Q︰この中身、おいくら? A︰実は……ゴニョゴニョ。
連載開始前予約分ラストです。多分。さぁ、最低後二話、頑張って書かなければ……。
それからしばらくして、やっと離れたレイとメリナ。レイは、受け取った身分証をツェッドに見せる。
「はい、ツェッドさん。これでいいですか? ……なんで疲れきってるんです?」
「いや……なんでもない。気にするな……あぁ、身分証は問題ないぞ」
首を傾げるレイに、気にするなとは言いつつも疲れを隠そうとしないツェッド。益々気になるが、なんか言ってくれなさそうなので諦めることにする。
「……じゃあツェッドさん、僕の荷物、もらえます?」
「あぁ、そうだそうだ、忘れるところだった……ほれ」
「ありがとうございます。念の為中身を確認しても?」
「好きにしろ」
「はい」
中身を確認するため、レイは近くの椅子に座ろうとする。丸テーブルを囲うように四つ置かれている内の一つだ。使われていない、休憩スペースというか、そんなものである。
レイが引いた椅子に何故か座るメリナ。首を傾げるレイに彼女は、自分の膝をポンポンと。
つまり、ここに座れと、そういう。
先程のやり取りでメリナが完全に姉のような立ち位置に収まってしまったレイ。少し恥ずかしげに頬を染めつつも、おずおずとそこに座る。
その様子に、メリナのハートがキュンッ。思わず、後ろから抱きしめる。
レイの後頭部を包む柔らかな感触。
(やっぱり、素晴らしいですねっ!)
レイは元気になった。深い意味はない。
レイが袋の中身を確認する間離れる訳にはいかないツェッドは、そんな二人の様子を辟易とした目で見ながらも自身も二人の向かいに座る。ネルクもその隣に。
「えーっと……」
袋の中に手を突っ込み、ゴソゴソと探るレイ。
この袋は“魔法袋”という特殊な袋で、中には見た目の数倍から数十倍の物が入るというスグレモノである。ただし生物は入らない。もちろん容量によって値段は変わるし、容量の小さい物でもかなりの値段がするので、持っているのは大抵貴族や大商人くらいのものだ。
ちなみにレイの家は一応貴族だが、最近功績を讃えられて貴族になったばかりなので、位はあまり高くないし、お金もそんなにない。にもかかわらず、レイの持つ魔法袋の容量はかなり大きい。何故そんなものを持っているのか、と聞かれると、いつものように「大体運のせい」と答えるしかなくなるが。
「ま、ず、は……これですかね」
ゴトッ。
「「「へ?」」」
テーブルの上に置かれたものを見て、三人が間の抜けた声を上げる。
見た目は、持ち手が付いた筒、といったところだ。黒塗りの無骨なもので、見た目の華やかさは皆無。
「レ、レイくん……これ、もしかして、魔銃?」
「はい」
恐る恐る、といった様子で聞いてくるメリナに、レイはあっさりと頷く。
――本来魔法というものは、限られたごく少数の人のみが扱えるものである。生き物なら誰しもが持っている“魔力”というエネルギーを、火や水、風、時には光など、様々な物質に変換する、超常の技術だ。ほとんどの人間は魔力は持っていても変換が出来ず、魔法を扱うことは出来ない。
しかし、魔法が戦争や魔物との戦い、果ては日常生活に至るまで、どれだけ有用なものなのかは皆が知るところだ。
そこで、とある魔法使い兼研究者は考えた。「魔力なら皆持っているのだから、それを変換出来る道具を作れば誰でも魔法を使えるようになるのではないか?」と。
その考えはよかった。しかし発明は難航を極め、彼一人では、彼の生きる時代では基礎理論を組み立てるので精一杯だった。
やがて、彼が死んでから数十年、もしくは百年以上が経過してから、やっと試作型が出来上がった。
その試作型を基に、ついに完成したのが、それから更に半世紀後のこと。
そうして出来上がったのが、“魔導具”であった。これにより、人類の戦闘能力は飛躍的に向上し、また、日常生活も一気に進歩したのだ。
レイが取り出した魔銃もその一つ。魔力を押し固め、純粋な魔力弾として撃ちだす道具だ。変換がない分魔力のロスは少ないが、本来ただのエネルギーである魔力に威力を持たせるため、結局は膨大な魔力を必要とし、扱える者は少ない。魔力を物質に変換するタイプの魔銃もあるが、レイの持つものは変換しないタイプだった。
