3.才能がないから道具袋を貰った。
俺の元にその老人は、光輝く神々しい大剣を右手に下げ歩み寄ってくる。そもそもあの自身の身の丈よりも大きな大剣をどうやって振ったのだろう。服の上からでは分からない細マッチョってやつなのだろうか。
「直ぐに行動に移す判断力に、敵を前に怯まない度胸。少年は中々に見どころがあるの」
「いや、俺いらなかったのでは?」
「結果的にそうだったかも知れんがその決断の早さは中々のものじゃ」
俺が怖い思いしただけでしょ。頭を犬に喰い千切られそうになるなんて中々無いことだよ?
「そうですか?ありがとうございます。それより、どうやってこのとんでも生物を両断したんですか?大剣は引き切るというよりも重さで圧し切るものですよね」
犬?の見事な断面を見ながら問いかける。こんな切り口は人間国宝の人が作った包丁で切っても真似できるものではなかった。
「とんでも生物とは、ケルベロスのことかの?こんなのはただの小手先の技術で切っただけじゃよ」
このとんでも生物はケルベロスと言うらしい。まぁ見た目から何となく想像はついていたが。小手先の技術は物理法則を無視出来るのかぁ。勉強になるなぁ。
そもそも、神様のペットかなんかだろケルベロスってあの胡散臭い神は犬の散歩のときに、リード付けない派だったか。ペットがウ○コしても持って帰らないな絶対。
そんな下らないことを考えていると、老人が俺の興味がそそられる内容を話した。
「そもそも少年位の内包魔力量だったら身体強化のみの、デコピンで消し飛ばすこともできたろうに」
ん?
「それって俺には凄い能力があるってことですか!?」
俺は食い気味に老人に聞いてみる。
「ま、まぁ道具を用いて測ってないので、なんともいえんがのぉ。何となく少年の内側から、溢れ出す魔力が物凄く多いのは分かるぞ」
なんか嬉しかった。小学生並みの感想だがそれしか浮かばなかった。
あの美しくも気高い女神様はあんなこと言っててもやることはやってたのかよ。しっかりノルマこなしてるじゃん。神の元締め様。俺を担当した女神様は夏季ボーナス2.8倍くらいの仕事してますよ?
「計測器を使ってしっかり測ってみるかい?」
「お願いします!」
即答した。
そりゃあ、当たり前だろこんな命が儚い世界で自衛手段は大事だろ。それに異世界ファンタジーなんて、俺TUEEEして女の子にモテまくりで、お金がっぽりで、ハッピーな人生確定の世界だろ!?
興奮気味の妄想も老人の声で現実に引き戻される。
「では、この砂時計を握ってもらえるかの?」
続けざまに説明が入る。
「魔力を流したときに、この砂時計の下に落ちている砂が上に上がる量が多いほど、内包する魔力量が多いということじゃな。魔力の出し方は、ウ○コするときの力む感覚を魔力を出したいところに集中させるんじゃ。できるか?」
俺は、手からウ○コが出そうなほど力んだ。すると…、
パリンッッ!という乾いた音が響いた。
キタキタ!お決まりの展開!計測器壊れる=最強!勝ったな。風呂入ってくる。
「す、凄い魔力量じゃ!500年に一度の逸材じゃ!」
でしょうねぇ。まぁ?この最強様の才能?に恐れ慄くといいよ?
今日一嬉しかった。
「なんで俺の魔力量は多いんですかね?」
「魔力量の最大値というのは、その人の心または魂の許容量に準じておる。さぞ辛い修行を積んできたのじゃろう、…頑張ったな少年」
…身に覚えがない。前世の記憶がある俺からしたら前世で善行とかもそんなにした覚えは無い。
「身に覚えがないです…」
老人は少し考えて俺に質問する。
「少年は彼女さんは居るかの?」
「居ませんけど?」
「だからかも知れんのぉ」
俺は考えた。この身体はついさっき出来上がったばかりだということ。魔力量は心だか魂の許容量だと言っていたこと。うーん?分からん。
俺が前世でDTのまま死んだからかな?いやいや!まさかそんな下らない理由で魔力量が多いなんてことあるわけ…、まさかだよね?
