2話 読み書き完璧
小鳥のカーテンを開ける音で目を覚ますと、眩しい日差しが入って来て、目を擦りながら上半身を起こした。まだ眠いと寝そうになるも、アンジが起こしてくれる。昨日は思穏が獄の世界に行っちまったことで、まだ心はそう簡単に整理はついてはいなかった。吹っ切れたと思ったがやはり、思穏がいない世界が大嫌いになりそうだ。
ぼーっとしていたら目の前に紅茶が置かれ、なぜか貴族感を味わっている。ベッドの上で紅茶を飲むのって確かアーリーモーニングティーだったっけか。
「本日の予定は午前中、この世界で使われている語の読み書き。午後はカステクラインを実際に使い、魔法の使い方を伝授させていただく予定です」
「わかったけどさ、敬語はやめろって言ってんだろ。同い歳だっつうのにさ」
「ごめん、つい癖でこういう口調になっちゃって。それで想心、僕が想心の世話役に抜擢された理由、覚えてる?」
「あぁもちろん。俺が持つカステクラインの前の持ち主の魂が、俺だってことなんだろ?」
昨日、城に戻った後、校長と出会いそこで説明がされた。このカステクライン、青藍の葉桜は今まで誰にも反応を示さず、千年も眠り続けていたそうだ。その結果、俺が来る直前に青藍の葉桜が動き出したことにより、世話役が必要だろうと抜擢されたのがアンジらしい。世話役は言わばここでは側近というやつだ。
本来ならばこんな豪邸に住むのではなく、普通の子たちは騎士団が決まるまで、寮で過ごすのが決まりなんだそう。ただし俺は別格らしく、青藍の葉桜の持ち主となったわけで、こんな豪邸に住まわせてくれている。
制服に着替えてチェーンをつけるとカステクラインが勝手につく。一通り部屋の場所は家令に教えてもらったが、まだ覚えきれていなくとも、アンジが案内をしてくれた。
食卓へ入るとなんじゃこりゃというぐらい、朝から豪華な料理がすでに置かれている。慣れないと感じつつも椅子に座ろうとしたら執事が椅子を引いてくれて、慣れるのに時間かかりそうだと座って手を合わせいただきますと伝えながら朝食を頬張る。
うまっとガツガツ食べていたら、アンジが咳払いをして、冷ややかな笑みをだし言われる。
「まずはテーブルマナーを学ばせたほうがいいかな?」
そう言われてアンジを怒らせたと、音を立てずに食べると、それを見てやればできるじゃんと怒りは鎮まった。アンジは世話役として、いろんなことを教えてくれるけど、あの世にいた世界では超有名なボンボン育ちだったのだろうかと、アンジをみちまう。
綺麗に食べるアンジで俺は思わず、聞いちまった。
「そういやさ、アンジ」
「どうかした?」
「アンジの最後ってどんな感じだったの?」
聞いてみるとアンジは食事をストップしては、俺に微笑しながら何か隠しているような表情で言われた。
「ごく普通の家庭で育って、交通事故でなくなったんだよ」
「そっそっか。悪い、思い出したくなかったよな」
全然と言っていたとしても、アンジの瞳は震えていて、いつかちゃんと話してくれるまで、このことは聞かないことを決めた。雰囲気がなんか暗くなってしまったことで、別のことを聞いてみる。
「あのさ、俺一人のためにここまでしてくれるのはどうかと思うんだけど、どうにかならないのか?」
「どうにもできないかな。だけどもしこの生活が嫌ならこの屋敷を寮にしちゃっても大丈夫なんだ。主人は想心なんだし、想心が決めちゃっていいよ」
「え?そうなの?だったら寮にしちゃった方が楽だ」
「もう一つ加えるけど、僕は一生、想心の世話役であることは忘れないでよ」
ニカッと笑うアンジで、抜け出せると思ったがそうじゃないのか。朝食をしっかり食べ終え、執事やメイドが食器を片付け始めていく。
「学校に行くときは、基本箒に乗って登校するんだけど、想心はまだ箒の乗り方がないから馬か鳥、どっちに乗りたい?」
「じゃあ馬で」
「了解。玄関で待ってて。連れて来るから」
ありがとなと告げてアンジは食卓を後にし、玄関ってどこだっけと恥ずかしながら執事に教えてもらうことに。
少しして馬を連れて来てはくれたが、イメージしていた馬じゃねえと漠然としてしまった。なぜならその馬はあの世にいる馬ではなくケンタウロス。これに乗れってかとアンジに視線を送ると何と通常の笑みを出された。
