グリーシャ帝国軍本部の月1くらいの風景
ほかの作品のアイデアが浮かばないときに投稿しますので気長にご覧ください。
見張り以外では要人の護衛も軍人も完全に寝静まった深夜。グリーシャ帝国帝都アストルにある帝国軍の本部も施設の入り口に立つ見張り以外は全員眠っている。と言っても見張り以外でいるのは尉官以上の独身もしくは家族のいない者だけだが。
そんな施設の3階天井裏には1人の男が潜んでいた。男は帝国と敵対するメラクリット王国の暗殺者だ。今回の任務は、帝国軍幹部でありながら自ら最前線に立ち、その力で数々の戦場を地獄に変えてきた者を確実に殺すことだ。そのターゲットは銀髪に金眼のまだ成人していないくらいの少女だった。
男は侮らずに今回の任務のために男は帝国軍に一時的に入り、その者の下に付き2ヵ月ほどその者の動向を直接見た。男は今までも要人をたくさん殺してきた経験があったため、正体も全くバレなかったし、暗殺に必要な情報もすべて手に入れて今夜実行に移るところだ。
ターゲットはすでに就寝しており、男はターゲットの部屋の天井裏でスタンバイしている。巡回警備している兵もさっき通り過ぎていったため今が好機だ。
男は通気口から部屋に入り、ターゲットが寝ているベッドに近付きながら致死毒が塗られた短剣を構える。ターゲットがベッドで寝ていることを確認して男は短剣を心臓の位置に振り下ろす。短剣はしっかりと突き刺さった。
男は今しがた殺したターゲットの少女に少し罪悪感を抱いたが、憎き帝国の軍幹部であったことを考えればと自分を思い込ませた。しかし通気口から戻って王国に報告しようと振り返った瞬間そんな考えは跡形もなく吹き飛んだ。
今さっき殺したはずの少女が目を擦りながら立っていた。それも完全に無傷で。男が慌てて後ろを振り返ると、ベッドには短剣が突き刺さっているだけで、もぬけの殻だった。
「もぅ何なのホント。私眠いんだけど…」
男は何なのとはこちらが言いたい、と思った。殺したはずのターゲットが今目の前に立っているのだ。そして眠いのであればさっきので永遠に眠ってほしかったとも思う。
「ホント勘弁してほしいよ。私は軍の幹部でもないのに月1くらいで狙われるし、毎回深夜だし、あの手この手で来るし。私を暗殺したいなら白昼堂々仕掛けてきてほしいよ」
暗殺なのだからバレにくい夜を狙うのは基本だし、確実に殺すためなら様々な手をつかうのも当たり前だ。そんなこともわからないのか、と思いながら男は暗器を構える。たとえ刺し違えてもこいつだけは殺さないといけない。王国にとってそれだけの害悪だ。相打ち覚悟で男は正面から突っ込む。
「あ、キミが今回の暗殺者だったのか」
男はその言葉を最後に意識を失った。そして二度と目覚めることはなかった。
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襲撃があった翌朝、
「シル少佐~、朝ですよ~」
グリーシャ帝国軍第444隊副官のアリーシャ・レザノフ大尉が自分の上官であるシルフィーナ・アルファ・リベイロン少佐を起こしに彼女の部屋を開けた。ドアを開くと、血が飛び散った部屋にはその大元である暗殺者の遺体と返り血で真っ赤になったままベッドで寝ている部屋の主がいた。
「もう、また狙われたんですか。暗殺者さんも部屋を掃除する人の身になってほしいものね」
普通の人であれば、驚いて悲鳴を上げるところであるが彼女の副官であるアリーシャは驚くどころか慣れた動作で飛び散った血で汚れないよう移動しながらベッド際まで行く。
「シル少佐、深夜に襲われて眠いのはわかりますが時間ですので起きてください!」
「…………んぅぅ?リーシャ?もうそんな時間なの?」
「はい、先程二の鐘が鳴りましたよ」
二の刻、つまり普通の人が起きる時間であり、軍人である彼女らには本来は寝坊認定される時間だ。しかしシルフィーナは回される任務の難度や幹部でもないのによく暗殺者に狙われると言う事情から、特例として認められている。
「むぅう、もうちょっと寝ちゃダメ?」
「…………ダメです。起きてください。少佐今日は陛下が来るのですからちゃんとなさってください」
シルフィーナはだれが見ても間違いなく美少女な上に、寝ぼけ眼で上目遣いで見つめられて実は「いいですよ」と言いそうになってしまったのはアリーシャだけの秘密だ。
「わかったよぅ。ふぁぁ~、さてと私は朝食食べてくるからそこの遺体の処理頼める?」
「わかりましたけど、【クリーン】かけるか、服着替えてから食堂に入ってくださいね」
シルフィーナは食堂へと足を向けながら時空魔法を用いて一瞬で彼女用のモノクロカラーの正装用軍服に着替えた。
グリーシャ帝国軍本部で月1くらいの頻度で見られる光景だった。