27話 宝物が消えた
想兄と颯楽兄を失ってもう一年が経とうとしていても、私はまだ現実を受け止められず、学校を休学していた。私の宝物が消えちゃったショックの傷はまだ癒えないままだった。
床には想兄と颯楽兄がくれたものが散乱としていて、踏み場もないぐらい酷い有様だなと上半身を起こし立ち上がる。鼻水が出そうで箱ティッシュに手を伸ばすもなかった。リビングに行っても空となっていて、収納棚も確認するもない。仕方なくトイレットペーパーで鼻をかみ、箱ティッシュ買いに外に出ようかな。それともお母さんに頼んで買ってきてもらおうか迷うも、外に出ようと決めた。
誰にも会わないよねとジャンバーを羽織って財布を持ち、外へと出てみた。久々に出るから日差しが眩しくそして少し寒い。想兄と颯楽兄は天国で会ってんのかなと空を一度見上げ、近くのドラックストアへと歩く。
学校もそろそろ行かないとお父さんとお母さんになんか申し訳ないな。ただ心は二人に会いたいという思いが強いよとドラックストアに到着して、いつも買っている箱ティッシュをとった。後はなんかお菓子でも買って二人にお供えしようかなとお菓子売り場へと行ってみたら、そこには初恋の男子がお菓子と睨めっこしている。
そっか、もう夕方だったんだと立ち止まっていたら、初恋の男子が私に気づき、よっと笑顔で言われた。
「葉桜、外に出られたんだな。よかったよ」
「…ごめん。学校行けてなくて」
いいんだよと買おうか迷っていたらしいお菓子を二つとる、初恋の男子というのはクラスでも他のクラスでも人気がある松風爽くん。松風くんは歳の離れたお兄さんがいたけれど、私たちが小学生の時、お兄さんは首を絞められ殺されてしまったそうだ。
その時期は松風くんは学校を休む日が多かったのを思い出す。
「あのさ、お兄さんたちに線香あげに行ってもいい?」
「あっうん…」
じゃあ行こうぜと言われたから、お菓子を適当にとりレジで会計を済ませ私の家へと向かった。
「兄貴、葉桜の兄ちゃんたちと会ってんのかな。なんてな。あのさ、葉桜」
「何?」
「葉桜はいなくならないよな」
「急にどうしたの?」
唐突な言葉だったから驚いていると、松風くんが頬を赤くしながら打ち明けていく。
「俺さ、その小学生の時から葉桜のこと好きなんだよ。だから失いたくないし、ずっと心配してんだ。変なこと考えてないよなって、すげえ不安があって。それにクラスのみんなも心配してる。葉桜は失った分があるけど、一人じゃないから」
その言葉に落涙し、松風くんが抱きしめてくれる。つい私は腕を背中に回し松風くんの制服を掴んだ。宝物が消えちゃったから、私っ変なこと考えてた。
何もかも失うならこの世界から私も消えたいと。だけどそれは違うんだ。
どんなに辛くても、どんなに苦しくても、私の周りにはまだ宝物が存在し続けていることを。大丈夫、大丈夫、俺がそばにいるからと耳元で言われ、私はしばらくそこで涙を流し続けた。
すでに夜に近くなってしまい、家の明かりがついている。お母さんが帰ってることを知り、玄関を開けようとしたらお母さんが出てきた。とても慌てた様子でよかったと安堵するかのようにハグをする。
「芽森に何かあったんじゃないかと心配したのよ!」
「ごめんなさい、お母さん。スマホ置きっぱなしで家出ちゃって。箱ティッシュ買いに行ってた」
もうっとお母さんは少し涙ぐみながら、いらっしゃい松風くんと微笑み、入ってとお母さんは言う。お邪魔しますと松風くんが家へと入り、あっと私はお母さんにこそこそ話して先へと部屋へと戻った。
男子がこれみたらやばいと慌てて片付けていたら、松風くんが入って来ちゃって、一冊の漫画を手にしてしまう。恥ずかしいとクッションで顔を隠していたら、ぱこんとその漫画で軽く頭を叩かれた。
「一緒に片付けてやるから」
表情を見るとくしゃっと笑うその笑顔を見て、目を逸らそうとしたら、コラッと片手で顎を掴まれる。
「目逸らすなよ」
「逸らしてない」
「逸らそうとしてた。ほっぺ赤くなってんぞ」
うるさいとクッションを投げつけて、その意気と一緒に片付けてくれた。
ふう、こんなものかなと綺麗になった部屋で、さっき見られた漫画に手を伸ばそうとしていたから、ストップをかけた。
