表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界で一番の君へ  作者: ひおり
孤独の箱庭 ××××
1/18

第一話 ロールシャッハ

ジャンル……?

ちょっと赤いラブコメです。多分。

当社比でぶっちぎりのラブコメが始りました。

 遠い遠い、夢を見た。

 幾万回目かもわからない、同じ夢。

 上も下も右も左も前も後ろも無い、真っ暗で、何もかもがなくなってしまった世界で、一人泣いている子。

 君の泣き顔も涙も見たくないから、声をかけようと手を伸ばす。

 その頬に伝う涙をぬぐってあげたくて。

 泣かなくていいのだと、抱きしめたくて。

 けれどその手は、ためらいで虚空をつかむ。

 ――あの子は、誰だっけ。


「……、起きて、夜斗(やと)


 ぼんやりと、意識が引き戻される。

 夕日みたいに真っ赤な教室内。

 三十二個セットの椅子と机、壁に貼り付けられた黒板。

 壁掛けの時計は五時を示し、窓越しにパンザマストが聞こえ、聴覚に帰れと訴えてくる。

 教室内には一人、俺を見つめる彼女の姿しかなかった。


「やっと起きた?」


 さらりと彼女の空色の髪が流れる。

 夕日色の瞳と目が合うと、彼女はにこりと微笑んだ。


「もう帰る時間だよ」

「んー……、うん」


 机に突っ伏して固まった体を伸ばせば、じんわりと血流がめぐるのを感じる。

 最後の記憶は確か昼休みの後だから、十分な睡眠時間を確保したと言えるだろう。


「ずっと寝てたね」

「起こしてくれても良かったんだよ」

「だって夜斗が気持ちよさそうに寝ていたから」


 あぁ、こんなに可愛い彼女をずっと待たせていたのか。

 それは、うん。実に罪悪感が募るな。

 ごめん。と返して荷物を持つ。

 真っ赤に染まった教室を出て、人気のない廊下を二人で並んで歩く。

 しん、静まり返った学校内に、二人分の足音だけがぺたぺたと響いている。


「夜斗はよく寝るね」

「自分でも不思議なくらいだけれど」


 寝ていれば、余計なものは見なくて済むから。という言葉を飲み込んで、適当な言葉を返す。

 寝たら寝たで、別の余計なものを見る羽目になっているわけだけれど。

 ただでさえ待たせてしまったんだ。彼女にこれ以上迷惑をかけたくなかった。

 下駄箱で靴に履き替えて外に出れば、部活動に汗を流す生徒の姿も無く、やっぱり此処も夕日色に染まっている。

 今日はやけに夕日が目に眩しい日だな。

 俺の隣を歩く――確か幼馴染――の色が緩衝材代わりになるくらいには赤い。

 当の幼馴染殿は、そんなの気にもしていないようで、とりとめの無い話を続けている。

 楽しそうに話す彼女が可愛いので、そっちに気を取られて話が頭に入ってこない――ということにしておこう。

 如何せん、起きてからずっと、脳みそは視覚情報の処理に忙しすぎる。

 有り体に言って、おおよそ人の目に映して脳が理解するのには、少しどころかだいぶ難易度の高いものがそこら中にあるせいだ。

 もっとも、隣の彼女はそんなもの気にもしていない。

 これはただの希望的観測だが、彼女は俺しか見ていないのだろう。多分。確信なんてどこにもないけれど。

 そうでも無ければ、この世界でこんな愛らしい笑顔を咲かせられるはずがない。

 いや、彼女が笑顔の天才だったらその限りではないかもしれないけれど。


「…もう、夜斗ったら聞いてる?」

「ん、聞いてる。今日も可愛いな」

「な……んで! もう! なんですぐそういうこと言うの!」

「可愛いから」


 ちょっと素直に感想を述べれば、白い肌を赤くして怒ってくる。

 うん、やっぱり可愛い。ついでに誤魔化すこともできた。一石二鳥だ。

 人気の無い交差点。

 信号機は人の車も無いその場所で、怠惰に、機械的に仕事をこなしている。

 俺はこの信号を渡り、彼女は渡らずに右に曲がる。

 放課後デートはここまでというわけだ。


「またね、夜斗」


 名残惜しさを感じつつ、彼女に聞かなくてはいけないことを思い出した。

 そうそう、起きてからずっと聞こうと思っていたんだった。


「ねぇ」

「なぁに?」


 小首を傾げる仕草さえ可愛い。

 良かった、表情筋が生きていて。死んでいたらきっと緩みっぱなしのだらしない顔になっていたと思う。


「これ、何?」


足下に転がっていたかつて人だったもの(肉袋)を拾い上げて、俺は尋ねた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