少年の決意
ペタン男爵家ではドログの婿入りを盛大に祝われた。
ドログは次男であり名門伯爵家への婿入りは良縁だった。力のない男爵家で無口で冴えない容姿の次男は嫁探しも一苦労だった。ドログが与えられた役割はずっとヘンリエッタの世話と子供を作り二人で幸せになれば何も求めないと言われ戸惑っていた。
スダー伯爵はペタン男爵夫妻から婚約の了承を得たのでドログを試すことにした。ドログはヘンリエッタの力を見ても忌避せず、それだけで十分見込みがあった。
「ヘンリは神力が強いんだ。神力が強いと神様が気まぐれでお願いを叶えてくれるんだよ。ただ神様の気まぐれは良いものとは限らないんだ」
ドログはヘンリエッタの叫びが聞こえていた。
「無口」
「そうだよ。だからヘンリは話さなくなった。ヘンリの声が出ないのは心の問題か神様の力かはわからない」
「白いバケモノって」
「知ってるのか。ヘンリは攫われた時に、力を使って賊を殺してしまった。それを見た者にバケモノって剣を向けられ・・。髪色も瞳の色も変わった姿を見た子供は正直だ。怖いかい?」
ドログはヘンリエッタの泣き顔と叫ぶ声が脳裏によぎって首を振った。
「傍にいてあげてほしい」
ドログは頷いた。ドログはヘンリエッタが生きてはいけない理由がわからない。ドログはヘンリエッタに生きていて欲しかった。残虐な白いバケモノと言われても、ドログには小さい女の子にしか見えない。
「強くなりたいです」
「手配してあげるよ。ドログがヘンリの傍にいてくれるならどんな願いも叶えてあげるよ。どうか娘を幸せにしてほしい」
ドログはバケモノよりも強くなることを決めた。ヘンリエッタがバケモノと呼ばれるなら自分も一緒になろうと思った。そして泣かないように、剣を向けられないように守りたいとも。
それからドログはスダー伯爵の紹介で元将軍に師事して鍛えられる日が始まった。
そしてもう一つヘンリエッタのためにできることを思いつき姉を頼った。
伯爵はドログの決断に感謝した。これからヘンリエッタが向き合っていかなければいけないもの。暗い瞳の生きる気力のない愛娘。ドログとの婚約を決めてからはきちんと部屋から出てくるようになっても暗さは変わらない。かつての子供達の中で一番明るく天真爛漫で歌が大好きだった愛娘の幸せをドログに願った。願いを叶える力を持つのは神だけではない。