Ⅲ-rd. ‐ Ⅳ. 冒険者とはーー突然に。 ~空気は読むのか吸うものか~
「てめぇらさっきから、邪魔だなあ!」と。
明後日方向から横槍を入れたのは、やたらとガタイの良い、空気は吸うだけであろう男だった。
友理奈は此れは直夏のせいだと、思った。道の真ん中でも無いけど。通りでこんな事するからですよ。と、抵抗は諦めて直夏の腕の中で借りてきた猫状態になっていた友理奈は苦々しく毒吐いた。
そこに不意打ち。うぐっと息を詰まらせた。…殺す気なの? 直夏は何故か、ガタイの良い男を、完全なるスルーをし、再び、友理奈の口を塞いで来た。…こいつ、…殺る気だよ。(※私を)
何だろーー此の、『知るか』って態度。……この人、直夏だよね……?
まさかの…偽者? 等と、段々酸欠も手伝い、確実に脱力して色々どうでも良く為って来ている自分に、はっと気付いて、気を持ち直す。 もうしかし、…この人は一体どうしてやったら良いのだ…と、悩んでいると、その時間は不意に終わった。
ーーっごん
と、言う、……痛そうな音で。……大分痛そう。
「ーっ、ちょっ、兄貴っ」痛いのだろう……ちょっと心配するレベルだ。
直夏が言い訳するよりも先に、と或る有名人がこう言った。『大和』とーー
大和さんーー多分この人、…信じられないけれど直夏のお兄さんなんだと思う。…なんで…隠してたんだろうか……。その大和さんが、『ん?』と、軽く反応すると、未だ信じられない、その有名人さんは、大和さんにこう伝えたーー
「うん、ワン・モア?」って。 ん?何をもう1回? 私が疑問に思うと答えは直ぐに出た。
『ん』って軽い感じで、大和さんはーー直夏の後頭部を片手で軽く掴み、
「って、いって!っ!ちょ、あに、あにきっ!ーごめんっわかった、ごめんて!ーーっごめんなさいっちょ、たのむ、やめて」
目の前の直夏がかつて見た事の無い位のーー慌て振りで。って、えっまって、いや、さすがにこれはーーーやめてもらおうっ
私が焦ったのは直夏の様子が決してオーバー・リアクションでは無いと理解ったからだ。
直夏の後頭部、『みきっッ』って、やばい音してるんですけど。ちょっ、われちゃうよ、さすがに! 慌てて叫んだ。
「いや、あのっ」 焦って上手くとめられません。上手な言い訳ーーいやフォローか、…言葉が見付からなくて、 とりあえず大和さんの腕を掴んでしまった。 ごめんなさいっ
だってやりすぎだよ。 直夏の頭蓋骨砕けちゃうよ。…きっと。 理由も分からず、止めてしまった。 初対面で、こんな行為、……ごめんなさい。 でも止めます。
その腕にふれると、大和さんは、意外にもすぐに、…それを止めてくれた。 …とりあえず良かったと思い、どうして直ぐに、止めてくれたのだろうと、…疑問に思った。 私に驚いただけかな? 無礼な奴だよね、……この場合…私、兄弟の事に口を挟む…他人……うわどうしよう。
失礼な事をしてしまったとは思ったが、直夏が心配だったので、手を退けれないでいた。
思わず大和さんを、見つめる位に見てしまうと、ふいに優しい笑顔で、『ごめんね』と言われた。
『えっ?』と身構える。 …私にごめんね? 謝るべきは私ーーでは? 戸惑って上手く話せないでいると、直夏が復活した。
動けないでいた私の腕を、大和さんから放して、下げさせる。ちょっと安心した。
それで、未だ上手く話せないまま、私の身体は直夏に促された。
今度は後ろから、直夏の身体に包まれる様な体勢になったので、ぶわっと自分の体温が上昇したのを感じた。 いや本当、この人ちょっとまって。 はずかしくて、しねるし今。はずかしくて、泣けるよ?
すでになみだ目だよ? 多分顔赤いよ? 今度こそ脳に酸素も足りないらしく、
壊れたロボットよりもポンコツに成った。 ねえ? 何してるの? …中身別人なの?(泣)
そんなそれも、空気は吸うだけさんが、ぶち破ったよ。
「いい加減にしろーっ」と。私よりも顔を真っ赤にして、こっち来たよ? …怖いよ? 相当、『激怒』だよ? あの人。 逃げるーーとか思うよりも速く、此方に延びた其の手、
えっ掴まれるーーと、思ったのだけれど、それは目の前で直夏の手で払われ、動作よりも、音が後から聞こえて来て、ぱしっんっと、音を聞いた時には、男は私の目前では無く、足下に居た。
地面に転がるーーとは聞くが、実際転がったひとは、初めて見たーー
えーと、…。 空気、…吸えてる? と、問い掛けて仕舞いたく成る程に、男は苦痛に顔を歪めて居た。 寝心地は悪そうだ。 自らの意志で寝たのでは無いらしかった。
直…夏、直夏が、これをやったの?
やっぱりこの直夏は別の誰かなの?
そんな訳が無いのは、私と言う身体が知っていたけれども。
後ろから私を抱える、此の腕は。とても良く知った直夏の腕だったから。 黒子が在る場所も、子供の頃付けた擦り傷の後も、全部直夏のそれだった。私はこの腕が未だ恋しい事に気づいた。
いや、気づかずとも、もう…知っていた。 嫌えるだろうとも思ってはいなかった。
呆然とそんな事を思っているとーー足音がして顔をそちらへと向けた。気付くと近くに、ガイが来ていた。ーー存在を忘れていた事も在って、…怒っているのかと、思った。
いいや、怒っているよね。そう思った。




