17話 シーゼン港街③
船員を残して湘西さんが舵をとりながら出港して黒い船を探すことになった。テンファはこの世界に残るつもりで本名を捨てたとさっき教えてくれたけど本当にそれでいいのかな。
海の景色を見ながらそんなことを考えていたら、カステクラインがくるくる回り起動させる。
「カステクライン!連絡、水のペンギン!」
水のペンギンが出来上がり手のひらを出すと水のペンギンが止まって喋り出した。
『助けて!』
「夏海、どうした?」
『やばいよ。王国が死屍軍団に襲われてる!早く応戦に来てよ!きゃっこっち来ないでえええぇぇぇ!』
夏海の叫び声に唖然としてしまう僕とアンジ。こっちも湘西さんの魂が奪われそうだし助けに行きたいけど行けない。どうしたものかと考えていたら、船が急に揺れ転げ落ちる俺たち。
急になんだと体勢を立て直しているとまた大きな揺れでずっこける。しかもなんだか船が沈んでいるようにも見えるんだけどと俺は飛び込みカステクラインを起動させた。
「カステクライン!水、魚の人間!」
人魚の姿になって海に潜ると死屍のデッドシャークがうじゃうじゃいて船を破壊していたのだ。なんでこういう時に備えて魔法を覚えていなかったんだろうかと反省しながら水魔法を当ててみる。
「カステクライン!水、カワウソの牙!」
汀の力を借りながらデッドシャークたちに噛みついてもらうも、効果は低く逆に噛みつかれそうになり戻れと合図を送った。気づいたらしいアンジと雫も参戦してくれてデッドシャークに挑んでいたら、湘西さんとテンファも人魚になり船を捨てるようだ。
ついて来てと湘西さんの後をついて行ったら、デッドシャークとデッドフィッシュにも囲まれる。アンジがカステクラインを起動させようとしたら、雫が俺の後ろに隠れ寒くないはずなのに全身が冷えるかのように体が全く動かない。
目の前から現れたのは黒い尾鰭を持つ女性で、湘西さんはやっと会えたというような表情を出していた。
「久しぶりだねー沙緒りん。元気だったぁ?もう、生まれ変わってると思ってたけど違うんだねー」
「あたしは伊雪に会いたかった。会って話したかったの。どうして自殺なんか…」
「小賢しいんだよ!沙緒りんはさ、昔と比べて結構人気だったじゃん。どんなに頑張ってもうちはみんなに認められない人間だって知ってさ」
湘西さんが言っていた言葉と多少矛盾が生まれているような感覚。暗野伊雪は今でも怒りが爆発するように、湘西さんに言い放った。
「どうせ沙緒りんもうちのこと馬鹿にしてるくらいわかってんの!聞こえちゃったんだよ…うちの陰口を言う沙緒りんの声。親友に裏切られて家族にも見捨てられたうちに何が残されてると思う?」
暗野伊雪は湘西さんに怒りをぶつけ、辛い経験をした過去を思い出したことで海の中でも涙がよく見えた。何か思い当たる節があるような表情で、伊雪と声をかける前に伊雪がずっと貯めてきた怒りが爆発する。
「自殺するしかなかったんだよ!デステクライン!闇、タコの逆鱗!」
やや大きめなタコが現れ何が起きるんだと身構えているとアンジが僕を引っ張って逃げているとタコが炭を出し六連覇の爆発が起きた。生の人間だったら確実に死んでたと冷んやりしながら、アンジがカステクラインを起動させる。
「カステクライン!氷、熊の雪合戦!」
北極熊二頭が現れ雪玉をたくさん入っている籠を背負い、雪玉を当ててタコに当たると凍り付いた。だがタコは何度も爆発を起こしたことで、北極熊が消えてしまう。
「なかなかやるじゃーん。でも、もう一人いること忘れてない?」
アンジはしまったとテンファを助けに猛スピードで向かうが、テンファは知らない男に捕まっていた。なんだ体がびくともしないし、手が便乗じゃないぐらい震え切っている。それに背中から感じる雫の震えが増す。
「テンファ!」
「意外と早かったねー玖朗団長。話はもう済んだの?」
「あぁ。あまり僕の友をいじめるな」
