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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 15 黒いダイヤ  作者: 石渡正佳
ファイル15 黒いダイヤ
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救世主

 伊刈が辻弁護士と面会しているころ、鷺沼弁護士は、犬咬市に戻ったソウル交易の金本と会っていた。ヤクザに通じた鷺沼ならではの情報網によって、金本が北陸ニッソの今社長と親しいと知って、橋渡しを頼むことにしたのだ。

 「伊刈さんが逮捕ってほんとなんですか」

 事件の経過を聞かされた金本は驚きを隠さなかった。

 「無実を晴らすため、一肌脱いでもらえませんか」

 「もちろんです。俺にできることならなんでも言ってください」

 豊川の妻のシンディの葬儀を王寺に頼んで出してくれた伊刈のためなら、自ら新潟の北陸ニッソまで出かけ、今社長にかけあってもいいと金本は申し出た。

 北陸ニッソは新潟県北部、秋田県との県境の雪深い厳寒の地にあった。周囲には世界遺産に登録された白神山地さながらの未踏の原生林が広がっていた。廃業した処理施設は深い雪の中に埋もれ、見るも無残な廃墟となっていた。

 「もう、ここは使い物にならないですね」

 鷺沼は雪に押しつぶされて崩れかけた施設を塀越しに眺めながら言った。

 「いい施設だったんだけどねえ。こうなっちゃあ、鉄くずだね。ここには誰ももういませんね」

 「今社長はどこに」

 「任せてください。連絡はついてますから」

 新潟市内に帰った鷺沼と金本は、古町通りの老舗の喫茶店で北陸ニッソの今社長と落ち合うことができた。

 「なんで工場なんか見に行ったんだ。バカだなあ、もうやめたんだよ」金本を見るなり今は言った。

 「どうして取消しになったんですか」

 「違あよ。うちの許可はな、取消されたんじゃないよ。俺はむしろ硫酸ピッチが商売になると読んで設備投資をしていたんだからな。県庁が撤去指導したピッチを受け入れたことだってあるんだ。うちの設備は北陸随一だったよ。犬咬の市役所だっけか、それとも県庁だっけか、どっちでもいいけどよ、役所が撤去させたピッチが搬入された時はよ、まだ許可がちゃあんとあったんだ。だからなんにも問題なんかありはしねえよ」

 「取消されたんじゃないなら、どうして廃業されたんですか」

 「ピッチが大きな問題になったもんでな、県庁がさ、うちが受けてるのが目障りになって、県外廃棄物の流入抑制とかなんとかでいちゃもんつけてきたんだろうよ。それでなんだかんだとうるさいもんだから、俺も臍を曲げて許可更新の申請を出さなかったんだ。それで期限切れで失効したんだよ。だからよ、未処理のドラム缶が工場に残ったのは、俺のせいじゃねえよ。県がやるなっていうから、そのまんまにしていたんだ。うちがなくなれば、県内にピッチの処理ができる業者がなくなって、困るのは県じゃねえのかな」

 「犬咬市から撤去されたドラム缶はまだあるんですか」

 「あるわけねえだろう。あんときはまだ施設も動いてたしな。行政がかかわるもんだからよ、検査に来るだろうと思ってな、こっちの県庁はやるなと言ったけどよ、後々面倒になってもいけねえと思って最優先で処理したんだよ。だから現場にはどこの役所が持ってきたドラムも一本も残ってないよ」

 「この問題で犬咬市の職員が逮捕されたのは」

 「知ってるよ。伊刈だろう。産廃Gメンだってな」

 「現場にドラム缶が残ってるのは、県が処理するなと命じたからで、処理できない硫酸ピッチを犬咬市が搬入させたからではないんですね」

 「逮捕された伊刈には気の毒をしたな。はめられたんじゃねえのか。全くよ、処理するな、埋めるな、運び出すな、持ち込むなじゃよ、どうしようもねえだろうよ。お役人てのはよ、勝手なもんだよな」

 「今の話、上申書にして裁判所に出せませんか」鷺沼弁護士が二人の話に割って入った。

 「あんたが先生なのか。どうするかなあ。俺もさあ、いろいろあって保釈中の身なんだぜ。人のこと心配する身分じゃねえし」

 「伊刈さんが今社長の共犯ていうのはどう考えたっておかしくないですか。お願いしますよ、社長」

 「そうだよなあ、伊刈はなんにも関係ねえよなあ」

 「むしろかつてない公務員ですよ。私もね、実は指導を受けたことがありましたが、ヤクザだからってばかにしないで親身に話を聞いてくれるんですよ。それでいてちゃんと筋は通すし、約束は必ず守ってくれるし、あんな骨のある公務員を見殺しにしちゃあいけませんね。環境省なんか、百人束にしたってかないませんよ」

 「わかったよ。俺の先生にも聞いてみるよ」

 「お願いします」

 「それよか金本、ちょっと付き合えんのか」

 「いいですけど、これから伊刈さんに面会しようかと」

 「やめとけ、お前が顔出してどうなるもんでもねえ」

 「そうすね、わかりました。付き合います」

 「明日またご相談できますか」

 「ああ、いいですよ。鷺沼先生、実は俺はあんたのことは知ってる」

 「そうですか」

 「仕事は面白くしちゃあだめだぜ」

 「わかってます。地味に収めましょう」

 「ああ、そういうこった。さあ、いくぜ」

 今は金本の背中を力いっぱい叩いて立ち上がり、古町通りで一番賑やかな9番町に向かって上機嫌っで歩きだした。

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