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   裏、その3

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 「あ、…れ?」


 「……どうしたの?」


 「……うん。」


 華月 巧は大学校内キャンパスにいた。敷地内に在る、所謂学食イートコーナーだ。


 「………? 痴話喧嘩か?」


 巧が何やら様子が妙だったのだが、其れを妃奈が不思議に見ていると、学友からそう言われた。


 「…………違うよ。」


 巧は言った。妃奈と喧嘩等した覚えすら無い。


 「なんだ残念。」


 同じ学部の元宮もとみやが言ったので、巧は成程と思った。元宮 稜巳いつみ、彼はどうやら妃奈の事を好きらしいのは、巧も気付いていた。譲る気は無いが。妃奈は気付いているのか知らぬ振りをしているのか微妙な態度で、寧ろ気に留めていない様子だったので、巧も其れに倣っていた。今も彼は、誘った訳でも無く、当たり前にふたりの座るテーブルに躊躇いも無く座って来たので、本人は積極的なつもりなのであろう。裏目に出ているのだが。


 巧と妃奈は互いの両親と話し合い、籍だけ入れる事の運びと成った。式は挙げる予定だが、其れは流石に卒業してからがいいと、妃奈の希望で彼女の両親も納得した。とりあえず『しつこい』『したたか』な、『微妙』な、『アプローチ』は、『いらない』と妃奈が言うのだ。『はっきり誰とはーー言わないが』ーーと。


 元宮 稜巳は、中々賢い。故に、じわじわと様子を伺い、妃奈の『隙』を狙っていた訳だ。妃奈に隙は無いのだが。元宮から見た『巧』には、隙が『有る』様に見えたのだ。つまり、元宮は巧に勝てるつもりでいる。実際には勝てないのだが。


 妃奈が巧以外見ていない事は勿論だが、其れ以上とも言える位に、妃奈の両親が巧の事を気に入っていた。妃奈の本心を言えば巧の事を信用していたので、結婚なんて実はいつでも良いのだ。卒業してからでも良いし、巧が就職し、少し落ち着いてからでも勿論構わない。その時は自分も就職するつもりだ。その為の大学でもある。将来の自分の為に勉強しているのだから。はっきり言えば、『結婚』の形が無くとも、巧とずっと一緒ならば、それで構わないのだ。両親にそうとは言わないが。元宮が何を思って、巧を『下に』見ているのかが、妃奈には理解らなかった。


 どういう訳か元宮は巧の事を、『貧乏学生』だと思い込んでいた。理由は巧が『学部特待』で、『学費その他免除』な事だった。必死で勉強して特待枠に入ったと思われている。特待枠は学費免除の他に、学食の割引や、飲み物フリーパス券等の附与等、待遇が良い。出身校からの『推薦』迄付かないと得られない、高校の特待枠よりも難しく成る特典だった。元宮も『優良枠』ではあるが、それを言うなら妃奈だって優良枠だ。学費が割引かれるが、成績不良だと、枠を外れる恐さも有る。それで免除分の請求が来る訳でも無いが、来期の割引の適用外に成る訳だ。挽回するには、更に難しい試験や、レポート提出物の追加が待っている。試験を受けぬ選択肢や、レポート拒否も出来るが、其れは優良枠に戻れない事を意味する。優良枠からなら特待は狙えるが、優良枠から望んで外れた者に特待枠は与えられない。つまり『やる気』を見られている訳だ。


 優良枠の学生はそれなりの数がいる。一定の成績を取れば成れるからだ。特待枠は一定以上の成績の『維持』であるーーーーだからこそ難しかった。


 そんな難しい枠に常に入っている巧は、謂わば『可怪しい』のだ。必死で勉強して、其の成果が実を結べば学費のみならず、食費も浮く、更には場合に寄っては『研究費』と言う名の補助せいかつひまで支給される、特待枠、だから此れを狙っている貧乏学生は数多いる。その為であろう。

 研究費まで出れば、生活費稼ぎのバイトの時間も減らせる。寧ろレポート内容と成績次第では、バイト代より支給される。そんな仕組システムを作ったのが陽藍タクミのちちだと知らないーー知る筈も無い元宮は、そう思ったらしい。


 元宮 稜巳は、そこ迄無理な努力をする必要が無い、謂わば程々の富裕層ボンボンで在る。


 其れなりの財力をチラ付かせ、其れなりな高級品を身に付ける程度には富裕層セレブだった。



 巧はと言えば、実用性コスパ重視のよい、物を大切に使う主義、余り自分で物も買わないーー買い物好きの元宮と合う訳が無いーーが、妃奈目当てで、巧と交流を持とうとするーー持ち上げて来る性格の人物で在った。妃奈が其の元宮 稜巳に好感を得る訳も無く、悩んだ娘の相談を受けた両親からも彼は嫌われたと言う訳だ。



