*陽藍*さんと*一 一(かずいち)*さん
ー * ー
「で?陽藍君? 今回は何、手こずってたの? お前らしくもなく。」
甲田 一一が、そう言った。華月 陽藍よりもやや背が高く、骨格も太い。月影 陽藍だった頃に近所に住んで居た、祖父通し、父親通しが、仕事の付き合いも手伝い、家族ぐるみで知り合いだった。陽藍はかずいちの前では『素』だった。隠しても見破られるからだ。陽藍は小さく言った。『さあね』と。だったらそうなのだろうと、カズイチは素直にそう思った。それ以上は聞かずに帰路についた。狐を連れて。友理奈も連れて来ようとしたが、やめておいた。そろそろ直夏が暴走そうだったからだ。そこ迄夢中で女に惚れた憶えの無い甲田 一一は、直夏を羨ましいと思った。
その途中で携帯が鳴った。翔平だった。『海の友達届けましたよ』と。
『其れから海の鞄も』「海の鞄? 何でだ?翔平?」『海が飛ぶ前に店に置いていったんですよ』と。
翔平はタウンタウンに飛んだ海の友人達を『回収』して、車で華月家に『お届け』した報告だった。家に着くと翔平が待って居た。
鹿島 悠緋、仲嶺 深織の他に、陸が保護した原 理、相瀬良 広陽も居た。原と相瀬良は陸と友理奈の居た『部屋』の目と鼻の先に飛んで来たので、陸が真っ先に『保護』した。海が友達を引き連れて、飛んで来たと報告を受けた陽藍は、念の為に唯一面識の有る巧を『向かわせ』た。巧が『着く』と、陸と友理奈の他に、海、悠緋、深織、原、広陽が『居た』が、陸が急に、「青が『余計な事』を始めた」と言い、友理奈と海を『連れて』飛んだ。
「巧、後任せた。『その子達』、宜しくね。じゃ」と言い残して。
説明はそれだけだった。流石、陸だなと巧は思った。全く解らないなと。
が、気が付いた。『気配』に。
「不味い、『律』と『直兄』だっ」と言った巧は、高校生達に、「今から『来る』ふたりに、適当に『誤魔化して!』」と、言い、「春斗さん!」と『呼んだ』。
『門番』、『三月 春斗』と、其の『弟』が、空中を扉の様に『開け』て、顔を出した。『其処』へ逃げ込む巧と、間一髪で、直夏と律が、『部屋』に飛び込んで来たーー悠緋達は内心で、『どうして空中に「引き戸」が「在る」んだよ?』と其の疑問で脳内がいっぱいだった。扉は引き戸だったーー『何でだ?』と。大した理由では無い。陽藍の趣味だ。それだけだ。
部屋に飛び込んで来た直夏と律を、悠緋や原が適当なやり取りで誤魔化し続けやり過ごす。たまに深織と広陽も参戦するが、実はもう伊織は其処に居なかった。友人が建物の『中』ではなく、『外』に居ると知って、既に建物外に、連れ出されていたからだ。陽藍に連れられて。外で伊織と『カナちゃん』を引き合わせた陽藍は、彼女等と別れてから、『学校』へ『戻っ』た。
律と直夏は、友理奈は『此処』に居る『筈』だと主張したが、高校生達は『手強』く、中々確信が掴めなかったが、そんな時『悠緋』の『脳内』に『陸』の『声』が『届い』た。其れは巧と『春斗達』にも聞こえていた。『陸』の『声』に依り、『代行』した悠緋に誘導されて、律と直夏は『学校』へと辿り着いたが、陸の仕業だとは気付いていない。
陸はふたりと『入れ違う』様に、友理奈を連れて戻るつもりで『誘導』したが、『巧』が来たので『ゲームは終わり』だと思った。
「陸兄? チェック・メイト?」と、律は言ったが、
「とっくに『終了』だ」と、陸は答えたのだ。巧は『狐』を見付けたが、律は気付かなかった。今回は『巧』の勝ちだよと。陽藍はゲームを楽しんでいた訳では無いが、ゲームの様なものだったろう。『駒』は『自分達』。『掛金』も『自分達』の、真剣勝負だが。負ければ、『命』を『犠牲』にしてしまう。故に『負け』は無い。
負ければ父親は自分の『生命エネルギー』全てを使って、犠牲を再生する事を陸は知っていたし、兄達も、弟達も知っていた『筈』だ。誰も口には出さなかったが。そして其の父の後を、母親は追い掛けて行ってしまう事も。
だから青が無茶をしようとした。其れを『友』が『阻止めた』。其処に『間に合った』陸は、友と青を『止めた』。「自分に『任せ』ろ」と。律と巧と海には言っていないが、陸も『ゼウス』だ。陽藍は『分散』したのだ。『ゼウス』と言う『力』を。此の星に『最高の神の力ーーゼウス』は、ひとりでは無い。『数人』居るのだ。時と場合に依り、自由に『其れ』に『成り』又『辞め』れる『存在』が、『数名』在るのだ。此の、名前の『無い』星には。
他の星の神々も、其処迄は、知らない。此の星の全員が知る事でも無い、些細な事実だ。陽藍が『創った』本物の最高神『デッド』が、『育つ』迄のただの『処置』で在る。陽藍と『仲間達だけ』が、知っていれば其れで良いのだ。だから陸は言わない。自分が『ゼウス』だとは。自分は飽く迄も『友』に何か『遭った』時の『代替品』だから。友が無事ならば自分がゼウスに生る事は無い。だから自分の『役割』は、『友』を『護る』事だ。それだけだ。
