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シゴノセカイ《改訂版》  作者: 福乃 吹風
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16話 シーゼン港街②

 船に乗って三日が過ぎた頃、目的地に到着したらしく、ここからは潜って探すそうだ。水着とか持ってないぞと思ったらアンジがニヤニヤしながら海の中へ入ってしまう。

 しかしなかなか顔を出さず、不安になった俺は船から飛び降りて海の中に入ると、アンジの姿が人魚になっていたのだ。泳いでこっちに来るアンジは俺の耳元で教えてくれてカステクラインを起動させる。


「カステクライン!水、魚の人間!」


 足がくっつきみるみると鱗が見えてきて人魚の姿になり、こんなこともできるのかと泳いで凄いと興奮しながら大きく一回転して海に潜る。それを知ったのか雫がアンジに聞いており魔法を唱えて人魚の姿になった。


「これなら探しに行けるな」

「うん!こんなことできるだなんて知らなかったよ」

「二人とも喜ぶのは早いよ。人魚になれる時間帯がある。見習い魔道士だったら一時間、六段魔道士の二人は三時間と決まってる」

「どうすれば時間がわかるんだ?」

「カステクラインが表示してくれてるのはわかるかな?」


 どれどれとカステクラインをとり確認するとカウントされており、俺と雫は早くしなきゃと海の奥へと進んだ。


「ちなみに二段魔道士は何時間まで?」

「十二時間だよ。一段魔道士は無限だからね」

 

 一段魔道士になるまで程遠いと思いながら泳いでいると、デッドフィッシャが現れてカステクラインを起動させる。


「カステクライン!水、カワウソの牙!」


 汀ともう一匹がデッドフィッシャを退治してくれるも、攻撃はあまり効果が見られず代わりにアンジが退治してくれた。


「カステクライン!雷、雷獣の閃光!」


 雷獣が出現し以前は突撃のみだったが爪でデッドフィッシュを倒すと光って他のデッドフィッシャも消えていく。雷魔法を先に覚えておくべきだったが、やったなとハイタッチして先へ進む。

 本当にあるんだろうかと探していたら美しい人魚に出会したと思えば、湘西さんの姿で俺とアンジは見惚れてしまうほどだった。


「何をしてる?さっさと行くよ」


 すみませんと言いながら先に進んで行くと、建物を見つけてその中に入り、ここからは普通に歩けるらしく魔法が解除される。


「ダンジョンがたくさんあって、今回はここ。早く探してなかったら次のダンジョンを目指す。奴らより先に見つけなければならない」

「奴らってどんな?」

「デステクライン使いたちの協力者、ミッドヴィークが存在するから気をつけたほうがいい。ミッドウィークは三種類あって海賊、山賊、空賊がいる」

「なんでそんなことをするの?ポイントを稼いで生まれ変わるためならデステクライン使いと手を組まないはずだよ」


 雫が疑問に思っていたことを口にしたら、湘西さんは悲しそうな瞳でこう俺たちに教えてくれた。


「自殺してしまった人が友人だったら、一緒に乗り越えるためにやってはいけない法を犯す。防ぎたくても防ぎ切れない」


 自殺、その言葉で頭によぎったのは思穏であり、アンジは俺の表情を見てなのか近くに寄ってくれる。湘西さんは悔やんでいる顔立ちをしてその続きを綴った。


「自殺してもちゃんとチャンスは訪れるというのに、なぜこうなってしまったのか理解ができないよ。あたしは今もわからない。自殺してしまった友人に問い質したい。一人で苦しまず、打ち明けてほしかったと」

「湘西さんも自殺で友達を失ったんですか?」


 雫が言うものだから、アンジが注意しようとしたところ、そうと思い出話をしてくれた。



 あたしの親友はいつも明るくクラスメイトでも人気の子だった。あたしはその一方、影にいるような存在で、友達ができず読書をしていた時のこと。

 前の席に座る親友は笑顔で何読んでるのとその本を取り上げられてしまう。


「返して…ください」


 うまくはっきり言えず、小さな声でそう言ってみるも、親友はすぐ返してはくれなかった。ペラペラとめくり、親友と仲がいいグループがまた弄ってるじゃんと遠くで笑っている。

