【閑話 ‐ Ⅲ.】 母上〜陸に説教(※話し合い)される。
「はい。じゃあお母さん、言い訳があるなら『どうぞ』」
愛しい筈の息子ーー『陸』が、私を睨む様に見据えたポーズでそう言う。陸君てば、陽藍さんそっくり。流石親子だよね。昔は可愛いかった………け? あれ? 陸って子供の時から何考えてるのか良く分からなくて。 良く泣いて暴れたよね〜そう言えば。 卓が良い子過ぎて苦労しなかったから、………育児ノイローゼに為ったんだった。陽藍さんにも心配掛けたなあ…あの頃。
卓も気を使って、『弟が欲しいって言ったボクのせい。』って言って。『お母さんごめんなさい』って泣きそうになって。はあ。懐かしいねえ、陸君、卓君。
「…お母さん、聞いてますか?」
陸が再び言った。母友美は聞いていない。
陸は誰に似たんだろうと思ってたら、陽藍さんが『俺に』だろうーーって言って。『昔、陸どころじゃないーー問題児だったよ。かずいちに聞いてみろ。本当だから』って。
「お母さん」
過去の物思いに耽っていると、息子の『洸』君に呼ばれて振り返る。
「なに? どうしたの? お腹空いたの?」
自分でも時々驚きたくなる位の『猫』被り具合であるなと思うけれど、陽藍さんにそうしてろと言われているのだから、仕方が無い。息子達は知ってるしね。『本当の私』を。
洸君が『うううん、違う』と言い、見ると『お客様』をつれて居た。
「あら、なんだ、『かずいち』さん。」
旦那様の『幼馴染』一一さんだった。漢数字の『一』を二回書いて『カズイチ』と読む。珍しいので、初見で読めた人は居ないんだと、昔、陽藍さんが嬉しそうに話していた。
私は、かずいちさんに内心嫉妬してる。初めて会った日から、今の日までずっと。何度死んで生まれて来ても、ずっとずっと嫉妬してる。かずいちサンは、『彼』を『一番』『理解って』居るーー存在だから。居なくなったら困るけどね。
かずいちサンは、『良い人』過ぎるのよ。私と陽藍さんは『同類』なの。かずいちサンは『光』の存在ーー
私は『闇』。寂しかった『私』は、必死に『縋って』陽藍さんを『此方側』に引っ張り込んだ。
自覚位在る。優しい『あの人』は、賢い『あの人』は、『分かっていて』私と在るーー事を選んだ。違う『選ばせ』た。狡くてせこい女だよね。悪女と言われようとアバズレと評されようと、私は自分を『変えられ』無いーー
「お〜い、友ちゃ〜ん?」
一一さんの間延びした声で我にかえる。「え?」と、引き攣った笑みで取り繕うーー多分、繕えていないーー
「カズイチさん、お母さん『無茶』したから『疲れて』る。ーーごめん、休ませるね。」
陸が言った。ーーいつの間にか私の息子はーーこんなに立派に成ったのだろうか。
古い記憶の私は、無理をし過ぎて早くに『死んで』しまった。陸はその時、中学生だった。
弟の『友』は小学生で、末っ子の『青』は幼稚園にも行っていない確か未だ………三、四歳で。青を『身籠る』つもりも無かった『私』。油断と言えば『油断』だ。けれどあれは『本当』に『油断』だったのか。私には血の繋がらない兄と、その息子がいて、兄の亡き妻の『妹』とその『夫』と、義理の『甥っ子』を、『預って』いた。甥っ子が私に『好意』を寄せていた事も、『妹』の夫、つまり『義弟』が私に『恋心』に近い感情を抱いている事も、どちらも知っていたーーけれど。結婚して子供がいて、『おばさん』に成った私に、ましてや自分達にも結婚して出来た『妻』がいるのに、『未だに』そんな感情が在るなんてーーと、『気付かぬ』振りをしたーーそれが『間違い』の原因だった。
仕事の為に甥っ子ーー『シュウ』は、陽藍さんを頼って上京して来た。上京と言っても実家は横浜。そもそもシュウは陽藍さんを気に入らない素振りだったのに。大人に成ったのかと思う事にした私と、シュウの気持ちを『汲んだ』陽藍さんと、そんな陽藍さんに段々『懐いた』甥っ子に『油断』した私。キッカケは『義妹』の夫、義弟の行動だった。シュウの『居候』をキッカケに、義妹と未来の義弟『タクマ』が釣られて上京して来た。シュウだけ『居候』させては『狡い』と。義妹とタクマは『東京』で就職先を見付けて、我が家に転がり込んで来た。私は反対したけれど、陽藍さんは受け入れてしまった。元々私達の『友人』が『ふたり』居候だったせいも在る。
『他人居候させて、自分達は何故駄目なんだ』と。彼等の言い分。言い返せなかった。
