Ⅱ ‐ nd. ― Ⅶ. ‐Ⅱ. *直夏×異世界*その2
佐木 直夏は街の外壁らしき門の前に居た。辺りは真っ暗だった。
ネオン等と言う代物の無い此の世界で、『トウキョウ・シティ』日本エリアの首都部で生まれて育った直夏には、此の暗闇は余り馴染みの無い景色で在った。「まあ、いいけどな。」と、気にもしなかったが。
不意に手に持った『其れ』を『その辺』へと放り出して。どさっと地に落ちた音と共に彼が言う。
「おいーー起きろ。」と。
言われた『其れ』は、『神』の『言い付け』を破り、身を起こす。其れがひとの身で在ったならば、其れは言わば『正座』だった。犬似の獣は身を正す。
「どうも、はじめまして。」と挨拶をして置く。己が身が大事だ。
「…話せるのかよ…」と、直夏の呆れた声が聞こえた。
「!お気付きでは無く!?」犬似の獣ーー神の忘れし『幻獣』が、慌てふためく。
「……おまえって……犬?」「突っ込みそこ!?」犬似は思わず突っ込んだ。
「…金が要るから売り飛ばしていいよな?」「そして非道!?!?」犬はーー悲鳴をあげていた。きゃいん!?と。
暗闇で門の閉まった街へは入れない直夏が犬相手に茶番を繰り広げて暇な時を潰していた頃、
遠い空にて、
それを思い出した神は『其れ』を見ていたのだが、……『無理。あきらめよう。』自分に直夏を倒す力も、使い魔をこっそり助け出す『力』も、『無いなあ』と悟った神はーー「ごめんな。」と使い魔幻獣のボスに、そっと手を合わせたーー「なむ。」と。何処かで聞きかじった『祈りの呪文』を唱えながら。『不甲斐ないオレをゆるしてくれ。』と、薄情な呪文をーー。非道は此方だった。神よ。
がんばっていつかーーおまえをさくっと(格好良く)救けれる神目指すからな〜許せ。……いやまあ、無理か流石に(笑)
どうしようかと思うと、直夏の前に、『救いの手』が現れた。
すっかり間に受けて怯え、尻尾も耳も下げて項垂れた『犬』をどうするかーーまあ、色々聞きたいんだがーーそう思ったその時、ふと名を呼ばれた。
見知った声に視線をやると、其処に律が居た。
律は、犬らしき動物を怯えさせて居るーー直夏を見てーー『…何してんの…』と、呆れた声で問い掛けた。
「ちょっと『ごっこ』を。」と直夏が言うので、それを聞いた『犬』が何故か『きゃいんっ』と鳴いた。
「…そんな?場合じゃないって。……食べれないよ?…その子。」律が言う。『犬』が飛び上がる勢いで怯える。ぶるぶると震える犬ーー犬では無いのだが。
「そんな?事より。……オマエの格好が『何?』」律は何故だがーーコスプレだった。
犬放置。
律が『ロープレリア』と笑う。そうだろうよと直は思う。なんでコスプレなんだと言い直すと、『陸に着せられた。』と。………緊迫感の無いーー兄弟だよな………と、直夏は思った。
「それより律、兄貴と逸れて…」と言うと、律に遮られた。
「うん。だから来たんだよ。友兄から連絡来て。」と、言う事らしい。…成る程。
「……兄貴の場所とか…分かる?」と、直夏は聞いてみた。律は、
「うん。大丈夫だと思う。さすがに『会話』は出来ないけどね。あとね、『巧』は見付けた。
未だ『会えて』無いけど。巧ね周りに『森』があるらしくてさ。『森』が軽〜い、『結界』になってるんだよね。だから『飛べ』なくてさ、巧が海も『誘導』して、森の結界から出て来たとこで『捕まえる』予定。
と言う事で、直夏、朝まで『結界』張るから、中入って。朝になって、その『門』開いたら、街へ入ろう。友理ちゃんはその街の『中』みたいーーだね。先ずは友理ちゃんと合流しちゃおうよ。巧と海は平気だし、大和兄ちゃんも心配ないから。寧ろ大和兄ちゃんがこっちの心配してそう。
