19話 嘘でありたい
湘西さんを霊院に連れて行き手続きを済ませ、俺たちはミズノ王国へと帰って来た。しかしテンファはまだ立ち直れていなく家で寝ている。心配だからそばにいてあげてとアンジに伝えて俺はぼーっと牢屋にいる女王を眺めていた。
俺がもっとしっかりしていれば湘西さんは助かっていたのか、今だに考えてしまう。生まれ変われることができる湘西さんが自殺してしまったクラスメイトにやられてしまうだなんてな。
似たようなことがあるのだろうかと考えていたら、隣に校長がいらっしゃった。
「どうしたんだい?急に妻の顔が見たいと聞いた時は驚いたよ」
「助けられるかもしれないと連絡をしたのに、すみません」
「いやいいんだよ。終焉の雫は古代の魔法と登録されていてね。その力は終焉をもたらす魔法を意味する。終焉の雫をかけられた者は、この世界を守るための生贄となるからどの道、妻にかけてもらう必要がなかったから」
「そうだったんですね…。ここに来たのはなんというか、今回の一件で寮生が今、悲しんでて俺がまだ力がなかったことにより、汀春さんだったら湘西さんを助けられたのかなって思っちゃったんです」
唸り声を発する校長の奥さんを見て、じんわりと助けられなかった悔いが涙と切り替わり視界がぼやける。すると校長は父さんのように優しく肩を寄せて言ってくれた。
「ここではね、魂を狩る戦争がずっと続いている。それはみんなが理解していることだ。時に大勢の魂をデステクライン使いに奪われてしまうことがあって、多くの人たちが悲しみ、怒り、寂しさの感情を出すことは稀ではない。心の整理がついた時、気がつくんだよ。この世界を良くするためにサポート側につく人が多くなった。本当はね、私たちの願いは全員、生まれ変わってほしいという願いがある。だが人の望みを叶えるのも私たちの役目だから、名を変更させているのもあるかな」
ぽんぽんっと肩を叩かれ校長はゆっくりしてってと言われ、この場を後にし俺は座って女王を見る。
名を変更したらもう二度と生まれ変わることもできなくなるんだよな。思穏は絶対に嫌がりそうだから俺はしないけど、本当にそのままでいいのだろうか。
これからもそういう人が続出するかもしれないし、魂が奪われない方法を探すのと雫の父さんを探す旅になる。そうなると俺は寮長だしアンジは副寮長となるわけだ。寮を空きっぱなしにするのはあれだし他国を行き来するわけにもいかない。
だから寮生を増やす必要があるから青の団に入ってもらえそうな人たちをかき集める必要があるな。そうなるとまずは寮生になってもらえそうな人たちを探してからにしよう。
そういや濡羽玖朗がくれたアルバムじっくり見てなかったとカステクラインを起動させた。
「カステクライン!取り出し、思穏のアルバム!」
アルバムが出てきてそれを一枚一枚じっくり見ていく。やっぱり俺と違って魔法を使いこなせてて羨ましいと思っていたら飛行は苦手なタイプか。それでも思穏が人を襲う写真が一切なく悪影響だから撮らなかったと言うべきだろう。
最後の一ページは何かなとめくるとえっと手が滑ってしまった。なんで…なんで兄貴の遺影写真が写ってんだよ。俺が死んで自殺…。いやいや、そんなのあり得ないとアルバムを持ち、俺は急いであの装置がある場所へ向かった。
兄貴は大学院に通っていて就活活動が始まる時期でもすでにオファーが入っており、そこに就職するんだと兄貴が言ってたからそんな理由で自殺はまずない。だから俺が死んだから兄貴も…信じたくはないと調べている生徒にごめん借りると獄の世界にいるリストで検索をかける。
しかし兄貴の名前は検索結果なしと出て、じゃあ事故かと調べてみるも検索結果なしと出た。じゃあこれはなんだよと装置に向かって一度叩く。
「想心、どうしたの?」
「夏海っ」
俺は咄嗟に夏海に抱きついて混乱している夏海でもしばらく動けなかった。兄貴が死んじまったら芽森が独りぼっちになっちまう。この写真の意味が知りたいけど、濡羽玖朗に確認が取れない。
