8.おお、神よ!(狼よ!)
エナと設営していたテントの片付けを行う。…といってもさっきの一連の乱闘で骨組みはボロボロ、布はそこかしこに亀裂が入っていて、テントとしての役割はもう望めそうになかった。
「…」
「…」
気まずい…。さっきもよろしくしないって言ってたしこっちから話かけるのもなぁ。
「はい、これ」
「あ、うん…」
さっきまで普通に会話出来ていたのに、嫌われてるかもと思うと言葉に詰ってしまう。
エナから渡されたテントと自分のテントを道具袋の中に仕舞いこむ。
「じゃ、じゃあ街に行こうか」
「…」
エナは返事することなく登りかけた太陽を背に、街に向かい歩き始めた。つ、冷たい…何か反応してぇ〜。
俺は遅れない様に後を追いかけた。
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2、3時間歩いただろうか?さすがに気まずさを感じた俺は少しビビりながらも、話しかけてみることにした。
「さっき使ってた手に光を纏わせるのって魔法なの?」
あの恐ろしい鋼鉄を両断する光の正体を聞いてみる。
エナが少し考えてから話し始めた。
「…。あれは体内の魔力を闘気として、外に放出しているだけ」
「魔法ではないと?」
「そう言ってるんだけど?そもそも魔法なんて脳の構造的に人種しか使えないし。アンt、ご、ご主人様だって使えるんでしょ?その宝物庫が使えるくらいの魔力量なんだし」
ご主人様にはまだ抵抗があるらしい。俺のやる気の為にも早く慣れて頂かなければ!
「ずっと気になってたんだけど、その宝物庫ってこれのこと?」
そう言って俺は道具袋を差し出す。
「なんで『アンタ』が知らないのよ!」
そう言い放つとエナは、ハッとした顔をして手の甲を見た。そこにはしっかりとIの文字が。
「ーー〜〜ッ!!なんなのよもう!」
「ま、まぁ落ち着いて」
そう俺が言うとエナは俺に指を刺し、お前のせいだろと言わんばかりに、怒っているジェスチャーをした。そんなに嫌かご主人様は。ご主人様って呼んでぇ〜。
「で、でもエナが道具袋を盗もうとするからだろ!」
俺が正論を叩き返すと、
「ここまですることないでしょ!『アンタ』の考えなんてお見通しよ!どうせ自分の女にしてやるとか考えてるんでしょ!」
そ、ソンナコトナイヨ?
そう言い切ってから彼女は、またやってしまったという顔をする。
学習しないなぁこの子。それでまた顔真っ赤にしてかわいいなぁ。
顔面トラ○ザムしてるエナに、先程エナが話をしていた宝物庫の話を振り直す。
「それで宝物庫ってなんなの?」
「ご、ご主人様が持ってるそれは、持ち主の内包魔力の総量で様々な機能が増えていく、初代の蔵の大英雄が作った世界に二つとない国宝級の古代遺産よ」
卍ですか?
「じゃあ、昨日言ってた許容量が変動するっていうのもその能力の一つ?」
「そうよ。ご、ご主人様が使っていた自動道具使用なんて相当の魔力量を持ってないと発動すらしないはず。まさかそこまでの魔力量を持ってるなんて予想もしてなかった。それにあんな物まで宝物庫に入れてるなんて…」
悔しそうにエナが話す。
ごめんなさい。私は存じ上げていませんでした。説明書あったら良かったんですけど。
「それになんでご主人様が使えるのよ…」
「?。でもそんなに希少な物ならまた欲しくならない?」
「どうせ取ろうとしたら、またいやらしい顔しながらお尻叩くんでしょ?」
「……」
よく分かってらっしゃる。でも今度はもっと凄いことをしてやろうと思ってたのは内緒だ。
そんなことを話しつつ歩いていると街の外壁が見え始めた。だが、なにやら門の前が騒がしい。
「おい!誰か腕利きの冒険者を呼んで来い!」
遠くでそんな怒号と、叫び声が混ざりあった声が聞こえる。
トラブルか?今日も街に入れないとか勘弁だぞ?早く行けば何とかならないかな?
「エナ少し急ごうか」
「え、なんで?」
「今日も街に入れなかったら困るだろ」
「…また野宿だと今度はご主人様に何されるか分からないし急ごう」
昨日襲ってきたのは、自分の癖にどの口が言ってるんだか。
少し急ぎ気味に門の近くまで歩く。すると昨日見たのと同じ生物がそこには居た。
「…またお前か」
おじいさんに大剣で両断されたケルベロスとは別の個体が街の衛兵と対峙していた。
「おい応援はまだか!」
「こんな怪物倒せる奴なんてそういるかよ!有力な冒険者はみんな地龍の討伐に出払ってるよ!」
ケルベロスは三つの頭から雄叫びを上げ遅いかかると思われたが、何故かこちらを振り返った。
「え?なんで?」
そして大きく吠えると同時に、その大きな牙を剥き出しにして俺に迫ってくる。
ウソだろ!ここにはあのじいさんいないんだぞ!そうだ!道具袋の自動道具使用って機能が発動してくれればまたなんとかなるかもしれない!