「えーだって最近、つまんないんだもーん。ロゼもいなくなっちゃうしー暇すぎて団長について来たけどめっちゃ退屈なんですけど。でーも、ロゼとそっくりさんの子見つけちゃった。青藍の葉桜を持つ奴の後ろにいる子と遊んでいい?」
「ほどほどにな。それに指示は出ていないから、殺すなよ」
「はいはい、わかってますよーだ。この子を返してほしい?ほしいよね?だって沙緒りんの大切な子なんでしょ?」
さっきまでは怒っていたのに、団長、つまり濡羽玖朗が来た途端、あんな態度だ。しかも雫はばれないと言っていたがそっくりさんとなって狙われやすくなっているし、俺にはまだ勝てっこない相手で動けない。
アンジも動こうか迷っている様子だし、湘西さんも一歩も動けない状態だった。
「あらら、みんな動かないじゃん。玖朗団長どうしますー?このままやっちゃっていい?」
「いや。ここは僕がぶっ壊す。手を出すなよ」
「はーい」
何かとてつもないことが起きると濡羽玖朗は湘西さんの人形を取り出す。何をするのやらと思いきやデッドシャークに与え食べてしまい、悲鳴を上げる湘西さん。
しまったと動けなかった尾鰭が動いて、カステクラインを咄嗟に起動させていた。
「カステクライン!水、海神の槍!」
海神が現れ槍を振り回しながら、デッドシャークとデッドフィッシュを全て倒してくれる。二人はやばいという表情を出しテンファを連れて消えてしまった。
俺はふとでた魔法を使ってしまったことで、朦朧としてしまい海の奥へと沈んでしまってアンジが俺を呼んでいる声で意識が遠のいた。
波の音、カモメの鳴き声、涼しい風。はっと飛び起きここはと周囲を見ると船の中で寝ていたことに気づく。まだ多少頭痛がするも、ベッドから立ち上がり船室を出て船長室に入ってみた。
アンジが手当てをしてくれたらしいが、湘西さんは悪夢にうなされている。
「どう?」
「僕の力じゃ駄目だ。宮廷医師の力じゃないと治せないことがわかった。それに想心のおかげで人形は奪えたけど、呪いがかかっているから破棄したら湘西さんの魂が濡羽玖朗に奪われるようになってる。だから呪いを解く魔法を覚えなきゃならないけど、呪いを解く魔法学がない」
「え?今までどうしてた?」
「薬草とかでなんとか耐えてたよ。でも呪われた人形は厳重に保管されてる」
「なるほどな。そういや雫どうした?」
「風に当たってるよ」
雫が心配になり湘西さんはアンジに任せて雫を探すことにした。どこにいるんだろうと船員たちに聞いて行ってみると落ち込んでいることがわかる。あの二人をみると怖くなってしまうのかなと雫の隣に行き同じポーズをとって海を眺めた。
「雫、大丈夫か?」
「…うん。団長と副団長が同時に現れると足がすくんで何もできなかった。ばれていないのに立ち向かえなかったし、湘西さんやテンファを守れなかったことが悔しいよ」
「誰だって怖いものが一つや二つぐらいあるよ。俺だって苦い思い出があってさ。幼馴染を失った時、死ぬのが怖くなって何度も自殺をしようとも踏み出せなかった。不思議と幼馴染の顔が浮かんで、約束していたことを思い出せたから例え嫌な世界でも生きてたのに、あっさりセブラっていう奴に突き落とされてさ。今度会ったら一発殴るかも。だけど…」
俺はテレビとかでニュースで流れる自殺、他殺のニュースを見て心が締めつけられるような感じだったな。まあ結局、亡霊に殺されたようなものだけど、雫に俺が思っていることを口にする。
「これで良かったのかもしれないって時に思うことがあるんだ。思穏の命だけでも助かってほしかったけどそうはいかなかった思い。最初はさ思穏を助けようとしたのに助けられなくて、仮に思穏だけが生き残ったってなったら思穏を恨んでた。まだ思穏に会ってないからどうして自殺しようとしたのか聞けてないけど、雫も思穏と同じ気持ちを持ってたんじゃないかって気がするよ」
「私…本当はね、自殺願望はなかった。お父さんもお母さんも研究員で帰りが遅くて、寂しい思いが強かった。でも言えなかったの。命と向き合うための研究員だったから、早く帰って来てとかは言えなくて、お手伝いさんに育てられたようなもの。だけどその時ふとね、両親は私を必要としていないと思っちゃった頃から団長に目をつけられて自分を殺したようなものだよ…」
