジを起こす。
「アンジ!アンジしっかりしろ!」
揺さぶっても起きようとはせず、こういう時、どうすればいいんだ。誰かを呼んで来たほうが良さそうだなと行こうとしたら、アンジに呼び止められる。
「大丈夫か?何があった?」
「逃げられた。それに何かを恐れてたのは確かだよ」
立ちあがろうとしていて、立たせて上げ回復魔法を唱えた。
「カステクライン!回復、水草のゆれび!」
半分しか回復はできなくとも、アンジに感謝を述べられ、これは一大事になりそうだと思いながら校長室に引き返し報告することに。
◆
家へと戻りルルラちゃんを連れて僕たちは真っ先にライトグレーノ国へと向かっていた。これからやり始めようとしていることは止めることはできなくとも、芽森ちゃんがこっちに来てしまった場合、守れる存在となりたい。
まずは絹鬼涼真さんがどんな生活を送っているのか知りたいから。それにもしかしたらロゼ・エンディリアがいるかもしれない。
「ここが国境な。この先はネズミが大量発生しているから、嫌いなら目瞑っていたほうがいい」
「平気だよ。ルルラちゃんは平気?」
平気と元気よく返事をしてくれたことで、ライトグレーノ国へと入った。一応許可書はもらっているから大丈夫だよね。
それにしてもライトグレーに入った途端、ネズミの多さに圧倒されながらまずは近くの村で休むことになっている。寝ている間でもネズミにウロウロされていたら寝られなさそうと思ってしまうほどだ。
村に到着し、普通の村でよかったと安堵していたら、大きなネズミがいて固まってしまう。そしたらゼブラが教えてくれた、
「あれはネズミ族だよ。気にすることはない」
「そっそうなんだ。びっくりした。えってことは宿屋にもネズミ発生するの?」
「発生するな。まあ気になるようなら、就寝時は魔法かけるから大丈夫だよ。さてとまずはロゼいるか聞き込みするか」
寝れそうにないかもと思いながらも、村で聞き込みをしようとしたら、広場で華麗に踊っている人がいる。綺麗な舞いでつい見惚れていると、ピカンと光って僕たちは負傷することになった。
体が痛くて思うように動けないでいると、踊っていた人がこっちに来て、セブラが前に出る。
「てめえ、何しに来やがった!」
「久しぶり、思穏くん」
その声にすぐわかり僕はセブラの横に立ってみると、そこには美命ちゃんがいた。美命ちゃんは病死したからこっちにいないはず。ならなんでここにいるのと動揺していたら、今でもデステクラインを起動させようとしているセブラがいる。
それでも僕たちに微笑む美命ちゃんは昔みた笑顔じゃなく、冷んやりするほどの笑みだった。
「想ちゃんを殺したセブラに一つ確認したいな」
「お前に話すことはねえんだよ。さっさと失せろ!」
「残念。だったら思穏くんに忠告。今ね、想ちゃんの団にはデステクライン使いが潜んでる。それがセブラの仲間だったらどうする?」
「えっ…」
ついセブラの横顔をみると何かを隠しているような表情をしていて、美命ちゃんはくすくすと笑い出す。
「ご主人様に隠し事はよくないなぁ。セブラは大嘘つきだから、信用はしないほうがいいよ。それから芽森ちゃんは絶対に死なせないってことだけ伝えておくね」
美命ちゃんは立ち去ろうとしていて、つい美命ちゃんの腕を掴んじゃう。
「待って」
「何?」
「本当に想心の団にいるの?」
「いるよ。確かめたいなら階級上げて天の世界に来るといい。じゃあね」
僕の手を振り払って美命ちゃんはスッと姿を消し、セブラはくそっと近くにあった物に当たっていた。つまり想心の団にデステクライン使いがいるってことには間違いはないんだよね。
「セブラ…」
「悪い。ちょっと頭冷やしてくるから、二人で宿で待ってろ」
すぐにでも聞き出したかった。指名手配されているロゼ・エンディリアは想心の団にいるから探しているふりをしながら何かを待っているんじゃないかなと。
セブラも行っちゃって、しばらく立ち止まっていたら、僕の袖を引っ張るルルラちゃんに言われる。
「さっきのお姉さん、怯えてた」
「どういうこと?」
ルルラちゃんの視線に合わせるためにしゃがんで、ルルラちゃんは思っていたことを教えてくれた。
「強がってたけど、瞳の奥。すごく怯えてたの。それにお姉ちゃんが着てたローブは白いローブだからシロノ国。純粋な心を持つ人が集まる国って言われてる。何か理由があって強がってるんだと思うよ」
ルルラちゃんからそんな言葉が出てくるとは思わなくて、今度会ったらちゃんと話を聞いてあげようと、ルルラちゃんと一緒にセブラを待つことに。