私はタクマのした事をーー責められない。あのこの『純粋な気持ち』をーー傷付けてしまったからだ。
ただ、その事を『知る事』と為った甥っ子……シュウが……親友タクマと私との『裏切り』の行為に……逆上してしまった。それが私には『計算外』とも言えた。
シュウの事もタクマの事も、我が子か『弟』の様に気に掛けて面倒を見てくれていたーー陽藍さんが『気が付いた』時にはーーもう『遅かった』。私は『青』をーー『身篭って』いる事に『気が付いた』。
誰が父親か私には分からない。堕ろせばいいのかも分からない。陽藍さんに説明も出来ないーーそんな中で、私の夫は『全て』気付いていたーー。
彼なりに悩んだ彼は、父親は自分だと『言った』。妻の『私』が妊娠したのだから、『父親は俺だ』と。それが嫌なら『堕ろして』良いと。
ただ、『人一倍誰かが傷付くのも嫌な、誰かを傷付けるのも出来ない友美が、堕ろせるのか?……出来ないんだろ?そんな事なんて。』
『多分ーー嫌、絶対俺の子供だからーー安心して産めよ。お前が駄目なら俺が育ててやる。』
………………………陸にさんざん、『おとうさんが約束やぶって、遊んでくれない』って、泣かれてばっかりいたのに。休日って何?って言いたくなる程の仕事人間の癖に。仕事、大好きな癖に。自分の仕事に誇りが在って、……………部下に凄く…………慕われまくってる癖に。……『社長』の癖に。従業員路頭に迷わす訳には行かない癖に。………………何言ってるの?『気付くのが遅くてごめんな』。
そう言った『陽藍』さんが、泣きじゃくる『私』を腕に抱きながら『慰めて』くれたのはーーつい昨日の事の様ーーとは、いかないみたい。
「陸、大丈夫だから。かずいちさん、どうしたの?旦那様ならいないけど?」
私は平常心を『装う』。
かずいちさんが、何故か呆れた顔をして呆れた言い方を『する』。
「知ってるよ友ちゃん。だから来たんだって。陽藍いないんじゃ『不用心』でしょ、この家。」
「………大丈夫よ」
かずいちさんの言葉にーー辛うじてと言う感じの言葉が出たーー。一番驚いたのは誰よりも『私』自身だ。「陸、いるし。ねえ、陸?」
『洸』も『悠太』も『居る』ものーー『大丈夫』よ。
かずいちさんの『…。意地っ張り。(だな。)』と言う声と溜息が聞こえた。ーー大きな御世話よ。
私だって『成長』してるの。『青』を置いて、『死んで』しまった『あの時』とは違うの。
もうそんなに『弱く』はないの。
青が未だ三歳位だった時に、陽藍さんが『シュウ』に仕事を『丸投げ』して、…辞めて来た。
秘書にシュウを社長にする様に『推し』て。駄目だと言うなら秘書さんに『じゃあお前でもいいよ』と。青が産まれる前から、ずっと『社長』を『辞める』準備をしていた彼は、抱えていた仕事を全て切り良く『引き継ぎ』、其れに約『四年』の歳月を掛けて。『社長』を辞めて来た。
私の為に。
躊躇う私に『旅行に出掛けよう』と言い出した。思えば新婚旅行にも行ってないと。
『彼』に『連れられて』『初めて』行ったーー家族旅行で。私はーー『死んで』しまった。
感染症に掛かって。抵抗力の低い子供や高齢者だと命に関わる感染症だと言われた。新型だったのでワクチンが無かった。自身の免疫力が高ければ、助かると言われたが、私は駄目だった。情けなかった。
陸は未だ中学生だった。
友はーー小学生だった。
青はーー四歳に成るーー少し前だった。
卓と、養護施設で出会って、陽藍さんが『引き取って』養子にしたーー竜、改名して『龍』になったあの子達は、大学生になっていた。………初めての『家族旅行』だったのに。ごめんねと言った声は掠れて、卓が来たがった『イタリア』で、『大丈夫だから、帰るまでには治るから。皆、観光に行って来て?』
そう言えないまま、私の『その時間』は終わりの時を告げた。
そして覚醒めるまでずっと『眠って』いたのだ。
気付くと『覚醒めた』のは、陽藍さんに近付く『女性』が『現れ』たからだ。嫌だったーー青が未だ幼子なせいで、陽藍さんの周囲が『再婚』を薦め出した。私の『為』に社長を辞した事を知っていた彼の元『秘書』が、『復帰』を願う。ーーやめて。その人は疲れてるの。
やめて。どうして皆、本人の意志を汲まずに『再婚』ばかり薦めるの。『前向きに?』
やめて。お願いだから『彼』を『休ませて』あげて?
