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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 15 黒いダイヤ  作者: 石渡正佳
ファイル15 黒いダイヤ
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陰謀

 捜査は伊刈が予想したとおりの方向に進んでいた。県庁主催の対策会議に呼んですらもらえなかった伊刈が県庁をも指導する立場の責任者だとみなされたのは、他県にまで名前が知られている有名人だったからという単純なことではなく、彼を潰そうとするなにかもっと明らかな意図があるからだった。

 「メディアの脚光を浴びている伊刈さんを本省の幹部たちは苦々しく思ってるんですよ。普通不法投棄事件が新たに発生するとテレビ局は本省の課長のインタビューを流すでしょう。だけど最近はどこの局も伊刈さんばっかりじゃないですか。それって絶対本省の官僚とか県庁の課長とかは面白くないはずですよ」と毎朝新聞の笹川は言った。

 笹川だけではなく複数のメディア関係者から、この事件の背後には環境省の意図があると伊刈は聞かされた。

 状況は海の家からのいやがらせ告訴のときより遥かに切迫していた。前回は海の家のオーナーから嫌がらせの告訴を受けた伊刈を見殺しにしただけで県庁に害意まではなかったが、今回は意図的に国と県の包囲網が構築されていた。自分の身は自分で守るしかないと伊刈は腹を括るしかなかった。

 一泊二日の出張から帰った喜多は疲れきっていて、声をかけるのも気の毒なくらいだった。

 「マツダエンジニアリングの古森専務が亡くなったそうですよ」開口一番、喜多はそれだけどうしても伝えたい様子だった。

 暗い倉庫の中でろくなマスクもつけずにフォークリフトを操作して硫酸ピッチの入ったドラム缶を撤去してくれた古森の姿が目に浮かんだ。たとえ指導の相手でも同じ現場で仕事をした人の死の報せはつらかった。

 「死因は聞いたか。まさか自殺とかか」

 「心臓発作で急死だそうです。ピッチのガスを吸い過ぎたせいじゃないかって刑事さんは言ってました」

 「撤去作業で死者まで出しちゃったか。かわいそうなことしたな。マスクちゃんとすればよかったのにな」

 「毎日やってると慣れるからと言ってましたが、慣れたんじゃなく中毒だったかもしれないですね」

 「僕たちも命がけだよな。それで容疑者扱いじゃ現場担当なんてやってられないな。手柄だけ自分のものにして出世してる本庁や本省の連中がうらやましいな」

 「ほんとにそうですね」

 「自分の手を汚して撤去してくれた古森が好きだったよ」

 「僕もそうでした」

 「それで尋問のほうはどうだった」

 「班長の言ったとおりでした。皐月運輸に収集運搬の許可がないことを知っていて見逃したんだろうと何度も聞かれました。マニフェストの不備にどうして気付かなかったかとも聞かれました。でも自社運搬だと思っていたからマニフェストは参考までにもらっていたものだから内容は気にしていなかったと答えました。自社運搬ならマニフェストは不要だろうと言うので、法的には必要がなくてもマニフェストが一番確実だからマニフェストを出すように県庁が指導したのでしょうと答えました。見逃してやれと班長が指示したのかと聞かれましたが自社運搬だと僕も班長も考えているからそんな指示が出るはずがないと答えました」

 「北陸ニッソまで調べに行きたいと進言した話はしたか」

 「しました。処分場の許可を調べたかと聞かれましたから、古森さんの提出した書類を新潟県のホームページで確認して特管産廃の許可があることは確認できたけれど、ほんとに処理ができるか現地まで行って確認したほうがいいと班長に進言したとたと言いました。だけど班長が旅費の予算がないからとりあえず現地までは行かなくていいと言われたと言いました」

 「完璧だよ」

 「班長は大丈夫なんですよね」

 「心配ないよ。今日はおごるからみんなで飲もう。新潟の厄払いと古森の供養だ」

 伊刈は迫り来る暗転の予感に晴れぬ心を隠し喜多と夏川を引き連れて事務所を後にした。心の中ではこれが二人との最後の飲み会になるかもしれないと覚悟を決めていた。

 「どこにしますか。やっぱりセイラですか」喜多が言った。

 「ああ」伊刈は生返事をした。

 ほかにあてもないので三人はセイラに直行した。カウンターに入っていたモモヨたちは就活のために後輩に代替わりしていた。それ以来伊刈は脚が遠のいていたので、ひさびさのセイラだった。伊刈以外の二人はカウンターの中の新しい三年生とすっかり打ち解けていた。職場だけではなくセイラにいてさえも自分の時代が一つ終わったのだと伊刈は一人密かに感傷にふけっていた。

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