Fast.-Ⅶ. 『レザード・ガイサース』
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レザード・ガイサース、生まれて名付けられた、俺の名だ。 大陸西南の方の、とても小さな王国にて、王室の三番目の王子として産まれて来た。だが今は旅をしている。十二の歳に、神殿での生誕式にて、神の祝福を受けようと、祭られた神像に跪き、儀式を行なっていた時だった。淡いのか、強いのか分からぬ様な光へと包まれた。演出なのかと思ったが、違った。それが神の祝福で、神からの俺への御告げだった。『神託』を授かったのだ。
それで我が王室は騒ぎになった。俺は神の言葉を受け、実行しなければならないからだ。
神託の内容は、二年後の同じ日に旅立ち、伴侶を捜し出せとの事だった。未来の俺の伴侶は、『出逢えば自ずと分かるであろう』との言葉で在った。過去にも我が王室には、神託を授かった者が居たと伝えられているーー俺は家族に見守られつつ、そうして二年後人知れず国を出立したのだった。王子と知られぬ事が旅の条件で有り、又、見付けた番にも知れぬ様にとの御告げでも在った。
そして現在の今、旅立ちから既に十年の時を経て、昨日、そう昨日やっと、『その存在』を見付けた筈だった。…そう思っていた。 目の前で『その存在』にべたべたと無遠慮に触るこの男が現れる、その前まではーー。
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ガイは今正しく気が遠くなっていた。目の前の光景を見てだ。 どうしてやろあの男ーーそう思った時に、事態は動いた。
「スグっ」
ユリナと男が言い合う、その向こうから、男が又二人連立って来て、二人…嫌、三人に向かって声を掛けた、その行為で。
ひとりは、怖ろしい位、面立ちの整った、つい目を引くオーラを携えた男だった。
もうひとりは、優しげな顔立ちが印象付く、柔らかい雰囲気に纏われた男だった。
彼等に声を掛けたのは、柔らかい方の男だった。その声も何処かしら穏やかな、癒やされる様な声色だった。敵意や殺意と言う物を、有っても全て削がれる様な、心地の良い音、それがその男の声だった。
そのゆったりとした心地良い時間は、直ぐに終わってしまった。
ユリナの様子がおかしかった。それに気付くとほぼ、同時に、
「っ、アニキっ」と、ユリナを触り続ける不快な男がそう言ったからだ。
今度はユリナが、慌ててそう言った男を見る。大分驚いているーーならばユリナは男が『兄』と呼ぶ男とは多分面識が無いのであろう。ユリナは更にきょろきょろしている。……リリス……茶色の森に棲む小動物みたいで………悪いが可愛い……因みにリリスは木の実が好物で……食事の際の警戒に良く似ていたのだ。
うっかりユリナの可愛さに見惚れて傍観者と成っていると、ユリナと男の側にいた、確かユリナが『リツクン』と呼んでいた男の方が、やや驚いて、叫んだ。
「えっ、友兄ちゃんっ!!」と。
それは穏やかな男の隣の、強いオーラの持ち主の男の方へと向いた言葉だった。
次から次へと、湧いて出やがって……こいつら……もういい加減にしろよ…
俺は思わずユリナを抱えて、逃げてやろうかと考えていたーー多分無理であろうが。
これでも相手の力量位分かる。現れた男達は全員、……魔獣なんか比較に為らない位の手練ーーばかりらしいと。
特にオーラが目を引く、端正過ぎる面立ちの男は、ゆるく浮かべた笑みとは正反対の、此方が動けない位のーー殺気に近いーー『威嚇』的オーラを…放ち続けていたのだ。
背中に感じた事が無い位の、嫌な、嫌な汗が、ずっと伝っていたのだ、そう、ずっと。
動ければとっくにユリナを奪還していた筈なのだから。
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