「この漫画は男子が見るような漫画じゃないから」
「俺が振られた理由は、このドS王子様とドM召使いのせいなんだろ?」
ぎくっとそうですとは言えずとも、想兄がしてくれていたことはこの漫画の通りの人物。
「まあそんなに読まれたくなかったら、今度漫画喫茶とかで読むからいいよ」
松風くんはいたずらっぽい笑顔になっていて、あぁもうと漫画を取り出した。
「けど他のクラスには教えないでよ。これで振られたってみんなに気づかれたら私の居場所なくなる」
「わかってるって。ありがとう」
松風くんはその漫画を読み始めていき、私はどうしたらいいとテーブルに突っ伏す。確かに想兄はこの漫画を読んで王子様っぽく振る舞ってくれていたのを目撃してたんだろうな。
そう思うと余計に恥ずかしくなってくるよと松風くんのほうをみたら、普通の顔で読んでいる。
きっとこの先、松風くんにいじられるパターンだと考えていると、松風くんがそうだと鞄から書類を取り出した。
「今週分のやつ」
「えっ今まで持って来てくれてたの松風くんだったの?」
「そう。さっきお菓子選んでたのは、兄ちゃんたちのお供え分と俺たち用の分」
ずっと部屋にこもっていたから誰が宿題とか持って来てくれたのか把握していなかったな。
「ありがとう」
「いいって。お線香あげに行くって言ったのに、先こっち来ちゃったな」
「帰りでいいよ。あっそうだった。スマホ充電してなかった」
勉強机に置いといたスマホを充電している間に、松風くんと漫画を読んでは談笑していった。
お母さんがご飯よと言われリビングに入ると松風くんの分まで用意してくれている。
「何かすみません」
「いいのよ。冷めないうちに食べてちょうだい」
「じゃあいただきます」
松風くんと一緒にお母さんが作った料理を頬張り、うまっと言う松風くんをみてお母さんは嬉しそうだ。お母さんは仏壇に想兄と颯楽兄にご飯をお供えしてくるようで、一度リビングから離れる。
食べていたら玄関が開く音が聞こえ、お父さんが帰って来たようだ。
「おや、爽くん」
「お邪魔してます」
「ゆっくりしていきなさい。お母さんは?」
「お兄ちゃんたちにご飯お供え行ったよ」
そうかと少しトーンが低くなり、お父さんはお母さんの様子を見に行った途端、お母さんの泣き声が聞こえた。そっか、松風くんが座っている席、想兄の席だからだ。
颯楽兄は大体部屋で食べることが多かったから、懐かしさを感じちゃったんだろう。
「お母さん、大丈夫かな…」
「私と同じくまだ受け入れられないんだと思う。私の前では元気に振る舞ってくれてるけど伝わるの。一気に二人を失った辛さは私より、お母さんのほうが大きいから」
お母さんは私たちに愛情をたくさんくれて、想兄も、颯楽兄もここまで育ててくれてありがとうという思いはあるはずだから。
夕飯を食べ切ったころにお父さんが戻って来て、すまないと松風くんに謝罪する。
「いえ。教授、奥さん、大丈夫ですか?」
「部屋で休んでもらっているから。爽くんも毎日来てくれて助かっているよ」
「俺は芽森さんが心配で来てるので。それに兄貴だったら必ず毎日のように通ってたと思いますよ」
「涼太郎くんの研究は素晴らしかったよ。私の弟子候補にしていたぐらい、立派なお兄さんでそれに比べ、颯楽と言ったら」
ちょっとお父さんと突っ込みを入れながらも、松風くんがこうして接してくれているのは意味があった。松風くんのお兄さんは実はいうとお父さんが仕事をしている大学の生徒だった。
いずれお父さんと松風くんのお兄さんで、なんらかの研究をしようとしていたらしい。それでよく松風くんの家族と親睦を深めていたこともあったからこうして接してくれている。
「これからも芽森のこと頼んでも構わないかい?」
「はい。俺がいるのでご安心ください」
こっちが恥ずかしいんだけどと照れながら、松風くんは家へと帰っていった。食器を片付けて洗い物をしていると、お風呂から出てきたお父さんに聞かれる。
「爽くんとどうなんだ?」
ニヤニヤしながら聞くお父さんで、手についている泡をつけてやりたいぐらい、なんでもないよとやや強めで言うと、そうかそうかと笑いながらソファーに座ったお父さん。