友兄は『暫く連絡途切れるからな?』って言って来たままだし。
友兄ちゃんと連絡取れれば、友兄ちゃんなら、大和兄ちゃんへ伝えられると思うんだけど…ごめん、俺だと未だ無理で。修行不足。」
闇で良く見えない幼い時からの親友の言葉が有難かった。『……十分だろう…』直夏はそう言って、その日は親友の言葉に従った。律とは学年はひとつ離れたのだが、二人は一月だけの歳の差だった。三月に生を受けた直と、四月に生を受けた律。
直夏は律を『年下』とも『後輩』とも思っていなかった。律は『世間的にそうなだけ』と思っていた。直夏の同学年の友人に敬語を使っても、直夏に敬語を使う事は無かった。直夏が高2の時に、ひとつ下に入学して来た律。『直っ』と呼んで、同級生の友人にぎょっとされた。『モデルなんかやってるから。生意気だ。』とも言われていた。それも初めだけだった。
いつの間にか律のカリスマ性にやられた周囲は、『律と仲の良い直夏』をやっかむ位だった。直夏も律も気にしなかった。
例えば、やっかんだ誰かに『襲撃』されたとしても、律も直夏もやられる程軟弱でも無かったのが一番の理由だろう。高校に入る頃には、幼い頃から嗜んだ空手の効果もあり、周囲の大人顔負けの身のこなしだった。『周囲の大人』とは、警察や陸自等の猛者達の事なのだが、子供の頃からの知り合いな彼等の事は、『先生の空手道場の門下生』のおじさん達ーーとしか思っていない二人で在った。どのおじさん達も『陽藍先生』の熱烈信者だったので、律等は、やや引き気味な位だった。別に陽藍は道場は開いていない。自分の師事する信頼する近所の『師』に、道場の場を借り、息子達甥っ子達や直夏等の友人の息子達を、まとめてたまに『指導』する位で。
陽藍の事なので、『道場の経営維持』に『授業料』『間借り料』と銘打ってかなりな額を支払いしているのは最早愛嬌であろう。師は陽藍と違って酒は一切やらない方なので、差入れは専ら『茶』だった。茶飲み話の肴は門下生達の精進具合。経営に関するエトセトラ。社会情勢etc.師は『子供達』に取って『祖父』の様なものだった。
そこで問題点があるとすれば華月家末っ子が空手の修行に全く励まず、稽古もせず、かと言って華月家『ノルマ』の『他の武道』を嗜む訳でも無くーー、一切強くなろうとしないーー『ヘタレ』だった事位だろうかーー。
へそ曲がり巧でさえ武道の稽古はちゃんとしていたと言うのにだ。
巧は例え弱くともきちんと泣き言を言いながら励んだ。
巧が律を嫌いだった理由に、『律が自分より強かったから』と言うのがある。
ーーしかし努力をした巧。今は大分成長し、又強い。
兄悠太や洸も体格に恵まれずに、非力だった。
故に彼等が得意なのは空手よりも『合気道』『柔術』『護身術』又は『古武術』等だった。
巧は兄悠太や洸に連れられ、空手よりもそちらに力を入れての努力をした。
青も空手よりも合気道派だったので巧のサポートをそれとなくしてくれた。
そんな甲斐在って巧も段々と一人前に為った訳だった。
ーー此れは直夏も知らない事だが、悠太、洸、律達は、以前ずっと『弓道』にはまっていた時期があり、腕前も語るまでも無く。
巧もその姿を見て弓道を始めた。一点を狙い、集中する時間ーーそれは段々と巧を成長させる時間でも在った。兄律との不仲の距離を縮める手助けとも生る時間にも成り得た。