ケンタウロスは近くにより、深々と頭を下げお乗りください、想心様と言われる。
ここで時間食うのもあれだなと、失礼しますとケンタウロスの背中に乗せてもらった。そしてケンタウロスが歩き始めると、行ってらっしゃいませ、想心様、アンジ様と召使いの声が響き渡った。
俺はこのまま乗っていていいんだよなと思いながらも、徐々に速度を上げていくケンタウロスで、ついケンタウロスにしがみつく。
鳥を選んでいたら、どんな人物と出会っていたのだろうかと想像してしまうが、想像している鳥じゃないだろうなと思ってしまった。
城門のところでケンタウロスが停止し、行ってらっしゃいませと言われたから行ってきますと降りると、ケンタウロスは猛スピードでどこかへと行ってしまう。
「びっくりしたでしょ?」
「そりゃあ、びっくりするわ。普通の馬いないの?」
「いるはいるんだけど、今度会ってみる?」
「会えるなら会ってみたいよ。それにさっきのケンタウロスってさ、なんかタクシーっぽい服装だったんだけど?」
ふふんっとアンジは教えてはくれそうになく、教えろよと不機嫌になる。城門を潜りながらアンジは不貞腐れている俺に、教えてくれた。
「この世界ではタクシーケンタウロスって呼ばれているんだよ」
「箒があるのにか?」
「飛行が苦手な人はいるでしょ?例えば高所恐怖症を持っている人は大体それを利用するかな」
「そうなのか」
てっきり全員が箒に乗れているのだと思っていたがそうではないらしい。
城内へと入り俺の教室は一体どこなんやらとアンジについて行ったら数秒固まる。おいおい幼児たちがいっぱいいるし、勝手に俺に登ってくる子たちがいた。
「あのさ、ここ、じゃあないよな?」
「ここだよ。最初は誰もがここで一度ある程度語学を学んでもらってから、魔法学とかを学ぶ。ここでは実際、日本語や英語じゃなく、この世界の言語が存在するからね」
日本語では通用しない時があるのかと教室の前で立ち止まっていたら、眼鏡をかけ天パ頭の人がやって来る。
「やぁ、アンジ。それから君は、葉桜想心くんだね。アンジくん、後は僕に任せて行って構わないよ」
「はい、ライゼ先生。それじゃあ、想心。また後で」
まるで逃げるかのようにアンジは去って行き、幼児たちと一緒に勉強とか嫌だけど渋々教室の中へと入った。幼児たちは元気がよくライゼ先生が来た瞬間に、遊ぼうと手を握る。
ライゼ先生はお勉強が終わったら遊んであげるからと一人一人の頭を撫で、幼児たちは自分の席へと座った。俺はどこに座ればいいんだかと思っていると、空いている席に座ってと言われたから空いている幼児椅子に座る。
テーブルも幼児サイズだからやりにくいんだがと思っていても、用紙と羽根ペンをもらってこの世界の言語について授業が始まった。
ライゼ先生の教えはすぐ頭へと入って行き、すらすらとペンを動かしていると、ケラケラと笑い声が聞こえる。
「大の大人が幼児と一緒に勉強してるぜ」
「中身は幼児かよ。めっちゃ笑えるんだけど」
つい持っていた羽根ペンをボキッと追ってしまっても、我慢しなくちゃと授業に集中していた。以前の俺は腑に落ちない相手をすぐ殴っていたが、思穏に殴っても意味がないよと怒られてたからな。ここはスルーして文字の練習をする。
しかし人を馬鹿にする笑い声がまだ響き渡っていて、立ちあがろうとしたところ、子供たちを見ててあげてとライゼ先生は一度教室を後にされた。
文字と読みを練習ししていたら、悲鳴が上がり何事だと教室を出てみる。そしたら笑っていた男子二名は頭は爆発したかのような頭をしていて、石抱きの罰を受けていた。
すみませんでしたと叫んでいるも、ライゼ先生は声が小さいと石をもう一つ乗せてしばらくは続く。ライゼ先生を怒らせるとやばそうだなと感じた俺であった。
しばらくしてライゼ先生が戻って来て、幼児たちに文字はしっかり書けたかなと質問をし、幼児たちはできたーと紙をライゼ先生に見せる。俺もライゼ先生に確認をしてもらうと、よくできてるねと褒めてくれた。
「意味はなんとなくわかったかい?」
「はい。意味がわかればわかるほど面白くなりました」
「よろしい。なら」