「こ、これはっ……! ミゲル・エルバンス作の、ヴェリッシュ・ヴァレッタでは!? ま、まさか、こんなところであの『V・V』に出会えるなんて……!」
何やらネルクが食いついている。
「そ、そうですけど……」
「さ、さささ触らせてもらっても!?」
「は、はいっ! どうぞ!」
ネルクの勢いに押され許可を出すレイ。
「ありがとうございます! て、手袋をしなければ……! ふぉおおおー!」
大・興・奮。
「……ごめんなさいね、レイくん。彼、どうやら魔銃マニアらしくって……それに、自分の魔力量が少なくて扱えないのが、逆に魔銃への憧れを強くしているみたいなの」
「あ、いえ……好みは人それぞれですし。……それに、魔銃ではありませんけど、僕の父様はもっと酷いので……」
相棒が迷惑をかけたことを謝罪するメリナに、レイはどこか遠い目をしながらそんな言葉を返す。
「……苦労してるのね」
「……はい、もう、本当に。あぁ、母様とフェリアだけで、父様抑えきれているでしょうか……心配だ」
「フェリア?」
「あっ……僕の妹です。いつまでも兄離れ出来ない子で……家に帰る度に、また旅に出ようとする僕を引き留めようとするんです。おかげで、大抵予定よりも旅の再開が遅くなっちゃうんですけど……」
困ったような物言いだが、その表情はとても穏やかだ。
「……妹さん、大切なのね」
「! ……えぇと、はい」
レイは照れたようにそう言って頬をかく。あっさりと見透かされたのが恥ずかしいのか、気付かれてしまったことそのものが恥ずかしいのか。きっとその両方だ。
レイは、照れ隠しか魔銃を恍惚とした表情で眺めているネルクに声をかける。
「ネルクさん、どうですか?」
「素っ晴らしいです!!」
「うわっ!?」
勢いよく顔を上げたネルクに、レイは驚いて飛び上がる。その表紙に後頭部に当たる柔らかい感触。
(あ、ラッキー)
幸運がレイの持ち味だ。加護だ。
「……っと、すみません、興奮してしまって……はい、これ、お返ししますね」
恥ずかしそうにしながら、ネルクが魔銃を返してくる。レイは幸せそうに顔を緩めながら受け取った。
(もう少しこのままで……)
レイはオトコノコだ。
「レイくん?」
「ひゃいっ!?」
「他の荷物は確認しなくてもいいの?」
まさか感触を楽しんでいるのがバレたのか、と飛び上がるレイだが、どうやら違うらしい。
「あ、そ、そうですね……えぇと。お金は……大丈夫そうですね」
ゴトッ!
「「「???」」」
三人が揃って首を傾げる。
テーブルの上に置かれたのは、お金が入っているらしき革袋だ。しかし、置いたときの音が明らかにお金が立てるそれではない。あの魔銃のときより重厚な音が鳴っている。そして何より……デカい。
「あ、あの、レイくん? 変なこと聞くけど……これって、いくらくらい入っているの? ……あ、言いたくなかったら、言わなくてもいいの!」
「メリナさんになら……いいですよ」
キュンッ。
(何この子可愛いっ!)
メリナは衝動のままにレイを抱きしめた。
(何この人柔らかいっ!)
レイは素直にその感触を楽しんだ。
「……メリナさん、耳を貸してください」
「? はい」
言われた通り耳を貸すメリナ。レイはそこに口を近付けて囁く。
「僕の所持金は――」
ゴニョゴニョ。
「!?」
驚きのあまり固まるメリナ。ここだけの話、今レイが持っているのは本来の彼の所持金の一部でしかない。何せ彼の所持金総額は――そこらの貴族の全財産を、軽く上回る。何故十二歳にしてそんな額の金を持っているかと聞かれると、やはり「大体運のせい」としか言えないのだが。
「あの……メリナさん、レイ君は一体どれだけの……」
気になったのか、メリナに声をかけるネルク。しかし、
「駄目ですよ。これは僕とメリナさんの秘密です!」
「レイくん、私の息子になってくれない?」
「弟になら……なっても、いいですよ?」
「もうそれでいいっ!」
「メリナ姉様!」
抱き合う二人。
「……なんじゃこりゃ」
「……さぁ?」
ツェッドとネルクは、二人首をひねるのだった。
メリナさん、別にお金目当てであんなこと言った訳じゃないですよ? レイ君、別にお胸目当てであんなふうに返事した訳じゃないですよ?