 彼女の両親は手っ取り早く娘の恋人の巧に、大事な娘が元宮に不快な事をされる前に、娘を娶って貰う事の方が、状況の打破には案外効果的なのではと考えたのだ。




 妃奈と巧は小学校の同級生だ。俗に言う幼馴染に近いのか。


 家同士が近い訳では無いのだが、同じクラスだった事が多かった。授業参観や保護者が参加する学校の企画イベントで、整った顔立ちの巧はお母様方の目を引き、目立つ存在であった事は安易に予想出来るであろう。おまけに賢い。母が特に覚えてしまっても無理は無かった。


 それからと言うのかその頃、此のふたりは一緒に遊ぶ機会も多かった。

 五、六人位の仲の良い仲間グループで小学生時代は良く遊んだ。ボールを追い掛け回したり、走り回ったりと。普通に仲が良かった。未だに其の頃のメンバーで会う事も有る位には。それから妃奈が恋心と言うものを意識する様に生ったのは、中学の途中でで在っただろう。


 その頃巧は実は別の中学だった。陽藍が学校を幾つか運営と言うか資金を出しているので、その中のひとつの中、高、一貫校に入学した為だ。因みに今通う大学の経営も陽藍である。

 巧は此処の経営学部で経営学を学んでいる。おそらく卒業後は、父経営の何処かに勤めるのだろ。強制はされていないが、経営学部への進学を決めた時、陽藍ちちは嬉しそうだった。

 他の選択肢も色々考えたが、巧は此のしんがくを決めた。



 妃奈と巧が偶然再会したのは、街中で、互いに友人達と居た時だった。その時はお互い連れが居たので、ほんの少し話をして、じゃあまたねと普通に別れた。それだけだった。けれどその時妃奈は、多分初めて巧を意識し出したーー筈なのだが、その時は『其れ』が恋心だとは思わなかったし、正直に言えば『気付かなかった』。巧と久し振りに話した所為で、心がほんわりとした心地に生ったのだろうとそう思った。

 そうして又偶然再会したのは、高校に入ってからだった。



 その頃は妃奈ももう、携帯電話を持たされていたので、連絡先を交換した。それで時々小学生仲良しメンバー再会で、又一緒に遊ぶ様に成った訳だった。遊びながら、お互いの意見を交換し合う内に、巧もようやく、ひと足遅くも『意識』し始め、付き合い始めるきっかけは其処だった。強いて補足するなら、『恋』に気付いた妃奈の積極性に引っ張られたと言えよう。

 因みに付き合う様に成って、その事に一番驚いた反応を示したのは、小学生の時の仲良しメンバー達だった。大分意外だったとの事。それを言われた妃奈と巧の方こそ意外だと感じた。そこまで?とーー。


 まさか、『其処キナ其処タクミラブロマンスが発生するとは思わなかったわ』と。

 妃奈も巧も何方かと言うとモテる。(当然だが)

 一緒に遊んでいても、その辺でうっかりひとりで待たせると、ナンパされていた。

 が、巧にしろ、妃奈にしろ、興味無さそうに(※実際無い)している姿を、幼馴染達は知っていたのだ。


 似ていると言えば似ているのだが、気が合うのか?と聞かれると、幼友達としては、やや不安だった。


 妃奈も巧も『独自の配分速度ペース』の様なものが有り、案外『子供らしかった』妃奈と、寡黙で頭の回転が速く、何処かしら『小学生らしく無かった』巧で在る。友人達は不安も覚えた訳だ。ふたりの会話を聞いていると、何処かが、『噛み合わない』と、子供ながらに思っていたからでーー


 けれどふたりにしてみれば、其れは『子供だった』からで、大人に成り掛けで『再会』してみれば、あの頃はどうしてあんなに『会話が噛み合わずに』お互い首を傾げたのかが、不思議な位だった。



 それから、

 巧が妃奈の父と初めて会ったのは高校生に成ってからだが、『華月』と名乗ると陽藍の息子だと気付かれた。陽藍の仕事の取引先の関係で父親同士は知り合いだったのだ。


 妃奈と付き合う前に、妃奈の家で食事を頂いた事があったのだが、その時巧は妃奈の父から、『じゃあ何か有ったら巧君に(嫁に)貰ってもらおう』と言われた事が有った。あの時冗談だと思ったら、まさか本当に成るとは思っていなかったので、巧はふと思い出してくすりと笑った。



 「巧君?」


 妃奈の声がして、我に帰る。ああ、ごめんと巧は応えた。その時巧は『なんでケモノ臭いんだろう?』と考えていたのだーー何処から臭ってくるのかと。元宮が『痴話喧嘩』等と余計な一言を言わなければ、『尻尾』が見えたかもしれないのにと。

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