 あたしがあんたたちに何をしたって言うのと言いたくても、その当初は臆病でお腹を痛める日々で、お腹を抑えていた。早く

どっか行ってよと思っていたら、親友が気づきその本を取ってあたしを教室から出してくれる。

 中庭にあるベンチに座り、その本を返してくれながら打ち明けてくれた。


「あかね空シリーズ、めちゃくちゃ面白いよね」

「え?」

「何きょとんとしてるの?その本、あかね空でしょ?」

「そうだけど、なんで」


 親友はきょとんとした顔をして次第に思い出したかのように笑う。なんで笑えるのか不思議に思いながらも、親友は笑いを落ち着かせ、足をぶらぶらしながら教えてくれた。


「うちさ、みんなに好かれるのは嬉しい。ただみんなが誰かの悪口を言っている姿が嫌いでさ。塞ぎたくてもそれって難しくない?」

「まあ…そうだね」

「誰とグループになるのかも、それは自由だけどさ、うち的にはね平等に接したいんだよね。湘西さんみたいな子がいたら話しかけたくなるし、先輩も後輩も見捨てたくないんだ」

「その台詞」


 バレちゃったと親友はあたしに笑顔を見せてくれて、その台詞はあかね空シリーズに書かれていた台詞。そこからは自然と親友と呼べるほど仲良くなり、毎日のように笑って泣いて、時に喧嘩しては笑って。そう言う日々が続いてくれると信じていた。

 けれどその絆は時に壊れてしまうこととなるとは……。



 お互い、会社員となって働き始めていた時期のこと。忙しくてなかなか連絡ができない日々が続いていた。新卒ということもあり、覚えることが多くて、そろそろ親友に悩み相談したいなと、休憩時間にメッセージを送ってみる。

 久しぶり、なかなか連絡できなくてごめん。週末、ランチでも行かない?と送って、返事が来るのを待っていた。


 しかし、一週間が過ぎ、一ヶ月も過ぎ、普段なら連絡してくれるはずなのに、どうしたんだろうと不安になる。思い切って家に尋ねてみるも、出てはくれなかった。

 ちょうどその時、隣人と出会い話を聞いたところ、ここ最近は見かけてないと言われる。余計に心配になった私は、思い切って管理人に相談をし、開けてもらったところ異臭がした。管理人さんが様子を見に行ってくれたところ悲鳴が聞こえる。入ってみると親友は首を吊っていた。


 テーブルには遺書が残されていて、これ以上耐えきれない、生きる意味を失ったという文面を残して親友はこの世を去流だなんて。あたしたち親友だったのにどうして相談してくれなかったのとその遺書を持ちながら涙が止まることはなかった。

 警察に事情聴取を取られるも、あまりのショックさで思うように伝えることはできず、あたしは引きこもるように。


 実家生活でもあったから、両親に心配をかけていたけれど、しばらくして同僚がわざわざ会いに来てくれた。会いに来てくれたわよと扉の前で母親の声がかかるも、会いたくないと言い続けても毎日のように仕事帰り会いに来てくれる。

 申し訳なさもあり、少しならと扉を開け、散らかっていたとしても部屋に入ってもらった。


「親友、亡くしたって聞いてさ。俺も親友亡くして、一時期引きこもってたから気持ちわかるよ」

「…高校の友達だった」


 うんと同僚はあたしに寄り添ってくれて、少しずつ打ち明けていくうちに、回復をして数日後会社に復帰した。そこからは同僚と意気投合をして結婚をし子を産んだ直後に、がんになってしまう。

 夫はあたしが入院中だとしても、育児も会社もやり遂げ毎日お見舞いへと来てくれた。


「たまには息抜きしてよ」

「沙緒の顔が見たいから来てんだよ。具合はどう?」

「まあまあかな。ごめんね。育児も任せちゃって…」

「いいんだよ。叶人かなとがさ、早くママに会いたいって言ってるから、一緒に治療頑張ろう」


 夫はあたしの手を握って微笑み、その笑顔に救われながら三年後、夫と息子を残してあの世から旅立った。


 

 ここにも親友を失って辛い経験をしている人がいるんだとわかり、俺も思穏を失った気持ちは今でも忘れられない記憶だ。獄の世界で、酷い目にあっていないか心配になることもある。

 それに息子さんはその三年間、どんな気持ちを抱いていたのか想像ができない。まだ幼い子を残してあの世から去るご両親にとっては複雑な思いがあるんだろう。なぜ子の成長を見届けられなかったのかという気持ちと、子の幸せを望んでいる気持ち。