生きててほしいと願うしかないと夏海に抱きついていたら、姉っさーんと聞こえる声にはっと夏海から離れる。
「姉っさん、依頼書受け取ってきたっすよ。ん?姉っさん、顔真っ赤ですけどなんかあったんすか?」
「なんでもないから、さっさと行くよ。想心、何があったのか知らないけど、話はいつでも聞くからね」
「悪い」
「いいって」
赤の副寮長に睨まれながら夏海はその人と一緒に行ってしまわれ、俺は寮へ帰ることにした。
ただいまと寮へ帰ってみたら家令が想心様と走って来て、いきなりパンパンと叩くと執事に担がれ何々とテンパる俺。自室に入り執事たちが俺が着ている制服を脱がされ違う服に着替えさせられたのだ。
執事たちに囲まれて着替えさせてもらうのは勘弁と、家令がニコニコしながらお似合いですと言われる。やれやれと鏡をみたらアンジがデザインしていたらしい和服をアレンジした服でやり過ぎではと一瞬思ってしまった。
「想心、やっぱり似合うね」
「おい、アンジ。これどうみてもやり過ぎだっつうの」
「僕に任せてくれたのに却下はまずないでしょ。僕が理想としているご主人様だもん。我慢してよ」
満面な笑みで言われてしまい、ちょっと照れ臭いけどありがとなと伝える。
「女子バージョンはちなみにできたのか?結構苦戦してたらしいけどさ」
「ふふん。雫、入って来ていいよ」
恥ずかしいよと照れている声が聞こえ、ほらほらとアンジが背中を押し俺の部屋に入って来ると、これはやばいと鼻血が出そうになった。普通にある女子が着る制服じゃなく俺と同様に和装をアレンジした服。しかも雫の模様が多少入っている。
「こういうの着たことがなくて別人がいるような感覚だった。どうかな」
雫が頬を染めて俺に聞いてくる雫に、なんでこんなに体が熱いんだろうかと目を逸らして伝えた。
「似合い過ぎて鼻血が出そうな勢いだよ。アンジは着替えなくていいのか?」
「着替えてくるからちょっと待ってて。家令さん、写真撮りたいからセッティングお願いします」
御意と家令と執事たちは俺の部屋を退散しどこで撮影するんやらと雫と二人きりになる。雫が可愛すぎて直視できず、バルコニーに出て外の景色を眺めてしまった。
他に言いたいことはあるだろと思っても、緊張して伝えたい言葉が白紙になるぐらいだ。
「想心」
「ど、どうした?」
「この姿、お父さんに見せたいな。お母さんが日本人でよく和装を着させてもらってたの。でも私、お父さん似でもあったことから、似合わないって揶揄われちゃって。それ以来、着なくなったんだよね。お母さんが悲しむ顔は見たくなかったけど、私のために和服は全て処分しちゃった」
「そんな時期があったんだな。俺は家の事情でパーティーによく和装を着てたから慣れてるけど、大人同士の集まりだったからつまらなかった記憶しか残ってない。それに兄貴が研究とかでいけないとかでよく俺が言って愛想振り回してたよ」
「それは知らなかったな。じゃあいずれお父さんの後を継ぐとかだったの?」
「かもしれないし兄貴が後を継いでたかもしれない。まあ結局、俺は死んじまったから後継ぎは兄貴だろう。今頃どうしてんのかな。あっそうだ。ライゼ先生に頼まれてたリヴィソウル買った時、俺も一つ買ってたんだ。芽森見てみよう」
リヴィソウルを取り出して芽森の魂を覗いてみる。
あれ芽森が全然見えない。なんでだと待っていると布団に潜っていたらしく懐かしい母さんの顔が目の前にあった。しかし母さんは今でも泣きそうな目で芽森の頭を撫でている。ごめんねと声は聞こえなくても口パクでわかり芽森が起き上がると俺と兄貴が買ってあげた物が散らかり放題だった。
心臓がバクバクしてあれは本当なのかと芽森が動きリビングにある和室へと入りそこに仏壇が置いてある。お線香を上げている芽森で思わずリヴィソウルを落としそうになったところ雫がキャッチしてくれた。
「嘘だ…嘘に決まってる!さっき調べたっ兄貴が死んでるわけないっ」
「でもこれ見る限り、骨壺が置かれてる…」
