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Ⅱ ‐ nd.  ― Ⅶ. ‐ Ⅲ. *直夏×異世界*その3

 日が昇るのを自然に感じた直夏と律は、どちらとも無く起き出す。吊られたのか『犬似』も起きた。直夏は律から『差入れ』の『朝食』を受け取り、口に入れた。犬が物欲しそうにしたので、少し与えてみる。




 …食べている…。まあいいかと思い『外』に出る事にした。



 『外』に出たふたりは犬似の其れに、人目に付く前に行く様に促すーーが、犬は行かない。

 律と直夏は顔を見合わせた。



 「……?行っていいぞ?」直夏は再び促してみるーーが、やはり行こうとしなかった。


 再び顔を見合わす律と直夏。余り犬一匹にかまけて居る時間も無い。ついでに言うなら、犬が誰かに見られても、ふたりは構わない。困るのは犬の方だろうに…。何故だ?とふたりは思った。



 律がああと言って、こう言った。『さっきの食べ物なら、もう無いよ』と。嘘だったが。直夏も『ああ』と思った。ーーが、行かない理由は他だった。



 『違いますよ』と犬が言ったのだ。自分は此の世界の神の使い魔だと言う。『神』に『直夏の監視』を言いつかったが、手違いで『襲撃』になってしまった事。ーーそれらを話す。


 「ーー自分がこんなにも『弱い』とは思っていませんでした。『長』は失格でしょう。アナタに仕えて『強く』なりたいーー『祖』のように……」と、『犬似』ーー幻獣が言う。


 しかしそう言われても律にも直夏にもなんの事やらなので……



 「「じゃ」」とふたり仲良く『犬』に言った。背を向けて。



 「?!ガン無視〜っ!?ひどい、ひどすぎっ、ちょ!」とか。


 ふたりの『背』からは聞こえたが、気に留めなかった。『犬』はちょっと可愛いが、あんなの勝手に連れ帰ったら………確実に各々の父から大目玉だろうと思ったのだ。


 律と直夏はきゃんきゃんと言うBGMビージーエムを聴きながら、『ソ(※祖)って何?』『さあ?』等と会話していた。



 そしてその後、無事に友理奈を回収した直夏は、大和と友と『再会』し、『帰宅』した筈だった。



 あとは『海』と『巧』が『律』に『回収』されれば何も問題無かった筈なのだーー




 けれど『目の前』で友理奈が消えたーー

 腕の中に未だ温もりが残っていると言いたい程の『隙間』に。『目の前』で。






 ※ ※ ※




 「ーーで、なんでおまえが又居んの?」直夏は苦虫を噛み潰したとはこの事かと言う様な言い様だった。



 目の前に見覚えの『る』犬が居た。背中のちっちゃい『羽』がパタ付く。ぱったぱった。


 やや呆れた声は言うーー


 「……聞いていいか?…………その背中のは…………。羽でいいのか?」


 犬は頷いた。


 「………此の世界の犬って、羽があるのか」直夏は独り言の様にそう言う。


 「いえ?『犬』にはないでしょうね?わたしは犬ではありませんから。」犬は言った。


 …まあいい。直夏はどうでもいいので、聞き流して聞かなかった。



 そこに『空気を読まない』存在が『向かって来た』。数は複数。速さはある。ぴりりとした『空気』が流れる。殺気を切り返すのは『殺気』しか無いだろうーー直夏はやや諦めて観念したのだがーーその『観念』は『無駄』に終わった。




 犬では無い犬が全て倒してしまった。その場を動きもせずに。


 「…それは『魔法』か…?」直夏が苦い声を出す…。犬では無い犬が頷く。『はい』と。


 犬は強かった。犬では無いが。『…売りますか?』皮肉かと思う疑問を口にしながら。そうかと聞いたら否定された。犬は良かれと思ってしただけだった。




 「あなたの方が、お強いではないですか…自分等よりずっと遥かに。」『主』に忠実な『下僕しもべ』なだけでったーー実際、直夏は『犬』の『主』では無いが、犬似はもう直夏を『主』だと『認識』して居たーー『忠実』故に。





 佐木 直夏ーー彼は、再び『友理奈』が来てしまって居る『世界』に立っていたーー。『来たい』とは思った。が、来れる筈は無かったのだーー『一人』では。直夏ひとりでは、来る事は叶わぬ筈だったーーその筈が、それは時を父と陽藍に窘められ、自分の部屋へと引き篭もって居た時刻へと遡る。何時間経ったのかが分からぬ頃に、部屋の扉が叩かれた。返事をせぬとも入って来た。声を掛けたのは母だった。



 「…直?」母夏美が、声を掛けながら入って来る。


 直夏は顔を天に向け腕で何かを遮る様に、そのまま動かなかった。入る前からその姿勢だった。母の声は聞こえている。


 「はい。食べなさい。おにぎりにしたから。後スープ。って言うより、普通に味噌汁。インスタントだからワカメね。後ほら、直夏の好きな玉子焼き。奮発して出汁巻きと甘いのどっちもよ。」と、母が言う。




