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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 15 黒いダイヤ  作者: 石渡正佳
ファイル15 黒いダイヤ
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住居不法侵入

 伊刈の胸ポケットで携帯が鳴動した。発信者の表示を見るとソウル交易の金本からだった。

 「伊刈さん、えらいことです」金本が泣きそうな声で訴えた。

 「どうした」

 「豊川が、豊川が死んじゃいましたよ」

 「なんで」

 「車ん中で自殺すよ。あいつまた懲りずに軽油に手を出したんです。それで小金を作って奥さんと子供に偽造パスポート買ってやって、ちゃんとしたルートで国へ返そうとしたんですが、それが空港でばれちゃって」

 「そんなことで死んだのか。どっちみち強制送還されるだろう」

 「それが違うんですよ。空港検疫所で検査したら奥さんも子供もエイズだってわかって。奥さんはもう末期らしくてね。だから本人だってエイズだったかもわかんないすよ」

 「…」さすがの伊刈も絶句した。

 「俺が悪いんすよ。俺がもっとはやく辞めさせてやれば」

 「これからちょっと会えないか」

 「いいすよ、伊刈さんのためなら俺なんでもやります」

 「あとで連絡する。とりあえず駅前まで来て」伊刈は携帯を切って立ち上がった。

 三十分後、伊刈は金本と駅前で落ち合った。

 「立ち話もなんすからどっか行きますか」

 「その前に電話じゃ言えない頼みがあるんだ」

 「なんすか」

 「豊川がどこから原料の油を受けてたか知りたいんだ」

 「ああそれすか、それなら」

 「知ってるのか」

 「だいたい見当はつきますが確証はないです。でも豊川の家に行けばなんかあるかも」

 「よし行ってみよう」

 「カギがないすけど」

 「行ってから考えよう」

 豊川の自宅は駅からかなり離れた造成地にある一戸建ての建売住宅だった。手間だけの仕事とはいえ軽油を作れば家を買うくらいの金はできたのだと思われた。道路から見るかぎり窓の中は真っ暗で人気はなかった。玄関のドアはロックされていたが、勝手口に回ると不用心なことに開いている窓があった。

 「俺こっから入ってみます」金本が言った。

 「不法侵入だぞ」

 「ダチの敵討ちするんすよ」

 金本が器用に窓から侵入するのを伊刈ははらはらしながら眺めていた。すぐに勝手口のドアが開いて金本が首を出した。

 「早く」

 室内に入ったとたん、乳飲み子がいた家らしくミルクとオムツの匂いが鼻をついた。どの部屋もかなり散らかっていたが、荒らされたというよりもともと整頓が悪かったのだと思われた。

 「俺が探しますから伊刈さんはなんにも触らないでください」

 「なんで」

 「指紋が残るとやばいっしょ。俺ならしょっちゅう来てた家だから平気ですから」

 「そうか、じゃ任せる」

 金本が勝手知ったる様子で手当たり次第に引き出しを物色し始めるのを伊刈はじりじりしながら眺めていた。シンディが使っていた鏡台の上に、散らかった化粧品に混ざって写真立てがあった。彼女がタイの民族衣装で着飾っている写真だった。上手な写真なので帰国したときにプロに撮ってもらったのだと思われた。小さな丸い顔が幸せそうに微笑んでいた。おそらく彼女は夫の仕事が犯罪だとは知らず、日本人の社長と結婚したと母国の両親に報告していただろう。そんな自慢そうな表情だった。

 「これなんかどうすか、なんか電話番号の控えみたいすけど」

 「見せて」伊刈は金本が見つけた紙片を覗き込んだ。社名はなく電話番号がいくつか並んでいるメモだった。

 「よくこんなものあったな。警察は捜索しなかったのかな」

 「どうしますか」

 「一応もらっていこうか」

 「わかりました」

 一時間ほど家中を物色してみたが帳簿の類は一切なかった。名刺もほとんどなく石油をどこから仕入れていたか直接確認できる証拠はなかった。

 「ダメでしたね。まあこういうのは現金商売っすからね」

 「心当たりがあるって言ったよな」

 「ああそれはね伊刈さん、ここだけの話なんすけどユニバーサル石油っすよ」

 「それって大手じゃないか」

 「大手も大手、ここらじゃナンバーワンすね。直営のGSだけでも百か所はありますよ」

 「しかし油を売って悪いってことはないからなあ」

 「そうじゃないんすよ。作った軽油をまた買い戻してたんですよ。だって九重さんならともかく豊川に売れるわけないじゃないすか」

 「税金のかからない油を使って税金を払ったことになっている油を作らせて買い戻すってことか」

 「まあそういうことっすね」

 「わかった。あとはなんとかしてみる」

 「ユニバーサル石油はかなりやばいっすよ。大丈夫すか」

 「任せとけよ」

 「豊川とシンディの仇が打てるんすね」

 金本は伊刈を勝手口から外に出すと几帳面なことに侵入した窓から出てきた。

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