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世界で一番の君へ  作者: ひおり
孤独の箱庭 ××××
8/18

第八話 アンフェタミン

久しぶりの更新です。

私はただラブコメが書きたいだけなのに。

 幼馴染とおうちデートを満喫した次の日。

 その日もいつも通り平凡で、当たり障り無い一日だった。

 小テストの点数もつつがなく。

 先生の解説を右から左に聞き流し、窓から見える空を眺める。

 握ったボールペンを手で弄びながら考えるのは幼馴染のこと。

 いつも通りに朝、彼女を迎えに行くと、今日は体調が悪いから休ませると柘榴さんが言っていた。

 珍しいこともあるな、と思いつつ、そうなると彼女から連絡が無かったことが少し引っかかる。

 彼女が体調を崩すことは確かに珍しいけれど、所詮人間なので、風邪の一つくらいは引く。

 そういう時は決まって彼女から連絡があっただけに、違和感はあった。

 俺の考えすぎと言われればそこまでだし、どんだけ過保護なんだと言われればぐうの音も出ない。

 テキストの解説文を読み上げ続ける先生の話を他所に、帰りにお見舞いにでも行こうかと思案する。

 お土産に彼女の好きなお店のクッキーでも買っていこうか。

 いや、病人なのだからもっと消化にいいものの方が喜ばれるかもしれない。

 かと言って何がいいのかは特に思いつかない。 うん、やっぱりクッキーが無難かもしれない。

 そんなことを考えていると、いつの間にか終業のチャイムが鳴った。

 先生の「今日はここまで」の声より早く教室内が騒がしくなる。

 購買戦争に挑むやつや、机を寄せ合うやつらを横目に、リビングに置かれていた焼きそばパンをカバンから取り出す。

 今日は幼馴染がいないので、特に誰と食べる約束も無い。

 そんな俺のところにクラスメイトの金子……だっけ。多分金子が寄ってきた。


「今日はあの子いないんだ」

「あぁ、うん。風邪だって」

「じゃあ夜斗は今日ぼっちなわけか」

「そうなるな」


 それだけをわざわざ言いに来たのだとしたら相当暇人だな、金本は。いや金子だったか。


「それよりこれ見てみろよ」


 どうやら一応用事はあったらしい。

 金子は手に持っていたスマホを俺に見せてきた。

 焼きそばパンを片手に画面をのぞき込むと、SNSの投稿画像だった。

 閑静な住宅街に、ポツンとたたずむ黒い何か。

 どう考えても何物でもない其れは、当たり前のように写真に収められていた。


「なにこれ」

「なんか高校周辺でめっちゃ目撃情報があるらしい」

「いや、そういうことを聞いているんじゃなくて」


 改めて写真をよく見てみる。

 一言で言うのなら、黒い影。

 それが垂直に伸びて、目測人くらいの大きさをしていた。

 足も手も頭も無い、お化けとかそう形容するのが一番近いけれど、多分違う。

 何と形容しようと、それを的確に表すことができないもの。というのが一番の印象だった。

 意識的に教室の雑踏に耳をすませば、金子と同じようにこの町に突然現れた謎の物体が話題の八割を占めていた。


「さっき開いたらめっちゃこれと似てる画像がいっぱいあげられててさー。なんでも神居原市だけみたいなんだけれど、放課後探しに行かねぇ? どうせ暇だろ」

「生憎、俺は幼馴染のお見舞いがあるからパス。行くならもっと誘うやついるだろ」

「つれねぇな、夜斗。そんなんじゃできる彼女も……いや、いたわ」

「厳密には彼女じゃなくて幼馴染だけれどな」


 最期の一口を口に放り込みながら悪態をつく。

 そもそも俺は、こいつとそこまで仲が良かっただろうか。

 学生生活のほとんどを、幼馴染と過ごしていたせいで、その他大勢のクラスメイトとの交流がさっぱり記憶にない。