 ………奮発?直夏は不謹慎にも自然と笑った。


 「はい。とりあえず食べて。食べれる時に食べないと、動きたい時、動けないよ。」と。


 「………桃缶…って、おれは『風邪』かよ。」目を開けそれを見ると、鼻をつく匂いで気付いたのは、『定番』の其れだった。やはり思わずふっと笑った。



 「…笑ってないで、食べなさい。…まあ、陽藍達の言った事は、…気にしないでいいから。」と母に言われた。とりあえず思考回路が休息して、玉子焼きを手で掴んだ。口に入れると出汁巻きだった。見た目じゃ分からないな…と直夏は思った。母に諭される。『ほら、お箸。使いなさい。』子供じゃあるまいしと呆れる母の声。直夏は指に付いた出汁の風味を行儀も悪くひと舐めしてから、母に言われた通り、箸を掴む。手に取り食べ始める。『どの道おにぎりって、…手掴みなんだけどな…』と思いながら…。




 デザートの『桃缶』までしっかり食べてから、母の声を静かに聞いて居たーー。


 「お父さんには…言えないけどさ」


 「…うん?」


 「直夏の気持ち分かる。」


 …。「うん?」



 「ーーだから……直夏が『行きたいなら』、…私は止めないかな?」と、母が言う。



 直夏にはちょっと意味が理解出来なかった。


 「……俺は『行けない』んじゃないの?」と、直は聞いてみる。


 母はこう言った。


 「…だから…お父さんには『言えない』って言ってるじゃない…陽藍にもね。」と。


 直夏は意味が分からずに首を傾げた。


 『行けない』訳ではないーー『いかせない』のだとーー。


 母の話を聞いて、直夏は自分に『出来る』『可能性』を考えていたーー。しかし、母に『とりあえず今日は寝なさい?』焦っても事態は変わらないからと諭された。『律』を宛てにするしか無いと。『今のところはね。』と、母は言ったのだ。



 「ーーとりあえずね?何かの時は、…お母さんはすぐの味方になってあげるから、今は納得して?ーー暴走しないでね?ーーいい?」と。『考え過ぎないで』と言われた。




 そう言われた直夏はーー『眠りについた』ーー筈だった。寝ているのにそれは『目眩』の様な感覚だった。そして目を開ければ目の前に居たのは『見覚えの在る犬』の奴だったのだ。




 別に御前には会いたい訳では無いーーと思った直夏はこの場合辛辣なのか非道なのか人でなしなのかはーー時と『場合』にも寄るのではないかーーとは、思われる。



 言葉は悪くとも恐らく悪気は無いだろう。彼はしつこい様だが友理奈の心配しかしていなかった。それだけだ。




 母の言葉でやや肩の力の抜けた彼は、幸いなのか否か、『転移』を自力でやったのだ。ただそれが『無意識』だっただけだーー辛くも『其れ』は、『友理奈』と『同じ』状態だったとは、ふたりは知らない。





 無意識に転移した『彼』に先ず起きたのは、出会い頭の『犬』では無く、『エネルギー外で在るエネルギー』の彼ーーつまり佐木 直夏を『排除』しようとする『エネルギー』つまりは『自然のことわり』だった。




 其の世界の神の許し無く『異世界』に入り込むとどうなるのかーー『神々の決めたルール』はーー




 『排除』と言う名の『災害』として、『襲って』来るのだ。直夏の『場合』はーー





 際限無く襲い来ている『見た事の無い数』の獣だった。『幻獣』が『止める』間も無い程の。




 対象と為るエネルギーによって、『災害規模』が変わる。友理奈が『冒険者達』に異様に追い求められるのも其の『災害』ならば、直夏に対する『此れ』も『ただの災害』で在るーー此の場の星神が関与する事が出来ぬ理の。だから此の星神は思ったーー自分の部下為る使い魔はーー『今度こそ駄目だ』ーーと、






 『すまぬ』と。自分の情けなさを呪いながら。






 「神 るものがそうーー簡単に、己を呪うものじゃあ無いぞ。って大分前にも言ったな。」






 青褪めた星神の振り返った先で、その台詞を言ったのは、会う事がこれで『3度目』の、誰よりも強い神であったーーーー




 「…………、ーーー、陽…藍っさ…ま…っ、!」神が泣いたのは此れで2度目だった。






 「残念だけど、安心しろ。……『うちの』直夏君は、あの位ではどうとも為らないから。」



 と、陽藍は余裕の表情でそう言った。


 言われて『其処』の様子を見ると、………『強すぎる神の息子』は、星神の使い魔を救けながら、……見た事の無い数の『獣達』を苦も無い様子で昏倒させて行った。さながら魔法使いの様に。手刀を受けた獣達は、疑いたく為る速さで、次、次と眠りに『ついた』。一帯はまるで其れ等の『絨毯』の様だったーー。




 その後に平然と立つ、他星の古代神の息子は、傍らにいた『無事』な『使い魔』をひと撫でし、何か言われて神の使い魔は其処を立ち去った……それが友理奈と再会する前の、直夏に起きた『些細な事』だった。





 流石に少し疲れたなと言った彼は「ーー運動不足だな。」……残業続きで……とだけ言って、『友理奈の気配』に向かって歩き出したーー。




 彼は…化物ですか……と『陽藍』に聞いてみた……。



 「うちじゃ『宵の口』だよ」と美し過ぎる造形物の様な彼は、愉しそうに『微笑んだ』。



 魅了出来ぬ物等無いと言える様な其の顔で。





 ※ ※ ※

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