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 急に海が立ち上がったので、メニューを見直していた原 理は思わず仰け反った。海の隣に座って居たのだ。反対側に居た相瀬良と、その横の仲嶺、原の横に居た鹿島も、面食らって居た。海が唐突だったもので。


 彼等は海に聞きたい事が色々在ったので、毎回家にお邪魔するのも、あれだからーーと、寄り道しに此処、カフェ、リムネットに来た訳だった。然し、当の海本人が、気が何処かに行っていたので、中々話せずに、黙々とケーキやパンケーキを平らげて居たーーのは、美味過ぎた所為でも在るのかもしれないが。時折『美味い』『やばい』『幸せ』等の、『女子かっ』と突っ込みたく為る感想は言っては居たが。



 そして。



 黙々と食べながらも、原が気が付いた。気に成って見ていた『リツ』が、相席の男と頼み、運ばれて来たのは、メニューに無い筈の『料理』だった。イギリスのティーハウスをイメージしているらしいカフェで、何故か出て来たのは、『ナポリタン』と『ピザ』だった。


 そもそも。陽藍に言わせれば、お茶イコール『イン ワンダーランド』のイメージで、『隠れ家』的茶屋にしたかったので、カフェーーつまり海が言った様に、『カフェ』だと仏だから、カフェじゃ駄目だろ。せめてティーハウスだろ。テーマは物語りに出て来る『茶会』だけどな。イギリス式な。とは言ったのだが、日本エリアにはあまりイギリス式ティーハウスの印象が根付いておらず、結局『カフェ』にされてしまった訳だ。ティーハウスの認知度のアンケートを取ったら、予想より大幅に認知されていなかった。


 陽藍の『拘り』としては此処は『ティーハウス』なのだが、『……売れるならもう、多国籍で良い……そもそも国籍取り払ってエリアにしてみたの、俺(達)だし。』と、売り上げの為なら開き直り分かり易く『カフェ』を謳っている訳だ。


 流石に和菓子は置いていないが。人気が有る洋菓子なら、ひと通り在るーー其れが此処、隠れ家的カフェ、リムネットだった。つまり甘党女子の心を掴みまくっているが、それに付き合い男女の組み合わせの来店も多いと。少ないのは、律と直夏の様に『男2人で』や、自分達の様に、学生服、男のみ、複数でだろう。浮くかと思ったが、店主が店奥の此の席、円卓でも正方形テーブルでも、長方形テーブルでも無い、半円形テーブル席になっていた、此の席へと通してくれた所為でも在ったのだろうと彼は思った。中央のテーブルに通されていたら、多分俺達は目立っていたなと。思った以上に女子しか居ないよと。何故そんな場所の目立つ席で、人気モデルが男とふたりで『仲良く』お茶しているのか〜と、原 理は不思議で不思議で仕方無かった。


 しかも先程店主もだが、律本人と連れの男が、海を知っている風だったのも気に成った。海に聞きたかったが、海がうわの空で、質問しても話が進まずに、諦めて黙々とお茶していた訳だ。



 やっぱりさっき、店主が『律の弟』と、はっきり言ったよね?と。原が言いたいことは、皆分かっていたが、今日の授業だけでも疲れ切っていた海を、少し放って置いてあげようと、他の面々は思っていた。聞きたい事は聞きたい。が、無理に聞いても面白く無い。因みに弓削は、拗ねて帰ってしまった。友と卓の事を、先に教えておいて欲しかったのだろう。それは確かに彼等も驚きはしたが、海には海の事情だって有っただろうとそう思った。


 海には光明は、用事で今日は帰ったと誤魔化した。いつまでも通じる誤魔化しでも無いのだが。


 加野は拗ねた訳では無く、本当に用事で此処にはいない。塾が有るらしい。『無い日に誘ってくれ』と言っていた。


 さておき。原は思った。メニューに無い筈のナポリタンにピザ。理は今日は何となく甘い物の気分では無かったので、ピザが有るなら、ピザやナポリタンの方が嬉しかったのだ。ミッキー・バーガー〜チェーン店のハンバーガーショップ挙手は、1対4で敗訴した。


 それで『なんでピザ?』とか言いながら薫りに負けてもう一度メニューを捲っていたら、急に海が立ち上がって、ふいを突かれて思いっ切り驚いた所だった。それでメニューを握ったまま、仰け反ったのだ。




 「…どしたの華月…えぇえぇえ〜」と、原は思わず可笑しな声を上げてしまった。


 海が器用に椅子とテーブルの間を抜けて、律の前まで行ってしまった。止める間も無く。



 「海? どしたの? あ、食べたい? 美味いよ。翔平さん、流石。イタリアン本業だけあって。はい、あ〜ん。」


 「律、それふざけすぎ。後、人前な。気にしろ、人目は。お前一応モデルだよな?」


 「は? 家で普通に海、こうやって食べるし。俺は真面目に『お兄ちゃん』やってるんだけどなあ〜あ〜スグは『末っ子』だから、理解らないね。仕方無いね。海、ピザ食べる?」


 「お前今、さり気無く、俺に喧嘩売ったろ。買うけどな。何時いつがいい? スケジュール空けとけよ? 痣作ったら仕事に成らないもんなお前。」


 「待って。なんで喧嘩始めたの? ……何してるの? ふたりで。 ……此処ここで。」



 海は本当は、メニューに無い『まかない』を、堂々と店の中央で(良い匂いさせて)食べるの止めて。目立ってるからと、言いに来たのだが。其れを忘れて突っ込んでしまった。



 「ん? してないよ喧嘩。なあスグ?」

 と、あにが言った。直夏に声を掛けると、


 「喧嘩してるのは、お前と律だろ。」と、言われた。海もしてないと答えた。




 「律兄が俺の事、怒ってるだけだもん。喧嘩じゃないよ。」


 直夏が律を指差した。海は其の仕草を行儀が悪いなと思った。『直夏、其れ、行儀悪い』と、律が言ったのを聞いて、海は何だかほっとした。




 多分海は律がこういう人だから、好きなんだと思った。



 「此れ、怒ってる態度じゃ、無いだろ。」




 「………………? 何言ってんの? 直兄ちゃん。 律兄は怒ってるよ? 俺……、僕が怒られる事、したから。直兄もあの時居たじゃんーーーじゃ、なくて、店の真ん中で目立たないでよ。なんで此処で賄い食べてるんだよ………ふたりして。律兄ちゃん目立たせないで。ファンに囲まれたらどうするんだよ。………………怪我とかしたら困るんだよ。」





 「…………目立ってんのは、お前だろ。 なあ………律、海のヤツ、背、伸びた?」


 「なんで直夏は、俺に意地悪するのかな、直夏君? 『ボク』はお父さん命令で、此処半年、海に会えなかったんですけど? 合格祝いも卒業祝いも、入学・祝いも・出来なかったんですけど? あ、やばい、此れ海に言っちゃ駄目なヤツだ。 海君。〜記憶リセットしといて。」




 「………律、……………お前馬鹿だろ………。海、忘れとけ。悪い事言わないから。」



 海が何言ってんの??と、言うよりも前だった。ばちっ と言う音を聞いた気がした。




 『………馬鹿………』と言う聞いた事の有る声が聞こえた気もしたが其れよりも海達は『何処か』に飛んでしまった。




 食べ終えた皿と食べ掛けの料理を其処テーブルに残して。

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