更に言うならその上の兄達に至っての腕前は、『達人』が青くなるレベルなのであまり人間離れしているとーーと言う理由にて最早披露される事等はーー皆無にも近いのが現世での今の状態で在った。上の五人が桁違い過ぎるのだ。なので律等は自分を『弱い方』と思っている。ーー
直夏は律より下の弟達、巧と海の事を『普通』だと思っているのだが、実は間違いで有る。
巧は直夏が思うよりは、ずっと『普通』では無い。大分『神の子』だ。
海は直夏が思うよりは、大分『普通よりもずっと下』の未だ未だ『人間』だったーー。
見て居ると律は『結界』であろう不思議な『もの』を作り出した。直夏はそれを見ていた。
律が振り返り『入って来て』と言って先に中に『消えた』。其れは目に見えない『エネルギーの塊』の様だと直夏は感じた。実際そうなのだろうと直夏は思った。
そうだと思い付き『犬』の首根っこを『掴む。』きゃいん?!と言う声がしたが、気にせずに直夏は『その中』へと入って行った。
消えた彼等の気配は『此の世界』から『消え』、後には何も残っていなかった。
見ていたのは『神』だけで在り、その神も『なにあれ?!』と自分だけしかいない空間で言っただけで在ったーー。彼が干渉し得ない位の『エネルギー体で在る』と言う事だけは唯一理解出来た。理解が出来ただけだった。術も無く。
仲間『達』は『ボス』が等々(とうとう)『消滅』した事を感じた。幻獣の末裔達は次の『ボス』を選び、居なくなった『長』を偲んだ。新たな頂点を悩む事は無く決まる。『身体の一番小さきモノ』其れが彼等には『ボス』だった。祖は猫程の大きさだったと伝え聞いているーー小さきモノ程『魔力が在る』のが彼等『幻獣』の末裔の常で在った。
翌朝ーー朝日と共に『結界』から出た彼等の『気配』が再び『此の世界』に現れた時に、騒然としたのは此の世界の星神と其の使い魔の幻獣達為る事等は、彼等は未だ知らず、未だ深く眠っていたーー結界と言う名の『快適空間』の中でーー。すやすやと。犬も一緒に。
犬は直夏にきゃんきゃんと問いへの応えを鳴くに鳴き、わうわうと説明した。律は犬の背中の奇妙な『羽』が気には成ったが、『異世界産(の子)だから』と質問せずに終えた。しっかりと『犬』と認識し、明日逃してやれば良いかーーと思い、寝てしまった。
犬も直夏の『売る』は、『冗談だから』と聞き、安心したのでかつて無い程の心地好い空間に『溶けた』。まったりと。そしてぐっすり、すやすやと。
直夏は兄の事や何より友理奈の事が浮かんで、やや寝付けなかったが、あきらめて寝る事にしたーー巧や海の心配はしない所か、脳裏に浮かびさえしなかった。敢えて言うなら、『心配では無かった。』出掛ける前の友の様子が気になったのだ。
友の笑顔を思い出す。あの笑い方の友は昔から『何か』企んでいたーー。昔から『不思議な力』ばかり魅せる友だったーー多分、友がどうにかしてしまうだろうと直夏は何処かでいつでも友に何かしらを『期待』していた。友を『観てる』と期待で心が『昂る』のだ。友はいつも直夏にとってそんな『兄』だった。律が羨ましいとすれば、友が兄な事位だ。大和は別として、直夏は次男隼人の事が漠然としていて、良く掴めていなく、隼人よりも友が兄ならと幾度か思った。
隼人は自分以上に考えの読めない兄だった。隼人は兄、大和は頼りにしても、直夏には興味を持っていない様に思えた。なにしろ遊んだ覚えが無いのだから。嫌いとかでは無い。きっと弟には『興味も無い』のだろうと。
直夏は犬の毛をひと無でしてから、枕代わりにして眠りについた。それは思ったよりも快適だった。




