Ⅲ-rd. ‐ Ⅲ. *元カレ*と…『言いたい』のだが、
「〜良かった~友理ちゃん、早目に見付かって~」と、
見た目の超・格好良さとは大分違う、ちょっと間延びした様にも聞こえる彼らしい口調で言ったのは、応えの欲しい~元カレ~佐木 直夏 では無く、何故か一緒に居た直夏の友人の律君の方だった。
「え、…まって……、」混乱してしまい、上手く話せない。何が起きてるのだろう…
私はここの世界に、迷い込んでしまった時以上に、多分今、…混乱していた。その時やっと、直夏が動いた。
見て分かる位の溜息を吐いて、彼は天を仰いでいた。…何、その態度。意味が分からず、腹立たしかった。…何も言わないし。
いらっとし始めてしまうと、やっと直夏が此方を向いて、そうしたかと思うと、急に此方に近付いて来た。ー何っ? 一瞬焦る。 何か、怒られそうな気がしたのだ。間近に来た直夏は、…何故か泣きそうに見えた。 …えっと思っていると、手が延びて来て、反射的に自分の身体にびくっとした怯えに似た感覚が走るのを感じた。直夏のその手は私の頭を通り越して、後頭部辺りを軽く抱え込む様な、何度も体感した、知っている感覚に包まれた。そのまま唇に柔らかな感覚が触れて強く引き寄せられるのは、本当に知っている感覚だった。ーーっ! 何するのコイツッ!
そう思った時にはもう遅かったのだ。直夏の身体を押し戻すけれど、動く訳は無い。友理奈は不意打ちに、されるまま、されるがままだった。内心『っこのやろうっ騙されると思うなよっ』と、毒吐いて居た事を、勿論、直夏は知らない。 ただただ、心配がし過ぎて、何とか無事に(?)見付けた時に、…気が付いたらこうなって居たーーだけだった。彼を責めるのも可哀想であろうと…思われる。
それも、見兼ねたのか、律の制止でやや、冷静に成る。…内心、直夏はしまったと思ったのだが、もう諦めた。 嫌でも気が付く。 友理が泣きそうだったのだ。ごめん友理。直夏はとりあえず、未だ冷静な言葉も出ないのも手伝って、腕の中の友理奈を更に抱きしめた。
もう後で引っぱたかれる覚悟でもなんでもーーもう出来た。 とりあえずもう、友理奈は無事だったのだからもう、何でもいいーーー
無言で抱きしめていたら、腕の中の友理奈が大分暴れてはいたが。頼むからもうちょっとだけ待ってくれよ。 まだ言葉が何も、出ないんだよ。 嬉し過ぎて。
友理奈にしてみれば、自分の置かれたこの状況が、全く分かっていない。混乱して、直夏の腕の中、暴れてしまうのは、仕方無い。なにより恥ずかしいのだ。良く考えれば、直ぐ後ろには、ガイだって居る筈だ。昨日知り合ったばかりとは言え、知り合いに見られるのは更に恥ずかしい。もうどうしようかと思っていると、律の救けが入った。律君、二回目、ナイスだよっと、友理奈は心の中で、律に感謝した。
「って、だから直、とりあえず又後にしなって。…友理奈ちゃん困ってるよ、それ」
律の言葉で金縛りが解けたのは、直では無く、ガイの方だった。ガイにしてみれば、いきなり現れた男が、目の前でユリナを……その光景に脳がついて行けずに、…フリーズした。…情けない、俺は今のところ、ユリナの護衛じゃあないのかっ と。見れば男は、変わらずユリナに触れている。 思わず身震いした。 昨日の比では無いーー途端にぶわっと、全身に、全身から怒りーー怒気と言うのが湧き起こるのを感じたーー あの男をどうにかしようーーそう思った時だった、
「友理っ、嫌、…友理奈…。…悪かった。俺が全面的に悪かった。…だから」
男が何か言った。
溜息をついて、つらそうに。「…頼むよ…友理奈、…とりあえず一緒に帰ろう…頼むから」
最後は消え入りそうだった……男はまるで、泣いているかの様な声色に聞こえた。
「直…夏…?」
その時、ユリナーーが、ガイ…レザード・ガイサース…が、未だ見た事の無い顔で、心配そうに、その男の顔を覗き込んだ…。 それでその時初めて、彼ーーガイサースは……今自分は間に割って入ってはいけないのだと、気付いたのだった。
自分が多分青褪めて居るであろう事は、予測出来た。ただ、受け入れる事は出来なかった。
そんな緊迫をゆるりと溶かしたのは、ユリナの声だった。彼女は『…帰れる……の…?』と言ったのだ。
それはガイサースが予想していた言葉や事態とは、大分違った反応だった。もしや自分は、ユリナの事を、彼女に起きている今の事態を、大分誤解しているのでは…とこの時思ったのだ。
それが少し力になった様で、ガイサース、ガイはユリナへとやっと問う事が出来た。
「ーおい、その男は…何だ?」と。実際、…には『おまえの』と入れたかったのだが、今の彼には、その言葉を入れる気力は…無い。
それに対してユリナは、戸惑う様に言った。『元カレ…』だと。ちょっと落ち込み気味に。
モトカレって、どういう意味なんだ? ガイサースは再び思考が停止寸前になった。嫌、止まって居た筈だーー
何故ならその言葉を聞いた男が、血相を変えて、大分必死に又何か、ユリナと揉め始めたのだから。 その間、頻繁に、ユリナの顔やら髪やら…触ってはユリナと言い争って…又頬等に触れるーーを繰り返したので、ガイサースの脳の何かの処理能力は、…追い付かなく為った様だ。
固まった彼は、二人の横の、良く見るとえらく美形の男が、溜息混じりにその光景にお手上げだと言わんばかりの態度で、最終的に腕組みをして考え込んでしまったのを目の端に見て、『…その態度は…オレが取りてえよ』と毒吐いたのだった。 勿論その溜息も、友理奈には聞こえていない。 それは幸か不幸か分からなかった。