本棚にある一冊を取り出し、それを俺に託して、読み聞かせお願いと、ライゼ先生は一番後ろの席へと座る。
なんか緊張するなと思いながら、教壇へと立ち子供たちに読み聞かせをした。
読んでいるとチャイムが鳴り、お昼だーと幼児たちは教室を出ていく。まだ途中だったんだけどなと本を閉じライゼ先生に返却した。
「思っていたより、飲み込みがうまくて普通にこの世界の言語をしっかり覚えたね。後はそうだな、魔法学や飛行学、それから歴史学を学ぶといい」
「これで終わりなんですか?」
「僕が教えてあげられるのはもうないよ。もしわからない言語が出てきたら、僕を頼りなさい」
まさか一日で言語学終了となるとは思えなくても、ライゼ先生がそう言うならそうなのだろうと理解する。ありがとうございましたと感謝を述べていたらアンジが戻って来た。
ライゼ先生はそれじゃあとどこかへと行き、俺とアンジは食堂へ向かうことに。
「読み書きは順調?」
「なんか知らないけど、読み書きは完璧だから、もう教えることはないって言われた。自分的にはもう少し言語学学びたかったけどな」
「言語というより魔法学を学ぶ時に本がこの世界の言葉だから、すぐ覚えられるようになってるんだよ」
「そういうことか。早く飯食って午後の授業受けたいよ」
それは良かったとアンジは微笑み、食堂に着くと長蛇の列ができていた。いつもこうなのかと聞いたらそうだよとアンジは言う。並んでいくとここでは食券販売機があり、金額が書かれてあった。
まだ初日ということもありどうすればいいのか立ち止まっていたら、アンジが支払いを済ませてくれるらしく、D定食を選択する。食券を拾い列に並んでいたら、アンジのカステクラインがくるくると回り始めた。アンジは深いため息を出しながら魔法を唱えた。
「カステクライン!連絡、氷の小鳥!」
カステクラインから氷の小鳥が飛び出してきて、アンジの手のひらに乗っかり、そわそわしている。
『アンジ、助けてくれぬか…?』
「却下です。そもそもその依頼を引き受けたのはイッシェじゃありませんか。僕は断固拒否させてもらいますし、今は大事な主人と一緒にいるので」
『ケチケチ、けちん坊!妾を見捨てるというのか!酷いのじゃ、アンジ!」
氷の小鳥は次第に泣き始めてしまい、行ってあげたらと声をかけると、アンジはごめんと食堂を出て行った。アンジ、こう見えて人気者なのかなと感じ、順番が回っておばちゃんに食券を渡す。
定食が到着しおばちゃんにありがとうございますとそれを持って、空いている席を探した。ただ空いている席がなく、どうすっかなと見渡していたら、ライゼ先生が階段で菓子パンを頬張っている。
「あの、隣いいですか?」
「想心くん、どうぞ」
隣を空けてくれてその隣に座り、いただきますと告げながら定食を頬張った。するとライゼ先生が話を持ちかけてくれる。
「この世界に入ってびっくりしたでしょ?」
「正直まだ驚いてます。死んだはずなのに、こうして生きているような感覚を味わうので」
「僕も最初はそうだったよ。何もかもが新鮮で、戸惑うことも正直あった」
「戸惑うこと?」
そうと言いながら菓子パンを齧るライゼ先生は、子供たちを見て明かしてくれた。
「神様は意地悪すぎるっていうべきかは定かではない。必死に生きるためのチップがあるにも関わらず、ここでも死が存在するからだよ」
「ここでも死があるんですね…」
「獄の世界にいるデステクライン使いに魂を奪われたら、もう二度と生まれ変わることは不可能なんだ。だからみんなはデステクライン使いに負けないよう励んでいるってことだよ」
そんなことがあるだなんて信じられなかった。ポイントを稼げばそれで終わりじゃないんだな。そう言えば気になっていたことがあり、聞いてみることにしてみた。
「あのライゼ先生」
「どうしたんだい?」
「ライゼ先生はどんな死だったんですか?」
ライゼ先生はそれはだねと菓子パンが入っていた包みを綺麗に畳みながら教えてくれる。
「僕と娘二人は愛していた妻に殺され、気がついた時はここにいたかな。本当に今でも考えてしまうんだ。なぜ妻は僕たちを殺したのか」
「奥さんはもう獄の世界に?」
「獄の世界で登録は確認されているけど、まだ会えてない。きっとデステクライン使いとして動いているのは確かなんだよ。いつかその理由が聞けたら一番いいかな。納得する答えが聞けたら、僕はここを旅立つ。そう決めてるから」