 きっとこっちにいていずれ湘西さんみたいな母親が現れるのかもしれないな。


「夫と息子が幸せでいてくれたら嬉しい。だからその分、決めているの。獄の世界にいる親友と会って話したい。なぜ自殺なんかしたのかを知りたい」

「親友の名前は?」

暗野伊雪あんのいゆき。今はブラック副寮長をしてるかな」


 湘西さんが言った言葉で、雫の顔色が一瞬悪くなったような表情でも、すぐ通常の顔に戻っている。後で確認をするとして、湘西さんに聞かれた。


「あなたたちはどうして若いのに亡くなったの?病気か何か?」

「俺とアンジは他殺で、雫は病気で亡くなったんですよ」

「あなたたち、まだ生きたかったんじゃない?」


 まあそれなりにと答えていたら湘西さんが手を上げ、俺たちは足を止めた。何か音が聞こえると耳を澄ますと正面からカニの大群が来てカニを追っかけている集団がいる。


「ミッドヴィークだ」


 カニたちが俺たちの後ろにやって来て、助けてほしいというような感じだったから俺はカステクラインを起動させた。


「カステクライン!水、魚の大津波!」


 大量の魚が津波となってミッドヴィークを少人数倒せても、ミッドヴィークも負けないよう俺たちに攻撃してくる。


「カステクライン!雷、雷獣の閃光!」


 今度はアンジが前に立ってカステクラインを起動させた。


「カステクライン!氷、ペンギンの滑走!」


 ペンギンがたくさん現れ地面が凍りペンギンたちがすいすいと滑っていき、雷獣とぶつかって爆発する。どうだと煙が消えたら、なんと死屍デッドルタがミッドヴィークを守っていたのだ。

 

「そのカニたちを狩らせてもらうぞ」

「お前たちは普通に生まれ変わることができるはずなのに、なんでデステクライン使いと手を組んでんだよ!」

「決まってんだろ?あんなクソみたいな世界を変えるためだよ!カステクライン!雷、バッファローの雷鳴!」


 雷を放つバッファローが現れ一体何をするんだかと思いきや、バッファローが鳴きそれによって雷の攻撃がくる。水魔法だと感電してしまう。

 防ぎ切れないと魔法を受けようとしたら、誰かが走って来て俺たちを守ってくれる。


「カステクライン!植物、サイの泥土!」


 泥を浴びたサイが出て来て雷を浴びそのまま突進して、死屍デッドルタを倒してミッドヴィークを踏みつけたのだ。圧倒されていると、湘西さんがなんで来たとその子を叱る。


「テンファ、船に乗らないことなぜ破った?」

「店長、海に眠る花は出任せです。ミッドヴィークが流した情報で店長の魂を狩ろうとしてた。それに店長の得意魔法は水。必ず相手は雷魔法を出すと考えて小生の得意魔法である植物魔法が必要になると思ったから。ご安心ください。店は他の店員に任せてあるので大丈夫。それより、ミッドヴィークを捕らえてボスが誰なのか吐いてもらいましょう。カステクライン!拘束、茨の結び!」

    

 倒れているミッドヴィークたちをまとめて拘束し、どうやって運ぶんやらと思いきや、アンジが手を貸してくれてシャボン玉で運ぶ。船に乗せシーゼン街へ向かっていると、西の方から黒い船がこちらへ向かってくる。湘西さんが面舵いっぱいと叫び、進行方向が右になり黒い船から逃げるらしい。

 しかし黒い船は大砲で撃って来てしまって、カステクラインを起動させようと思ったらテンファがカステクラインを起動させる。


「カステクライン!炎、炎の残石流星群!」


 夏海が以前授業で唱えた魔法で空からたくさん大きな岩が炎をつけて黒い船に向かっていく。どうだと様子を伺っていたら防御魔法がかかり、岩たちが違うところで落ち大きな波がこっちに来た。


「水魔法は相手に効かない。店…船長、相手はおそらく濡羽玖朗ぬればくろうの船です。急いで陸に上がってください。アンジさん、手伝ってもらえますか?当てなくても邪魔をしながら脱出すれば大丈夫です。濡羽玖朗の弱点は炎と雷」

「わかった。想心と雫は船員さんたちの手伝いをお願い」


 了解と伝えて湘西さんの指示に従いながら動き、アンジとテンファは魔法を唱えていて距離を離してもらう。本当に逃げ切れるのだろうかと緊張感がありながら動いていると違う街の港が見える。