「信じたくない」
芽森が移動して洗面所に行き鏡に映っている芽森は目が腫れておりずっと泣いていることがわかる。そこに口パクですぐにわかり、颯楽兄と呟いて大きな涙がぽたぽたと垂れて行きしゃがんだ。
俺は柵に寄れかかり兄貴が死んだと力が抜けたように座り込み、俺は思いっきり泣き叫ぶ。
どうして、どうして兄貴が死ななくちゃならなかったんだよ。
雫が隣に来て俺の背中をさすり俺は雫に寄りかかりながら信じたくはない涙を流していると、どうしたのと着替え終わったらしいアンジが慌てて来た。
俺は何も答えられず雫が説明をしていたら、空から美命が猛スピードでやって来てぎゅっと抱き寄せてくる。
「想ちゃんの叫び声が聞こえたの。こちらでは情報が手に入ってたからてっきり知ってたのかと思ってた」
「ねえ君、僕の主人から離れてくれない?」
「ちょっとアンジ」
「想ちゃんを癒せるのは私。あなたでも偽ってる雫ちゃんでもない。しばらく想ちゃんはこちらで預かる」
「それはあかんなぁ。白の団である副団長の梅咲美命はん」
俺の部屋から顔を出したのはなんと団長で、俺にハンカチをくれてそれで涙を拭くも涙が止まらず口元に押さえた。
「何を考えとるのかは知らへんが、想心は青藍の葉桜の持ち主や。こちらで育てると決まっとるやろう。それに颯楽の死因がわかっとる。すでに報告書は提出済みや。せやからさっさと帰っとくれやす?アンジ、想心を部屋へ」
アンジに支えてもらいながら部屋に戻り、雫も中へと入って美命は団長と話して飛んでいってしまう。団長がベランダの扉を閉め、俺のところに来る。
「すまへん。大切な命を失ってしもうた。アンジ、雫、二人きりにさせてくれへん?」
「何かありましたらすぐ呼んでください」
アンジと雫が退散し椅子を俺の前まで持って来て、俺の両手を握り教えてくれた。
「颯楽はな、知り過ぎてしもうたんや。それによってな、デステクライン使いに狙われて事故死してしもうた」
「兄貴は何を知り過ぎたんですか?」
「それはな、想心と思穏の死についてや。防犯カメラの映像を解析したらしくてな、想心が通っとった学校の先生にその映像を見せに行く途中に殺されたことがわかってなぁ」
「誰に殺されたんですか?」
「クロノ国、クロノ団長濡羽玖朗や」
えっ…。俺に思穏のアルバムをくれて普通にテンファを返してくれた人。
「何か思い当たる節があるそうやけど、普段はあんな感じじゃないで。あれで抑えている方や。クロノ国に戻れば濡羽玖朗の本心がばればれやし、雫も味わっとると思うで」
そんなやばい人と約束しちゃったけど、大丈夫かなと恐れる俺である。
「まあ大丈夫や。想心はそういう一面は見せへんやろう」
「なんで言い切れるんですか?」
「それはな、汀春の兄やからや。憎いのは家族と古き友人以外の人間やから、例え約束しようても痛い目には遭わへんやろ」
信じていいんすかと思ってしまうも、濡羽玖朗の弱点を教えてくれた。
「そや、想心。今度玖朗に会う機会があったらこう言ってみるとえぇよ。くーたんってな。汀春がそー言ってたようやから」
敵なのに親しんじゃっていいのか不安が大きいのだが、弱点ならそう呼んでみようかな。少し落ち着けたけど不思議に思っていたことを滝木団長に確認をとった。
「団長、本の機械で調べたんですけど、兄貴の名前が登録されてなかった。どういうことですか?」
「あれやな。おそらく、想心にまだ知らせらへん理由があったんやろう。せやからご家族には見れへんように細工されることがしばしばあってなぁ。妾が確認した時には見えたやらから、きっとそうやと思う」
「そうだったんですか。あの兄貴は今どちらにいるかわかりますか?居場所だけでもわかっていたくて」
「ホノオノ国に登録されておったで。ホノオノ国に行った時に探せばえぇよ。それまでは颯楽の自由にしてあげてほしいんや。事故死ではなく、デステクライン使いによって殺された件に心を痛めている感じもあったし、妹の芽森が狙われていることもわかっとる」