『青』は時々『なろう』とする。『友』に。役割違いの『友』に、『青』は『成れない』のに。
青なりに『友』の『負担』を減らしたいだけだが、青の『やり方』は『間違って』いるーー困った奴だと陸は思う。卓は思わない。卓は『冥府を統べる』者ーー青が死のうが、友が死のうが、『復活』させるつもりだ。其の力量を得る、保つ為の鍛錬なら、常に努めている。義兄龍は、そんな『無茶』な『四兄弟』の『守り神』だ。名前に依り、『西洋の竜』の力も『和風の龍』の力も、何方も『持つ』、者。『龍神』とは神では無く、神の使いとされる『精霊』で在るーーその上位の者、上位神で在る。
『三角形よりも、四角形よりも、御前等、五角形で正解な気がする』と、陽藍が昔言った。『五人居れば』安定するだろうと。世界を安定させる『為』に、五人は『在』る。
『律』の本当の『役割り』は、『音』を『奏で』る『楽器』を『造る』事。だが、当人は知らない。
『巧』を『造っ』た『目的』は、『酒の神』神話の『ヴァッカス』にする事。此れも当人は夢にも思っていない事。
『海』は何か?海は青の領域で在る『海』を、『託す』事を『目標』に誕生させたーーが、青に拒まれた。『空』だけの『担当』じゃ、『飽きちゃうよ』と。困った奴だ。陽藍は少し考えてから、『海』を『生命の誕生した場所』つまり『生命』の『生まれる』神としたーー未だ未だ未熟で、遠い遠い未来の『話』で在ろうが。海は『生命エネルギー』なのである。いつかはだが。
海は、今回、当人も『知らぬ間』に、弓削となつのとポンタを『救った』のだーーそれと『なつめ』の、『宝物』も。陸が気付いて修復しようとした時には、元通りだった事に気が付いた。海は其れを父か兄達の誰かが『やった』のだと思ったが、兄の誰も『海だよ』とは、教えなかった。未だ黙っていた方が良いだろう。もう少し『成長する』迄はと。
海のエネルギーが無かったら、誰も救えなかったのかもしれないーー『無傷』ではと、兄達は思った。『陽藍はとんでもないモノを造ったな』と。半分は母のせいなのだが、其れは誰も声にしない。ある意味父より、母が恐い子供達で在った。卓が母の『持つ』女神の力を殆ど『引き継いだ』のだが、それでも未だ母は恐いのだ。何をするかーー『分からない』ので。
陽藍が言うには『想像の斜め上』じゃ、無い。「其の斜めから、更に良く理解らん『方向』やらに、捻りを加えておけ。其の更に『予想外』だったりするから。俺に聞くな。俺が此の世で一番『分からない』のが友美だからな」と。成る程。さっぱり理解らなかったが、母がいつも『予想外』なのは『理解った』子供達だった。「誰か常に『張り付いて』おけ」と言われ、交代でボディガードをした。痴漢、ストーカー避けにも。その『護衛』からよくもまあ、散々逃げ出してくれたものだ。大概子供達の手に負えず、父が保護するーーそれが『母』だ。海が『ああ』でも仕方無い気がするーーと、彼等は思っていた。母には『言わない』が。
母が逃げるのは、父に『迎え』に来て欲しいからだ。父に『構って』欲しくて面倒事を起こす『海』は、良く似ていると彼等は思った。
「かずいち。」
電話を切った陽藍は言った。
「何?」
一一は応える。
「今日もやたらと平和だな」と陽藍が言ったので、「今日はもう終わるわw」と、かずいちは答えた。そうかと陽藍が返した。笑いながら帰って来た陽藍達を見て、翔平は呆れた。『アンタさっきと言ってる事が、違うよな』と。
「ボスはなんで『この状況』で、笑ってるんですかね?」と、翔平は言ってやった。
陽藍は返す。
「はは。俺の頭がイカれてるからだろ、そんなの。なあ、かずいち?」と。
「だ、そうだよ、翔平くん。お疲れよ。ま、逃げ出すのは『自由』だぞ。」と、カズイチは言った。
翔平は『逃げませんよ。愛人ですから』と言って、後ろに居た男子高校生達の目を丸くさせた。更に『一一さんにはやりませんよ』と続けたので、男子高校生達は、ドン引いたのだが、カズイチが盛大に笑って『陽藍くん、愛の逃避行するか?』と聞いて来たので、
「あ〜又今度な。今日は眠いわ」と、陽藍は言っておいた。かずいちは『わかった』と応えていた。
「とりあえず、『嫁』に殺される前に、『家』に入っとくか、なあ? かずいち?」
「賛成だわ。ほら翔平くん。命が惜しけりゃ早く入れ。」
「…………不謹慎じゃあ無いですか、其れ。海の友達びびってますよ?」
「「嫌、最初に怯えさせたの翔平 御前だろ」」と、陽藍と一一の声は仲良く重なった。
巧と狐ポンタは居たのだが、言葉を挟む隙の無い、掛け合いだった。巧は狐ポンタと海の友人達を促して、家に入る事にした。
今日を平和と言う父は、過去にどんな経験をしたのか気に為ったが聞かない事にした。
直兄は友理奈に『会えた』だろうかと、今頃気に成った。妃奈は実家に居るので、『僕は今日は此方に泊まりだな』と思いながら。
懐かしい香りがして、「あ、今日、カレーだな」と、巧が言った。