「…彼女が居たことないっていうのは関係あるんですか?」
「なんと!少年はチェリー君だったか!それは納得じゃ、道理で内包する魔力が高い訳じゃ。しかし、チェリー君は見たところ歳の頃は17位と見える、それなのにその魔力量!不思議なこともあるものじゃ」
このジジィの二人称がいつの間にか、少年からチェリーくんに変わっていた。
どうなってんだこの世界!パリピ多過ぎだろ!そうなると俺は500年に一度の逸材DTってことだろ!?元の世界だったら大魔導師様が何万人も居るだろ!…多分!
少し叫びたくなったが、俺にとって最重要なことをまだ聞いていなかった。
「内包する魔力量が多いのは分かりました。それで魔法はどうやって使うんですか?」
「そんなことは本人が一番よく知ってるはずじゃが?」
ごめんなさい。分からないんですが?チュートリアルありましたっけ?
「意味が分からないんですが…」
「…」
ジジィは悲しいものを見る目でこっちを見ていた。
「おじいさん?」
「どうやら魔法は諦めるしかないの。どうやらチェリー君には人種ならば誰でも分かる魔法式を組み立てる概念そのものを知らないと見える。手の動かし方や息の吸い方と同じようなことを教えることはできないからのぉ」
あの見た目だけ美しい神の皮を被った悪魔を心底呪った。夏季ボーナスはなしでお願いします。
「そうじゃのぉ、しかし人種の英雄になれる程の魔力量を持つ人材の未来を断つのも気が引けるのぉ。魔力量だけ無駄に多いチェリー君にも使えるものをあげるとするかのぉ」
無駄に多いは余計よ?最強に多いに訂正して?
「何かこのチェリー君に恵んでくださるのですか?」
「この道具袋なんてどうかの?」
…剣くれよ。そっちのヤバそうな剣が良い!道具袋なんて薬草しか入ってないイメージなんだけど?
そう思ったが言わなかった。偉いぞ俺。
「この道具袋には、ワシが集めた過去の遺物やワシの財産の8割が入っている。チェリー君には力よりも財の方が良いと思ったのでな」
「…なんでそんな大事なものを俺に下さるんですか?」
「老い先短いジジィよりも前途ある若者に託すのが良いと見た。それに、ワシには跡取りがおらんからのぉ。チェリー君を孫の代わりと思って期待を込めてこの道具袋を託そうと思う。女の子をいっぱい侍らせてこのジジィにひ孫の顔でも拝ませてくれ」
このダンディなおじいさんはそう言って道具袋を俺に渡した。俺の手の平は今日も絶好調で回転している。
「そうだチェリー君。君の名はなんという?」
「浩二です。足袋浩二って言います」
「コージ君か、覚えたぞ。その名前が世界に轟くことを期待しておるぞ。この道を真っ直ぐ行くと街に着く、気を付けて行くんじゃぞ?」
見ず知らずの俺に貴重な物をくれるばかりか、道まで教えてくれた。何から何まですみません。
「おじいさんはどうするんですか?」
「ワシは向こうの山のそのまた向こうに用事があってな」
「そうですか…。分かりました。おじいさんの言う通りに一旦街に行こうと思います。おじいさんの名前は教えていただけないんですか?」
そう問うが、おじいさんは踵を返し歩き始めた。
「元気でな。コージよ」
「道具袋大切にします!本当にありがとうございます!」
そう言って俺もおじいさんの指し示した方に歩き出した。
「…大英雄の器よ。その宝物庫に見合う男になることを期待しておるぞ?」
老人のその独り言は誰に聞かれること無く風に流されて消えるのだった。
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その様子を遠くの木の上から見ている人影があった。
「あの剣の大英雄から宝物庫を奪うのは命が何個あっても不可能だけどあの男なら余裕ね」
そう言い人影は気配を潜めた。
次の話で皆さんお待ちかねのヒロイン登場です。(待ってたよね?)お楽しみに待っていて下さい。