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味方と希望

神殿では巫女姫と大神官は崇拝対象である。

常に筆談でもヘンリエッタには何も支障はなかった。

大神官が集まりヘンリエッタの神力の発動について審議していた。気まぐれな神様もパターンがあった。

伯父の場合は酒に酔って願う時だけ叶えられた。

ヘンリエッタの場合は情緒が不安定な時ではないかと憶測が立てられていた。


「どんな時も笑顔でいなさい。神様は表面的な部分を大切にするんだ。ヘンリエッタが満たされているように見えれば、あまり干渉しないかもしれない」


死ねないヘンリエッタは伯父の指導の下、常に笑顔を作る練習をした。


「言霊は常に意識しなさい。心の中で願うよりも口に出す願いを叶えてくださることが多いんだ。私は心の底から願ったことは一度も叶えられたことがないから」


ヘンリエッタはやわらかい笑みを浮かべて頷いた。

ヘンリエッタの笑みは神殿で身に付いたもの。そして常にやわらかな笑顔を浮かべるヘンリエッタが誕生した。ヘンリエッタが微笑むのをやめるのは眠る時だけだった。





姉のおかげで無口を克服したドログは暇があるとヘンリエッタに会いきて真剣に観察しはじめた。


「リエッタ、これからは俺に任せて。代わりに話すよ」


饒舌なドログにヘンリエッタは驚きながらやわらかく微笑みながら首を傾げた。


「怖いなら俺が話すよ。リエッタが話さなくても言いたいことがわかるように努力する。だから安心して。話さなくても大丈夫だよ」


ヘンリエッタはドログの額の傷に手を添えた。ヘンリエッタが傷物にした所為でドログの未来は真っ暗になった。無意識に寂しそうに笑うヘンリエッタにドログが笑う。


「俺はリエッタをバケモノとは思わない。でももしバケモノって言われるなら俺もバケモノになるよ。何があっても二人で生きよう。傷が気になる?でも強そうに見えない?」


ヘンリエッタは照れているのを必死に隠しているドログに笑顔で首を横に振る。ヘンリエッタはドログのことはよくわかっていた。


「強そう?」


ヘンリエッタは首を横に振った。わかろうとするのに、ドログの言葉は見当違い。それでもドログの必死さに負けて付き合っていた。最初は時々会うノノレンのほうがヘンリエッタの言葉をあてるのは得意だったが1年後にはドログの方が上手くなっていた。


「ドログったらね」


ヘンリエッタが楽しそうに話すノノレンからドログがヘンリエッタが話さなくても生きれるように無口を一生懸命克服したと聞き目を丸くした。おしゃべりが苦手なドログの修行と根気強く付き合ったノノレンの話を聞き、ドログと一緒なら生きるのも怖くないかもしれないと思い始めた日がヘンリエッタが初めて笑った日だった。ノノレンは数年振りに作りものの笑顔以外を浮かべたヘンリエッタを抱きしめた。小柄で優しい少女をバケモノと傷つけるものがいるなら弟に倒されればいいと思いながら。







ヘンリエッタは声が出なくなり、一つだけ困ったことがあった。

スダー伯爵家の令嬢は1年に1度歌を奉納する決まりがあった。

姉は留学に行ってからは歌の奉納はヘンリエッタの役目だった。

ヘンリエッタは弟に女装させようかと正装を取り出し悩んでいた。

素直ではない友人に妹の面倒を頼まれ時々様子を見に来ていたコレットが悩んでるヘンリエッタの肩を叩いた。


「どうしたの?」


ヘンリエッタは柔らかな笑みを浮かべた。


「何か困ってるでしょう?貴方のお姉様に頼まれているのよ。ほら書いてみなさい。年長者の知恵を頼りなさい」


明るく笑うコレットに紙とペンを渡されヘンリエッタはゆっくりと書いた。


歌の奉納するのに声が出ません。


「毎年恒例のか。私が代わりに歌おうか?貴方のお姉様が風邪の時も代わったのよ。形だけなんでしょ!?」


ヘンリエッタは自由な姉を思い出しクスリと笑った。


「ヘンリが立つけど、教壇の裏に隠れて歌ってあげるわ。誰にも気付かれなかったから大丈夫よ」


ヘンリエッタはコレットに甘えることにした。代わりに慣れているコレットが手回ししたおかげで誰にも疑われることなく奉納は終わった。奉納の際はヴェールを被るので顔は見られない。そのため歌の奉納者はスダー伯爵家の者以外誰かは知られていなかった。

歌の奉納の見物人には心を奪われる者も少なくなかった。奉納者を調べるのは禁じられているため歌姫の呼称で呼ばれていた。


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