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Ⅱ-nd. ‐Ⅲ. *佐木直夏の立ち位置。*

 直夏は、実家の鍵を鞄から探したが、案の定見付けられずにチャイムを鳴らしていた。





 出て来たのは兄の大和だった。



 「ーっ大和やまと兄ちゃんっ」…呼び方が子供の頃に戻ってしまった。…それも今は仕方無い…そう思って勢い込んで、つい兄に詰め寄る。 そんな兄ー大和は、一歩身体を後ろへと反らしたが、あまり慌てる風でもなく、然し弟の様子に何かを察した様に、



 「どうした。」とだけ短く聞いた。




 「おっ、お父さんはっ」そこまで言って、言葉に詰まる。急いで帰って来た事も、理由のひとつには成っているが、それよりずっと、彼は己で思うよりも大分切羽詰まった心境で在り、状況でも在った。ーーとにかく友理奈が全く電話に出ないのだ。しかも友理奈の会社の人間に聞いた答えは、『今日の無断欠勤』と、やはりと言った『音信不通』状態だった。直夏が連絡をした相手は、友理奈が慕っていて、自分とも面識の在るーーと言うより直夏の知り合いの、元交際相手だった。この人と知り合ったのは、友理奈と知り合うよりも前で、逆に友理奈の事はこの友理奈の会社の先輩の女性から紹介されて知ったのだ。仕事関係の知り合いと食事をしていたら、彼の携帯に連絡が有り、直夏と食事していると連絡を返すと、彼女は同じ会社で、現在新人の指導中だった~つまり友理奈を連れて、スグ達が食事していた店にやって来たのだ。『~なんか彼女が会社の後輩ちゃん連れて、今から来るって。~いいかな?』と聞かれて大丈夫だと答えた。


 友理奈の先輩も初めての新人指導係に緊張していて、恋人にアドバイスを貰おうと連絡して来たらしい。この恋人は小さいながらも、建築デザイン関係の会社の経営者だった。社員の指導はお手の物~と、思ったのだろう。見掛けによらず、意外と小動物系の女性だった。…二人が別れたのは…やはり、彼氏の方の仕事の忙しさから来る、どうしようもないーーすれ違いからだったらしい…。




 大和から見た弟ーー直夏は、大分焦っていた。額には薄っすらと浮かぶ滴ーー汗ばんでいる。『珍しいな…』 そう思った大和は多くは聞かず、直ぐに弟を家の中へと促した。



 「中に居るから、慌てるな」と。グイッと背中を押しやる。促された弟の方は、すんなりと兄に押されて中へと入る。久しぶりの我が家の玄関。……次帰って来る時は、友理奈を連れて、照れくさい挨拶とやらを親や兄弟にする時……等と、少し前までは考えていた状況とは、全く違った今のこの状況でーーーついついスグは、珍しくも玄関で大声を張上げてしまった。



 後ろでは兄が、玄関の扉を閉めた様な音がしたが、振り返りもしない。



 「ーっ、父さんっ居るっ?!」



 兄に中に居ると言われたばかりなのに、どうしてもそう叫んだ。その時背中に痛みが走った。




 「っ!って」 直が唸る。 気付くと、兄に背中を思いっ切り引っぱたかれていたーー



 「ーっ、いたいよ兄貴っ」思わず愚痴ると、珍しくもやや冷ややかなる声色の兄の言葉が、耳に届いた。


 「煩いから、まずは落ち着け。お父さん中にちゃんと居るから。」



 兄特有の、ゆったりとした、気分の落ち着く様な、兄らしい口調。なのに、一瞬ぞくりっとする程、なんだか直は怖かった。そんな兄を不思議そうに眺めると、家の中から、とても耳に馴染んだ、良く知った声がした。



 「どした、スグ?」と。




 振り返ると、日本に居ない筈の人が居た。直は又叫ぶ。


 「ーーーーっ!? ユウ兄ちゃんっっ?!」と。




 ごんっ




 ーーーいってっ





 叫んだ直夏は未だ後ろに居た大和に、再び思いっ切り殴られたのだった。……子供の頃なんて大和兄ちゃんの大事な物間違って壊しても……1回も怒られた事も無かったのに…なんでだ。




 しかも二回目は、背中では無く、後頭部だった。……地味どころか派手に痛く、……痛みが手伝ってほんの少し冷静に成ったーーーと思う。…多分だが。直夏は呼吸を整えてから、こう言った。




「ーーごめん、大和兄ちゃん、あのさ、……昨日喧嘩した彼女が居なくなっちゃって、行方不明なんだけど」と。






 どうやら未だ少し冷静では無かったらしい。 言い方。 言われた大和どころか、後ろに居た、父・夏央ナツオ、隣に住む幼馴染ーー『リツ』の父親の、華月カゲツ 陽藍ヨウセイ、それから何故か我が家に居たーー律の兄で、ヨウセイオジサンの息子の『友』兄ちゃん。