 もしかしたら金子は俺を友達とみているのかもしれないけれど、俺からしたら知り合い以上友達未満の、いわゆるクラスメイトという認識だ。ごめんな、金田。間違えた。


「あぁ、ほら。絶賛目撃情報が増えてるんだよ。これなんか結構学校に近くね?」


 めげない金子は新たに画像を見せてきた。

 どうやら家の窓からとった写真のようだ。

 まぁ、其れはどうでもいい。問題はその写真の端っこの方――家の表札が、幼馴染の家のものだった。

 金子からスマホをひったくって画像を拡大して、再度確認してみる。

 見間違いない。十五年近く通い続けている、幼馴染の家の前だ。


『起きてる?』 


 反射的に自分のスマホを取り出して幼馴染にショートメッセージを飛ばす。

 既読がつくのをこんなにも待ち遠しく思ったのは初めてかもしれない。

 なかなか返事のない画面をにらんでいると、ふと教室内が一層騒がしくなった。

 誰かの声を皮切りに、教室内に散開していたクラスメイトたちが窓際に集まるのにつられて、そちらへと視線を向ける。

 整備された校庭のど真ん中。

 其処には、さっき金子から見せられた写真の其れと同じものがたたずんでいた。


「なにあれ」

「ほら、SNSに上がってたやつ」

「なんか不気味ー」


 口々に感想を漏らすクラスメイト達。中にはスマホで写真を撮って目撃情報をネットにアップしているやつもいた。

 思わずその黒い影を注視する。

 学校という現実にたたずむ、異分子。其れと、目が合う。否、正しくはそんな気がした。

 刹那。

 ガシャン、とガラスを砕く音がして、天井に何かが突き刺さる。

 質量をもった黒い影が、窓ガラスを突き破ってきた。

 そしてそれは、ついさっき俺と話をしていた金子の体を貫き、天井に突き刺さっていた。

 パラパラと天井から屑が零れ落ちる。

 ポタリと、俺の手に持っていたスマホの上に、粘性を纏った赤い雫が滴る。

 しんと、天使が通ったように静まり返った教室は、しかしすぐに地獄絵図と化した。

 クラスメイトたちの悲鳴。我先にと教室から逃げる足音。机や椅子がひっくり返り、あっという間に秩序を失う。

 俺たちのクラスの悲鳴を引き金に、隣のクラスからも人が溢れ出す。 

 そして其れをあざ笑うかのように、或いは機械的に、影は金子と同じように串刺しに、あるいは引き裂いて、からめとって、潰す。

 単純作業をこなすように。或いは地べたの虫を潰すように。

 人一人の命というものはあっという間に終止符を打たれていく。

 何が起きたのか、やけに頭だけは冷静に処理していくが、心が追い付いていない。

 追いついていないなりに、やらなくてはいけないことだけはあっさりと導き出した。


「行かなきゃ…」


 暴風が去った後のような教室と、串刺しにされた金子を置いて、俺も教室を出る。

 すでにあちこちに赤い絵の具がぶちまけられていたり、もはやゴミと何が違うのかわからないような人たちが転がる廊下を走り抜け、昇降口へ向かうが、すぐに考え直して裏口へと向かう。

 こういう時はなるべく人が少なそうな出口の方がい良い。

 暢気に上履きを履き替える猶予なんか作ったら殺されそうだ。

 案の定、特別棟のすぐそばにある業者出入口は静かで、綺麗なまま校内の体裁を保っていた。

 そのまま裏門から出たところで、異常に気付く。

 アレの被害は、校内だけにとどまっていなかった。

 道端に、破壊され炎上する車があった。

 花壇に、花の代わりに黄色だの赤だのが咲いていた。

 誰にも何もわからない。何もわからないまま殺されていく。

 そんな異常の中を、夢中になって走る。

 もう既読がついたかなんて確認する暇もない。

 向かうは、幼馴染が寝込んでいる彼女の家だ。

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