まさかここでライゼ先生が殺害され、ここに辿り着いただなんてな。
「娘さんたちは?」
「娘二人はもう新しい命として生まれ変わってる。僕の愛情は消えてしまったけれど、新しい親は素敵な親に恵まれていることを願ってるよ。さてと、長々と話していたら怒られそうだ」
ライゼ先生は立ち上がり、それじゃあと食堂を後にし、次の授業の準備をしに行かれた。もぐもぐしながら食べているとアンジが目を点としながらこちらをじっと見ている。
声をかけようとしたら、なんでここで食べてるのと叱られる羽目となった。
「なんでここで食べてるの?想心はちゃんとした席が決まってるんだから」
「悪い。ついライゼ先生がいたからここで食べてた」
「あぁもう!ライゼ先生の悪い癖だ!こっち」
ほぼ食べ切ったトレーを持ってさっさと行ってしまうアンジで、俺は置いて行かれないようアンジを追いかけることに。
◆
烏の鳴き声に目を覚ました僕は、昨日、セブラに連れてってもらい、焼印を入れられたことで気を失ったんだっけ。焼印の意味はこの世界を裏切ったら化け物になる仕組みになってるらしい。
まだ背中が多少痛みを走るも、ゆっくりと上半身を起こしていたらセブラが入って来た。
「気分はどうだ?」
「まだ多少痛いけど、平気」
「そうか。まあ大体は二、三日意識がない奴もいるからな。着替え、ここに置いておくぞ。今日は午前にこの世界の言語を学び、午後は魔法学を伝授させてもらうから」
ありがとうと小さく言いながら、着替えをしチェーンにはデステクラインが勝手にくっつく。まだここが地獄の世界というのは認識できなくとも、態度を見ればすぐ理解ができた。
特に自殺をした子たちの態度がかなり酷く、見ているだけで辛いと部屋を出たらセブラが待っててくれている。
こっちだと案内をしてもらい、途中で悲鳴の声がこの屋敷内へと響き渡った。召使いが鞭を持って指導をしていて、それなのに僕に対しては真逆でいい顔をしている。
まるで差別化をしているようで気分が悪いなと、止めようとしたところセブラが止めに入ってきた。
「助けてはならない。そういう決まりだ」
「そうだけど、ならなんで僕は特別扱いされる必要がある?僕だってあの子たちと同類なはずだ」
「そうだがお前は透過の紅葉に選ばれた者なんだ。いずれお前はデステクライン使いたちの指揮官として育てろって命令をもらってる。下っぱどもは気にすんな」
そう言われても腑に落ちないんだけどなと食卓へと入り、朝食を食べることにする。
朝食を食べ終え外に出てみると鳥らしい骸骨動物がいて、これに乗れとセブラに言われたからそれに乗るとシロノ国にある城へと向かう。
家にいたあの子たちは学校に行かなくていいのかなと少々心配になりつつ、城に到着して降りていると僕が着ている服よりグレーに近い服を着た女の子がいた。
「セブラ先生、あの」
「どうしたライトグレー寮長である雲井ねずみちゃん。あっ紹介するな。こちらは俺たちの希望の光である紅葉川思穏様だ」
「どーも。わずみはライトグレー寮長をしている雲井ねずみです。よろしくお願いします、思穏様」
「よろしくね、ねずみちゃん。それと様はいいよ。思穏って呼んで」
戸惑わせてしまい慌ててるねずみちゃんはまた後でとささっとお城の中へと入ってしまう。セブラはニヤニヤしながら行こうぜと言われ、まさかこの人が先生だとは知らなかった。
学校内に入ると昨日と何か違って生徒たちが壁側にずらりと並び、僕が進むに連れて会釈し始めていく。なんなのと僕はびっくりしつつ、教室に入れてもらうとそこでみたのはあまりにも酷かった。
文章を間違えれば鞭で叩かれ、読み間違えたら鞭で叩かれるというこれは地獄で体罰ではないですか。
「チーガ、後はよろしくな。んじゃチーガにやられないよう頑張れよ。また午後で」
軽々と去って行くセブラでごくんと唾を飲み込み、空いている席に座れと言われたから席につく。
「透過の紅葉を持つのならこれくらい楽勝なはずだ。まずこれをやってもらう」
いきなりテストですかと言いたくても、なぜかこの文字が読めてすらすらと問題を解いていった。