洗い物を済ませ部屋に戻ろうとしたら、芽森と呼ばれ何と振り向く。
「芽森、それくらいの元気さが戻ったなら学校行けそう?」
「…行かなきゃだめ?」
「行かなくてもいいけど、ごろごろしているなら学校へそろそろ行ってもらわないと、学費」
私は誤魔化しながらまだ辛いと言いながらささっと部屋へと戻った。引きこもっているもう一つの理由は誰にも言えないよとベッドにダイブする。
幻覚を見ているかのような感覚で家の周りには黒い物体がたまに何体か見えていること。昼夜問わずずっとその物体がたまに見えるも時々見えない時もある。
今日出かけた時は物体を見ることはなかったけれど、見張られているようで思うように学校へと行けない。仮にだよ。もし、もしあの物体に想兄と颯楽兄が殺されていたとなっても、誰も信用はしてくれないだろうな。
明日、勇気を出して松風くんに相談してみようかなと充電し終えていたスマホを手にする。友達から心配なメッセージや今日はこんなことしたよとかそういうメッセージが届いていた。そして美命ちゃんのおばちゃんからもメッセージが届いている。元気になったらおばちゃん家においで。美味しいシュークリーム作って待っているよと。
久しぶりに美命ちゃん家にでも行こうかなと、少し元気になりました。今度伺いに行きますと送ったら、待ってるからねというスタンプがすぐつく。
それからは送ってくれたクラスメイトたちにありがとうメッセージを送って就寝することにした。
翌朝、部屋を片付けたからスッキリしてるなと思いながら体を起こし、仏壇がある和室へと入る。想兄、颯楽兄、おはようと写真を見た。
二人だけ写っている写真で、家族旅行の時に撮った写真。懐かしいなと思い出を振り返っていたら、お父さんが入ってきておはようと言われるからおはようと言った。
「今日は珍しく早く起きたってことは学校行く気になった?」
圧がかかっていてやっぱり相談すべきだよねと二人の写真を見ながら、お父さんに打ち明けていく。
「学校に行きたいけど、行けない理由があるの」
「どうしたんだい?」
「信じてもらえるかわからないけど、黒い物体が何個か家の周りにいて、怖いの」
「黒い物体…」
お父さんは何か思い当たる節があるのか考え始めていき、信じてくれているのかなと待っていたら、ちょっと待ってなさいとお父さんは和室を後にした。
一体なんだろうと二人のアルバムを見ていたら、お父さんが段ボールを持って入ってくる。
中は古臭いというより和装本でだいぶ年季が入ったものだ。たくさんあってこれお父さん読めるのと一冊手にするも、これはさすがに読めないと段ボールに戻した。
お父さんは普通に読めているようで待っているとここをご覧と見せてくれるも私には理解不能だ。ただ絵が入っていて私が見たものとそっくりだった。
「もしかしてこれのことを言っている?」
「うん。似てる。これって何?」
「葉桜家に代々受け継がれているもので、この物体は死者だ」
「え?つまり私は死者たちに見張られているってことなの?」
かもしれないとお父さんは焦っているような表情を出してこうも言っていた。
「その物体が見えるということは、近々命を落とす可能性が高くなるそうだ。とにかく芽森、学校のことは気にしなくていい。家にいなさい。お父さんが祖父ちゃん家に行って、詳しく調べてくる。それまでは絶対に出ないでもらいたい」
「どうして?」
「家には葉桜家のお札が守ってくれているから、死者は中に入ることはできない。もしかすると颯楽と想心は死者によって殺された可能性が高いな…」
死者が生きている人間を殺せるというの。朝からとんでもない話をお父さんに聞かされたけれど、颯楽兄は想兄の死因に疑問を抱いて調べていたんだ。
じゃなきゃこんな早くお別れするかたちにはならなかったはずだもん。
「わかったよ。家からは出ないし、松風くんにもまだ行けないってメッセージ送っておく」
「お父さんも爽くんに会ったら、伝えておく。話してくれてありがとう。早速、お父さんが調べてくるからお母さんのこと頼んだよ」
「うん、任せて」
お父さんは早速、お祖父ちゃん家へと向かってくれて、私は松風くんにまだ学校は行けないという文面を送って、自習することにした。




