02「黒馬の王子様」
なんでこんな事になったのか。
茫然とする私の頭では理解が追い付かない。
ルディウスが最後に言った言葉が、グルグルと思考の中で回っていた。
「俺の運命の人は君じゃなかった」
その言葉を聞いた時、希望や光が崩れ落ちるのを感じながら、私は絶望に落ちた。
「大丈夫です。貴女にはもっと素敵な殿方が現れます」
私の手を取り、聖女らしく微笑んだ悪女。
なにが大丈夫ですだ。私は見ていたのよ?
「私とルディウス様が恋仲だと知ったら、婚約者の彼女はなんて言うでしょうか?」
「さあね? というか、あの女はもう婚約者でもなんでもないさ。俺には、君しか居ないんだ」
「ルディウス様……」
「エリス……」
そう言われ、ルディウスに抱きしめられながら勝ち誇った顔をしていた貴女を。
私はルディウスに捨てられ、その場から逃げ出した。
その後は良く覚えていない。
気付いたら深い森の林道を彷徨っていた。鳥のさえずりと風が草木を撫でる音に包まれながら宛もなく彷徨う。
この道を行くと、どこに着くのかも分からない。
それでも、私は歩みを止めなかった。
この先が崖だとしても、それは同じだ。
そんな絶望を背負って歩く私の前に現れたのは、薄汚い格好をした二人の男達だった。
「止まれ小僧。命が惜しくば金目の物を寄越せ」
一人の男が私に告げる。
ああ、私は男の子だと思われてるのか。
まあ、そういう風に思われる格好と髪型だし、肌もボロボロだから当然か。
盗賊を目の前にした私は、何故か冷静だった。
いや、冷静と言うより感情を失っていたのかも。
「早くしろ! 死にたいのか!」
「身ぐるみはいじまおうぜ」
一人の男が私を羽交い締めにし、もう一人の男が金目の物を探すように衣服をまさぐっていた。
「ちっ、何も持ってねえじゃねえか……ん?」
「どうした? なんかあったか?」
「いや、金はねえが、こいつ凄いものを持ってるぜ。こいつ……女だ」
「女!?」
男達の下卑た顔。
醜悪な人相がさらに酷く見えた。
「久しぶりの女だぜ! どうする?」
「どうするって……犯すに決まってんだろ!」
ニヤニヤと私を見る男達。羽交い締めにしていた男の力が、更に強くなったのを感じた。
「大人しくしてれば痛くねえ」
「そうだぜ! 痛いどころか気持ちいい思いが出来るぞ? ひひっ」
そうか……私は犯されるんだ。
そう理解した私は、潔く死ぬ準備を始めた。
こんな男達に犯されるくらないなら、舌を噛んで死んだ方がマシだ。それが私に残った最後のプライドだった。
そう思った瞬間――
「お前ら何をしている」
大きな黒い馬に跨がる浅黒い肌をした青年。
ブロンドの髪に、切れ長の目で整った顔立ちの彼は、琥珀色の綺麗な瞳で私を見つめていた。
バクバクと高鳴り出す鼓動。その時私は、ただ恐怖でドキドキしているのだと、思っていた――
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