そう願って懐から道具袋を出し、ギュッと袋の口を握りしめる。が、俺の期待した結果は望めなかった。
道具袋が反応しない?こんなときに!
俺はケルベロスの頭の一つの噛みつきを、紙一重のところで身を捻って避けた。
「必死すぎw!手伝ってあげましょうか?ご主人様w?」
自分にあんなことをした俺が、ケルベロスのメインディッシュになりそうなのが面白いのか、笑いながら俺に聞いてくる。
中々良い性格してるじゃねぇか?でも!
「お願いだからなんとかして下さい!」
その言葉が聞けて満足なのか、エナは手と足に闘気を纏わせ一瞬の踏み込みのうちに、俺に迫っている最初に噛み付いてきた頭とは別の頭を上に蹴り飛ばした。
続け様に振り上げた足を地面に付け、その足を軸足にしてケルベロスの胴体と首の付け根を回し蹴りの要領で横に薙ぎ払った。ゴギッという鈍い音を立てケルベロスは横に大きく吹き飛んだ。
「…」
俺は呆気に取られて声が出なかった。
「どうでした?ご主人様(笑)朝までいじめてた女の子に守って貰うのってどんな気分ですか?」
エナが凄い煽ってくる。そしてその言い方は語弊がある!他の人に聞かれたらどうするんだ!
「マジで死ぬかと思ったけど助かったよ。ありがとう」
「ふーん?そう」
と詰まらなそうに言うと、ケルベロスの死亡確認をしてくると言って転がっているケルベロスの方に行ってしまう。
え?お礼の言葉をガン無視?そんなことある?
「あ、アンタ大丈夫か?」
先程襲われてた、衛兵の一人が俺に確認を取りにこちらに近づいてくる。
「あー問題ないです」
「それにしてもアンタのお連れさん物凄く強いな。見たところ獣人種みたいだが…。とにかくアンタ等のおかげで助かったよ。えーと…」
「あ!俺は足袋浩二っていいます。彼女はエリアーナ・ヴァルディです」
「こっちも名乗らないとな。俺は王都騎士隊でこの街の守備隊長を任されたクレイドってんだ。この街の安全を守る奴等を代表して礼をさせてくれ。ありがとう」
そう言ってクレイドはケルベロスを調べている、エナに視線を移す。
「そうかかなり力が強いと思ったら、彼女は獣人種の貴族だったか…。通りで力が強いわけだ」
ケルベロスの確認を終えたのか、エナがこちらに歩み寄ってくる。
「なに?私がどうかした?」
「いやエリアーナさんの力は、凄かったって話をしていたところだ」
「当たり前でしょ!私は誇り高い白狼の獣人なんだから!そこのご主人様(笑)と一緒にしないで!」
この子『ご主人様』呼びは抵抗なくなったのに、どこか呼び方に笑いを含んでる気がする。それよりも…、
「エナって狼の獣人だったの?お尻叩かれてキャンキャン泣くし、てっきり犬だと思ってたよ」
「ふざけないで!犬の獣人なんか目じゃないくらい高貴な獣人なのよ私は!」
犬が好きな俺からしたらあまり好ましい事実ではなかった。
「えぇ…、犬が良かったなぁ。昨日お尻叩かれながらごめんなさいぃ〜って言ってた姿は高貴の欠片もなかったよ?狼って高貴なんでしょ?だから犬でいいじゃん」
「ーー〜〜ッ!私は狼なの!」
隣の自称狼が駄々を捏ねる。
おお、神よ!どうしてこの子はこんなにかわいいのに犬じゃないのですか!あれ?でも犬も狼もあんまり違わないような…。なら狼でも良いや!
その様子を横で苦笑いしながら見ていたクレイドについて来て欲しいとお願いされたので、俺たちはクレイドの後に続いて街に入って行くのだった。
今回はエナさんに活躍していただきました。本当は強いんですよ?
エナさんの話す部分で浩二さんの二人称に気を使いながら書くのはだいぶ疲れます。。。
こういう文章を書いていると、方向性は違いますが仕事復帰のトレーニングとして丁度いいです。(何より自分が楽しい!)
私自身の文章トレーニングとしてこれからも、頑張って行くのでお付き合い願います。