 陸に上がっても追ってくるんじゃないのかと疑問になりながら、港に到着し船から降りてみると黒い船はどこかへと行ってしまった。


 やったなとアンジと雫でハイタッチをし、テンファともハイタッチしたかったが海賊の映画とかでよく見る小型望遠鏡で様子を見ている。


「海に眠る花がなかったのは少し残念。あなたたちに迷惑をかけてしまってごめんなさい。これ報酬ポイント」


 十万ポイントが加算されこれでよかったのかなと思いきや新たな依頼を受けることになった。


「それであなたたちに協力要請をお願い。濡羽玖朗はあの程度で引き下がる奴じゃないくらいわかってる。きっとあたしの人形を持っている可能性が高い。その人形を奪ってもらいたいの。奪えたらもうプラス十万ポイントをあげる」

「わかりました。その依頼引き受けます。濡羽玖朗という人物を教えていただけませんか?」

「私、濡羽玖朗のこと知ってるよ」


 トーメイノ国に幽閉されていたのに情報があるとは思わなくて、酒場で濡羽玖朗について話を聞くことに。


「濡羽玖朗はクロノ国にいて、クロノ団長と呼ばれている人。私も何度か会ったことがあって、襲われることも多かった。それに濡羽玖朗はすれ違っただけで狩られるから注意したほうがいいかもしれない。確か年齢は三十で死刑された」

「殺人者と対面するだなんてちょっと引くな。んでどういう作戦で湘西さんの人形を奪う?」

「直接戦うしかない。相手は二段魔道士って師匠から聞いたことがある。僕と湘西さんは三段魔道士で勝てない。だけどここにはアンジさんは二段魔道士だし、青藍の葉桜を持つ想心さんがいれば勝てる気がする」

「なら逃げなくてもよかったんじゃないの?」


 雫がテンファに問うとテンファの優しさがそこに含まれていた。


「船員のカステクラインが奪われたら店長は身を差し出すに決まってる。そこで船員をここに残し小生たちだけで海に出たほうがいい」

「なるほどな。俺たちは青の団員だから拒否する権利はないけど、一つ頼みたいことがある。雫に植物魔法を教えてもらいたい。それからでも遅くはないはずだ」

「わかったけど、小生からも頼みたいことがある。小生を青の団に入れてほしい。本当は挫けて花屋に転職したけど、師匠が行方不明になったって聞いて探しに行きたいんだ」

「決まりだね。ちなみに師匠って誰なの?」

「シャン・エンディリア。小生がこっちに来てからいろんなことを教えてもらってた。だけど師匠、娘さんが自殺してしまった原因がなんなのか知りたくて、デステクライン使いと出会ってから様子が変になった。それからは置き手紙を残してそれっきり」


 嘘だろと俺たちは顔を見せ合い、これは寮生にさせたほうが良さそうだ。


「だから店長、この件が終わり次第、青の団に入ることに決めました」

「そう。だけど団に入ったら逃げずに今度はちゃんと頑張りなさい。いいわね?」

「はい。今までお世話になりました」


 テンファが湘西さんに感謝を述べ、新しく寮生が増えた喜びがありこの一件を終わらせたら手続きをする形となった。


 ◆


 セブラが言っていたあいつらとはクロノ国にある騎士団のことで、セブラはブラック寮長である濡羽玖朗のところへ行ってしまった。

 僕はセブラが心配になりブラック寮へ訪れてみると、団長はいなく副団長の暗野伊雪あんのいゆきさんがセブラを痛めつけている。僕は咄嗟にセブラの盾となり、鞭が腕に当たった。


「邪魔なんですけどー。そこどいてもらえる?透過の紅葉に選ばれた勇者さん」

「なんでこんなことするの?」

「怒った顔、めちゃくちゃ可愛い。惚れちゃうからやめてよねー。真実に辿り着こうとしたお馬鹿さんを、団長が自ら退治してくれたのに、セブラが反抗するからお仕置きしてあげてるの。そこはもっと喜ぶはずなのにさ!」