今までずっと頑張って来たのだから、もう『のんびり』させてあげてよ。『天才』だから何?天才だとひとの3倍働かないといけないの?
魅力的だから何? 魅力的なら『再婚』を考えないといけないの? どうしてよ。
お願い。私からその人を『奪わない』で。私の理解者は陽藍さんだけなのだからーー
気が付くと。私は。『魂』だけの『姿』で、『彼』の前に『いた』。
新しい『事業』を始めた『彼』は、従業員をひとり雇ったのだーー女性だった。優しい彼にーー心を奪われない女性はーー余り居ないだろう。彼に『迫って』いたーーその女性を見て、私は、朧気な『魂』で在った事を言い訳にする様に、女性の魂と『身体』とをーー無理矢理『引き剥がして』しまったらしい。そんな事が出来たーー理由は、後に知る事に為る。
呆気に取られた『陽藍さん』が其処にいた。私は縋る。一緒に来てと。今思うとぞっとする話だ。多分光源氏も驚きそう。……私に。
結局、その時『どうした』のかと言うとーー『彼』は笑って、『私』と共に『来た』。……………正直、『あの人』、頭可笑しいと思う。………………やったのは私なんだけど、そう思う…………………。
今は笑い話に『する』けれど、『笑い話にしてはいけない笑い話』でもあるーーごめんなさい、私ーー『前科』有りです。今でも旦那様には事ある毎に『散々』言われますよ。『恐い女』だって。笑いながら『言う』あなたの方が、よっぽど『怖い』わ。
「俺が『どうした』って、奥さん?」
唐突に憎さ百倍の『彼』の声が『した』。陽藍さんがいた。ん? 誰の頭が可笑しいって?
と、言いながら私をからかい喜んでいる。愉しそうに。
「陸、友に『説教』は『無駄』だぞ? なにしろ『ひとの話』なんかーー聞いて無いからな。」
と、息子に言う旦那様。
ーー聞いてますけど? 旦那様。
かずいちさんに声を掛けた『彼』は、又『行って』しまった。
ねえ、旦那様、『其れ』だけ言いに来たの? ねえ?
カレーじゃなくてビーフシチューにすれば良かった? それとも可愛い振りしてホワイトシチュー?
普通に和食? 肉じゃがとか? 意表をついて、オムライス? って、これは違うか。
私は陸に向かい『聞いて』みる。
「………ハンバーグだったかな?」と。一ヶ月振りに晩御飯作れる時間に帰宅出来たのに、『居ない』旦那様のーー『広い』家。他所の『女神』に構ってばかりいると又、『私』が『キレます』よ?旦那様?
洸の声が聞こえた。『陸兄ちゃん? ………なんかお母さんの雰囲気が……………怖い…………よ?』と。
あらやだ洸君。ママは恐くありませんよ。優しいでしょ?洸君には?もう、やだな。ねえ?
陸の『今、怒だから逆らうな洸ーーカズイチさんと悠太もね?』と言う台詞がーー聞こえたけども。
いいですか、旦那様。あと『30分』で『戻ら』ないともう一度『お迎え』に『行・き・ます』からね? 今度は『無理矢理』引きずって来るから『覚悟』して?
陸の『お母さん………穏やかに…………行こうよ?』と言う台詞が聞こえたけど『聴こえない』事にした。
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