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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 15 黒いダイヤ  作者: 石渡正佳
ファイル15 黒いダイヤ
13/30

裏切りの検挙

 「今朝とうとうソウル交易を挙げたそうです」朝一番に石塚警部補が伊刈のデスクの脇で申し訳なさそうに言った。

 「いきなりですか。どうして教えてもらえなかったんですか」

 「すいません。捜査情報は漏らせないもので」今までさんざん漏らしておいて今更それはないなと伊刈は思った。

 「せっかく順調に処理が進んでたのにもったいないな」

 「その点はむしろ」石塚は口篭もった。

 「そうか撤去が終わってしまったら挙げられなくなるか。もしかして金本がやってた処理は証拠隠滅になるのかな」

 「いえ市の指導ですからね。だけどですね、道警の手前どこか挙げないことには面子がなかったみたいなんです」

 「金本が北海道に出したわけじゃないでしょう」

 「そうなんですが高千穂重機の関係者ですから」

 「じゃ豊川も」

 「豊川運輸も今朝挙げました。やっぱり豊川は高千穂重機から譲られた施設で軽油を作ってたみたいです」

 「肝心の高千穂重機はどうなの」

 「予定どおり別件で挙げます。もう間もなくです」

 「うまい汁を吸ってたのは九重でしょう」

 「それはわかってるんですが、どうしても決定的な証拠がなくて検事が首を縦に振らないんです」

 「検事がウンと言わないと警察は手も足も出せない」

 「検事と判事は絶対ですから。でもこれはアメリカと同じですよ」

 「戦前の警察が好き放題やってたから占領軍が何もかもアメリカ風に変えようとしたってことでしょう。GHQの最初の案だと市警もできるはずだったじゃないですか。犬咬市警とかあったらかっこよかったじゃないですか。警察庁の国大卒キャリアが現場もよく知らないで人事権を握ってる中央集権システムよりいいと思いますよ」

 「よくご存知ですね」

 「テレビドラマだってそれくらいの情報は盛ってますよ。本店支店の関係でしょう」

 「なるほど」

 「それで関東興油はどうするんですか」

 「県税から告発がありませんので」

 「マツダエンジニアリングに硫酸ピッチを処理委託してたことは」

 「残念ながら関東興油からの処理委託は立件できませんでした」

 「そうですか、じゃまだまだ手付かずの部分が多いんですね。捜査は続けるんですか」

 「どうでしょうか。私にはなんとも」石塚の説明は歯切れが悪かったが、伊刈にうまく乗せられて捜査情報を結局はしゃべってしまった。

 金本の身柄が拘束されたため処理しきれなかった四百本のドラム缶が溜池脇の倉庫に放置されていた。管理者が不在になってしまったので、ドラム缶の腐食がたちまち進行してしまう恐れがあった。伊刈のチームは早速ソウル交易のパトロールをした。案の定周辺の民家にガスの影響が懸念される事態になりつつあった。

 「そろそろガスマスクが必要になりそうですね」喜多が破れたドラム缶を見上げながら言った。

 「まだ大丈夫だろう」

 「代執行の準備は進んでるんですか」

 「技監はやるしかないと言ってたけど今年の予算じゃムリみたいだ」

 「え、それじゃ来年の予算ですか」夏川が呆れたように言った。

 「代執行やるとなれば一本十万円として四百本で四千万円だろう。右から左につく予算じゃない。ドラム缶だって中古じゃなくケミカルドラムの新品を使うんだろうし、役所がやるといろいろ余計な金がかかるよ」

 「来年の予算になるんなら班長のやり方で金本にやらせればよかったですね」喜多が言った。

 「金本が自分でやれば石灰と中古ドラムを買うだけだから百万円でできましたね」夏川が言った。

 「逮捕は警察と検察が決めたことだからしょうがないよ」

 「なんとかならないんですか。応急措置だけでもやらないと来年の予算まで持ちません。気温の低い今のうちがチャンスなんです。気温が上がると」

 「ピッチの流出が早まるし雨も多くなる」夏川が喜多の後を継いで言った。

 「技監も応急措置を考えてるそうだよ」

 「ほんとですか。どうやるんですか」喜多が言った。

 「処分場には出さずに場内処理する」

 「場内処理って?」

 「場内に穴を掘ってビニールシートを敷いてピッチと消石灰と土砂を重機で混ぜてしまうんだ。土砂を混ぜるのは温度を下げるためだ」

 「だけどドラム缶から出せないんですよ。金本がさんざん苦労してたじゃないですか」喜多が言った。

 「重機で叩いて破ってしまうんだ」

 「そんな荒っぽいやり方でいいんですか。金本がそれをやるって言ったらきっと認めなかったですよね」

 「どこかの県でやってうまくいったやり方だそうだよ。だけどそれだって一千万円かかるそうだ」

 「行政ならなにをやってもいいってわけだ。そんな処分方法でいいなら簡単じゃないですか。だけど中和した後のピッチはどうするんですか」

 「ケミカルドラムに移して金本が釈放されるまで現場において置くんだ。中和してしまえば危険なものじゃないからね。後の始末は金本に命令書を出す」

 「結局焼却するんなら二度手間ですね。金本が試してた方法が一番よかったのに、ちょっと可哀想になりました」喜多は呆れ顔だった。

 「代執行は技監に任せて、こっちは関東興油の本社に立ち入ってみるか」

 「えっ班長それはやばいですよ」夏川が言った。

 「どうして」

 「だって県税も警察もムリだったんですから」

 「金本と豊川がパクられたのに関東興油がお咎めなしってのはおかしいじゃないか」

 「班長絶対それダメですよ」

 「金本が出てきたら詳しく聞いてみようと思ってるけど、不正軽油製造は関東興油が一番上じゃないんだ。上にはもっと大手の石油会社がある。つまり政治力もあるってことだろう。その傘の下にいるから関東興油はあんなに堂々と軽油を作っていられるし、きっと警察の情報も入るんだ」

 「それはわかりますけど関東興油を落とすのはいくら班長でもムリですよ」

 「やってみなきゃわからない」

 「ダメですよ班長」夏川はいつになく強行反対した。

 「どうしたんだ」さすがの伊刈も様子がおかしいのに気付いた。

 「ちょっと小耳に挟んだんですよ。班長はやりすぎだって光岡補佐(警視)が言ってるのを」

 「なるほど自重しないと身内に刺されるってことか」

 「そうは言ってないですが今回はやめましょうよ。ちゃんと技監の指示を仰いでからの方がいいです」

 「わかった。関東興油の立ち入りは見合わせる。だけど諦めたわけじゃないよ」伊刈はきっぱりと言った。

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