 もう一回来ると僕はデステクラインを起動させ、攻撃魔法を唱える。


「デステクライン!闇、コウモリの牙!」


 コウモリが複数現れ彼女に当てその隙に苦手な箒に乗ってセブラを逃すも、待ってよと甘い声で足首に鞭が絡まり引き戻されてしまった。

 強い衝撃を受け痛くてもセブラに回復魔法しなくちゃと魔法を唱えようとしたら、彼女が履いているヒールが乗っかりぐりぐりとやられてしまう。


「小賢しいんだよねー。君を見てると腹正しい人を思い出すから大っ嫌いに確定。このままクロノ国に幽閉して弄んでたいぐらいだよ。あのロゼみたいにさ」

「ロゼを知ってるの?」

「知ってるよ。だってーロゼを幽閉したのは団長だもーん。団長が移籍してきた理由、教えてあげよっか?」


 言われてみればライトノ国では他国の人が寮長として動いている。しかも団長レベルの人が揃っていた理由。考えられるとしたら僕目当てできたとかじゃないよね。

 ヒールをどかしてくれるが伊雪さんは僕の上に乗り、僕の頬を人差し指で突きながら冷ややかな笑みで僕を見下していた。


「知りたい?知りたいって顔してるー。じゃあ、特別に教えてあげる代わりにクロノ国に来てよ。たっぷり遊んであげるからさ」

「断る。僕は好んでライトノ国を選んだ。どんなことがあっても移籍するつもりはない」

「ふうん。まあいいや。どの道デステクライン使いで遊んでも、魂を狩れないから今日はこの辺にしておくよ。そろそろ団長が帰ってくるからさ」


 伊雪さんは僕から降りているけどこの恐怖心はなんだろう。恐怖に恐れて七日体が全く動かず、セブラ起きてとセブラの手を取ろうとした時だった。

 誰かが入って来て玄関の方を向くと吹雪が降るような冷たい表情をした人がやって来る。あれが濡羽玖朗という人…。


「団長ーセブラにお仕置きしておいたよー」

「伊雪、下がれ」

「はーい。じゃあね、透過の紅葉に選ばれた勇者さん」


 僕に手を振りながら行ってしまわれる伊雪さんで、ブラック寮長である濡羽玖朗が僕を軽蔑の目つきをしながら素振りでセブラの頬を突き始める。

 しかしセブラが起きないことで何をする気だと横目で見ていたら、ポケットから油性マジックを取り出しなんと顔に落書きをしたのだ。描き終わったらしい濡羽玖朗はさっきの恐怖心が解け僕はゆっくりと体を起こしていると、ツンツンと突かれこっちと物陰に隠れた。


 セブラが起き始めてその顔が面白く大笑いしそうになって口元を押さえる。あれはさすがにやり過ぎでしょと我慢しセブラが飾ってある鏡を見て目が飛び出るほど驚いていた。


「あの野郎、いつの間に帰ってたんだよ!ったく、今度あったら仕返ししてやるからな。そうだ、思穏を一人にさせてんだった。行かなきゃ」


 セブラが行っちゃうと物陰から顔を出そうとしたら濡羽玖朗に腕を引っ張られ引き戻されてしまう。行っちゃったけどいいのかな。


「行ったな。しばらくほっとけばいい。それより思穏に聞きたいことがある。葉桜家の本家に行ったことはあるか?」

「行ったことはないです。でも想心、父方の家に大きな蔵があると聞いたことはある。それと何か関係があるんですか?」

「いや、さっき汀春にそっくりな奴がいたから汀春の妻が葉桜家を繋いでいた可能性は高い。だが不思議だ。汀春の魂とカステクラインが千年も眠りについていたことが疑問に抱く。もっと早く生まれ変わっていてもおかしくはなかったはずなのに妙だと感じているだけだ」


 濡羽玖朗が想心と接触しているとは思わなかった。この前教えてくれたように汀春さんの魂は生まれ変わって想心の魂となっている。だから想心はいずれ多くのデステクライン使いに狙われるし僕もやらねば死屍デッドルタにされてしまう。


「…セブラのこと頼む。やつがれとセブラは照秋と過ごしていた仲ではあるが、一つだけやつがれたちには見せない顔を持っている。それを持っている思穏だから選ばれたのかもな。もし何かあったら相談に来るといい。まあやつがれは基本、天の世界にほとんどいるけどな」


 濡羽玖朗は僕の髪の毛をくしゃくしゃにして部屋へと行ってしまった。ちょうどセブラが見つけたとあの顔で来たから思わず吹き出して笑ってしまう。

 これから濡羽玖郎が何を企んでいるのか知らずに、セブラとロゼ・エンディリアを探しに行くことにした。

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