 皆してそれはもう、『……はい?』って顔してたよ。 …説明足んねーわ、俺。 …ユウ兄ちゃん救けて。



 思わず心中で救いを求めたのは、子供の頃から憧れだった今や有名アクターの、幼馴染で親友の、律の兄だった。 久しぶりに会ったせいなのかも知れない。




 「いや、あのーー」



 説明し直そうとすると、オジさんから、待てと言われた。オジさんが言うには、『それ、こっちのせいかも知れないわ』と言うのだ。…いや、意味解かんないから、オジさん…。とりあえず兄に促されて、家の中に上がった。 リビングには母が居て、『あら、お帰り~どした~』と、のんびりと日本茶をすすって居たーー母さん……。 オジさんに流石に、『夏美ナツミ、緊張感』と、咎められてたよ……因みにだが、オジさんが母を呼びすてるのは、幼馴染だからだと聞いた。それはうちの母の方も同じで然し母は父の事は『夏央君』と呼ぶ。語尾に…なんだか…ハート・マークが見える様な気にも為るのだがーー其処は敢えて気付かぬ振り、嫌、思い過ごしだろうと思う。


 そんな母は「緊張感って何よ」とか言いながら、茶を入れ始めてしまった。『飲むでしょ』と言わんばかりだ。気を取り直そう。先ずオジさんの話を聞かなくては。オジさんに真剣な顔して向き直ると、口を開いたのはユウ兄の方だった。



 「今、律が出掛けてんだよね。それで急遽オレがね、帰って来た訳。最終便ぎりぎり飛び乗って、由美の事なんて卓兄とかに頼んで来ちゃったよ。…まあ、最悪…リュウ兄が何とかしてくれるかなって。だって卓兄なんて、今や俺なんかより、全然忙しいもんな」とか何とか。



 …いや、ユウ兄ちゃんさ、…全然何言ってるのか分からないよ。アメリカ生活長過ぎて、日本語オカシクなったの?兄ちゃん…律が何だって?……何で律が出掛けて、仕事でアメリカ・エリアに住んでる友兄ちゃんが、わざわざニホン・エリアに帰って来るの? 律、普通にしょっちゅう出掛けてるけど?  俺とも時間が合えば、飯とか食いに行くしさ?  卓兄ちゃんが忙しいのは分かるよ。…今やアメリカ・エリアのみならず、世界中から注目されてる超、人気の所謂『スーパー・モデル』だし。スーパー・モデルって言うと卓兄は怒るけど。普通にただのモデルだから。ってさ。嫌、普通じゃ無いよ。あの人日本でも、『タクト王子』とかの異名が有って、おまけにヴァイオリンがプロ並みってかプロ。CD出てたら、それはプロだろ…卓兄ちゃん…当人が『趣味の延長。あくまで俺はモデルだからね。其処はプロね』…とか言っていたけど。……因みに隣の家の兄弟達は皆こんな感じだ……律だってモデルだしね。彼奴もピアノとか滅茶苦茶上手いしつうか、龍兄ちゃん、卓兄の双子の弟なんだけど、この人がプロのピアニストなんだよ。……なんなの、お隣はってヤツだよ。



 あ、でも律より下の弟達は、結構普通ぽいか。とか、思っていると、兄、大和が間に入ってくれた。



 「友、その説明だと、直夏には理解出来ないよ。ウチは直夏には、何も説明して無いんだーー俺達の事。」と。



 それを受けて、友兄ちゃんがやや目を丸くする。そして陽藍おじさんの方へ、視線を移す。


 おじさんは、溜息を軽くいてから、ウチの父ーーナツオの事を見た。父が軽い口調で『…悪い』とだけ言って苦笑いした。 うん、俺だけ意味が解らないな。 もう誰でもいいから俺に理解らせてくれ。 俺の立ち位置何処だ?  自分の実家なのに、借りてきた猫等より居心地が悪かった。


 この空気を破ったのは、母の淹れたお茶だった。「はいっ♪」と。『熱いからね』と。



 「で、ウチでも、とうとう? スグナに教えないと駄目なのかな?」と。



 俺は母の淹れてくれたお茶を、飲む気にもなれずに、友理奈を捜したいのに、何故こんな事に為っているのか解らなかった。……アイツ…もう既に……犯罪とかに…巻き込まれていたら…………



 俺の血の気は引くばかりだった……………友理奈、おまえ一体何処行った? 無事じゃ無かったらころすぞっっと、大分矛盾した事を考えていたーーーー




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