雫も自殺願望がなかったとはいえ、獄の世界にいるデステクライン使いの人たちが自殺に追い込むとはな。そのせいで思穏も自殺してしまったようなものだし、これ以上人が襲われないように改善しなければならない。
「雫、それならさ、雫が自殺願望がなかったっていう証拠、一緒に探さないか?そうすれば絶対に父さんに会える気がする。俺も思穏が自殺としてあっちに行ってしまった証拠を探してるんだ」
「証拠?」
「証拠を探せば天の世界で住めて生まれ変わることもできるようになれるしさ、それに父さんとちゃんと向き合える場ができると思う」
「本当にできるって思ってる?」
「わかんないけどやってみなくちゃわからないものだろ。大丈夫、俺たちもいるんだし絶対に見つかるよ」
雫の頭に触れて勇気を出してもらえるように笑顔を出すと、雫は笑顔になって俺の手を掴み俺に告ぐ。
「ありがとう、想心。元気が出たよ。探してみる。お父さんを早く見つけなくちゃね」
「よし、じゃあまずはテンファを取り返すために濡羽玖朗を探さないとな。心の準備はできてる?」
「少し怖いけどここで乗り越えなくちゃ、この先もやっていけないような気がする。大丈夫、だって私のそばには想心とアンジがいるんだもん」
「なんか照れるな。だけどまた恐怖に侵されそうになったら、俺たちに頼れよ。絶対に雫を守るって約束する」
薬指を出して雫も薬指を立て指切りげんまんをし、俺と雫はアンジがいる船長室へと入った。
アンジは誰かと連絡をとっており、誰と話しているんだろうと待っていると通話を終えたようだ。
「アンジ」
「想心、雫。さっき宮廷医師に伝えてシーゼン港街に来てくれるっぽい。だからとにかく湘西さんの自宅で待つしかないかな」
「そっか。それよりテンファの方なんだけど、場所とか突き止められそうな感じ?」
「相手はクロノ国の団長でもあるから、前と違って特定は難しいし情報をあまり残さない人だ。特定できるまでに時間はかかると思う」
盾乃のようにすぐ特定はできないか。濡羽玖朗が出てこないと居場所を特定できないならシーゼン港街でポイント稼ぎでもするしかない。
「じゃあリエートに行って、ポイント稼ぎ?」
「そうだね。宮廷医師が到着したら、バトンタッチしてリエートに行こっか。それにライゼ先生に頼まれたお使いもあるしね」
シーゼン港街に着くまでゆらゆらと船に揺られながら、アンジに魔法学の復習をしていった。
到着して湘西さんの自宅まで運び、少しして宮廷医師の方が到着されたのだ。保健室にいるような綺麗な女性で男子は心が奪われそうな感じ。
「任せても大丈夫そうですか?」
「えぇ。もちろん。それにしても災難だったわね。まさかクロノ国の団長と接触するだなんて」
「きっと想心が現れたから動き出したんじゃないかって気がします。それじゃあ、僕たちエリートでポイント稼ぎしてますので何かあれば連絡してください」
宮廷医師さんに会釈して俺たちはエリートへと行き、自分たちでできるような依頼を引き受けていった。
◆
カイゼン港街という場所でロゼ・エンディリアを探していると、黒い海賊船を見つける。想心が好きそうだなと黒い海賊船を見ていたら、なんと濡羽玖朗が降りて来た。しかも死屍に担がれているのってカステクライン使いの子で僕より少し下っぽい。
疑問に抱いたっぽいセブラがこの前のお返しで近づき、何か手に持っているがそれを避ける濡羽玖朗で、僕にあるものをくれる。
「これってなんですか?」
「生の世界でしか買えないリヴィソウル。生きている人間の魂をみることができる。心配している家族の様子や友人の様子が見えるぞ。但しリヴィソウルは魂一つしか見れないからよく考えるといい」
「おい!俺を無視すんな!」
セブラが怒っているも無視し、濡羽玖朗は僕に伝えてくれた。