「芽森が?」
そやと俺の手を離して椅子を元に戻しベランダの扉を開け、どこかへ出かけるようだ。
「えぇか?妾は生の世界で芽森を見守る任務が出されとるから、想心は今できることに集中せぇや」
「芽森のこと頼みます」
「ほなさいなら」
ベランダから出て行き行っちゃったと滝木団長が見えるまで見ていた。芽森がデステクライン使いに狙われるだなんて最悪な事態でも救いに行ってあげられないことが悔しい。
死んでいなければ兄貴を失うことも芽森がデステクライン使いに狙われることもなかったのかと思うようになった。
顔を洗って目の腫れを多少とりアンジと雫がいるであろう食卓に向かっているとテンファが部屋から出てきたのだ。
「テンファ、もう大丈夫なのか?」
「だいぶ楽になったよ。あんな形で店長とお別れする形になるとは思わなかった。でも受け入れるしかないし、今度こそ伊雪さんを追い払えるような存在になりたい」
「そっか。よし、テンファも着替えたことだし記念撮影しようぜ。これが青の団服だということを世界中にまいてさ、魂を多く守り抜こう。きっと湘西さんもそれを望んでるはずだからさ」
「はい」
俺はテンファを連れて食卓で待っていたアンジと雫と合流して、家令たちがセッティングした場所で俺たちの団の記念撮影が始まった。
◆
昨日の晩ご飯美味しかったなとバイル村の宿屋で一泊泊まり、ロゼ・エンディリアの情報を聞き出すもこの村も最近見かけていないと言っていた。
振り出しかと背伸びしながら歩いていると、想心の団長である滝木くるめさんが現れる。僕はルルラを後ろにやった。
「何しにきたんだよ、くるめ」
「別にえぇやろう。セブラに一つ確認があってなぁ。誰が想心の妹を狙っとる?」
「は?知らねえよ。まさかまた誰かが?」
「わからへん。せやけど芽森を狙う誰かが動いとるだけわかるんや。セブラじゃないんやな?それだけ確認しておきたかったんや」
「俺は命令を受けてないけど、なぜ葉桜家が狙われるような…」
「知らへん。ただわかっとるやろ?玖朗の兄弟たちは三人やった。それと関係してるんちゃうんかはまだはっきりしてへんけど、玖朗をこれ以上生の人間を殺させたらどーなるかわかるやろ?玖朗を見張っとき。ほな、ごめんやす」
言いたいことを言っていなくなってしまった滝木団長で、デステクライン使いの誰かが芽森ちゃんの命を奪おうとしている。想心がどん底に落とされるんじゃないか不安だ。
「セブラ」
「思穏、一旦俺は生の世界に行ってくる。くるめが言ったことが本当なら、厄介なことが起きそうだ。二人きりにさせちゃうけど大丈夫か?」
「僕は全然平気だよ。とにかく芽森ちゃんのところに行ってあげて」
「おう、じゃあ行ってくるから何かあったらすぐ連絡する」
ローブを羽織り一瞬でいなくなってしまって、さてこれからどうしますか。セブラがいなきゃ何もできないわけではないけどこの世界は厳しいから、注意して動かなければならない。
「思穏、あのね」
「ん?どうかした?」
「バイル村も浜辺に見つけたい貝殻があるの。それお兄ちゃんに渡したい」
「じゃあ浜辺に行こっか。ついでに貝殻のブレスレットの作り方教えてくれる?僕も渡したい友達がいるんだ。いつ会えるかわからなくても作っておきたくて」
教えてあげると凄くいい笑顔をするルルラちゃんの手を握り、僕とルルラちゃんは浜辺へ足を踏み入れる。グレーの浜辺で僕は小さな貝殻を拾いながらルルラちゃんが探しているというホラ貝を探した。
グレーや黒にに近い色をしたホラ貝は見つけるけど、真っ白いホラ貝が全く見つからない。ここにはないのかなと探していると見つける。
「ルルラちゃん、これかな?」
「それだよ。やった!お兄ちゃんに会ったら渡すって決めてるの。ありがとう、思穏」
「よかったね。じゃあセブラが来るまで作り方教えてくれるかな?」
凄く喜びながらうんと頷いて浜辺に座り、海の音を聴きながら僕はルルラちゃんに教わって行った。