「それから、想心は元気で寮長として責務を果たしていた。タイミングが悪すぎて写真上手く撮れなかったが、良かったら受け取ってほしい。デステクライン!取り出し、想心のアルバム!」
ボンッと小さなアルバムが出てきて、それを受け取ると濡羽玖朗は死屍と行ってしまわれる。セブラは構やがれとガミガミ言っていながら、僕はくれたアルバムを開いた。
ぷっと笑っちゃいそうな勢いで、僕が元気がない時、こんな顔よく見せてくれてたなと懐かしさを感じる。ペラペラと見ていき最後には想心が寮長としての働きを見せている写真だった。いつの間にこんなたくさん撮れたのかは知らないけど記念にいただいておこう。
「ったく。相手にしろって毎回言ってんのに無視される方がきつい。あーもう。思穏、さっさと行こうぜ」
「うん。デステクライン!取り入れ、想心のアルバム!」
アルバムを取り入れしてカイゼン港街の街並みを見ながら、ロゼ・エンディリアがここに来たかを聞き込みをする。魚を捌いている店主に問った。
「あのここ最近、ロゼ・エンディリアを見かけませんでしたか?」
「ロゼ・エンディリア?あぁ、あの小娘か。また脱走したらしいという報告は受けているが見かけちゃいねえよ」
「そうですか。お時間ありがとうございます」
お辞儀をして次は肉屋で働いているおばさんのところで聞いた。
「ロゼねえ。前は愛想のいい子だったけど、クロノ国に連れて行かれた辺りから見かけなくなったのよ」
「ご協力ありがとうございます」
それからはほとんど似たような回答が返ってきてこの街にはいないことに判明する。いろんな街に出かけては探しての繰り返しをやっているものの、ロゼ・エンディリアの行方が全く掴めない。街ではなく村に潜伏しているとかはどうだろうか。
ライトノ国でも複数小さな村がたくさん存在する。行ってみる価値はありそうだな。
「セブラ、今度は街じゃなくて村を回るのはどうかな。大きな街にいたらすぐ目撃者が出てロゼを確保できる。だけどこんなに探してもいないってことは小さな村か、もしくは他国へ逃げた可能性が高い気がするんだ」
「んじゃ、回っていない村を全部回って、それから他国にでも行ってみるか。そうなるとカイゼン港街から近い村はバイル村だな」
「バイル村は貝殻でできた家があるぐらいだけど、貝類が凄え美味い。貝類大丈夫か?」
「貝類大好きだよ。最初は苦手だったんだけど、想心が美味しいから食べてみって言われてそれからかな。貝類が好きになった」
想心と一番最初に会った日。いつものメンバーにいじめられてた時に、想心が助けに来てくれた。いつものメンバーを追い払ってくれて、ボロボロになってしまった財布を取り返してくれて。お互い、お腹を空かせてウミノ家へという海が見える喫茶店に連れてってもらった。
値段を見ると高額な金額で僕は一度メニュー表を閉じたのを覚えてる。だってあそこは喫茶店であっても、一般人じゃ入れないぐらいのハイレベルのお店だったからだ。
「なんか頼まないのか?」
「僕はお冷だけで…」
「そんなこと言うなよな。ここめっちゃ貝が美味くてさ。食べてみなよ。すみませーん」
想心は僕の分まで頼んで断ろうとしても、いいからと痛々しい顔で笑う想心の顔は今でも忘れられない思い出となったな。到着していい匂いがするも、食べれるか不安が大きかった。
でも美味しそうに食べる想心を見てバター焼きの貝を一口頬張った瞬間は、なんで今まで食べてこなかったんだろうという気持ちになれてそれから貝類を食べるようになったのを思い出す。
「セブラは塩焼きと醤油焼き、それからバター焼きとか味付けあると思うけど、どれが好きなの?」
「俺はやっぱり醤油だな。あの味が堪らないぐらいよく食べてるよ」
「ふうん。僕はやっぱりバター焼きが忘れられない味。久々に食べたくなっちゃったな。そこのお店は味付け豊富なの?」
「いろんなのあるぜ。食べる気満々だな」
「なんか食べたくなった。懐かしい味が食べたい気分」
だろと言うセブラが箒を出してくれて、それに乗りバイル村に出発することにした。




